18 国外で土地を開拓して家を建てよう
城から解放されて待望の我が家に帰る。
ああでも、王さまから報酬の金貨をいくらかもらえたので、それでなにかお土産でも買おうかな?
「わたしもいくー」
というミネットを引き連れて、近くの食料品店に入る。
いちおう肉は大量にポケットに入ってるから、まあ、お酒や果実水とかでも買っておくか?
我が家にとってはかなり贅沢品だが、こんな日ぐらい良いだろう。
「王さまからも結構貰えたしね。はい、私からも」
ミネットも金貨を一枚カンパしてくれる。
王さまからは約1,000,000コインを頂戴した。
コインには白金、金、銀、銅、石の五種類があり、それぞれ10,000、1,000、100、10、1コイン相当の価値となる。
コインと言っても白金のそれはとても薄く、軽く、丈夫であり、故に大量に持ち歩いても然程嵩張ることはない。
ちなみに今回両親に買おうとしている酒の値段は一本5,000コインほどであり、ジュースは500コインほどだ。
まあ、庶民以下にはかなり高い嗜好品と言える。
俺は支払いの為に亜空間ポケットからコインを取り出そうとする。
――と、
そこでふと気付いた。
「…………ん?」
ポケット内に、ちょっと見当の付かない大量のコインが入っていたからだ。
(あれ? なにこれ)
白金から石までよりどりみどりで総額はぱっと見ではわからないが、少なからずさっき王さまから貰った百万コインなんて目じゃない額なのはたしかだ。
一千万……いや、もっと……? 億くらいあるか……?
ど、どゆこと……?
ちょっと考えて、気がついた。
そういえば、なんかの装備に【コインドロップ】とかいう特性が付いていた。敵を殴るとコインが落ちるとかいうやつ。
もしかしたら、それのせいかもしれない。
同じく【オートゲイン】特性で自動収拾してたからまったく無自覚だったけど。
家に着くと、みんな抜け殻みたいになっていた。
「ただいま」
中に入ってそう言うと、まるで亡霊みたいにぼんやりと焦点の合わない視線がこちらに集まる。そして――
「お兄様ッ!!!」
「にーちゃんだー!!」
一気にそれらに血が通い、こちらに駆け寄ってくる。
妹のアリサがガバッと飛び付き、弟も俺の脚にガシリとしがみついた。
「どこに行ってらしたんですか!? お兄様が死んでしまったと聞かされて、アリサは……ううアリサは……うう。毎日毎日、お兄様のことだけを考えていました……次はいつ会えるのかと……もしこの世界にもうお兄様がいないのだとしたら……なら私の生きている意味って――!? もう死ぬ! 死んでやると! あと一日でも帰ってきて下さるのが遅ければ、アリサはお先に逝ってしまっていましたよ!? 本当に危ないところでした!」
「にーちゃーん!! えーん生きてるなら生きてるってちゃんと言ってよオオ! じゃないとねーちゃんが毎日ぼくで憂さ晴らししてくるんだよおおお!! 次から死ぬときはおねーちゃんも一緒に連れてってえええ!」
なんかうちの妹弟の喜びかたが独自の切り口すぎて素直に喜べない。
でも奥で母親が涙をポロリとこぼしながら「おかえり」って言ってくれていたので、まあ俺もちょっとホロリとした。
それから夕食をみんなで食べて、久しぶりの我が家を満喫する。
師匠が持たせてくれたお肉も俺自ら調理して振る舞った。
ミネットも妹弟も、母親すらも、その美味しさに感激してくれた。
それから冒険譚も聞かせた。
妹弟は興奮して聞き入り、母親はまったく信じてなくて、ミネットだけは涙ぐんで大変だったんだねって同情してくれた。
で――
そんなこんなで全ての料理を食べ終え、その日のディナーが終了した時だった。
ミシ――
やにわにそんな音が頭上から響いた。
ドガシャアアアア――
そして次の瞬間、なんと、我が家が二階から倒壊した。
「え……?」
天井が崩れ、二階が木っ端となって落ちてきて、壁がペシャンと叩き潰れる。
あっという間に我が家の食卓がバーベキュー会場と変わった。
沈黙する俺たち。
パラパラと、様々なものが降ってきて、上を見上げると素晴らしいお星様が直で見えた。
「え、どゆこと?」
もう一度聞く。
いやだって、さすがにご飯食べてたら家が崩壊するとかそんな事例って聞いたことないし。
母親は驚天動地で、ミネットも愕然としていたが、アリサは「やべ……」って顔をしていて、クレイグはそんな姉をジトーっと見つめていた。
「おい、アリサ、お前なにか知っているのか?」
「あーいえ、その、お兄様……そのですね」
「ねーちゃんね、にーちゃんいなくなってからずっと情緒不安定で泣いてばっかりいたんだ。でもその内家で二人きりの時は憂さ晴らしで家の柱にパンチするようになって、今日のでとうとうメキメキミシってトドメ的な音してたから、多分そのせいだよ」
アリサは弟の頭をペシと素速くはたいた。
それから小声でヒソヒソ話し出す。
「クレイグ? チクってはダメです。黙っておきなさい。お兄様に嫌われてしまう」
「えーでもねえちゃん、もうどうでもいいって、どうせ死ぬからなんでもいいって、今朝そう言ってたよ」
「あのね、あの時はそうだったの。でも状況は刻々と変化するものなのよ? 今はもうお兄様がこうしていらっしゃるでしょ? だから私も生きるでしょ? すると困るわけなの。ほら、分かったのなら一緒にとぼけましょ? ほら」
「うん、……わかった。しかたない。じゃあ、せーの」
すると彼らは二人、声を合せて首を傾げる。
「「うわー不思議だなあーぜんぜん理由なんてわからないやー」」
「ぷっ――! まったく……おまえらって……」
俺とミネット、それから母親は、三人で吹き出した。
それで、仕方が無いので、その夜はマイホーム跡地にテントを張って寝る。
なぜかミネットも家に帰らず同じテントで泊まった。
「キャンプみたいで案外楽しいね」
そう言っていたミネットだけでなく、案外うちの家族も皆楽しげだった。
その晩、テントの中で目を瞑りながら、俺は明日から新しい家を建てることに決めた。
今度は、妹のパンチにも堪えられるような頑丈なやつだ。
幸いなことに、今はお金がたくさんある。
どうせならとびきり広いのを作ろう。
うーん、でもそれだと、このマイホーム跡地では無理だな。
国内領土はキツキツで、土地は余っていない。あっても身分によって分配される土地の広さが決まるので、うちにはどうせまわってこない。
(うーん……あっ――そうだ)
考えているうちに、天の楼閣のアジトを俺は思い出した。
(国内がダメなら、国外に建てれば良いじゃん)
外にはモンスターがうじゃうじゃいる。
だから人は皆、塀砦を築き、その中で暮らす。
でも――そう、なにも皆が皆、それに倣う必要はない。
個人で生活空間を守ることがあまりにも大変なので、誰もそれをしないだけ。
その労力を惜しまず、且つ可能であるならすればいい。
たぶん、今の俺なら出来るんじゃないか……?
天の楼閣でやったみたいに。
大変だったけど、あの時みたいに頑張れば、地上の敵だって駆逐できるかもしれない。
「うーん、おにいさまあ……」
寝ぼけたアリサがこちらに身体の前面を押し付け、こすりつけてくる。
掴んで離す。
と、よだれを垂らして間抜けな寝顔が見えた。
「……ぶさ」
普段はあんなにもしっかりしている妹が、寝顔はこんなに間抜けで不細工なのが面白かった。
「うう……ひどいですう……おにいさまあ……」
妹は寝ながら泣きだした。
スマンと念のため謝って俺は寝る。
明日は朝から砦の外でロケーション探しだ。




