26 いいーねっ快晴じゃん
ホムンクルスが二体手に入った。
彼女たちは有能で、なぜだか建築分野にも明るかった。
それで家を建てたいと例の家族お手製の設計図という名のイラストを見せたら、
「「お任せあれ」」
とサクサク作業に取りかかり、既に母親ご所望の木製の馬鹿でかい宮殿と、クラン拠点となる程良いサイズの屋敷は完成させた。
「しゅ、しゅごい……」
その様を見て、とうとうそう呟く以外何も出来なくなっているフレイアに、かける言葉を探し出せる者は俺たちの中には誰もいなかった。
まあ、どんまい。
「うえええええん」
さて。
「あの二体のホムンクルスたち、あんなに強いのならずっと建設作業だけさせておくのは勿体ないな」
ある日、クラン拠点の会議室で、ふと俺はそう呟いた。
するとそれを聞き逃さなかったスティーヴンが即座に同意した。
「たしかにね。俺も近ごろずっとそう思っていたんだよ。近々大きなクラン対抗イベントもあるし、それに備えてクランに加入させられないかと」
「なにかイベントがあるのか?」
「まあそれについては追々お話ししますよ」
ふうん。
近ごろすっかり秘書役が板に付いてきたスティーヴンくんである。
「クランに入れたいなら、連盟に申請するだけじゃないのか?」
「そう簡単にはいかないんだ。というのも、クランに入れるならば、まず居住権が必要となる。そして居住権は、人なら住民登録、人外種ならマッチング済みであることが必須条件なんだ」
ちなみに人外種はマッチング年齢になるまではここからは離れた”虹の階段”と呼ばれる秘境にて過ごすことになる。
聞くところによると、虹の階段は自然がいっぱいで綺麗ではあるのだが、とても文明に乏しく退屈であるとのこと。
故に人外種の皆はマッチングする歳を楽しみにしてそれまでの日々を過ごしているらしい。
「マッチング候補の人外種は、冒険者連盟と並ぶ巨大組織である秘境協会によって厳密に管理されている。だからぽっと出で得体の知れぬ二体のホムンクルスをああそうですかと管理リストに入れてくれるはずもない」
「ならどうする?」
「人間と誤魔化して登録するしかないねー」
ミネットが答える。
「誤魔化せるのか?」
「本人たちに聞いてみたら、造作も無いって言ってたよ」
マジか。
さすがだなホムンクルス。
「しかしここでもうひとつ問題が」
「なんだよ?」
「移民であると審査が厳しいんだ。もしかすると誤魔化しがきかなくなるかもだし、そもそも結果が出るまで恐ろしい月日がかかる。つまり次のクランイベントにも間に合わない」
「おい」
「どうしました?」
「その割にぜんぜん困ってないぞ、顔が」
「それは勿論、既に解決策を見つけているからだね」
そうして浮かべる笑顔はちょっと邪悪だ。
スティーヴン、似合わないぞ。
お前の担当はあのバカみたいに爽やかでリッチな笑みのほうだろ。
「まあ結論から言うとね、」
ミネットが苦笑を浮かべて言う。
「養子登録にしちゃえば全ての問題が解決するの。審査は金銭面だけで、幸いにもヴァンちゃんはお金持ちだから、それで黙らせられる」
「へえ? ならすればいいじゃん」
「でもね、あの子達はヴァンちゃんの家系じゃないと嫌だって」
「了解。なら妹弟がまた増えることになるのか」
「うん、でもね、ヴァンちゃんママも、これ以上ハイレベルな子持ちになりたくないって」
「ハイレベルな子持ち?」
「つまり子供を増やしたくないって」
「ふうん?」
ならどうするんだ?
するとスティーヴンは親指を立てて、
「キミの子供にするのさッ」
とキラリと歯を光らせて言った。
バカみたいに爽やかでリッチな笑顔だった。
「…………は?」
数日後。
「パパ、これからもよろしくお願いしますっ」
「お父上っ! 役に立ってみせる! 腕が鳴るな!」
うちのクランに、俺を父と呼ぶメンバーが二人増えた。
名前は乳がデカい方がローズで、勇ましい方がサクラに決まった。考案者はうちの妹だ。
あとクラン名も決まった。”ヴァン・オブ・ブラザーズ”だ。考案者は、そううちの妹だ。
通称はブラザーズ。
「ヴァンちゃんが子持ちになった……」
すべての最後にポツリと、ミネットが不満げにそう呟いていたのが印象的だった。
しかし敢えて言うと、それはこっちの台詞だった。
なし崩しで俺を子持ちにしやがって。
「ぷぷっ、童貞の癖に子供いやがんの」
フレイア、てめえはマジで後で泣かす。
「安心してくれ我が主、俺もそっちはまだ未経験だッ!! 一緒だな!」
うん。いやそっちはって、いったいどっちなら経験済みなんだスティーヴン。どっちなんだ。
「にーちゃーん。どーてーってなにー? にーちゃんって、どーてーなのお?」
「しっ、こらクレイグ! ……あのお兄様、もしお兄様がその、初めてのお相手をまだお探し中なのでしたら、その、アリサのこと使ってくれてもいいんですよ?」
アリサ、公衆の面前で兄の下の心配をするのはやめなさい。お兄ちゃんもの凄く惨めな気持ちになるから。
まあでも、なにはともあれローズとサクラが加入して大幅な戦力アップだ。
「というわけで我が主! クラン対抗戦大型イベントが始まります! 本日九時開始ですので、さあ向かわなくては! 急ぎ支度を!」
その日も目覚めると、早朝から爽やかイケメンな顔面が満面の笑みで視界いっぱいに広がっていた。それが俺の顔に間近で唾を吐きかけて喋っている。
自室。そのベッド。
「……おはよう、スティーヴン」
「ああっ――! またアリサより先に!」
扉を開き、部屋に入ってきたアリサがスティーヴンを見て驚く。
「ふふふ、アリサさん、まだまだですね。俺の我が主への忠義に勝る者なし!! 故に俺が一番に彼を目覚めに導けているのです!!」
「うっうう……! そんなことないですもん! アリサこそが世界で誰よりもお兄様のことを愛して――――……ハッ!」
「あーねーちゃんが顔真っ赤になってるー」
「うわああーん! とうとう愛の告白をしてしまいましたああー! お兄様を愛しているのバレてしまいましたああ!! どうしましょう、これから気まずい雰囲気に……違います、違うんですお兄様あああ!」
「あー! ねーちゃんが泣いてどっかに走っていっちゃう――待ってえー!」
「……うちの妹って、やっぱちょっと変わってるよな」
そもそも妹が兄を愛してるのって、別に変なことじゃないからな。家族愛。
「ささっ、我が主、どうぞ」
スティーヴンがキラッと爽やかに歯を光らせつつ、俺のスリッパをそっとベッド脇に並べる。
めっちゃイケメンだ。
こんなに男らしくスリッパを揃えられる奴を俺は他に知らない。
「お、おう……ありがと」
近ごろの彼は、仕事のサポートどころか甲斐甲斐しく身の回りの世話まで買ってでるようになっていて、頼んでも無いのに朝イチで俺の部屋に起こしに来てくれてる。
今までそれはアリサが(やっぱり頼んでないけど)やってくれてたんだけど、最近は半ば二人の競争みたいになってて、しかもだいたいスティーヴンが勝ってる。
彼は俺を起こす際、いつも顔のすぐ真ん前で爽やかな笑みを浮かべるのを常としているため、彼に起こされるといつも最初にそのハイテンションなドアップを目の当たりにすることになる。
けっこう寝覚めが悪い。
どっちかというとアリサに「おはようございますっお兄様。今日も一日頑張りましょうねっ!」って可愛く起こしてもらう方が気分が良い。
部屋を出ると、扉の横にローズとサクラが忍びの人みたいにスッと控えている。
「パパ、おはようございます」
「お父上、イイ朝だなっ!」
サクラはともかく、ローズは未だに人嫌いであるが、どうやら俺に忠誠を誓いまくってる人については許容しだしているようで、スティーヴンのことも毎朝通すようになってしまった。
キッチンに行くと、ミネットが朝食を食べていた。
近ごろでは彼女もすっかり俺の家に居着いてしまって、一向に自宅に帰ろうとしない。いいのか? いいみたいだ。
そういうわけで、現在自宅から通っているのはスティーヴンたった一人となっている。
「じゃあ、行きましょうか、我が主。イベント会場へ」
ご飯を食べ終わると、スティーヴンがそうして急かしてくる。
そういえばさっきもそんなこと言ってたな。
でも残念ながら初耳だぞ。なんだそのイベントって。
「えっヴァンちゃん聞いてないの!?」
「むむっ、フレイアに説明するように頼んでおいたのだが……」
横にいたフレイアがびくっとして、思い出したようにする。
「あ――っやば、てへへ言うの忘れて――」
「もう、スティーヴ、フレイアなんかに頼んでちゃんとやって貰えるわけないでしょ? これはフレイアに頼んだスティーヴンが悪いよ?」
「そうだぞ、スティーヴン。この世には、頼んで良い奴と悪い奴がいるんだ! そしてフレイアは完全に後者だ! だからお前が全て悪いぞ! お前はそこら辺をうろつくサルに頼み事をするか? しないよな。そういうことだ」
「さっ……さる――!?」
「す、すまない……たしかにそうだったな。フレイアに頼んだ俺が愚かだった。すまない。次からはせめてちゃんとした知性を兼ね備えた人を相手に選ぶことにするよ」
「ごめん! ごめーんー謝るから! 次からちゃんとやるから! だからお願い! 私も叱ってええサル扱いしないでええ! 私に知性の存在を認めてええ!!」
サラマンダーが泣いて謝ってきたので俺たちは彼女を許した。
「ああ、今日もいい天気だな」
というわけで、アーカムにイベントの為に出かける。
クラン対抗イベントかー。どんなことするんだろ。




