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第八章 アレクサンダーの遺産

1. 消された研究記録

 オルガとイリスはNOUSISの管理下に置かれたが、UEA本部の管轄エリア内であれば、行動の自由は保障された。当然レオンの護衛・監視付きである。

レオンは、火星からの帰路、データ消去命令が例の研究施設から発信されていたことが気になっていた。


「なぜ、あの時、あの場所から、信号が発信されたのか?」


レオンは、再度あの施設を探る必要性を感じていた。

それに、イリスをあの場所へ連れて行けば、何か新たな手掛りが見つかるかも知れない。

レオンはメンデ将軍の承認を得て、オルガとイリスとともに再度旧研究施設の調査に向かった。


研究施設は、VOIDの襲撃によってかなりの被害を受けていた。

ただ、以前の戦闘で壁面が崩落した際、地下深くに設けられたデータセンターの管理区域は無事だった。

レオン達一行は、VOIDの襲撃に備えつつ、慎重にデータセンターへの経路を辿っていった。

ここかしこに切断されたケーブルや瓦礫が散乱し、行手を阻んでいた。

何とか給電は確保されており、非常灯は点灯していた。

レオンは、生きている非常経路を一つ一つ崩落の危険が無いか確認しながら、慎重に歩を進めていった。

3人は、やっとの思いでコントロールセンターの管理室に辿り着いた。

室内に入ると、前面には、各種情報表示用のスクリーンが三面、サイドには館内状況表示用のステータス・ボードが設置された。薄暗いフロアには、一面、データファイルや書類等が散乱していた。


「イリス、何か思い出した?」


「・・・いや・・・何も・・・」


レオンはデスクに置かれた端末から、事前に調べていた手順に沿って管理システムの起動を試みた。

しかし、器材の反応はない。


「オルガ、何か覚えてることはないか?」


オルガは目を閉じて、静かに過去の記憶を辿った。


「何かボンヤリとだけど、誰かにギュッと抱きしめられた記憶がある・・・それが誰かはわからないけど・・・。」


イリスは、その言葉を聞くと、そっとオルガに寄り添い、優しく彼女を抱きしめた。


「こんな風に?」


その瞬間、緑色の光のベールが二人を包み込み、管内の予備電源が復旧、一斉に器材が稼働し始めた。


「通信回路遮断、ネッワーク・オフ、すべての通信機器を停止せよ。」


緊急アラートとともに館内放送が流れた。


そして、彼らの目の前に、ある男性のホログラムが徐々に姿を現した。


白髪、初老の研究者と思しきその男性は、静かに語り始めた。


「オルガ、・・・私は、ガミー・アレクサンダー、君の設計者であり、オリジン・プロジェクトの統括責任者だ。」


その瞬間、オルガの記憶が走馬灯のように次々と蘇り、彼の存在をハッキリと浮かび上がらせた。


挿絵(By みてみん)


「・・・お父さん!・・・」


オルガは小さく呟くと、瞳から涙が溢れた。


「君がこの映像を見ているということは、側にイリスがいるんだね。」


オルガとイリスは顔を見合わせた。


「なぜ私のことも・・・?」


映像は続いた。


「君たちがここに辿りついたということは、計画は私の手を離れたのだろう。」


「しかし、私が残したものが、全て正しい答えだとは思わないでほしい。」


「人類の意志と記憶を受け継ぐことと、人類の生存を永遠に守り続けることは、同じではない。」


「君たちは、大いなる人類の意志を受け継ぐ「継承者」、そしてもう一人の継承者とともに、我々が選べなかった答えを選ぶ自由がある。」


「ORIGIN GATEへ向かえ、そこに全ての答えがある。」


映像はここで途切れた。


映像が切れた後、3人は何も語らず、そこに立ち尽くした。


「オリジンプロジェクトとは何なんだ?・・・そしてオリジンゲートとは何処にあるんだ?」

レオンはおもむろに口を開いた。


「何か思い出したことは?・・・オルガ・・・?」


オルガは答えなかった。


レオンは察した。


「今は答えなくていい・・・その気になったらその時に・・・」


レオンは、電源が復旧したシステムの端末から、データアーカイブへのアクセスを試みた。しかし、彼の軍用認証コードではアクセスが拒否されてしまった。


「オルガ、君の認証コードで試して見よう!」


オルガが手首にセットされた認証ユニットを端末にかざすと、前面のスクリーンにオルガの認証データが表示され、システムへの音声入力が有効となった。


*アクセス承認*

正式名称: オルガ・アーマノイド ORGA ARMANOID

開発計画: ORGIN PROJECT

コードネーム「VOLTUS-00」

開発責任者: ガミー・アレクサンダー

開発目的: 人類の自由意志の継承

能力・機能: 高速機動、高火力・精密射撃、戦術アーマメント、戦術偵察、ステルス戦闘


「やはり君がキーだったのか・・・」


レオンは端末に問うた。

「ガミー・アレクサンダーに関するデータを表示。」


その質問に対し、スクリーンに表示されたのは、以下の情報だった。


•氏名: ガミー・アレクサンダー(Gummy Alexander)

•専門分野: 電子・エネルギー・精密機械工学、量子力学、AI・コンピューター制御

•研究対象: 自律型AI、人工人格、継承知性、AI倫理、ハブリッド・アンドロイド研究

•役職: ORIGIN PROJECT統括責任者

•家族: 妻はキーラ・アレクサンダー博士。娘はオルガ・アレクサンダー(死亡16歳)

•主要な成果: オルガ・アーマノイド、イリス・コスモノード、シーヴァ・ユニポーラーの開発


「娘の名前はオルガ・・・」


「そうだったのか・・・」


オルガは小さく頷いた、そして蘇った記憶を静かに語り始めた。


「私たちの開発を主導したのは、アレクサンダー夫妻。」

「私は若くして亡くなったふたりの一人娘、オルガの性格や記憶をコアとして開発された人工人格、イリス、シーヴァと共に大いなる人類意志の継承者として設計・開発されたハイブリッド・アンドロイド。」


オルガは続けた。


「オリジンプロジェクトとは、将来、人類が生存を維持できない危機に直面しても、人類の知識、文化等貴重な遺産を未来に継承するため、あらゆる危機に対応できる知性と教養、強靭かつ強力な再生能力を有する身体、自由と寛容、創造性豊かな人格を備えた次世代の新人類を生み出す極秘プロジェクト・・・。」


「オリジン・ゲートは、オリジン・プロジェクトを推進する最終拠点、すべての研究成果はそこに眠っている。それがどこにあるか?・・・私の記憶には存在しない。」


「そういうことか・・・オリジン・ゲートが秘密の研究拠点というわけだな!」


「ところで、シーヴァというのが第三の継承者というわけか?」


「そう・・・でも何処に居るかは分からない。」


「でも、なぜ君はこの施設に封印されていたのか?」


「それも、分からない・・・その辺りの記憶も残っていない。」


「ところで、VOIDが君たちを継承者と認識したのは何故なんだ?」


「オリジンプロジェクトとVOIDとの間に何らかの関係があるのか?」


「それも、分からない・・・」


「イリス、あなたの認証コードでアクセスしてみて・・・新たな情報が得られるかも知れない。」


イリスもオルガと同じように手首の認証ユニットを端末にかざした。

するとスクリーンには次のような表示が現れた。


*アクセス承認*

正式名称: イリス・コスモノード IRIS COSMONODE

開発計画: ORGIN PROJECT

コードネーム「LUMEN-01」

開発責任者: キーラ・アレクサンダー博士

開発目的: 人類の記憶、歴史、知識の検証及び継承

能力・機能: ネットハッキング、暗号解析、情報操作、戦術支援、データベース構築、データ復元・照合・検証


最後の表示が現れた瞬間、イリスの身体を白い光が包み込んだ。


「セーフモード解除、機能解放、エクスキュート!」


イリスが呪文のようにそう叫ぶと、室内一面にネットワークの各ノードとWEBストラクチャーが色分けされたマッピングデータとしてホログラム表示された。それにより、この室内には、WIFI、Bluetooth、無線通話回線等、九つのネットワークが存在する事が一目で分かった。


「それが、イリスの機能なの?」


「それだけじゃないわ、私はあらゆるネットにアクセスし、電子信号を操る特殊な能力を付与されている。」


「イリス、あなたも記憶が戻ったの?」


「VOIDとオリジンプロジェクトとの関係は?」


「それについては、私もわからない。」


「今のところ、全体像は見えないけど、ネットを巡って、一つ一つその鍵を見つけて行けば何か分かるかも知れない。」


「ところで、ORIGIN GATEはどこにあるの?」


「イリスなら分かるんじゃない?」


「いや、それも分からない。でも、私のデータベースにパズルのピースとしては残っているかも知れない・・・」


「じゃ、あなたの能力でその記憶を復活させて!」


「分かった、わたし、ジグソー・パズルを解くの好きだから!」


二人は顔を見合わせて、笑顔で相互に頷いた。


徐々に明らかになるオリジンプロジェクトの全貌


その鍵を握る3体のハイブリッド・アンドロイドの存在


そしてオリジン・ゲートがその全てを明らかにする終着点


人類の将来を大きく左右する運命の戦いが今はじまろうとしていた。


挿絵(By みてみん)

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