第一章 第1継承者 1. 目覚めた存在
VOIDとの先の見えない闘いが続く中、地球圏の旧研究施設で異常なエネルギー反応が検出された。
この施設は記録上、NOUSISの基幹システム開発に携わっていた研究施設とされていた。
20年前、謎の組織がこの施設を襲撃、職員が全員死亡するという事件が発生し、その後、長年にわたり封鎖されていた。
調査に派遣されたのは、レオン・スティーラー少佐を指揮官とするUEA特殊部隊だった。
レオンは、封鎖された施設の奥で、厳重に封印されたひとつの生命維持カプセルを発見する。
内部に眠っていたのは、黒と深緑を基調とした戦闘用ナノアーマーを身にまとった黒髪の少女だった。
機械的な外装と生体を思わせる構造が融合した特殊な身体。
人間と見分けがつかない肌と表情。
「美しい.・・・」
レオンが近づくと、カプセルの生命維持装置が作動を開始し、やがて少女はゆっくりと目を開けた。
長い眠りから覚めたばかりの琥珀色の瞳、そこには確かに、何らかの強い意志が宿っていた。
「……ここは?」
レオンは銃口を向けたまま、慎重に問いかける。
「所属と識別コードを答えろ」
少女はしばらく彼を見つめていた。
「わからない」
「名前は?」
「……オルガ」
それだけだった。
彼女は、自分が何者なのかを説明できなかった。
記憶の大部分は失われている。施設の目的も、眠っていた理由も、自分の身体に組み込まれた機能もわからない。
ただ、胸の奥に何かが残っていた。
誰かに託されたもの。
誰かを守らなければならないという、理由のわからない感覚。
しかし、その正体を尋ねても、答えは返ってこなかった。
そのとき、施設全体に警報音が鳴り響いた。
その瞬間、壁面の装甲が破壊され、異形の機械群が侵入してくる。
既存の戦闘兵器とは異なる挙動。
統一された指揮系統を持つはずの機械群が、まるで個々に意思を持つかのように無秩序に動いていた。
「VOIDだ!・・・シールド展開!・・・第一戦闘態勢をとれ!」
「奴らには、レーザーは通用しない!・・強装弾、もしくはグレネード弾で核をねらえ!・・・」
レオンが叫び、部隊が一斉に動く。次の瞬間、VOIDの激しい攻撃が始まった。
レオンはオルガを背後にかばいながら、銃に手を掛けようとした。
突然、オルガが叫んだ。
「銃を貸して!」
彼女はすかさずレオンのホルスターから銃を抜き取り、レオンの前に進み出た。
「やめろ!オルガ!」
彼女は目を閉じて、小さく息を吐いた。
その瞬間、深緑の光が全身を駆け巡ったかと思うと、胸部の装甲が開き、ナノアーマーがみるみる変形していった。
「なんだ、これは?」
レオンは息を飲んだ。
途端にVOIDの攻撃がオルガに集中する。
オルガは軽やかな身のこなしでその攻撃を回避しつつ、的確な射撃を繰り返していく。
彼女のナノアーマーは、オルガの動作に連動し、最適な防御シールドを展開、敵の攻撃を次々と跳ね返していった。
「完璧な戦闘マシーン!」
人間の反応速度を遥かに超えた動き。
通常の戦闘員では不可能な判断速度。
それでいて、その戦い方には単なるプログラムの反復では説明できない柔軟さがあった。
「そこは危ない!・・・奥まで退避して!・・・」
オルガは敵を撃破しながらも、施設の崩落を予測し、レオンを危険区域から安全地帯まで引き戻した。
自分が逃げるためではない。
彼を助けるために。
その瞬間、施設の一部が崩落し、部隊とVOIDの間を分断する形となった。
VOIDはそれ以上追撃してはこなかった。
「弾はあと12発!・・・弾倉の残りは?・・・」
オルガは弾倉を覗きこみながらレオンに尋ねた。
オルガのナノアーマーは、すでに元の状態に戻っていた。
「君は過去に戦闘経験があるのか?」
「わからない・・・でも自然と体が動いた!・・・」
レオンは、目の前の少女が自分の能力を完全には把握していないことを悟った。
彼女は強力な戦闘兵器なのか。
それとも、戦闘兵器という分類そのものが間違っているのか。
答えは見つからなかった。




