33 タマゴサンドは夏場のお弁当には適さない1
俺たちは最初の広場に辿り着き、だいたい同じくらいに反対側の通路からやって来た相手クランと対戦を行った。
でもあんまり強くないクランであるらしく、俺以外の三人が余裕で舐めプしながら圧倒してる。
ちなみにローズは覚えている魔法が全てレベル8である為、この世界で使える魔法を一つも所持していないことになる。
が、TECステータスもなかなかに高く、その部分で普通に戦うことが出来ているようだった。
とは言っても、TECはSTRと異なり、その多くの本領を武器を持つことで発揮するステータスであるので、SS=5という圧倒的ステータスのわりにはそれ程優位に立ち回れてはいないようだ。
彼女の所持魔法があまりにも強いから、戦うにはそれだけで十分だと考えていたのだが、今回でスキルや魔法が使えなくなることがあると分かったからな。
(イベントが終わったら何か彼女にも武器を与えるべきかもしれない)
「あたしらは多分、おまえたちとは二つ三つ隣のルートだ」
インがそう告げる。
「そしてフェニックスはそのあたしらの更に隣奥のルートだった。だからおそらく次の広場に敵はフェニックスってことになる。気を付けた方がいいぜ? あいつらマジ、クッソ強いかんな」
そう忠告した後、ふと俺と目があって、「あわわわ」と慌てて彼女は目線をそらす。
「ま、まあ? オマエもなかなかやる奴みたいだから……余計な心配なのかもしんねーけどよ。でも、油断はすんなよ? おまえが殺られるとこなんてみたくねーからな」
「分かってるよ。俺らが負けたらおまえも終わりだもんな? せいぜい頑張るさ」
そう答えると、彼女はボソボソと
「そ、そういう意味で言ったんじゃねえよ。気付よばーか」
と呟いていた。
誰がバカだ。無礼だぞダサパンめ。
なんでもフェニックスには切れ者と名高いシェーンという男がいるとのこと。
トラップ等が仕掛けられている可能性も考慮し、やや慎重に進む。
(あ、そういえば)
俺はふと心配になってポケットの中身を確認した。
(うん、ちゃんとあるな)
先ほどダンジョン突入前に仕込んでおいたアイテムはきちんとまだポケットの中に納まっていた。落としたりはしていない。
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【オシリスの個人的無意識】
◎非消費系アイテム
◎ゲシュタルトの集合的無意識下において自我を得る。使用することで、鏡面世界内で実体を取り戻し、オーナープログラム制限を無効化することができる。
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どうやら将軍に渡した【ゲシュタルトの無意識】と対となるアイテムであるらしい。
使用することで、俺はただ一人、鏡面世界内で実体となる。
つまり、ダメージも全て現実のものとして受け付けるようになる。しかしその代わり、プログラムから解き放たれ、本来であれば使用不可であるはずのスキル等も発揮することが出来る。なぜなら実物の俺だからだ。使えて当然というわけだ。
これを念のためにポケットにひそませてきた。
いざとなったら躊躇無く使うつもりだ。
少しズルい気もするけれど、この設備の提供者が俺である以上、、それ相応のアドバンテージが俺に発生するのはある意味でしょうのないことだと思う。
そういうものだ。世の中は全ての人にとってこの上なくフェアなのだから。
まあでも、とは言っても、そこまで勝利に固執していない俺としては、勝つ為だけにこれを使うというのは考えにくい。
この世界で誰かの命に危機が迫るということもまずあり得ないだろうし。
だから、本当に保険であって、実際に使う日はきっとこない。
次の広場に辿り着く。
しかしその場所には誰もいなかった。
本来であればフェニックスが来ているはず。
「先に進んじゃったのかな?」
「あり得ますな。お世辞にも我々の進行は速かったとは言えませんし、とっくに着いて待ちくたびれ、ある程度のリスクを覚悟に先行していてもおかしくはない」
「逆にそう思わせようとするトラップの可能性もあるね」
ミネットとスティーヴンが互いの見解を照らし合わせる。
そして俺が結論を出した。
「なら、二手に分れようか。ここで待機する組と、先に進んで様子を見てくる組で」
「いや我が主よ! そこはぜひ、俺ひとりで行かせてください! この、あなたの一番の右腕であるこの俺にッ!!」
スティーヴンはそうしてキッとミネットを見つめた。
なんだろう、いつの間にやら彼は、ミネットに対し、何らかのライバル意識を持ち始めてしまっているようだった。
そういえば先ほどから何度か、活躍のシーンが被っていたからな。
「い、いいんじゃないかな……」
かくいうミネットには全くその気は無いようで、苦笑いでそう言う。
「ふふふ、よかろう! ミネットくん! ここで指をくわえて俺の活躍をとくと見ているがいい!! では我が主、行って参りますッ!!」
ぴゅーっと去って行くスティーヴンの背中が見えなくなった頃に、ミネットは満面の笑みを貼り付けて言う。
「ほんと、ヴァンちゃんの周囲には個性的な人がたっくさん集まってくるんだねー? すごいなーもしかして類友なのかなあー?」
煽りって言うか、普通に近ごろ恐くなってきているミネットさん。
――と、
ドドドドドドドッド!
どこかからか、地響きが鳴り響きだした。
「なんだなんだ!?」
何か嫌な予感で戦闘態勢――というか単なる逃げ腰になる俺たち。
その音は、隣の通路から聞こえてきていた。
徐々に徐々に、大きくなってくる。
そしてそれと同時に、
「ううっわあああああああああああ!!」
という、男の悲鳴のような声も聞こえだしていた。
やがてそれは姿を現わす。
几帳面な感じの眼鏡男が、
「たっすけてええええええええ!! ガイドさあアアアアあああん!! どっこどこどこなのおおおお!!」
鼻水とよだれを垂らし、大泣きしながら全力でこちらに駆けてくる。
「あ、あれフェニックスのシェーンじゃん。なにガチ泣きしてんのアイツ、うける」
インが率直な感想を述べる。
――が、それはすぐに悲鳴に変わった。
スティーヴンの背後にもの凄く巨大なゴリラ型モンスターが現われたからだ。
どうやら彼はそれに追われて逃げていたらしい。
「おわっマジかよっキングゴリラじゃんかよおお!!」
インが叫んだ。
キングゴリラとは霊長類最強と言われるモンスターであり、かなり強力なモンスターの一角であるとのこと。
「ぎゃああああああああ!! 逃げろおおおおお!!」
とりあえず俺たちは逃げた。
「待って逃げないでええええ!! 頼むうう! タマゴサンドあげるからアアああ!!」
スティーヴンは泣きながらそれを追いかけてきた。
この状況でタマゴサンドに釣られるアホが世界にどの位いるのか知りたい。
「まっじ!? タマゴサンド私大好物なんですけどおおお!! やるわよアンタたち!」
サラマンダーが間髪入れず立ち止まった。
なるほどね。
「ほんと、ヴァンちゃんの周りには、」
「おーけーミネット、皆まで言うな」
今回ばかりは同じ気持ちだから。




