30 大は小を兼ねない。大事なことはもっと他にある。
(いったい……なにが?)
ヴィーナスのリーダーであるシルバは、たった今目の前で行われていた模擬戦の内容に困惑を極めていた。
明らかにおかしい。
(あいつ……あいつは、いったい誰だ……?)
見たことも聞いたこともない男が、有名クランであるカラーズのインに圧勝した。
しかもその内容が、あまりにも奇々怪々すぎる。
(間違いなく命中していた)
インの放った雷鳴魔法のことである。
彼女は何発放っていた? 途中から数えることをやめてしまったが、片手ではおさまらない数を確実に命中させていた。
なのになぜ死なない?
いや死なないばかりか、ダメージを負った形跡すらない。
そんな光景はこれまでの冒険者生活において、一度も目にしたことがない。
なんだ? いったい何が起きたんだ? やつは何をした?
特性? ダメージを無効化する特性なんて馬鹿げている。ならばスキルか? しかしあの高い弾速の雷鳴魔法を防げるとなると、相当なレベルの魔法であるはずだ。
そんなものを見も知らない無名の冒険者が使えるか……? いや、そんなはずはない。
彼は自陣に戻っていくその男の後ろ姿をジッと見つめる。
その者を笑顔で迎えていたのは、あのスティーヴンだった。キング家の長子。
(そうか……)
そこでやっと、シルバはその見知らぬ男に見当が付く。
(そいつが……ヴァン・ダインか)
スティーヴンの新生クランのリーダーとなった者。
なるほどな。
どうやらアイツがその地位を譲るだけのことはあるようだ。
(この俺すらも知らない、なんらかのスキルを操る冒険者……)
いいだろう。
シルバは笑みをつくる。
(ためしてやるよ)
如何ほどの者か。
おそらくはその未知のスキルを見込まれて祭り上げられたのだろうが――
(あまいよ、スティーヴン。あまい。僕にはそういう底の浅い奴は通用しない)
これまでも、一つや二つたまたま良スキルの付いた装備が出たことで、潮流に乗り、名を上げようとしていった者はいくらでもいた。
しかし――彼は知っている。
そういう自力に乏しい者ほど、モロいのだ。
往々にして、手の内が割れ、知らない殺しが出来なくなった途端に、あっさりと瓦解する。
まずはありとあらゆる角度から切り込み、その隠されているスキルの正体を浮き彫りにしてやる。
お楽しみは、それから。
「ブル、プラチナ。どうやら今回も僕たちの勝利は盤石そうだよ」
「今さらですか? まったく、相変わらず心配性だなあ。そんなの最初から分かりきってることじゃないですか。実力のわりに慎重すぎるんですよ、シルバさんは」
「そうかもな」
率直すぎる故に生意気ではあるが、こういう時、ブルの言葉は心強い。
「潜入パーティは四名まで可能ですけど、いつも通りこの三名で平気ですか?」
「うん、この三名で問題ないよプラチナ。過ぎたるは及ばざるがごとし――ってね、僕たちにとっては練度の取れているこの三名がベストだ。なにも無理して増やすこともない」
「そうそ、適当に一名増やしたとこで、足手まといが増えて連携が乱れるだけですよ」
頃合いをみて、オニールが誘導をはじめる。
「よおーし、じゃあ、そろそろはじめるぞ。それぞれ好きな入口を選べ」
※※※
「あれ? ヴァンちゃんどこに行ってたの?」
一度現実世界に戻り、仕込みをしてから鏡面世界に戻ってきたところで、ミネットにそう訊かれた。
「うん、まあちょっと切り札をね、仕込んできた」
鏡面世界内では大方のスキルが使用できないと先ほど判明した。
その中でも亜空間ポケットが俺的にかなりダメージがデカかった。近ごろではすっかり、何か困ったことがあればポケットの中を探る癖が付いてしまっているだけに。
そういうわけで、最悪の場合の保険というものを用意することにした。
まあ、かなり無理矢理な解決策になるので、究極に困った時にしか使えないが、それでもやはりソレがあると思うだけで安心感が違う。
「ふうん? まあいいけど。もうそろそろイベント開始みたい。突入メンバーはどうする? まずヴァンちゃんは決まりでしょ? ほかのメンバーは? 私行く?」
「うん、そだな。ミネット」
「我が主! もちろん俺は連れて行ってくれますよね!? ていうか行きます!!」
間髪入れず背筋と腕をピンと伸ばし、立候補するものが一名。
とりあえず近づきすぎ。鼻が当たってるから。あと息かけんな男のくせに。俺に息を吹きかけて良いのは美少女だけだと知れ。
まあでもスティーヴンは連れて行こう。もう一名確保。
「あー、私はパス。こんな面倒そうなダンジョン攻略するとかないわー。ここで待ってるねーせいぜーがんばってえー」
「わかったわかった。じゃあ今のとこメンツは俺、スティーヴン、ミネット、フレイアの四名だな。あとどうしようか?」
「はなし聞いてたあ!? あとどうしようか? ――じゃないわよ! 私は行かないっつってんでしょ!?」
当然のように主張を無視する俺にガチ切れてくるフレイア。
「うーるせえぞクソ上位者! お前らの為の枠がせっかく二つもあんだからちゃんと参加しとけよ! ただでさえお前最近ますますゴロゴロしかしてねえじゃねえか!」
「いやよー! いやあ! ぜったいいやあ! ゴロゴロって癖になるの! しかもぜんぜん飽きないの! もうすぐにでも家に帰ってゴロゴロしたいくらいなのお!!」
「そういえば最近お前の部屋の棚に並びだしている美少女フィギュアたちのことなんだけどさ、あれってすごい可愛いな。可愛すぎて日々一つずつへし折ってやりたい衝動に最近駆られているんだけど、それでもお前は一緒に来ないのか?」
「行くわ! よおーしやーるぞおー!」
元気に肩を回しはじめるフレイア。
よしよし、そういう切り替えのはやさ、嫌いじゃない。
「となると、私たちのいずれかはお留守番ですか、パパ。本日はどちらを使ってくださいますか?」
サクラとローズがアピール合戦をはじめる。
まあ、どっちでも良いけど、なんとなく今日はローズにした。
「くうっやっぱりおっぱいか! お父上の気持ちを射止めるには巨大なおっぱいが必要なのか!」
うん、否定はしないけどサクラ、心なし周囲がヒソヒソし始めてるからそういうこと外で言うのはやめて頼む。
というわけで以上の五名で俺たちは入口の前に立った。
十二個あった入口も、速いもの順でどんどん埋まっていき、俺たちは一番最後だったので、余り物で選択肢はなかった。
「では! 開始!」
将軍の掛け声と共に扉が開いていく。
いよいよだ。
考えてもみればみんなと行う初めての冒険者らしい行事だ。
心なし、俺はワクワクとしていた。
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