34 一番先にダンジョンから出た者の勝ち
「くっ……――」
シルバは左脚を引きずりながら、このダンジョン最奥にある最終広場へとやって来ていた。
彼の左脚にはひび割れが入っており、そこから白い蒸気のようなものが今も漏れ出てきている。
(勝っても……これじゃあな)
先ほど、フェニックスリーダーであるガイド相手に、七対一という圧倒的有利な状況のもと無事に勝利を収めたばかりだった。
生き残ったのは結局彼一人だけではあったが。
(化け物め……)
あいつはたった一人で、七名を相手に、六名を葬り去った。
あの状況で、まさか自分一人しか生き残れないなんて、想像だにしていなかった。
(しかも手傷まで負わされている)
想定したものとはほど遠い状況――いや、窮地に追い込まれたとすら言える。
「くそっ――」
彼は壁を使い、精一杯の速度で前進する。
(でもまだ、勝ちの目はある――)
そう、まだ勝てる。
なぜなら――
ここに辿り着けたから。
彼の目の前には、巨大な扉がそびえ立っていた。
このダンジョンの出口。
おそらくは一番乗りだ。
本来であればこの前を通り過ぎたシルバが一番乗りであったはずだが、いかんせん彼は虚けすぎた。
やはり最後の勝つのは、獣ではない――
智勝る者――。
「みんな、残念だったな――」
彼はその扉を押す。
「僕の勝ち――だ」
だが次の瞬間、驚愕に包まれる。
開かなかった。
(どういう……?)
そこで気がついた。
扉に、光が灯っていることを。
全部で、九つ。
それが調度、一つ消える。
これで八つ。
「まさか――!?」
気がついた。
そう――この光は、
(ダンジョン内における生存者の数――!)
そういえば聞いたことがある。
隣国の冒険者が最近発見し、踏破したというダンジョンの話だ。
そのダンジョンには、ほとんどモンスターが生息しておらず、冒険者たちはたやすく最奥に辿り着くことが出来たのだという。しかし――そう、そこからがはじまりだった。
そのダンジョンは、ある条件を満たさない限り、二度と中から扉を開けない設計だった。
その条件とは、つまり――
ダンジョン内に留まる生存者が、たった一名になること。
その冒険者たちはどうなったか?
閉じ込められて30日目にして、希望を失い、飢えと渇きに堪えられず、とうとう殺しあいをはじめた。
生還したひとりの冒険者は、心を病み、ダンジョンについての忠告だけを残し、稼業を捨てたのだという。
そのダンジョンが――
ここだ。
間違いない。
つまり、最後のひとりにならないと、残りの七人を殺せないと――
出られない。
――”今回は他参加者への殺害行為も可とする”。
――”どうしても無理だったら隠れて待ってろ。まあ最悪、自殺もあり”。
――”全部で12この入口があるが、全てはほぼ同じ道中距離で同じ出口に繋がっている”。
――”故に入口自体には有利不利はない”。
イベント前の、オニール将軍の説明の言葉が脳裏に蘇ってくる。
「はは……ははは……そういうことか……」
どの入口を選んでも、道のりは同じ。
その言葉の真の意図とはつまり、”どうせ全員を殺さないと出られない”ということ。
このイベントはトーナメントではない。バトルロイヤルだ。バトロワである。
「本当に、人が悪い……。ははは、何が一番先にゴールしたら勝ちだ。そもそも一人しか、ゴールできないんじゃないか――っ! はははははははっ!」
笑い声が止まらなくなっていた。
ここに来て、彼はワクワクしだしていた。
面白い――。
完全に、思考の裏をかかれた。
(久しぶりに、良いイベントじゃないか)
殺しあいが出来るようになった途端その条件を最大限に活かす――ある意味で将軍らしいイベントと言える。
(こんなイベントにできるのも鏡面世界を連盟に寄付してくれた誰かのおかげだな。感謝しないと)
勝利者となる為の道程は険しいが、しかし彼は勝利を渇望する。
「こんなにも素晴らしいイベントに参加しているのだ……勝たなくては……! ぜひ勝ちたいッ!」
狂気的に目を見開き、叫んだところで、一人、この広場に入ってきたのに気がついた。
「キミか……」
「……さっきから一人で、何を喜んでいるんだ?」
波打つ紅蓮の長剣を携えしその騎士の名は、キング家長子のスティーヴンだ。
ヤル気満々といった様子。
(コンディションが万全でない上で、スティーヴンをまともに相手するのは得策ではない)
そう判断するも、すぐに状況が一変する。
「こんにちはっ」
もうひとつの通路より、一人の少女が広場に入ってきた。
それは――
「カラーズのドリダ・アーナルデュル」
赤髪の少女はその可愛らしい顔をフリフリと振り、補足する。
「カラーズセンターの、ドリダちゃんですっ。フェニックスの奴に追われて、こっちのブロックに逃げ込んでたんですけど、ついでだったんで皆殺しにしときましたっ。もうこっちのブロックに生存者はいませんよっ」
「さすがはカラーズセンター」
かなりの手練れだ。
期せずして三つ巴の構成――
かと思いきや、ドリダはシルバに笑いかけてくる。
「あれれーあなた”ヴィーナス”リーダーのシルバ先輩ですよねー? 足怪我しちゃってません? それで対するはキング・スティーヴンさんとわたし。もしかして大ピンチだったりしますー?」
「まあね」
「じゃあ、ドリダが協力して差し上げましょうかあ? 一緒にアイツを倒しましょう?」
くしくも先ほどシルバが他クランにした提案を、今度はかの少女から持ちかけられる。
手を組み、圧倒的強者であるスティーヴンを確実に始末しようというのだ。
そしてこの提案のキモは、協力相手が自分より確実に格下であるということだ。
(ふふふ……まあたしかに、この足で、しかも戦闘後に疲弊した僕ならば、片付けるのも容易かろう。そう思われたとしても、不思議ではない)
しかしだからこそつけ込める。
そう――まだ終わっていないんだ。勝つチャンスは残されている。
「いいだろう。組もう」
シルバは鋭い眼差しで頷き、スティーヴンを見据える。
ドリダは笑顔で横に並ぶと、同じくスティーヴンに戦闘態勢をとる。
「二対一……か、おもしろい」
スティーヴンもまた、ニッと笑みを浮かべると、大剣を振りかざす。
「キング家に代々伝わる誉れ高きこの”紅蓮の炎熱剣”の威力、その身でとくと味わうがいいッ!」
アレが有名なファイアブランドー――
シルバは目を細めてそれを見る。
キング家をキング家たらしめている天下の名剣。
噂では聞いていたが、やはり生で見ると、迫力が違う。
ゴクリと唾を飲み込み、自身を鼓舞する。
勝てるさ――。
「行くぞッ! 覚悟しろスティーヴンッ!!」
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