27 決戦前夜のみんな
その日。
アーカム内、貸し広場において、国内トップクランの一角”カラーズ”による、明日に開催予定のクラン対抗イベントの必勝ライブが執り行われていた。
「いいか! 野郎どもー!!」
「うぉおー!」
広場のど真ん中に設けられている特設ステージにて、三人の少女が立っている。
そのうちの一人――小柄な紫髪のツインテールな少女が、右腕を振り上げて煽ると、ステージを取り囲んでいるもの凄い数の聴衆が呼応し、雄叫びを返している。
「明ー日はいよいよッ待ちに待った対抗イベントの日だあああーっ!!」
「うおおおおお!」
雄叫びを返す聴衆の手には、それぞれ赤・紫・黄の色に光る棒が握られており、聴衆は雄叫びを上げる度にそれを激しく頭上で振り回している。
「ぜったい、負けられねえよなぁー!?」
「まけられなーああいい!!」
「きこねえぞおおー!? 負けられないんだよなあー!?」
「まけられなあああああいいいいいいい!!」
「おまえらあたしを敗北者にする気かあー!?」
「ぜったいしなあああいいいい!!」
「勝つのはどこのクランだあああ!?」
「カラーズウゥウウうううう!!」
「そのクランのセンターは誰だあああ!!?」
「インちゃああああん!!」
「ドリダちゃあああああああんん!!」
「リンちゃあああああんああああああああ!!」
「うん、どうやらセンターはあたしで間違いないみたいだな」
返ってくる悲鳴のような声に聞き耳を立てて、紫髪の彼女――イン・アーナルデュルはウンウンと頷く。
それにすかさず、同じくステージに立つ他の二人の少女が首を振った。赤髪ショートカットの少女――ドリダ・アーナルデュルと黄髪ストレートロングの少女――リン・アーナルデュルである。
「ううんっ、ぜったい違ったよっ。むしろ一番呼び声小っさかったまであったよっ」
「うん。ライトも紫が一番まばら」
「んなことねーし!! インちゃん大人気だし!」
インが全力で否定すると、聴衆から声が上がる。
「ぶっちゃけ三番手なのは否めないけど俺たちがんばるからねえ!!」
「っざけんな! そゆのは思ってても黙っとけ! そしてそっと心にしまってろ! 悲しくなんだろが! 勝ってる振りしてその隙に勝っちゃえばそれで問題ねーんだよ!」
会場から苦笑がこぼれた。
今度はリンがピョンピョンと躍るように前に出ると、キャピキャピと手を振る。
「みーんなーっ。でもそーゆーことだからあ! 今度のイベントでも、うちらがぶっちぎりで一番になって、それでもっとファンを増やしちゃうんだからねーっ? わかったあー? これは負けられないよおー? 手段を選ばずぜったい勝つんだからねえー? そして新規加入者にはもれなくリン推しを課すように! わかったあー?」
「まだ、どんなイベントなのかは分かってないけど、一番活躍した子には、五分間の二人きり個室トーク券をプレゼントする」
「うおおおおおおおおおおお!」
「そしてえっ、毎度おなじみっ、連れてきた新規クラン加入者の数だけっ、握手券ももらえるからねえっ!! イベントでたっくさん、連れてきちゃうんだよおっ!?」
「いええええええええええええええ!!」
「今言った二つの功績はそれぞれの推しに積まれていくことになっからなあ! いいか! あたしをセンターにしたいお前らあ! 気張れよオオ!!」
「うわあああ」
「やっぱり、インへの声が一番ちっさっ」
しかもうわああって言われてた。うわああって。
「んなことねーし! てかそうでも言うな! そっと心にしまっといてくれ!」
その日のカラーズライブ会場では、絶えず野郎どもの雄叫びが鳴り響き続けたという。
そして近隣住民より苦情が届き、カラーズの三人はごめんなさいをしに行った。
※※※
同日。
アーカム内、”フェニックス”クラン拠点の作戦室。
そこでは厳正なる雰囲気ただよう中、国内クランランクの第三位につけているフェニックスの幹部勢が明日の対抗イベントに向けての話し合いをすすめていた。
「明日の参加クランは分かっているのか?」
尖ったフォルムの眼鏡をかけた、利口そうな男――シェーンが問うと、ボサボサ頭の軽薄そうなブルンが答える。
「どーも参加クランん中では、うちが最高ランクみたいっすね。一位も二位も今回はお休みするらしっす」
「なに? そうなのか。一体なぜだ。久しぶりの大型イベントだというのに……」
「え? オマエ知らない? そんなの決まってるっしょ」
上座に腰掛けているサングラスをかけたツンツン頭の男――フェニックスリーダーであるガイドが得意げに言ってくるので、シェーンは感心して問い返す。
「ガイドさん、なにかご存じなんですか?」
うんとガイドは大きく頷いてビシッと告げる。
「ラビット酒場のとんかつビーフ丼だから」
「は?」
「ん? だからラビット酒場。あの曲がり角の兎形の提灯さげてるとこ。あそこのとんかつビーフ丼マジウマ」
「なんの話されてます?」
「ん? ……あれ? この後の予定じゃなくって?」
「ちが――」
とシェーンが否定しようとする寸前、
「知ってるっす! いやーさすがっすねガイドさん! マジヤバなチョイスさすがっす! あそこのビーフ丼美味すぎますよね!!」
ブルンがスゴい勢いでガイドの話にのってしまった。
「おっ! いいじゃん、だよなー? サイコーだよな? じゃさっそく繰り出すか! ビぃいーフぅううー!!」
「いえっさあー!! どこまでもついて行くっすう」
「「びいーふうううーー!!」」
二人が仲良く肩を組んで唄いながら、退室していく。
斯くして今回もまた、その作戦室にはシェーンただ一人だけが残されることになった。
「どこへでも行ってしまえ」
彼はポツリと恨み言を述べると、給湯室でサンドイッチをこしらえ、それをかぷつきながら作戦を一人練りはじめる。
「私のタマゴサンド……、マジヤバだな」
今度あいつらにも振る舞ってあげようとシェーンはひとり思った。
※※※
「さて、今回も必勝プランをたてようじゃないか」
国内第五位クラン――”ヴィーナス”トップパーティの面々は、スカッシュと呼ばれる球遊びに興じていた。長方形の部屋の壁から跳ね返ってくるボールを、思い思いに打ち合っている。
そのリーダーである爽やかイケメンなシルバは、汗をきらめかせながらボールを打ち、告げた。
「僕が思うに、今回の要注意クランは何と言っても、あのキング家長子が最近設立したという新生クランであると思う」
「ああ、あのなんちゃらブラザースとかいう? ……うーん、どうしてだろ。新生弱小クランなんてうちが気にする理由はないと思いますけど」
小柄な体格の、率直で生意気そうな顔つきの少年――ブルが無味に問う。
「まあ通常ならそうだね。しかしそのクランの設立者は何を隠そうあのキング家長子のスティーヴンなんだ」
「そういえばシルバさんは、あいつのことを高く評価していましたね。ちょっと俺には理解できないけど。あんなノロマ、ぜんぜん大したことないでしょ」
「そんなことはないよ。アイツは強い。そしてなにより優れた慧眼の士であるんだ」
「慧眼……?」
「つまり見る目があるってことだ。あいつはとにかく人を見る目を持ってる。それに身を委ねる勇気もある。大した奴さ。そんな奴が、前まで国内四位の巨大クランの幹部だったにもかかわらず、突如としてそこを脱退し立ち上げたんだ。なにもないわけはないだろう?」
「シルバさんがそう言うかと思って、一応情報は集めておきました」
真面目で几帳面そうな面持ちの少女――プラチナが跳ね返ってきたボールを打ち返さずにキャッチして、微笑む。
「さすがプラチナさん。優秀だね」
プラチナは事務的に情報を唱えていく。
「クラン名はヴァン・オブ・ブラザーズ。今のところ登録メンバーは五名。登録上位者が一名。拠点はX136Y98。クランリーダーはヴァン・ダイン――」
「なっ――? ヴァン・ダイン? 誰だそれは? リーダーはスティーヴンじゃないのか? 間違っているんじゃ――」
「ううん、間違いないです」
「ということは……やはりスティーヴン以上の戦士がいるということじゃないか? あいつ以上ともなれば、それはかなりの実力者だ」
「て言っても、聞いたことないですけどね、ヴァンなんちゃらなんて」
「……登録上位者が一名だけというのも気になる。その一名はスティーヴンのサラマンダーだろう。なら他の者は? みんなトランス型なのか?」
上位者には大きく三つのタイプがある。
一つが、人型。
二つが、モンスター型。
三つが、トランス型。
トランス型はフェアリーに代表される微細なサイズの上位者であり、故に相棒というよりは力を増幅させるエネルギー源のように扱われることが多い。
近年における秘境協会が管理する上位者のトレンドにもなっており、今虹の階段にて住まう上位者のほとんどはこのタイプの上位者であるらしい。それだけにトランス型とのマッチング者が全体の割合の大部分を占めるようになってきている。
そしてトランス型は相棒というよりはエネルギーである為、クラン名簿には名前が載らない。これはクランイベントにおいては大きなアドバンテージとなる。
現在のこの国の冒険者たちの多くは、国主催のクランイベントで好成績をあげ、順位を上げ、国からの高待遇を勝ち得ることに重きを置いている為、国外開拓向きな性能である人・モンスター型よりもトランス型が流行となっているのはある意味では自然なことと言える。
「案外、人・モンスター型だけど関係に問題があって使えないとかじゃないですか? けっこういろんな欠陥抱えてますからねあいつら」
「私もトランスの便利さにもう慣れちゃったから、もうオールドタイプなんて考えられないなー」
「ああそうか、プラチナは最初オールドだったんだっけ? それで戦死したから再マッチングで今のトランスになったのか。でもかえって良かったんじゃない? 良いでしょ、トランスって」
「たしかに良いですけど……、その言い方はあんまりです、ブル」
ブルは肩をすくめた。
それからシルバに向かって言う。
「まあ、今回のイベントに出るうちより上位のクランはフェニックスのみ。そこさえ抑えとけば楽勝ですよ」




