第十四章 オリジン・ゲートへの道
1 エネルギーの源泉
3人は、十分な睡眠をとった後、テーブルを囲んで食事をしていた。
「ところで君たちは、人間と同じように食事してるけど、エネルギー源はどうなってるんだ?」
レオンは日頃気になっていた質問を投げかけた。
「そうね、それ知りたいよね、・・・」
「私たちは、人間社会に適応して生きて行ける様に、通常の有機物からアミノ酸を抽出し、人工筋肉のエネルギー源として使ってる。それに加えて、体内には『ACER CORE』と呼ばれる小型高密度アークリアクターを搭載していて、全てのシステムの電力供給を賄っているの!」
イリスは胸元のエネルギー・インジケーターを指差しながらレオンに説明した。
「さらに言うと、私とイリスの『ACER CORE』は、種類が異なるの、私のCOREは、『VOLTUS CORE』と呼ばれる高出力・高負荷対応の戦闘用リアクターで、イリスのCOREは『LUMEN CORE』と呼ばれる高持続力・広帯域の並列処理に特化したリアクターなの!」
オルガが付け加えた。
「それともう一つ、私のスーツには、『 (APES)ーArtificial Photosynthetic Energy Systemー人工光合成エネルギー集約機構』と呼ばれるサブシステムが埋め込まれている。光電荷変換層と化学エネルギー変換層の二層構造で効率的に電力を蓄積して、『VOLTUS CORE』を陰で支えているの。」
「へー、それで、オルガのスーツは緑色が多いんだ。私も知らなかったわ!」
イリスが、オルガのスーツを撫でなら、しみじみと語った。
「なるほど・・・君たちは、科学の粋を詰め込んだ、スーパーアンドロイドなんだね!」
オルガはレオンのその言葉に、若干眉をひそめながら、こう言った。
「何か、そういう風に言われるの好きじゃないわ!・・・今まで通り、私たちを普通の人間と同じように見てちょうだい!」
「そうだね、失敬、我々は同じ志を持った同志、それ以上、それ以下でもない!」
レオンは、頭を掻きながら謝罪した。
「そう、私たちは『同志』、それでいいわ!」
3人は、手を取りあって思いを確認した。
2 海王星域までの道筋
「ところで、これからどうする?」
おもむろに、レオン・スティーラー少佐が言った。
イリスは太陽系の立体航路図をスクリーンに表示した。
地球圏から火星へ、火星から木星・土星の軌道域を経て海王星へ。
その航路には、複数の交通拠点が表示されていた。
火星近傍と海王星近傍に設置された巨大な星間ワープ・ゲート。
人類が遠距離宇宙航行を実現するために建設した、恒星間航行技術の実用化へとつながる交通インフラである。
「火星近傍のワープ・ゲートを経由し、外縁航路へ入ります。通常の推進航行だけで海王星へ向かえば、数か月かかりますが、ワープ・ゲートを利用すれば大幅に短縮できます。」
「既存の交通網を使うわけか。」
「はい。ただし、問題があります。」
イリスは航路図を拡大した。
火星近傍のワープ・ゲートには、地球圏と外惑星域を結ぶ複数の航路が集中している。その運用管理にはNOUSISの交通管制システムが深く関与していた。
「現在のワープ・ゲートは、航行船の位置情報、船籍、航路予約、エネルギー使用量を統合管理しています。私たちが正規の航路を利用すれば、NOUSISに目的地を知られる可能性が高い。」
「なら、ゲートを使わずに進む方法は?」
「火星軌道域までは自力で航行できます。しかし、その先は距離と時間の問題があります。通常航行で海王星へ向かうのは、現在の船の性能では現実的ではありません。」
レオンは腕を組んだ。
「つまり、交易交通網を利用しなければ目的地にたどり着けない。しかし、利用しようとすれば拘束される。」
「そういうことです。」
オルガは、二人の会話を黙って聞いていた。
彼女の胸部装甲の奥では、緑色のコアが静かに明滅している。
彼女たちが向かう先には、ORIGIN計画の中枢施設、オリジン・ゲートがある。
そこには、人類の未来を左右する情報と、第三の継承者シーヴァ・ユニポーラーが眠っている。
そして、その場所をNOUSISが決して自由にさせるはずはなかった。
3 火星域に浮かぶワープ・ゲート
月を離れてから24時間後。
宇宙船は地球圏を離れ、火星軌道域へ向かっていた。
窓の外には、遠くに火星の赤い姿が見えている。
その軌道上には、人類の宇宙交通を支える巨大な構造物が浮かんでいる。
火星宙域星間ワープ・ゲート。
地球圏と外惑星域を結ぶ、太陽系最大級の交通拠点である。
巨大なリング状の構造体を中心に、管制施設、船舶ドック、エネルギー供給設備、貨物ターミナルが配置されている。
リングの内部には、人工的に生成されたワープホールが安定して維持されていた。
人類は、もはや惑星間航行に何か月も費やす必要はなかった。
ワープ・ゲートを通過すれば、通常なら数か月かかる距離を、短時間で移動できる。
それは、宇宙を人類の日常生活圏へと変えた革新技術だった。
しかし、その便利さには代償もあった。
ゲートの運用には、膨大なエネルギーと精密な制御が必要となる。そのため、航行予約、船籍認証、交通管制、ワープホールの安定化は、NOUSISの統合管理システムによって効率的に運用されていた。
「火星ゲートの管制システムに接続します。」
イリスが通信端末を操作した。
「正規航路を利用するなら、事前に承認された認証コードをゲート側に送信する必要があります。ただし、今から新規に認証コードを要請した場合、NOUSISに私たちの所在を暴露してしまうことになります。」
「正規の認証を使わずに通過できないのか?」
レオンが尋ねた。
「不可能です。無許可の船舶が進入しようとすれば、入口の手前で拘束されることになります。」
「つまり、認証がないとゲートは通過できないのか・・・」
「はい。ですが、ORIGIN計画時代の保守用アクセスコードが管制システムに残っていれば、限定的な認証許可が下りるかもしれません」
イリスはデータプレートを端末に接続した。
画面に古いORIGIN計画の紋章が表示される。
LEGACY INFRASTRUCTURE ACCESS
「このアクセスコードは、かつてORIGIN計画の研究調査船がワープ・ゲートを利用する際に使われていたものと思われます。現在の交通管制システムにレガシーコードとして適合していれば、認証できる可能性があります」
「やってみる価値はあるな!」
レオンが言った。
宇宙船は、ワープ・ゲートの管制宙域へ進入した。
ゲート周辺では、貨物船や旅客船が整然と航行していた。大型輸送船が次々とリングへ進み、光の中へ消えていく。
遠くでは、ワープホールを通過した船が別の航路から現れ、再び通常空間へと進んでいた。
それは、日常的な光景だった。
宇宙航行は、もはや一部の探検家や軍人だけのものではない。
人々は仕事のために惑星間を移動し、物資はゲートを通じて運ばれ、都市は遠く離れた惑星同士を結ぶ交通網によって支えられている。
その巨大なシステムの中に、三人は一隻の小型船として入り込んだ。
「管制システムから認証要求が来ました。」
イリスが報告した。
「船籍、航路、目的地の送信を求めています。」
「拒否すれば?」
「即座に進入禁止となり、警備システムが起動するでしょう。」
レオンは短く息を吐いた。
「その時は、さっさと逃げるだけさ!」
「待ってください!」
イリスが画面を拡大した。
「保守用アクセスが反応しています。旧式の認証規格が、現在のシステムにまだ残っている」
彼女は認証コードを入力した。
数秒後、画面の表示が変わった。
ORIGIN LEGACY — ACCESS ACCEPTED
イリスが目を見開いた。
「認証されました……。ただし、取得できたのは限定的な通過権限だけです。管制システムは、この船を旧式研究調査船として認識しています。」
「どのくらい時間がある?」
「数分です。現在のデータベースと照合が完了すれば、認証の不整合が検出されます。」
レオンは操縦席に身を乗り出した。
「十分だ。急いで、進入するぞ!」
宇宙船は、リングの中心へ向かった。
リングの内部では、青白い光が渦を巻いている。
それは、人工的に維持されたワープホールだった。
光の向こう側には、火星近傍とは異なる空間が広がっている。
海王星近傍のワープ・ゲートへ続く、遠距離航路。
「航法座標、同期完了!」
イリスが告げた。
「ワープホール安定、システム正常。通過可能です」
「全員、着席、シート固定、衝撃に備えよ!」
レオンが叫んだ。
宇宙船は加速し、リングの中心へと進んだ。
青い光が船体を包み込む。
その瞬間、宇宙船は通常空間から切り離され、人工ワープホールの内部へと入った。
星々が光の筋となって流れていく。
船体の外側では、空間そのものが折り畳まれるように変化していた。
それは、自然発生した異常現象ではない。
人類が何十年にもわたる研究と技術開発の末に実用化した、制御された空間航行だった。
やがて、前方に光が見えた。
宇宙船はワープホールを抜け、海王星近傍の航行宙域へと到達した。
「通過成功!」
イリスが報告した。
「火星宙圏ワープ・ゲートから海王星宙圏ワープ・ゲートへの移動、完了です。」
レオンは窓の外を見つめた。
海王星の青い姿が、遠くに浮かんでいた。
「これが、今の人類の力か……」
「ええ。人類は、宇宙を渡る手段を手に入れた!」
イリスは静かに答えた。
「でも、どこへ向かうべきなのか。その答えまでは、技術では決められない。」
オルガは、前方に広がる宇宙を見つめていた。
「だからこそ、私たちが選ぶのですね!」
イリスの決意の言葉だった。




