29 クラン対抗イベントがはじまりそう
冒険者連盟本部に向かうと、オニール将軍率いる一個師団が待っていた。
参加クランが揃うと、「イベント会場に向かうぞ」と将軍が言って、師団に護衛されながら国外に連れて行かれた。
道中で、
「キミ、見掛けない顔だけど、クランイベント初めて?」
と見知らぬオジサンが近づいてきて話しかけられた。
「ええ、まあ」
「じゃあ国外に出るのも初めてで怖いでしょ? でも大丈夫だよ。北門周辺は昔からおとなしいモンスターしか生息していないからね」
「あ、どうも……」
「うん、ところでキミ、可愛い女の子とか好き? 好きだよね? オジサンも好きなんだよ、奇遇だね。それで実はとっても可愛い子知ってるんだけど興味ない? 今なら漏れなくその子と握手まで出来ちゃうしとってもお得なんだけど。ちなみにオジサンの推しはね、インちゃんって言って、イメージカラーは紫の」
俺は黙って歩く速度を上げた。
新手の宗教勧誘なのだろうか? とりあえずなんかやばそうだわ。
しばらく歩くと、そびえ立つ円錐状成層火山みたいな塔型ダンジョンの前についた。
「ここが今日のイベント会場だー!」
オニール将軍がそう告げる。
あれからマジで三十分しか経ってないけど、ホントにちゃんとイベント内容考えられているのだろうか? そこはかとなく不安だ。
俺の不安な視線をよそに、彼は説明をはじめる。
「今回は競争だ。クランから1パーティ出してもらい、同時にこのダンジョンに入ってもらう。そして早くゴールしたパーティから勝利となる。
このダンジョンには全部で12この入口があるが、全てはほぼ同じ道中距離で同じ出口に繋がっている。故に入口自体には有利不利はない。
パーティ最大構成は人間四名、上位者二名までとする。ただしトランス型は人間と同数の持ち込みを許可する。
装備アイテムの持ち込みは自由。
途中リタイアは一応認めているが、どちらにせよ各自自力での離脱をお願いすることになる。どうしても無理になったら隠れて待ってろ。数日後くらいに救援に向かってやるから。まあ最悪、自殺もあり。ああ、いや、これについては後述する。
失格要件は特になし。今回は他参加者への殺害行為も可とする」
「――――なっ!?」
将軍の最後の言葉により、ざわめきが走った。
「まあ落ち着けよ」
と、それに対し将軍はニヤリと笑む。
「今回は少しばかり、良い物が手には入ってな。これを使えば殺してもホントに死ぬことにはならないってわけだ」
彼は鏡をバンと叩き、その性能について話した。
つまり、今回はこの鏡を通って鏡面世界において対抗戦を行うということを。
「こんなことって……!」
将軍は実際に鏡を通らせ、俺たち参加者をデジタルワールドに案内した。
そこには先ほどの実世界とまったく同じ光景が広がっていた。
皆驚愕の表情でキョロキョロとしている。勿論俺もだ。
「この中では外と同じく全てのスキル・装備を扱うことが出来る。ダメージを負うと痛みはないがきちんと肉体を損傷する。それで行動不能になると実世界に排出される。あああと、普通にその鏡を通っても出られる。この中での出来事は外には一切影響することがなく、この中においても一度出ればリセットされる」
つまりダメージを気にせず、アイテムの消耗を気にせず、思う存分に振る舞うことがこの中ならば可能になる。
「す、すごい……! こんなすごいアイテムが存在しただなんて……!! いったいどこで手に入れられたのです? さすがは将軍閣下でございますね!」
誰かがそう言った。
そしてその感情はここにいる全てのものの総意であった。
誰もがこの画期的アイテムの登場に感動を顕わにしている。
「んーまあ、俺はとある物から譲り受けただけなんだ」
オニールはそう告げて、――
こっちを見た。
おい、やめろ。
「くくっ」
彼はくつくつと笑い、肩をすくめる。
「まあ名前は言えねえが、実はこれをくれたそいつは、この中にいる。まあそういうわけだ。くれぐれも感謝して、ありがたく使わせてもらうとしようぜ」
「――――――ッ!!」
驚愕が走った。
しかしそれは将軍の言う感謝の末であるとかそういうことでは全くなく、
脅威――!
この中に、そんなアイテムを提供し得る者が混ざっているということへの驚愕と恐怖と焦燥――そして猜疑の心からのものであった。
いったい――誰が――まさか――いや――それとも――
そのような警戒、探り合いが突如として飛び交いだしていた。
将軍はその様子を楽しそうにしながら、まとめで告げる。
「まあそういうわけだ。なんでもあり。できるだけ他より早くゴールしろ。リタイアの場合は数日後の救援を待つか、さっさと自殺するか」
あまりにシンプル。
しかしそれだけに参加者の動揺は大きいようだ。
これまでの前例を見事に覆したレギュレーション故に、多くの対策が意味をなくしてしまった。
「あーでも、そうだな。念のために、試しておくか? なあ、そうだろ? ほんとに怪我しても、死んでも平気なのか試しておきたいよな?」
オニールは今思いついたように矢庭に言い出す。
「じゃあ最初に模擬戦を一戦だけするか。殺しアリだ。ていうか、殺さねえと実験にならねえから必須で。誰がいーかなー?」
「はーいはーい! あたしやるぜ!」
突如決定したデスマッチに紫髪のやたらヒラヒラとしたスカートを着た女が一目散に立候補する。
「思う存分殺せるなんてうっひょおおお」
そう言って喜んでいた。
「カラーズのインだ。あいつに勝てる奴なんてそうそういねえよ。次のひとりが殺される役ってことでほぼほぼ決まりだな、これは」
そんな声が周りから聞こえた。
あの女、けっこう強いらしい。
そのせいか他に希望者はいないようだった。
「じゃーおまえ。頼むわ」
将軍はなんと、俺を指していた。
まじ? 俺? なんで?
「我が主! ぶちかましてやりましょう!」
後ろでスティーヴンがやたら嬉しそうにしてた。
と言うわけで紫女と俺がどっちが死ぬまでの模擬戦をすることになった。
「ふっふっふーあたし人コロスの初めてだ! これでまたあたしを推すやつが増えちまうな! 腕が鳴るぜえ!」
「あんまり惨殺すると逆にファン減っちゃうと思うよっ」
「そう、ほどほどに」
彼女の仲間らしき赤いのと黄色いのがそう言っていた。
ずいぶんと舐められている。
まあでも、手の内あんまりバラすとミネットが起こるし、適当に負けておくのが賢明なのかもな。
「じゃ、よーいはじめ」
将軍の合図と同時、インとかいう女が即座に動く。
大股を開き、腰を落とし、何やら格好良く両腕を広げ天を仰ぎ、
「【Thunder Class5・雷槍突】!!」
詠唱と同時、彼女の右手に光が集う。
そして――
(はやい……)
次の瞬間には、雷鳴による音速の突きが俺の心臓を貫いていた。
ただひたすらに速く、強い。
これが雷鳴魔法か。
(でも)
――【確率被ダメージ無効】
発動した特性でダメージが無効化されてしまう。
「――――っな!?」
インの顔が驚愕で染まる。
「どゆこと!?」
立て続けに先ほどと同じ魔法を放ってくる。
それはすべて俺に命中した。
一発。
二発。
――【確率被ダメージ無効】。
――【確率被ダメージ無効】。
「……なんだ? 全部外してんのか? ”一撃のイン”って言っても、大したことないんだな」
周りでそんな声が聞こえた。
「くっなんでよっ! しねっ! しねよっ! なんだよっ!!」
更にライトニング・ボルトを放ってくる。
全て無効化。
……はあ。
(これだけ当てても、たった二分の一の確率を引けないのか?)
俺はため息をつく。
それで少しだけ反撃しようかなって気になってくる。
「【四季世界】」
聖槍を構えてスキルを発動する――が、
(あれ?)
発動しなかった。
なぜ?
ブレスレットで装備詳細を確認する。
すると、スキル表示の大部分が灰色になっていた。
使用できない……?
そこでハッとする。
この世界は、環境設定を事前プログラムによって構築すると書いてあった。
つまり、この中では、プログラム作成者――おそらくはカーターさんであろうか? ――の想定外のスキルは使用できないということなのだろうか。
事実、ユニークスキルっぽい【世界】シリーズと、【亜空間ポケット】【適正領域】【飛翔】、あとはレベル9~8の氷結魔法なんかも灰色表記になっていた。
逆に【氷結晶剣】やレベル7魔法は依然として使用可能だ。
あと、特性は全てのものが依然として適応されている。
LUC関係のものなんかは、灰色表記になっていてもおかしくないかな? とも思ったのだけれど、どうやら大丈夫みたいだ。
(ふうん、なるほどな)
仕様なのか、それともなにか俺の予想しない理由が存在しているのか。
まあとりあえず、わかった。
「ひ、ひいっ、こ、こっち来んなよっ!!」
仕方がないので、俺はそのまま、怯えまくっているインの方に近づいていき、不作法に槍で横薙ぎにした。




