21 雲の上で寝よう!
その日は日暮れまで、家を建てる為の地盤づくりを行った。
うちの場合は雲を使っているので、地盤と言うよりは雲盤なのかもしれないが。
雲をありったけ集め、そして平らな地面に加工し固めていく。
ある程度できたら、今度はそこから地上に降りる為のリフトも作る。
リフトは天の楼閣にあったような、ボタン作動式を採用することにした。あと、今後地上からなにか資材の運搬等で使っていくことも見越して、広く作っておく。
「ええ感じやん」
夕暮れを背景に、朱色に染まる我が家の完成した地盤を地上から眺めながら、俺は満足げに頷いた。
ていうかもう今日は家族もここに呼んで、あそこにテント張ろうか。
住宅街のど真ん中でキャンプするのさすがにキツいし。
「じゃーあたしも泊まるー」
ミネットがウキウキと手を挙げる。
どうやら雲の上で寝てみたいらしい。
まあ変質させてるから、別にフワフワもしていないんだけど。
「にーちゃん、あれ……なに?」
家族を呼んできた。
あそこに家を建てるんだよと紹介すると、「まじかよ……」と、みな息を呑み言葉を失った。
「え、乗れんの? 雲に?」
めっちゃキョドってるみんなをリフトに乗せ、雲の上に案内する。
「すげえええ!!」
クレイグは雪の日の犬みたいに白い雲の上を走り回っていた。
「まさか雲の上に住む日が来るだなんてねえ。でもま、悪くないわね」
謎のツンデレ感を醸しながら頷く母親。
そして妹はウットリとして、「素敵です、さすがはお兄様」と頬を染めていた。
まあ納得してくれたみたいで良かった。
雲に住むとかマジ嫌なんだけど! ってガチギレされたら別のところを考えなきゃいけなくなってたし。
「えーというわけで我が親愛なるおまえたち! よーく聞いてください! 本日はここをキャンプ地とします!!」
「「「いえええーい」」」
みんなでガッツポーズしてテント設営に入る。
それからみんなで肉を焼いて天空バーベキューでワヤワヤした。
雲の下では何やら物騒なモンスターたちもうろついてはいるが、空は満天の星空だし案外良い雰囲気だ。
「と言うわけで、今後のことについて相談があります!」
俺がそう言うと、皆は肉を片手にこちらに耳を傾ける。
「今迷っているのは、家の素材です!」
「素材?」
「そう、素材です! ホントだったらセオリーどおり石とか木で建てようかと思っていたのですが、以外と雲が素材としてフレキシブルで、かつ安価なので、まあ金はいっぱいあるのでぜんぜんいいのですが、」
「え、いっぱいあるの?」
「あります、安心してください母上」
「おやまあ」
「というわけで金はぜんぜん良いのですが、雲でも家を作れそうなので、案外それも良いかなって。皆はどう思いますか?」
問うと、妹弟たちがまず目を輝かせた。
「「雲!! 雲のお家住みたーい!!」」
うむ、やはりちびっ子たちにはウケが良さそうだ。
「私はやっぱり、石が良いわねえ」
母親はやはり定番を求める。
「はーい、私は木が良いでーす! 木造ってなんだかぬくもりを感じられて良いよね!」
ミネットが当然のようにそう述べる。
まあでも、こいつも家族みたいなものだしな。
ていうか綺麗に意見が分れたな。どうしようか。
「えーぜったい雲だよー!」
「あら、石が良いわ。年長者の意見には耳を貸すものよ?」
「お言葉ですが、やっぱり木ですって! 揺れにも強いんですよ?」
穏やかだった我が家の食卓に、何やら争いが勃発しはじめた。
ううむ、いかん。よし、ならばここは――
「えー何で建てるか、俺は決めました!」
皆が固唾を呑んで見守る。
「全部建てます! 雲の棟! 木の棟! 石の棟!」
「「「おおおおおおー!!」」」
喝采を博した。
「じゃあー明日はまず設計図を作るか。みんなの希望は出来るだけ織り込みたいので、今のうちからどんな家が良いか考えておいてください。それに伴い、設計責任者を一棟ずつ、決めたいと思います」
それぞれ当初の希望者が責任者ということになった。
雲が妹弟ズ。木がミネット。石が母親。
俺は総監督で全体の舵を取る。
「あと今のうちから少しずつ材料も集めていかないとな。雲はともかく、石や木は……」
「そこら辺の伐採採掘する?」
「だな。で、足りない分はアーカムで買い付けてきてもいいかもしんない」
雲材の準備はミネット。その他の調達は俺がやることに。
そんなこんなで。
「寝よう!」
「「「「おやすみいーー!」」」」
みんなで寝袋に入る。
「にーちゃん! これもしかして大声で歌っても誰の迷惑にもならないんじゃ!?」
いつもは住宅街だし壁薄いしでそんなことは出来ないが、今ならたしかに他に誰もいないし良いかもな。
「うっひょー!! おれのりさいたるにようこそー!!」
ご機嫌に歌い出すクレイグ。
まあ、ほどほどにな。
そんなこんなで数日が経った。
作業は順調に進んでいた。
雲地の敷地も更に拡大し、家が三棟とそれぞれに広い庭をつけたとしても有り余るくらいは確保できた。
石材と木材もいくらか運び込まれている。
ミネットの雲材作成も十分だし、みんなの設計図も完成した。
あと母親からアーカムへの移動が不便だと相談を貰ったので、アーカムまでの空中移動雲を二隻作成した。名前はモノレールとした。
昇降リフトの空中横移動バージョンであると考えて貰えば分かりやすいか。
オーナー権限を持つ俺の家族が乗ると決まったルートを自動で飛んでくれる雲の乗り物である。
これにより、俺やミネットが付き添わなくても、誰でもアーカムへの行き来が可能となった。
「さあ! というわけで、いよいよ本番も本番、建築に取りかかるわけだ!」
「やったー!」
「楽しみです、お兄様!」
ワクワクが止まらない様子の妹弟ズ。
母親は仕事でモノレールでアーカムに行っているので、今日はこの面子で作業する。
というか、なんだかんだ彼らは作業が楽しくて仕方ないらしく、毎日進んで手伝ってくれている。
むしろ、まだやんないのー? と煽ってくるレベル。
でも彼らは、任せた仕事はキッチリとやり遂げてくるし、経過を定期的に自慢してくるし、何か問題があればすぐに相談しに来るしで、なんだかんだ有能である。
「材料はこのとおり! 必要な分は用意した!」
「いえー!」
「資材として加工も施してある!」
「やたー!」
「でもどうやってこれ組み立てれば良いと思う!?」
「いえー…………えー……え?」
沈黙する俺たち。
そう、実はここに来て俺たちはもの凄く困っていた。
家、建てたことないんだもん。
実際に組み上げていくとなると、分からないことがあまりにも多すぎた。
「ヴァンちゃん、誰かプロの人を雇ったら?」
ミネットが進言してくる。
そうしよう!
「よし、じゃあ最近色々とやることも増えてきていたし、ついでだから作業スタッフも何人か雇ってみるか」
「えーっ!? おれに手下が出来るのー!?」
曲解するクレイグ。
そう、末っ子の彼は、威張れる相手に飢えている。
家族以外の人にはいかなる時でも、いかなる相手でも、敬意を払うこと忘れてはならないということを、兄として諭しておいた。
「さすがです! お兄様!」
うむ、苦しうないぞ。
というわけで、俺は人材捜しにアーカムへ向かった。
本日おそらく、あと一話更新します。




