第四章 第2継承者
1. 火星の封印施設 — 新たな手掛り
火星の研究施設は、長い年月にわたって放棄されていた。
地表には砂嵐の痕跡が刻まれ、施設の外部構造は崩壊寸前の部分が目立っていた。
何とか内部に侵入すると、大半は停電していたが、最深部へ向かうにつれ、徐々に補助電源が復旧し、非常灯が内部を照らし始めた。
施設は、典型的な研究施設の仕様で、巨大な記憶装置が整然と並び、データ・ファイルがそこかしこに散乱していた。
更に進むと、施設の最深部には、厳重な隔離区画があった。
扉には、現在のUEAやNOUSISの標準規格とは異なる認証装置が取り付けられている。
オルガが接近すると、装置は彼女の身体から発せられる認証信号に反応し、封鎖を解除した。
その事実に気づく間もなく、彼女は区画の中央に置かれた生命維持カプセルを発見する。
中には、一人の少女が静かに眠っていた。
白銀のロングヘア、純白のナノアーマー、人間に酷似した身体構造。しかし、外装には精密な機械構造と多種多様なセンサーと思しき機構が組み込まれていた。
カプセルの表面には、かすかに読み取れる文字列が浮かんでいる。
***IRIS COSMONODE***
オルガが文字列を読み取ると、カプセルの生命維持装置が起動し始めた。
「未登録の人工生命体!・・・休眠状態だ」
「識別コードは?」
「イリス・コスモノード」
レオンは、UEAのデータアーカイブを検索したが、その識別コードは存在しなかった。
「その名前は、UEAの現行データベースに存在しない。いや、正確には……関連する記録がすべて閲覧禁止になっている。」
「機密情報なの?・・・」
「・・・分からない。・・・少なくとも、通常の軍事機密とは扱いが違う。」
オルガはカプセルの少女をじっと見つめた。
彼女の胸部には、弱い光を放つ中枢装置が埋め込まれている。オルガが、顔を近づけると、一瞬、彼女の視界に未知の認証コードが現れた。
「LUMEN-01」
「これ何・・・?」
オルガには、その意味が分からない。
だが、彼女は直感した。この女性を起動すれば、何か分かるに違いない。
オルガは、操作パネルの表示に従い、休眠解除の手順を実行した。
そして、最後に、キーボードから先ほど表示された認証コードを入力した。
「L」「U」「M」「E」「N」「-」「0」「1」
オルガが入力し終わると、カプセル内部に光が走る。
その直後、彼女の指先が僅かに動き、固く閉じられていた瞼がゆっくりと開いた。
黄金色の瞳が、オルガを見つめる。
「……あなたは、誰?」
その声には、長い眠りから覚めた者の困惑があった。
「オルガ・アーマノイド。UEA特殊作戦部隊所属。あなたの名前は?」
少女は、しばらく沈黙していたが、一言だけ言葉を発した。
「イリス……コスモノード」
それが、彼女が確かに覚えていた唯一の情報だった。
2. 新たな継承者
イリスがカプセルから出た瞬間、けたたましい警報音とともに構内放送が流れた。
「侵入者を確認、施設内すべての研究データを消去せよ。」
「何なの・・・これ?」
オルガは銃を構えたまま、周囲を警戒した。
「あなたが指示したの?」
イリスは首を横に振る。
「分からない。何かが……私を認識したような感覚がある。でも、何を認識したのかは分からない。」
彼女自身にも、なぜこのような指示がなされたのか理解できていなかった。
レオンは、近くの端末から軍の認証コードを使って施設のデータベースへのアクセスを試みた。
認証ユニットを端末にかざすと、スクリーンにアクセス許可の表示が出た。
「何とか、認証出来たようだ!」
レオンは、施設の管理ステータスを確認した。
「すべての制御系が完全に作動しているわけじゃない!・・・外部との通信は維持されている・・・ただ、一部のデータアーカイブはアクセス禁止になっている。」
イリスは、自分の手をじっと見つめた。
「私は、何をされたの?・・・」
オルガは答えられなかった。
しかし、少なくとも一つだけ確かなことがあった。
イリスの起動は、私との接触と無関係ではない。
オルガは彼女に告げた。
「ここから出る。あなたが何者なのかは、外で調べよう。」
イリスは一瞬だけ迷い、それから頷いた。
二人が隔離区画を出た直後、警報音と共に新たな構内放送が流れた。
「未登録生命体を確認、緊急アラート発令、防護壁閉鎖!」
その瞬間、隔壁を破ってVOIDの一群がなだれ込んできた。
オルガとレオンは、すかさずイリスを背後に隠し、VOIDの攻撃に備えた。
しかし、VOIDはすぐには攻撃してこなかった。
そして何やら、オルガとイリスを注意深く観察しているようだった。
「・・・第1、第2継承者、確認!」
VOIDの一個体がそう言い残すと、一斉にすべての群体が黒い粒子と化し、地面へ崩れ落ちた。
「私の時と同じね・・・」
「あなたが第2継承者?・・・」
「・・・分からない」
レオンは二人を交互に見つめながら、彼女たちには何か深いつながりがあることを確信した。




