37 天才は二人いれば孤独ではない
シルバの主な戦闘スタイルはメイン武器【闇の小太刀】による、機動力と手数で相手を攻め崩すというものだ。
しかしそれも足に負傷を受けた今では難しい。
故に彼はこの対スティーヴン戦においては援護にまわる。
即ち、彼のウエストのホルダーにビッシリと詰め込まれている薄く鋭い投擲ナイフによる中近距離攻撃である。
しかしただのナイフではスティーヴンの頑強な鎧には傷ひとつ付けられない。
無論、力を込める。
スキル【Force 魔装化・Lv.2】
発動により、手中の刃に青白い魔力エンチャントが発生する。
このForceスキルは、いわゆるIceやThunderといった一般的魔法とは異なり、どちらかといえば特技のようなもので、後衛の魔法師が扱うというよりは、前衛の戦士が攻撃バフや牽制等の目的で取り扱われるものである。
そして装備にではなく、彼自身にセットされているものだ。
『特性』は装備にしか付かないが、『スキル』は装備にも、それとは別に人間自身にもセットすることが可能である。
ただし自己にセットする場合には当然ながらセットの前に努力による修得が必要であるし、セットする際にもその者の魔力的キャパシティを占領することになる。
セットすることでスキルがキャパシティを占領する度合い――言うなればスキルサイズは、その効果の大きさに比例する。なので高レベルスキルをたくさんセットするには其相応のキャパが必要となり、普通は自身のスタイルと戦術と相談して取捨選択する。
この世界において、装備にスキルが付くというのはただでさえ低確率の現象であるというのに、それから更に、幾多のスキルの中から実戦的なそれが抽選されて付くなんていうのはまさしく奇跡としか言いようのない。
故に多くの者は実戦的なスキルは装備に頼る事無く自身で身につけ、セットするというのが通例となっている。
ただし自己セットにも装備セットにはないそれなりのアドバンテージというものは存在しており、例えば装備を外してもスキルは依然として使えるし、武器を切り替えても使えなくなったりも当然しない。
スキルをセットできるキャパシティの広さは、完全に先天性によるものであり、訓練や修行で拡大することは不可能とされている。
また、ステータス依存ではない為、ステータスは劣等だが、キャパシティだけは広いなんてことも当然あり得る。
ちなみにヴァンは本当に運しかない人なので、キャパシティサイズもアリンコより矮小ときている。
シルバはナイフにエンチャントを済ませると、共闘相手であるカラーズのドリダの動きにあわせ、それをスティーヴンに放っていく。
「くっ――いやらしいな」
ナイフを弾いたスティーヴンが苦渋の表情でこちらを見た。
シルバはニヤリとする。
この手の援護で重要なのは、如何に相手の嫌がることが出来るかである。周到なまでの、徹頭徹尾の嫌がらせ――これをすることを終始心がけ、徹する。
相手の目線、気の配り方――それに意識をやり、こちらへの警戒が薄まったときを狙い澄ましてナイフを投げ、もう一度こちらの存在を思い出させる。ひたすらそれの繰り返し。
それだけで、敵はみるみる消耗していく。
精神が、やつれていく。
意識の行き来だけで、時折ひやりとさせられるその気苦労だけで、その地道な蓄積で――いずれ崩壊することになる。
(ふふふ、我ながら完璧な仕事だ)
シルバはどういうわけか、この援護ロールが昔から得意だった。
これまで誰かに教えられたわけでもないのに、最初から身体が自然とそう動いた。ただ本能の赴くままに動いていくだけで、それが効果的に敵の精神をえぐり取った。
他のみんなにも、相手に嫌がられる行動をすれば良いだけだと教えてあげても、誰も彼のようには動けなかった。
(なぜなんだろうね)
人は彼を天才と呼ぶ。
人を不快にさせる天才。
人に嫌われる天才。
その一挙手一投足が、すべからく全ての人類に何らかのストレスを与えている。
そんな彼による援護の下で、一方では国内トップランクアタッカーにより攻撃されているのだ。
(如何にキミでも、それ一本では戦えないだろう?)
「仕方がないな」
スティーヴンは不利を認めたらしい。
炎剣とは別の切り札をきる。
「スキル【Force 連応弾・Lv.3】」
発動と共に彼の頭上に三つの青白い弾が発現する。
(カウンタショットか……)
スティーヴンはイベントや状況により、セットするスキルを変える。
故にこちらがリスクを伴う勝負手を行うより前に、その手札を切らせる必要があった。
カウンタショットは発動だけしておけば、接近する対象を弾数分自動で迎撃してくれるという、攻防一体の万能スキルだ。
シルバは牽制の一刀を投げる。
カウンタショットがそれを迎撃し、落とす。
(攻防どちらにでも使えるスキルだけど、奴の使い方は完全に守り)
攻め気がない。
つまりクランにおいて、自身がファーストオプションであろうとはしていない。
(配慮か……? リーダーを譲ったあのヴァンとかいう張りぼてのために、精一杯目立たないことを意識しているのか)
くだらないことだ。
どんなに頑張っても、彼の炎剣を超える一撃など、ありはしないだろうに。
「スティーヴン、ずいぶんとキミは日和ってしまったね」
「どういう意味だ?」
「遠慮しなければ立たぬリーダーなど、どうせ長続きはしないものだよ」
「……誰のことを言っている?」
「分かっているだろう? どうやら何らかの面白いスキルを持ってはいるみたいだけど、それだけだ。すぐにキミは窮屈さを感じ始めるに違いない。いやもしかすると、もう感じているんじゃないか? 悪いことは言わない、さっさとそんなところは抜けて、僕のところに来なよ? キミなら――」
「はははっ!」
おかしそうに笑い出すスティーヴン。
「なにがおかしい?」
「いや、……そうか。おまえの目には、俺が窮屈に見えているのか。断じていつも通りなのだが、それほどに、やはりあの方の威光は壮大なのだな」
「あの方?」
「我が主のことだ。いいか、シルバ。俺はキミのことは尊重している。高く評価しているよ」
「当然だね。ちなみに僕も同じだ、君を評価している」
「しかしこれだけは言っておくぞ。いいか、二度は言わない。一度で聞くんだ。我が主――俺のクランのリーダー、ヴァン・ダインのことを悪く言う者は、このスティーヴンが、キング家の栄光にかけて断じて許しはしないっ!!」
「――――っ!?」
次の瞬間、スティーヴンが一気に攻勢に出る。
「スキル【瞬歩】!」
一瞬にして、シルバの眼前に詰めてくる。
「【断崖斬り】!!」
超振動を伴う強力な振り下ろしスキル。
(避けられない――!)
どちらも特技系スキルの中としては一度使用すれば再使用までのクールタイムが長いものだ。これさえ凌げれば勝機が見えてくる。
やるしかない――。
切り札を切る。
「スキル【Force 強装崩し・Lv.3】」
ホルダー内の刃を大量にばらまき、それにまとめて魔力エンチャントを行う。そしてそれらを巨大な爪のようにつなぎ合せ、タイミングよく剣を受け止める。
ガキイイ――
「――――っ!?」
スキル【パリイ・クロウ】は相手の攻撃にあわせて一定のタイミングで放つと、そのままパリイカウンターにまで発展することができ、それにより相手の体勢を一時的に崩し、カウンターチャンスを得られる。
ただしそのタイミングは非常にシビアであり、実戦のここぞという場面でキメられる者はそういない。
「わるいなスティーヴン、僕はこのパリイが大得意でね」
「くっ――!!」
シルバは武器を闇の小太刀に持ち替える。
(どこを狙う――?)
がら空きになっているスティーヴンを見つめ、刹那で思考する。
一か八か急所を狙って即死を狙うか、はたまた無難に四肢を狙い今後の展開を有利にするか。
スティーヴンの身にまとっている鎧は実に立派なものだ。そしてそういった鎧には、すべからく急所となる部位には手厚い装甲が施されている。
(僕の小太刀で彼の鎧の急所を貫けるかは微妙なところだ)
シルバは確実なダメージを選択した。
右腕――スティーヴンの利き腕。
彼の扱う炎剣は長大なサイズの両手持ちを前提とした代物であり、利き腕無しではいくらスティーヴンと言えども圧倒的パフォーマンスの低下を引き起こさないはずはない。
右腕の鎧の継ぎ目を狙い、小太刀をねじ込む。
「くう――っ!?」
鏡面世界に痛みは無い。しかし衝撃は走る。それによりスティーヴンは呻きを上げた。
彼の利き腕は潰した。
これでこちらの圧倒的有――
「ぐっおおおおおおおおおおお!!」
しかしここで予想外の出来事が起きた。
パリイによる体勢崩壊がとけたスティーヴンが、左手一本で、その長大な剣を振るったのだ。
的確に、素速く、そして鋭く。
まるで右腕が健在であったときと変わらぬ様子で。
(ばかな――!)
奴は鬼神か!?
そんな剣を、片手で触れる者などいるはずがなかった。
シルバの想定の内では。
(さすがだ――スティーヴン――!!)
やはりキミはすごい男だ。いつだって想像を平気で超えてくる。
(だからこそ、僕は、君を評価する――だからこそ、僕は、キミが欲しいッ!!)
必死で身を反らし、スティーヴンの斬り上げをなんとか右手一本の損失で済ませる。
右肩の断面から、多量の魔力流出が始まる。時間が無い。
だがまだ生きている。
「僕をここまで楽しませてくれるのは、キミくらいのものだ! やはり自身と同じレベルの者との戦闘は良いものだ! そうだろ? あの張りぼてリーダーではこんな楽しみは味わえまい!」
「…………それは、たしかにその通りだな」
認めた!
スティーヴンが遂に認めた。
(あのリーダーが僕たちとは同じ水準にはいないと認めた!)
「ふふ、やっと自分に嘘をつくのをやめたな。最後の最後で」
「――――ッ!!」
「こんなかたちでキミに勝ってしまうのは大変忍びないのだが、僕はこう見えてかなりストイックな性でね。悪く思うなよ?」
スティーヴンはシルバに執着しすぎていた。まあ激情させ、そう仕向けたのはシルバなのだが。
そう、彼の敵はもうひとりいるのだ。
しかも攻撃力ではそのひとりの方が圧倒的にシルバよりも上だ。
カラーズのドリダ――そのメイン武器は【ブリューナク・ブレラ】。
特性こそなにも付いてはいないが、その武器レベルは49と、スティーヴンのファイアブランドーよりも2も高い。
「スキル【Element 風電装突・Lv.5】ぅうッ!! いっけええええッ!!」
少し離れた位置でタイミングを見計らっていた彼女は、既にその用意を済ませている。
彼の自慢の武器――ブリューナク・ブレラは、槍と折りたたみ式の円盾が一体となった武器であり、その最大の攻撃は盾を展開させた状態による突撃。まるで巨大な傘のようなその槍は、全ての攻撃をはじき飛ばしながら圧倒的威力の突撃を放てるのだ。
彼女はそれに風と電光のエンチャントをまとい威力を更に底上げしている。
「くっ!!」
スティーヴンは完全に背後をとられていた。
そして不意も突かれていた。
避けられない。避けられるはずがない。
そんな彼に向かってドリダが強風と電光を伴い襲いかかる――
「終わりだッ! スティーヴン――ッ!!」
叫んだ。
勝ち鬨にも等しい叫びだった。
――が、
ッッゴゴゴオオオオオオオオ――
突如として巨大な熱光波が通路奥より飛来し、その彼女をのみ込んで消えた。
そして――
「――っな!?」
その圧倒的威力のビーム砲は、驚くことに、ダンジョンの壁に大穴を開けていた。




