28 将軍の出勤前お悩み相談
「よお、久しぶり。元気そうだなあ」
クラン対抗イベント会場に向かう為、我が家とアーカム間を走るモノレールの雲から降りた時のことだった。
門の前で、門番よろしく突っ立って空を見上げているおっさんに話しかけられた。
「――お、オニール将軍っ!!」
「お、オニール将軍!?」
そのおっさんを見たスティーヴンの声で気付いたのだが、どうやらそれはいつぞやの将軍閣下であったらしい。
すっかり忘れていたこともあり、思わず驚きの声をあげかけてしまったけど、まあ聞きようによっては反復しただけにも聞こえない程度には誤魔化せたように思う。
「おまえ俺のこと忘れてたろ?」
「う……」
即行で看破されてしまったけれど。
「こんなところでどうされたのですか!?」
敬礼のような姿勢をとるスティーヴン。
あ、そういうのした方がいい感じ?
「いや、いい。今はまだ出勤前で非番だからな。そういう堅苦しいのは」
どうもオンオフはっきりしてる方であるらしい将軍は、そう言って手を振った。なんていうかそういうトコすごい好感持てるわ。
「今日はな、お前に用があって来たんだわ」
「お前?」
「俺でありますか!」
「いや、違う。おまえだおまえ。名前はなんて言ったっけか、なあカーター?」
「ヴァン・ダインですよ、オニール」
「ああそうだ、ヴァンだ。お前に用があって来た」
スティーヴンかな、と思ったけど俺だったらしい。
彼は俺の後ろでおとなしくしてるフレイアを見ると、ニヤリとした笑みを浮かべた。
「おお、飼い慣らしたか。やっぱな」
「ん?」
「いや、いい、こっちの話だ」
彼は首を振ると、今度は俺たちの乗ってきた雲を見て、
「なんでも最近国外から雲で通ってくる輩がいるって話を番兵から聞いていてな。なんとなくお前かなって気がしてて、いつかこうして会いに来ようと思ってて、ソレを唐突に今日にしたわけだ」
と言った。
「ほう、さすがは将軍閣下でありますね。わざわざ直々に会いに来るほど、我が主のことを評価していらっしゃるとは!」
「お前もな、どっかの貴族のぼんぼんぽい奴」
「キング家であります! キング家長子スティーヴンです!」
「ああ、だってよカーター。覚えたか?」
「はい、オニール。私は最初からちゃんと覚えています。ちなみにこの前にも会ったばかりです。今度はあなたも覚えてください」
「堅いこと言うなよ? 俺の分まで覚えておいてくれ」
相変わらずよくわかんない将軍だ。
ていうか、俺たちの雲のこと、国でも結構話題になってきてるんだな。
「で、用件はなんなんです?」
問うと、彼はまあ座れやと、大便をするポーズで俺に横をすすめた。
「別に用件って程の事は無い。ただお前とはかねがねジックリと話してみてえなって思ってたからそうしただけだ。でもあんま時間はねえんだけどな? なんたって今は出勤三十分前で、つまりまだ非番中だ。非番中はジックリ休まなきゃなんねえから忙しいんだ。そうだろ?」
「ええ、そうですね」
よくわかんなかったけど俺はとりあえずで頷いておいた。
「そうだなーなにがいいかなあ?」
彼はどうやら本気で会話の話題を探しているようだった。
ほんとなんなんだこの将軍。
俺たちも結構忙しいんだけど。
「今からイベントの集まりに行く予定なんですよ」
と話すと、彼は「おっ」と言った。
どうやら話題を見つけたらしい。
「せっかくだから相談に乗ってくれ。今悩んでることがあるんだ」
そしてそれはまさかの悩み相談だった。
どんな将軍なんだよあんたは。
「悩みというのはまさしくイベントのことなんだがな? 実はどんな内容がいいか決めかねているわけなんだわ」
「えっ?」
まだ決めてないらしい。そのイベントってあと三十分後に開始されるらしいんだけど。
スティーヴンを見ると、「まじっすかあー」って度肝抜かれてる顔してた。リッチな爽やかイケメンな彼をここまで間抜け顔にさせるとは、なんだかんだ将軍ってやっぱすごい。
「というのもな、もう結構いろんなことやり尽くしちゃってるわけなんだわ。それで新しいのを考えるのにも制約が多すぎて困っちまうわけだ」
「制約?」
「そう制約だ。まず怪我をさせるわけにはいかねえ。だって我が国の貴重な戦力であるわけだからな? しかし、言っても冒険者で戦闘を生業にしている奴らを競わせるのに、安全に配慮したヌルいイベントとかアホかって感じだろ?」
「たしかに。じゃあ怪我はしないけど、思いっきりみんなが暴れられる環境があればって感じなんですね」
思ったより割かしガチ目の悩みだった。
「まあよ。でもそんな都合の良いもの――……ん? なにしてんだおまえ」
「えーと、」
俺は亜空間ポケットの中を掻き回して、何か手頃なのを見つけて引きずり出す。
「うっおおお!? なんだ、おまえなにした? それどっから出したんだ? なんだそれ」
はいはい、お決まりのやーつ。あざまーす。
「まーたヴァンちゃんが変なの出したー」
「あんたいっつも変なの出してるわねー」
「今度はいったいなにですか、主殿?」
この事態にすっかり慣れてきているうちのクランメンバーたちは、そそくさとアイテムの鑑定に入り出す。
それは巨大な鏡の形をしたアイテムだった。
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【ゲシュタルトの無意識】
◎設備系アイテム
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また設備系か。
詳細を見る。
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◎鏡面に触れた者を鏡面世界に誘う。鏡面世界は、オーナーのプログラムにより自在に環境を変えることが可能。また、鏡面世界内での情報は、それを出てからには反映されない。
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「…………これはまーた、ピッタリなアイテムだね」
「またですか、我が主」
「またなの、あんた」
みんなが呆れたような目でこっちを見る。
なんだよなんだよ、俺なんかまたスゴいの出しちゃったの?
「将軍閣下! 我が主の取り出したこのアイテムを使用すれば、今おっしゃっていた悩み、全て解決するかと思います!」
スティーヴンが元気よく報告する。
「まじか? じゃあそれ俺にくれる?」
あ、いっすよ。
「どうぞ」
言うと、将軍は目を輝かせて鏡を抱え、門の中に駆けていく。
「助かっちまったぜえッ! サンキューな! いやあーたまには三十分早く家出てみるもんだなー得しちったぜ!! 楽しーイベント考えっから、楽しみにしとけよなー? お前らもイベント出んだろー?」
彼はこちらの答えも聞かないまま、門の向こうに消えていった。
カーターさんとのやり取りだけが、最後までやまびこのように聞こえてきた。
「オニール、この機会なので申し上げますが、いいかげん三分前に出勤するのやめませんか? いつもギリギリで出勤カード通して、気まずくないですか? 聖騎士アリアンナのように二時間前に出勤しろ、とまでは言いませんが」
「はあ? あいつ二時間前に来てんの? それ出勤カード通してんの?」
「いえ、出勤時間は、オニールと同じ時間で通してますね」
「意味ねえじゃん」
「意味とは?」
「お金もらえないじゃん。なんで無駄に働いてんの? アホなの?」
「……そうですね、たしかに二時間前はアホかもしれませんが、せめて十五分前くらいは王にサービスしてあげても」
「堅いこと言うなよカーター? お前が俺の分までサービスしといてくれ」
「いやです。私はオニールと一緒に出勤したいので」
「奇遇だな、俺もだよ、カーター。これからも毎朝一緒に行こう」
……朝っぱらからなにイチャイチャしてんだアイツら。遅刻しろ。




