19 ロケハンに出かけよう
「あっお兄様、それとミネットさん、おはようございます」
朝目覚めてミネットと一緒にテントから出ていくと、家族が朝ご飯を作っていた。
枯れ木を集めて、火を焚き、鉄板を吊るして、その上でパンと卵を焼いている。
普通に美味そうである。
ただし忘れてならないのは、ここが我が家の跡地でありや、周りは住宅街であるということ。
そんな閑静な町のど真ん中で、崩壊した家屋の瓦礫の上でキャンプさながらにテントを張ってキャンプさながらにアウトドア飯を決め込んでいる様は、なかなかどうして奇異なことこの上なく、ぶっちゃけて言うとご近所さんの視線が痛い。
「あ、あら、お、おはようございますう。朝からキャンプ? うふふ……チラ」
「あら、家族でキャンプなんていいですねえー、……チラ」
我が家のキャンプ場を通り過ぎる際には、みな一様に心のこもっていない御為倒しを言いつつ、崩壊した瓦礫を見て意味深に微笑んでいく。
いやそれどころか、立ち止まる野次馬までちらほら現れ始めた。
これはやばい。
おいコラ、見世物じゃねーんだぞ!
「にーちゃん、ご飯おいしー!」
モグモグと無邪気にパンを味わっている弟の笑顔が痛い。
これは一刻も早く、昨晩考えていた計画を実行に移さねば。
「えーっ突然ですが、家を建てますッ!!」
俺が宣言すると、家族とミネットが歓声を上げた。
「いえー!!」
いえーぃっ!
というわけで俺は家を建てる土地を探しに出かける。
出かけにふと気付いて、母親に
「そういえば親父ってどこ行ったの? 俺が帰ってきてからずっと姿見てないけど」
と今さらな質問をしてみた。
「あーあの人はね、あんたが死んじゃって、葬式代を稼ぐために大マグロ鯨漁船に乗ったの。遠洋漁船だから三年半は帰ってこないわ」
「えー……」
まじか。
親父、どんまい。
まあお土産、よろしくな。
土地は予定通り砦塀外で探すことにする。
国境の門を抜けて外に出ると、だだっ広い原野が広がっている。
中のごみごみとした狭苦しさと比べるとえらい違いだ。
外はこんなにも広いのに、わざわざ狭い領土を更に切り分けて住むだなんて、改めて考えてみると、おかしな話だ。
いや、どちらかと言えば不自由なのか。
まあとにかく、俺は開放感と共に原野を走り出す。
国から近い方が、ギルドとか買い物とかするときは便利かもだけど、やっぱりそれ以外の様々な不都合もありそうな気もする。
この際だから、少し離れたところでのびのびと開拓しよう。
「ん? スライムだ」
歩いているとスライムが襲いかかってきた。
体当たりである。
俺は敏捷性に欠けていることもあり、それを避けることが出来ない。
――が、特性【確率ダメージ無効】が発動し、被ダメージを無効化する。
おお、すご……。
天楼でも感じたことだが、これまじで神特性だよな。
たしか効果は、
【確率ダメージ無効】:***A以上の者の受けるダメージを20%の確率で無効化する。
というものだった。
今の俺にはこの特性が計三つ付いている。
ここで気になってくるのが、効果の重複についてだ。
同じ効果は重なって発動するのか? ということ。
まあでもなんとなく、無効化の頻度的に、重ね掛けされている気もする。
良い機会なので試してみようか。
スライムの体当たりを、試しに百回被弾して検証してみた。
結果――
45/100回、無効化が発生した。
つまり約50%の確率。
20%の発生の抽選が3度行われているとすると、1-0.8^3で約49%の確率で発生することになるから、まあ予想どおりこの特性は重複されていると考えていいだろう。
てか、二回に一回無効化されるって、それスゴくね?
あと、今回の検証により、もうひとつの特性の重複効果も検証することが出来た。
その特性とは――
そう、【被ダメージ減少】である。
効果は、装備者の被ダメージを30%軽減するというもの。
今の俺は槍装備時で三つ、ヴァジュラ装備時は二つ、この特性が付く。
結論から言うと、この特性も重複した。
ただし計算方法は加算ではなく乗算である。
故に、仮に俺の被ダメージが1,000であった場合、
30%が三つで90%減少で被ダメージ100! ――とはならず、
0.7×0.7×0.7×1,000で被ダメージ343! という風になる。
そこから更に装備の基礎防御値を減算していくので、実質俺に届くダメージ値は実際のものよりもかなり小さくなっていると言える。
かつてはスライムの攻撃に瀕死になっていた俺が、計65回も被弾してもピンピンしているのがその良い証左だろう。
まとめると、今の俺は結構打たれ強い。
「おつかれー、ありがとよ」
俺は百回以上の体当たりを繰り出してくれたスライムくんにねぎらいの言葉と共に、槍による直接攻撃を与える。
ぷにー――!
断末魔と共に、消失する。
うむ、君のことは忘れない。
「う゛ぁ、う゛ぁう゛ぁう゛ぁう゛ぁう゛ぁ…………」
「ん?」
と、背後からバグってる声が聞こえてきた。
振り返ると、ミネットがワナワナと、誤作動のような震えを醸し出して立っている。
俺の後を追って来ていたみたいだ。
「ど、どう――」
「ヴァンちゃんがアアアアああ!!!! スライムたおしてるうううぅうう!!!?」
どうしたのか訊ねようとした瞬間、彼女はそんなことを大声で叫びながら、歓喜して俺に飛び付いてきた。
「すごい! すごいよおおお! よかったね! ついにやったね!」
まるで自分のことのように――否、むしろ俺以上に喜びを爆発させて、えんえんと泣いている。
「ありがと……」
「うん。うん。ヴァンちゃん……よかったね」
きっと、スライムすら倒せなくて、いつもボッコボコにされて帰ってくる俺をずっと見てきてたから、悩んでいる俺を知っていたから、それで一緒に彼女も悩んでいてくれていたからこそ、こんなにも喜んでくれているんだと思う。
自分以外で、自分以上に自分のことを考えてくれる人間なんて、そういるもんじゃない。
「昨日、スライムより強そうなやつをたおしてたけどな」
「そうだけど。でもスライムはヴァンちゃんの長年のライバルだったでしょ? だからスライムをたおすとこを見るのはやっぱり感慨深いものがあるよ」
でもなんだか、遠回しにディスられている気もしないでもない。
「ここらへんがいいかな」
ソレっぽい丘陵を見つけたので、ここを未来のマイホーム立地とする。
「え、家って、国外に建てるの?」
今さらながらにミネットが驚く。
なんだと思ってここまで付いてきていたんだ……?
「散歩かなって」
なるほど。まあいいだろう。
「うん、だって塀の中って狭いだろ? 俺はもっと大きな家が欲しいんだ」
「でもモンスターは? どうするの? ウジャウジャいるけど」
辺りを見回す。
するとホント、無数にいた。
しかもここは国から結構離れているせいか、スライムみたいな弱小モンスターではなく、中堅どころからそれなりの大型モンスターまで、ほんとより取り見取りな状態だった。
これでは家を建てても安息な生活はとても望めそうにない。
なので――
「ふむ、ここら一帯を安全にしますか」
「全部たおすって言うの? それはさすがに無理だよ」
「ばかやろう、諦めたらそこで建築終了だぞ?」
「諦めたらもなにも、物理的にむ――」
俺は槍を構えた。
無言で。
そう、男なら行動にて規範を示すものだ。
「【黄金世界】」
スキルを発動し、俺を取り囲むように表れたスクリーンで辺り一面のモンスターをロックオンする。
「発射!」
槍を掲げると、魔法弾がとんでいき、見える範囲内の敵を一掃する。
「あれ……?」
ワンパン終了。
たしか天楼のときは一撃で倒せることってあんまり無かったから、ちょっと拍子抜けした。
「え、ええええええ!? 何今の!? なにしたのヴァンちゃん今の!? 魔法だけじゃなくてそんなのもあるの!?」
大袈裟に驚いているミネット。
「なにそんなに仰天してんだよ。昨日話したろ?」
食卓で。
天楼での冒険譚はちゃんと話した。
「聞くと見るとでは違うでしょ? それにある程度は盛ってるんだと思ってたし」
「盛るとかとんでもない。むしろ控えめに話していたくらいだ」
「だね。ヴァンちゃん、その槍については、何かぴゅんって球が出せる槍って表現してたもんね」
「出たろ? 球」
「出てたけどヴァンちゃん表現が謙虚すぎだよ。あれぜんぜん球って感じじゃないよ。人類絶対絶望爆弾くらい言ってよ」
どんなセンスしてんだよ。
「昨日話聞いた時点では、なんかちょっとした曲芸ができる槍なのかな? ってくらいの印象だったけど、ただの究極兵器だね、それ」
ミネットは呆れていた。
21時にもう一話更新予定です。




