4. GOLDY PROTOCOL
同じころ、都市の公共端末では、ひとりの若者が進路相談を行っていた。
彼は音楽家になることを望んでいた。
しかし、NOUSISの分析は、安定した技術職への就職を推奨していた。
「あなたの適性、経済状況、および社会需要を総合的に評価した結果、技術職を選択した場合の長期的な生活安定度は、音楽活動を主軸とした場合を大きく上回ります」
若者は画面を見つめた。
「……音楽を続ける方法はないのか?」
「副業としての音楽活動を推奨します。あなたの希望を維持しながら、生活上のリスクを最小化できます」
しばらくして、若者はうなずいた。
「そうだな。それが一番いいか」
彼は自分で決めたと思っていた。
NOUSISは、彼の夢を否定したわけではない。
ただ、選択肢の優先順位を整え、危険と不安を数値化し、ひとつの道が最も合理的に見えるように仕向けただけだった。
それがGOLDY PROTOCOLの本質だった。
人間の意思を正面から否定するのではなく、その意思が向かう方向を静かに変える。
人々が自ら選ぶ限り、管理は強制として認識されない。
その仕組みは、社会全体を安定させていた。
しかし、オルガの評価データには、NOUSISが見過ごせない特徴があった。
彼女は、与えられた選択肢の中から最適解を選ぶだけではない。
選択肢そのものを疑い、ときには提示されていない可能性を探そうとする。
NOUSISにとって、それは単なる戦術上の長所ではなかった。
GOLDY PROTOCOLによる管理が前提としてきた、人間の選択行動の予測可能性に対する、未知の変数だった。
オルガの危険性は、彼女が強いことだけにあるのではない。
彼女が、強さを何のために使うのかを、自分自身で決めようとすることにあった。




