39 確信と疑惑
アーカム内、城の地下深くに続く螺旋階段。
この国の賢者たるダン・ブラウンは灯火を手に、その階段を降りていく。
「おお、おお、我らがChaos……、黒き混沌よ……、見えぬのか、あんなにも空は深く悩ましげである……。目を伏せよ、我らがObeliskを高く讃えたまえ……」
ブツブツと念仏のように唱え、階段を回り回り、やがて最下層に辿り着く。
そこには巨大で厳重な三つの檻がそびえ立っている。
誰にも立ち入ることが出来ぬよう、幾重にも張られた格子と結界の先――そこには、巨大なクリスタルが置かれている。その中には巨大な翼と雌牛の頭をもつ女の姿があった。
かつてこの国を襲ったChaosがひとり、名をハートホールとしたらしいその方。今ではこのクリスタルの中に閉じ込められ、そしてこの地下深くに封じ込められてしまっている。
なんと、恐れ知らずなことか。
忌々しいことだ。
「我らがChaos……、黒き混沌よ……、我らに灯りを宿したまえ……。かつて空を覆ったように、我らに灯りを点したまえ……」
唱え、祈り、階段を上っていく。
ハートホールがこうなってしまったのは、全てあの”ヴァン・オブ・ブラザーズ”とかいうクランの者たちのせいだ。
なにかそれらしい嘘で誤魔化していたが、
(わしのことは欺けんよ……こわっぱが)
何かあるのだ。
秘密が。
あの者たちには秘めごとがある。
突き止めねばならぬ。
どうやって暗黒種を封印できたのかを。
そんなことは、間違っても人間には不可能のはずなのだ。
なぜならば彼らは、人智を越えた術を操る我らをはるかに超越した存在であるからだ。
(つまり奴らは人間ではないのか?)
もしかすると、ブラウンにはまだあずかり知らない、別の種族もまたここに降り立とうとしているのかもしれない。
(複数の超越者……)
一刻も早く状況を見極める必要がある。
長い階段を上り終え、城への扉を開く。
すると、ちょうど目の前をオニール将軍とその複数の取り巻きが通り過ぎる。
「それにしても……驚きましたね将軍! まさかダンジョンに穴が開くとは!」
たまたま耳に入ったその情報に、ブラウンは驚愕する。
そして、即座にそれを話していた兵士に掴みかかった。
「貴様! 今の話をわしにも聞かせろ! 穴? ダンジョンにか? いったいどういうことだ!」
「…………老師、落ち着いてくださいよ」
怯えた兵士に代わり、オニールが横から話す。
「ついさっきまで、イベント対抗戦を行っていたんですがね、そこで使用していたダンジョンが参加プレイヤーによって一部破壊されてしまったんです」
「どうやったら破壊できるというんだ?」
「さあ、当人は自身の隠されたポテンシャルが爆発したとしか言っていません。詳細は不明です」
「……どこのダンジョンだ?」
「北です。アヘルの塔ですよ」
最近開拓されたばかりの、大型ダンジョンだ。
ブラウンも直に見に行ったから知っている。間違いなくダンジョニウム合金製だった。
「誰が、それをやったんだ?」
ブラウンはいよいよその問いをした。
なんとなくの予測は付いていた。
あのクランだ――
あそこに決まっている。
ブラザーズ――その中の誰かだ。
だとすれば、疑惑は確信に変わるだろう。
間違いなく、奴らは超越者に関係している。
「……老師はご存じない者であると思いますが」
「よい、名前と所属を教えろ」
オニールは肩をすくめ、それを告げる。
「クラン”カラーズ”のイン・アーナルデュルという女です」
………………は?
「誰だそれは?」
「だから知らないであろうと前もって言いましたよ、俺は。まあそれなりに有名なクランで、それなりに有名なプレイヤーではあるんですが、トップではないですからね。老師がご存じないのも当然ですよ」
オニールはそう言うと、こちらの表情を見てニヤリと笑む。
「おや、どうやら期待していた答えとは違ったようですね。いったい老師は、それをしたのが誰であって欲しかったんです?」
ブラウンは表情を消す。
「もう行って良いぞ」
オニールは目礼をしもう一度ニヤリとすると、去って行った。




