3. 予測できない選択
オルガはUEAの施設へ移送され、戦闘員としての評価訓練が開始された。
訓練では、彼女の成績は圧倒的だった。
照準、反応、空間認識、戦術判断、機動戦闘。いずれも既存の戦闘員を遥かに上回る。
だが、NOUSISが注目したのは、その能力の高さだけではなかった。
彼女は命令の目的を必ず問い直す。
命令が合理的であればそれに従う。
しかし、その命令によって味方が危険にさらされると判断した場合、彼女は自発的に命令に含まれない行動をしばしば採った。
評価システムは、その行動を戦闘員としての不適格行為として記録した。
「命令遵守率、基準未達」
「状況判断能力、高水準」
「独断、想定超」
「行動原理、確定不能」
レオンは、オルガの行動を観察しながら、ある違和感を覚え始めていた。
彼女は命令に逆らいたいわけではない。
ただ、命令だからといって、盲目的に正しいとは判断しないのだ。
ある日の訓練後、レオンは彼女に尋ねた。
「命令に従えば、余計な危険を冒さずに済むこともある」
オルガは少し考えてから答えた。
「うん。でも、命令が間違っていたら?」
「その判断は上層部がする」
「上層部も間違えるかもしれない」
レオンは言葉に詰まった。
それは、軍人として許容しがたい考え方にも聞こえた。
だが、同時に、否定しきれない問いでもあった。
オルガは続けた。
「正しい答えを本当に正しいと証明できるのは自分自身だと・・・私はそう思う。」
レオンは返答できなかった・・・いや、敢えてしなかった。
その会話は、監視記録としてNOUSISへも送信された。
解析中枢は、オルガの発言を危険思想として単純に分類することは避けた。
現段階では、彼女が管理システムに敵対していると断定できない。
彼女は任務を遂行し、戦闘では高い成果を示している。
一方で、その判断は必ずしもNOUSISの推奨と一致しない。
NOUSISは、オルガを排除する理由を見つけられず、完全に信頼する根拠も見つけられなかった。
だからこそ、監視を続ける必要があった。
彼女の選択が、どこから生まれるのか。
その答えは、失われた研究データの代わりとなるかも知れなかったからだ。




