23 クランを作ろう
「……なにいってんの? バカなの?」
フレイアに雲の上に家を建てようとしてるんだと言ったときの反応がこれだった。
「おいクソサラマンダー、口の利き方に気を付けろ。言っておくがさっきお前が飲み食いした代金、俺が支払ってやったのは立て替えであって奢りではないからな。つまりお前は俺に借金している身の上と言うことだ。いいか? 殺人未遂を行った相手に借金までしているわけだ。これから何か俺の気にくわないことが少しでもあってみろ。駆け込むからな? 将軍のとこか? それとも取り立て請負所がいいか? んん、ほらどっちがいいんだ言ってみろ。殺人未遂がバレて一生牢屋で暮らすか借金で地下で強制労働させられるかどっちが良いんだ? んんー?」
「え、えげつないわ……、なによっちょっとばかし一回くらい勢い余って殺しかけちゃっただけじゃない! それなにのに……あんまりよっ! ねえ、スティーヴンからもなんかいってあげて! 私を助けて!」
半泣きで助けを求めるも、スティーヴンは冷徹に言い放った。
「おいくそさらまんだー、言っておくが俺は運命の友であるヴァンくんを支持する。当たり前だよな? そう、だって運命の友だから。……ここで忘れてならないのはキミのこの国での居住権は俺とのパートナーシップによって担保さているということだ。そしてこの状況で俺がそれを未だ維持しているのは純然なる恩情によるものだ。だがキミが少しでもヴァンくんに悪意ある行動をしてみろ、俺は迷わず破棄するからな」
正直スティーヴンがくそさらまんだーと言ったのには驚かされたが(棒読みだった)、しかしそれだけに効果は覿面であったようだ。
フレイアは大いに傷ついて、そしてシュンとした。
まあ良い薬である。
というわけで掲示板に求人を張り出すことにした。
誰か応募者が来ないか、席で待つ。スティーヴンとフレイアもそれに付き合ってくれた。
しかし、
「……誰も来ない」
マジで誰も来なかった。
なぜだ。
「まあ、あんただしね。仕方ないわね」
ふふーんと嬉しそうに馬鹿にしてくるフレイア。
「ふふふ、まあなに? 私も鬼じゃないわ! あんたには一応? それなりに? 借りというかそういうものが私にもあるようなので? ここは一肌脱いであげようじゃない!」
彼女はスッと立ち上がると、そう言って胸を張った。
そして掲示板のところまで歩いて行くと、ソッと、俺の求人の張り紙に自身の名前を書き入れる。
それからいたく誇らしげにして帰ってきた。
「どう? あの求人、あんたとあたしの連名にしておいてあげたわ! これで私の名前に釣られた応募者がたらふく集まっちゃうわね、きっと! ふふふ、サラマンダー様の……いえ、この高ランク上位者フレイア様のネームバリューの威力をとくと味わうが良いわ!! そして跪くのよ!! 先ほどまでの私への無礼を心から詫びるが良いわッ!!」
でも、結局誰も来なかった。
「なんで!? 私が募集してんのに! なんで誰も来ないのよ!?」
テーブルの上で頭を抱えるフレイア。
横でスティーヴンがまあまあと慰めてジュースをすすめている。それに対し彼女は泣きそうになりながらも首を振り、ビールがいい……と言った。こ、こいつは……。
「しかしホント、なんでこんなに誰も来ないんだろ……? 条件も結構良いんだぜ? 拘束時間も平均より短めだし、賃金も時間単価に直すとかなり高めなんだ」
「……それを帳消しにするほどあんたの無能さが評判悪いってことなんでしょ」
ジト目でフレイア。
イラッとしたが、しかし結果を考えるとたしかにそのとお……――
「ん?」
納得してしまいかけたその時、俺は見てしまった。
掲示板で求人のさわりを見てるんるんにこちらに振り向いた少年――彼が、俺と共に座るフレイアの姿を見た途端、頬をひくつかせてUターンしていく様を。
そして聞いてしまった。
「おっこの求人良いじゃん」「ばっ! よく見ろって。あの貧乏神こと、フレイアの名前が書いてあるだろ? さっきも席で大暴れしてたらしいし、関わんない方がいいって」「うわっマジだ。関わると碌なことがないで近ごろもっぱらの評判なフレイアだ! あぶねー」
むちゃくちゃコイツのせいなんじゃねえか。
どうやら近ごろのホームレス生活とかなんかを契機に、彼女の元来の奇異な性質がとうとう広く知れ渡ってしまっているようだ。
「…………………………」
俺は目の前のサラマンダーを見つめた。
「なによ? その切なそうな目は。さてはやっと気付いた? 自身のどうしようもない無能さに。認めたのね? もうーしゃーないわねー、わかったわ。誰も集まんないならしょうがないわね、ちょっとだけなら私が手伝ってあげないこともないわよ?」
もの凄く上からの目線で肩をすくめながらそう言う彼女。
イラッとする。
……が、
「はあ、……まあしゃあないな。引き取ってやるよ、クソサラマンダー。どうせこの後行く当てもないんだろ?」
俺は彼女を雇ってやることにした。
「さすがだね、ヴァンくん。君はやっぱり見込んだとおりの男だった。ならば俺も君に手を貸すよ。手伝う。なんて言っても、この”貧乏神”さんは一応まだ俺の相棒であるわけだからね」
「びっびんぼう――なんですって!?」
スティーヴンは全ての事情を把握していたようだ。意外と食えないやつである。
まあしかし、とりあえずもうひとり労働力をゲット。
これで二人か。
とりあえず一段落かな?
「で、ここでひとつ提案なんだけど……」
「ん? 提案?」
と、そんなところでスティーヴンが何ごとかをお持ちかけてきた。
「クランを立ち上げないか?」
「クラン?」
「そう、君がリーダーのクランだ。どうだろうか? 君がうんと言ってくれれば、手続きやらなんやらは俺がやっておく」
「俺がリーダー? なんで?」
「キミしかいない」
クランとは志を同じくした冒険者同士のチームである。
パーティとは違い、立ち上げの際には連盟に登録と認証と審査が必要となる。
その分、登録が済むと国やその他の任務やイベントに呼ばれたり参加できるようになったりする。つまり冒険者としての活躍の幅が広がる。
連盟による審査に通過するには、身分や地位のある人間の推薦等が必要になるのだが、その役目をスティーヴンが担ってくれるらしい。
コネのない俺にはありがたすぎる話だ。
――が、
でもあまりにも急すぎる。
いったいどういうつもりなんだ?
その気持ちが顔にも出ていたらしい。
彼は笑うと、
「俺は君を気に入った。……というか、惚れた。いや、そういう意味じゃない、離れるな、距離を取らないでくれ! ……ふう、いいかい、俺は男として君に惚れたんだ。君のその度量に。器と言っても良い。ずっと俺は貴族家で『領民すべてを受け止められる大きな男になれ』と言われて育ってきたのだが、君にその真髄を見た気がした。そしてとても敵わないとも思った。とても俺には真似出来ない。だからせめて、自分が見込んだ男を、この手で支えたいと――そう思った」
「あ、はあ……そうですか」
「ちょ、よく考えてスティーヴン、こいつ無能よ? ていうかただのバカなのよ? こんなヤツ支えるくらいならこの私を――」
「おい、それ以上俺の主君を蔑むようなら容赦しないぞ」
「ひ、ひい――!?」
むっちゃくちゃ怖い目でフレイアを睨み付け、黙らせるスティーヴン。
いつの間に俺が主君になったのか。
彼は俺の目に気付いたのか、爽やかな笑みで首を振る。
「ああ、もちろんキミが認めてくれたら……だね。主君はまだ気が早かった。でも俺はキミのような立派で素晴らしい男を、広くみんなにも知ってもらいんだ。埋もれさせるわけにはいかない。その使命感すら感じた。だからキミをリーダーとしたクランを作り、そのクランを大きくするのが近道だと思った」
唖然とする。
こんなにも俺を評価してくれる人がいるだなんて。
正直、まだクランなんてのは、しかも自分がリーダーだなんて、そんなのはピンとこないけど、
「楽しそうかもな」
みんなと一緒に冒険者活動ができるっていうのは、かねてからの夢だったので、断わる理由は見つからないし、むしろ想像するとわくわくが止まらなかった。
「そうかい? そうだろ? うん、きっと楽しい! 保障するよ! 楽しもう! 一緒にクランを――やってくれないか!」
「うん、わかった、やろう」
「ありがとうありがとう!」
かくして、俺のクランが作られることになった。




