212.独日対峙
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
双方の最初の本格的な砲火交換が終わった後、ロッテルダム沖はもう海じゃなくなった。
二つの時代が交互に砲槌で叩き続けた鋼板に近い。
波はある、風もある、港の背後に広がる炎もある。だがそれらは全て第二層に退いた。今この夜を支配しているのは自然じゃない——火線だ。航路じゃない——砲道だ。港湾規則じゃない——どちらが先に相手の骨を折れるかだ。
飛龍の甲板が足元で恐ろしいほど安定している。
不快なほどに。
この「安定」の正体を俺は知っている。艦隊全体の重量が、左手の死神の指輪と飛龍のソウルリベットを通じて、この船に叩き込まれ、そこから外へ分散されているだけだ。飛龍が安定しているということは、俺がまだ倒れていないということ。飛龍が揺れ始めたら、それは波の問題じゃない——この臨時心臓が漏電し始めたということだ。
遠方でまた火線が走る。
シュペー海軍上将号が先に撃ち、アドミラル・シェーア海軍上将号が後から補う。この二隻は汚れ仕事専門の老獪な盗賊コンビのようだ——一方が正面を掴み、もう一方が脇腹を切る。砲光が走った瞬間、ロッテルダム港の外縁でまた一区画が吹き飛んだ。辛うじて持ちこたえていた輸送用鋼橋が一面丸ごと崩れ落ち、炎が管路に沿って走る。真っ赤に焼けた鉄線を港の血管に刺し込んだようだ。
その炎を見ながら、口の中に血の味が滲んだ。
感動したからじゃない。さっきの供給反動がまだ完全に引いていないだけだ。
「向こうは港だけじゃなく、こっちの正面も試し始めた」俺は言った。
山口多聞は右前方に立ち、視線一つ動かさない。
「見えている」
「お前の返し方、痛み止めを絶対に出さない軍医みたいだな」
「痛み止めで敵艦は消えない」
「世界の最悪さを最も科学的な方法で思い知らせてくれてありがとう」
榛名と霧島がすでに第二線まで前進していた。
最初の交火では、まだ角度と距離を測りながら、編隊全体をウォームアップから本格戦闘に移行させる段階だった。今は違う。今は前に出て、受け止める側だ。その前進に熱さはない、冷たさだけがある。戦艦と駆逐艦は違う。駆逐艦は速さで、噛みつきで、回り込みで、相手をテーブルをひっくり返したくなるほど苛立たせる。戦艦はそうじゃない。戦艦が前に出るというのは、「来い、ここを撃て、どちらが先に折れるか見てやる」という宣言だ。
榛名が一斉射を放った。
その瞬間、胸の内側を大槌で殴られたような衝撃が走った。榛名との間に何かロマンチックな共鳴があるからじゃない——この供給機構がそもそも理不尽な構造だからだ。あいつが力を出せば俺が圧力を受ける。あいつが撃てば俺が殴られる。あいつが退かなければ、俺は先に痛いと叫ぶ資格がない。
数秒後、シュペー海軍上将号の前方左寄りで大きな白波が上がった。
船体への直撃はなかったが、修正を強いるには十分だった。
霧島が次の一斉射を即座に重ねる。落弾点がさらに嫌らしい——相手を完全に仕留めるためではなく、姿勢を崩させるための一撃だ。シュペー側の反応は早く、ほとんど間を置かずに角度を修正してくる。アドミラル・シェーアはそのリズムの乱れを突いて側面から噛み付き、数本の火線が海面を掠めて前方海域に迫る。菊月、夕月、卯月が即座に波の縁へと位置を変えた。
この一進一退を見ていると、胃の不快感がじわじわと増していく。
怖いからじゃない。
うんざりしているからだ。
この撃ち合いの様子が全てを物語っている——向こうは死んで時間が経ったから無茶ができる安っぽい霊異玩具じゃない。考え、受け止め、連携する艦隊論理を持った存在だ。
つまり向こうは怪談じゃない。職業軍人だ。
死んでいる方の。
空では第一波の艦載機影が完全に展開していた。
飛龍、蒼龍、瑞鶴、翔鶴の甲板残影が炎の中で明滅する。整備、滑走、発艦、上昇——一目で「観客向けじゃない」と分かる流れだ。ロマンチックなスローモーションも、音楽も何もない。戦争機械が自分を作業現場に再接続する、ただそれだけの冷淡な効率がある。機影の縁は焦げているものもあり、機体が海霧に磨り減ったように見えるものもある。だが甲板を離れた瞬間から、それらはやはり飛行機だ——誰かの頭上に悪い知らせを届けに行く、飛行機だ。
ドイツ側の空にも何かが上がり始めた。
整った戦闘機の輪郭じゃない。鉄の殻と焦げ跡と死の気配を無理やり組み合わせた飛行物体だ。機種は判別できない。ただ、あれらは飛んでいるというより、夜の中の見えない黒い手に前方へ投げ飛ばされているように見える。上昇の仕方が気持ち悪い——甲板から離れるのではなく、空気の中から自分で生えてくるようで、徐々に形を成し、最後には本当に噛みつける存在になる。
「ドイツ側にも艦載機の反応がある」俺は言った。
「見えている」山口が言う。
「今日のお前、俺と留守番電話どっちが無愛想か競ってるのか?」
「まだ文句が言えるなら、判断力を失っていない証拠だ」
「その励まし方、溺れてる俺に向かって『まだ完全に沈んでない、いいぞ』と言うタイプだな」
山口多聞は今回、返さなかった。
海が変わったからだ。
波でも風でもない。もっと深いところが変わった。
最初に感じたのは温度だ。
冷たさ。
北海の夜風の冷たさでも、海水に浸かった鋼板の冷たさでもない。この外海の底に、より古く、より深く、より重い何かが積み重なっていて、今それが闇の中からゆっくり自分をひっくり返してきているような冷たさだ。まだ完全には姿を現していない、輪郭すら定かではない。だが海の方が先にそれへの反応を示している。
波頭が低くなり始め、海面のいくつかの場所に不自然な黒い帯が現れる。見えない船体が水中を推進しているようだ。炎が海面に映す反光も変わった——もともとは砕けた光だったのが、より大きな影に押し潰されて、べたりとした板状になっている。
左手の指輪が急激に熱を帯びた。
今度は熱さじゃない。刺さる感覚だ。
焼けた細い釘を一本一本、骨の中に打ち込まれているような。
俺はその場で腰を折り、艦橋の縁を死ぬ気で掴んだ。
「クソッ——」
あまりにも急だった。前の瞬間までシュペーとアドミラル・シェーアの二匹が火線を噛み合わせているのを見ていたのに、次の瞬間には胸の内側を誰かに抉り開けられたような衝撃が走った。
山口が振り返り、ようやく正面から俺を見た。
「どんな感じだ?」
「一隻丸ごと肺の中に詰め込まれて、ついでに火をつけられた感じだ」俺は歯を食いしばって言う。「これ以上詳しく聞くなら、海軍の伝統の上に直接吐くことになるぞ」
「俺たちじゃない」彼は言った。
「何?」
山口多聞は海を見る。
「こっち側の反応じゃない」
俺は顔を上げ、彼の視線を追った。
より深い海面に、極めて幅広く、極めてゆっくりとした黒い帯が形成されつつある。
すでに上部構造と明確な火力点を露わにしているシュペー海軍上将号の艦影とも、前端で汚れ仕事を担う猟犬のように動くアドミラル・シェーア海軍上将号とも違う。まだ完全な形を持っていない。だがそれが持ち込む圧力は、前の二隻を合わせたより重く、海が先にそれを知って頭を垂れているようだ。
俺は息を吸い込んだ。肺に入ったのは油煙と火薬と潮の匂いだけだ。
「後ろのあれが……始まったのか?」
「ああ」山口の声がさらに低くなった。「反応が形を成し始めている」
「海軍って、名前を言う前にまず脅かすのが好きなのか?」
彼は二秒、沈黙した。
「ビスマルクだ」
俺はすぐには返さなかった。
この名前は他の名前と違う。
シュペー、アドミラル・シェーア——あれらはドイツ海軍の刃だ、猟犬だ、先に伸ばしてくる牙だ。ビスマルクは違う。ビスマルクは別の層にいる。火力が大きいというだけじゃない。この名前そのものが、一種の不快な重さを持っている。帝国の海上の誇りと暴力を一隻の船に鋳込んで、それを引きずり出してきて告げているようだ——悪いが、俺はまだ完全には死んでいない、と。
胃がさらに冷えた。
「今夜が港の幽霊払いで終わるわけがないと思っていた」
「最初からそうじゃなかった」山口が言う。
「今それを言うのは、刺された人間に向かって『出血は正常だ』と言うのと同じだぞ」
「正常じゃないのか?」
「お前、部下を言葉で追い詰めることで指揮効率を維持してるんじゃないかと本気で疑い始めた」
前方の火線がまたぶつかってくる。
今度はシュペーとアドミラル・シェーアだけじゃない。後方で輪郭が曖昧だったドイツ艦の影たちも、より完全な形を見せ始めた。名前はまだ判別できない。だが火力の層は明確で、もはや前衛の装甲艦二隻だけが出せる圧力じゃない。ドイツ側の砲火が一層一層積み上がっていく。前端で試し、後方の重い火線で海域を圧縮し、こちらの編隊全体を少しずつ外へ引きずり出そうとしている。
そう、引きずり出す。
最初は交火の中で自然に生じた位置のずれだと思っていた。だが振り返ってロッテルダム港区を見た瞬間、分かった。
港はまだ燃えている。炎は高く、街の灯りと災厄の火が混ざって汚いオレンジ色を作っている。だが距離が違う。
俺たちは、港から遠ざかっていた。
飛龍が外へ出すぎたわけじゃない。主戦面全体が、向こうの一層一層の押しによって深水帯へと引き込まれているのだ。向こうは港の内圏に急いで押し込もうとするのではなく、むしろ意図的に外海で場を広げ、ロッテルダムを後方に退かせ、この戦場を港外から真の深海交戦域へと変えようとしている。
その距離の差を見た瞬間、背中に冷たい汗が滲んだ。
「向こうは俺たちを引きずり出している」
山口が頷く。
「ああ」
「偶然じゃなく、意図的に」
「そうだ」
「クソが」俺は一言罵り、続けた。「戦場の位置まで計算に入れてくる相手が一番うんざりする。最高に気持ち悪い」
「それはあいつらが騒ぎを起こしに来たのではなく、戦争をしに来たということだ」
「たまには事態がそこまで悪くないと思えるような言い方をしてくれないか?」
「できない」
俺は彼を睨んだ。
「お前、本当にカウンセリングには向かない」
「俺は最初からそうじゃない」
「じゃあ、お前に一番向いてるのは何だ?」
彼は一秒も考えなかった。
「海戦指揮だ」
俺は一瞬、罵倒する言葉が見つからなかった。
あまりにも正論すぎて。
前方では、榛名が最も重い圧力の一斉射を受け止めた。艦影が海上で明らかに震える——崩れる兆候ではなく、砲撃を真正面から食らい、全構造が踏ん張っている証拠だ。霧島が即座に前へ補い、斜めに圧をかけながら、榛名の脇腹から強烈な一撃を叩き返す。菊月、夕月、卯月の三振りの細刃は一瞬も休まない。波間で素早く角度を変え、前に切り込むかと思えば側面を引き裂こうとし、シュペー《アドミラル・グラフ・シュペー》陣営の前衛艦が最も快適に撃てる射撃窓を徹底的に掻き乱していく。
その時、扶桑がより深い位置から一斉射を補った。
その反動で、俺の視界が真っ暗になった。
誇張じゃない。生理的な現象だ。耳元で鐘が鳴り響き、胸に熱い鉄塊をねじ込まれたような感覚。俺は半歩よろめき、喉の奥で甘い味が弾け、口の端から血が滲んだ。
山口が俺を一瞥する。
「まだいけるか?」
「お前の言う『いける』が、甲板に干物みたいに転がってないって意味なら——ああ、まだいける」
「よし」
「もう一度『よし』って言ったら噛みつくぞ」
「今のお前じゃ届かない」
「その返し、本気で殴りたくなる」
笑えることに、悪態をつき続けることには確かに効果がある。痛み止めにはならないが、痛みに丸ごと飲み込まれるのを防いでくれる。少なくとも自分の一部を保てる——ただの配電盤じゃなく、過負荷のついでに世界を罵倒する権利を持った生きた人間だということを。
遠方の空で、第一波の艦載機が激突した。
美しいドッグファイトなんかじゃない。本来もう現れるはずのない二つの戦争の残響が、ロッテルダム沖の上空で凄惨に叩き合っている。機影、火点、煙の軌跡、失速する残光、死の気配を纏った黒い痕跡が夜空を幾重にも切り裂く。日本側の機影が突っ込んだかと思えば、次の瞬間には死臭を漂わせたドイツ側の機体が横合いから飛びかかる。二つが空中で絡み合って炎の塊となり、海へ落ちてもまともな水柱一つ立てず、ただ黒い輪がすぐに呑み込まれるだけだ。
これは空戦じゃない。
空そのものが霊界に引きずり込まれ、史書の中で眠っているはずの連中が、もう一度互いを殺し合っているだけだ。
「お前たちはいつもこうだったのか?」その空を見上げながら俺は聞いた。
「どういう意味だ?」
「一度死んだのに、また出勤させられる」
山口は今回、少し長く沈黙した。
「誰もが、その運に恵まれるわけじゃない」
「それを運って呼ぶのか?」
「生き残って結末を見た者に、死んだ者を定義する資格はない」
俺は首を傾けて彼を見た。
「ようやく人間らしいことを言ったな」
「俺は最初から人間だ」
「技術的には、今のお前は高級海軍亡霊管理人に近い」
彼は俺を無視し、外海の深みで形を成しつつある黒い帯から目を離さなかった。
俺もそちらを見る。
ビスマルクの現れ方は、突然船が飛び出して悲鳴を上げさせるような安っぽい演出じゃない。
まず海をおかしくする。
風向きを変え、波頭を短くし、水面に不自然な黒を浮かばせ、炎の反光を歪ませる。それから圧力だ。砲火の圧力じゃない——「王が来た」とでも言うべき制海権の圧力。まだ姿も見えないのに、戦場全体がそのために道を空けているのが分かる。
この感覚が、最高にクソだ。
人間が一番恐れるのは怪物を見ることじゃない。怪物がまだこちらを見つける前に、環境そのものが怪物の代弁を始めることだ。
左手の指輪がまた疼いた。
さっきより深く。
もはや熱さでも刺すような痛みでもない——俺のものではない海上の記憶が、無理やり頭に流し込まれてくる。黒い水、砲声、巨艦、傾く甲板、炎、誰かの叫び、何かが折れる音、何かが沈んでいく感触。断片的だが、一つ一つが重すぎて、息が詰まりそうになった。
「クソッ」
「何が見えた?」山口が即座に聞く。
「映像じゃない」俺は眉をひそめる。「どちらかというと……海での死に方だ」
山口多聞はすぐには答えなかった。
数秒後、口を開く。
「死神の指輪が、より深層の亡艦記憶を拾い始めた」
「俺がレベルアップしたってことか?」
「いや。この海域に引き上げられたものが、さっきより多く、かつ完全になってきているということだ」
俺は口元の血を拭い、思わず笑った。
「最高だな。今夜のプログラムが物足りないんじゃないかと心配してたところだ」
「ここからが本番だ」
「お前みたいな奴、現代に生きてたら全ての家族グループからブロックされてるぞ」
山口は答えなかった。
ドイツ側がまた一段前進したからだ。
今度は火力じゃなく、圧力線全体だ。シュペー《アドミラル・グラフ・シュペー》とシェーア《アドミラル・シェーア》は相変わらず前衛で噛みつく猟犬のように探りを入れ続け、その後方からより重い艦影が層を成して前へ押し出し、主戦面をどんどん厚くしていく。背後のロッテルダム港区は、もはや主役ではなく背景の炎へと退きつつある。これが一番気持ち悪い——最初は港を守っていたはずなのに、戦いが進むにつれ、港の方が戦場から取り残され、ただ燃え続ける都市の背景と化していく。
「林雨瞳が今振り返ったら、俺が海で煮込まれてると思うだろうな」
「彼女に振り返る暇はない」
「だろうな」
林雨瞳の名前を口にして、別れ際の彼女の顔が脳裏をよぎった。
冷たく、安定していて、手術前の切開許可証にサインする医者のような顔。彼女は俺が残るべきだと知っていたし、俺も彼女が行くべきだと知っていた。戦場において公平も不公平もない——どのラインが切れてはならないか、それだけだ。彼女が葉綺安、希、ヴィクトリア、レイチェル、エリザヴェータを連れてドイツへ向かったのは、ワイスマンの喉元を直接狙いに行くということだ。俺がここに残ったのは、彼女たちのためにこの一夜の時間を買い取るためだ。
結局のところ、俺たちは別々に戦っているわけじゃない。
違う場所で、同じクソみたいな世界に対して勘定を払っているだけだ。
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同じ頃、ロッテルダムからドイツ方面へ向かう高速道路で、林雨瞳はタブレットの道路網図を睨んでいた。
ヘッドライトが深夜の道路を切り裂き、両脇に並ぶ低い工業施設と暗くなったサービスエリアが後方へ流れていく。遠くの空の端には、ロッテルダム方向の炎が雲の底に汚い赤を映していた。
車内は静かだった。
緊張していないからじゃない。今ここで余計な一言を漏らせば、それぞれが辛うじて張り続けている線が切れてしまうと、全員が分かっているからだ。
ヴィクトリアは運転席で、ハンドルに釘付けにされたように手を安定させている。前方の車流とナビを確認する目は、ヨーロッパの深夜高速道路全体がリスクを分解すべき表計算シートであるかのようだ。
希は助手席の後ろで薬箱を確認している。指先は素早いが、いつもより少し力が入りすぎている——薬を整理しているのではなく、振り返って罵倒したい衝動をファスナーの中に詰め込んでいるような手つきだ。
葉綺安は銃を抱え、首を傾けて窓の外を見ている。半顔がインパネの冷たい光に照らされている。
レイチェルは中央に座り、資料フォルダを押さえながら時折後ろを振り返る。こんな時に振り返っても意味がないと分かっている——ロッテルダムは彼女が何度見ても燃え続けるし、海に残った男は彼女が心で何度祈っても砲弾を一発減らせるわけじゃない。だが若い人間はそういうものだ。心配を見えない場所に仕舞う術を、まだ完全には覚えていない。
エリザヴェータは全く影響を受けていないように静かに座っていた。外がヨーロッパの爆発現場ではなく、単に夜のハイウェイの景色が退屈なだけだというような、淡々とした表情で。
最初に口を開いたのは、やはり葉綺安だった。
「あいつが本当に海で死んだら、すごく腹が立つ」
林雨瞳は顔を上げなかった。
「彼はまだ死んでいない」
「分かってる」葉綺安は言う。「だから『もし』って話」
「もし死んだら、予定通りルールに入る」林雨瞳の口調は平坦だった。「ワイスマンの銃を解体して、後ろの扉を閉める。それから戻ってきて、彼の分まで精算する」
「不良債権の処理みたいな言い方やな」希が冷たく言う。
「違うの?」
車内が二秒だけ静まり返る。
ヴィクトリアが突然口を開いた。
「彼、あんたたちの今の口調は気に入らないと思う」
「なら生きて帰ってきて文句を言えばいい」林雨瞳は言った。
その一言が出た後、誰も続けなかった。
これが彼女の辞書で「心配」に最も近い表現だったからだ。
車速は落ちない。
前方のドイツ方面の標識が次々と通り過ぎていく。
彼女たちは振り返らなかった。
今振り返ることは、ワイスマンに時間をプレゼントするだけだから。
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飛龍の甲板で、俺はくしゃみをした。
風邪じゃない。どこか別の場所で誰かが俺の噂をして、ついでに不吉な心配を送りつけてきたような、理不尽な直感だ。
「どうした?」山口が聞く。
「なんでもない。たぶん誰かが陰で『あんまり惨めに死ぬなよ』って念を送ってくれてるんだろ」
「妥当な反応だ」
「俺の人間関係への評価、的確すぎるぞ」
海上がまた光った。
今度は扶桑と青葉がほぼ連続して撃ち、榛名と霧島が前端で圧力を受け止めてから猛烈に殴り返す。日本側編隊全体が、さっきまでの受け身から、ようやく相手と骨を削り合うリズムへと切り替わりつつある。優勢というわけじゃない。ただ一方的に殴られるだけの段階を抜けた。菊月、夕月、卯月が狂犬のように波の縁を走り回り、相手が快適に食らいつけない乱流の層を築く。筑摩と利根はより遠く、より深い視線を外へ伸ばし、冷たい二本の刃で海霧と黒影を一層一層剥いでいく。
だが見れば見るほど、胸の奥の不快感は重くなる。
希望が見えないからじゃない。
見えすぎているからだ。
向こうに乱れはない。
シュペー《アドミラル・グラフ・シュペー》とシェーア《アドミラル・シェーア》は前衛に過ぎないが、その背後から層を成して返ってくる重火力と圧力の応酬が、あまりにも理路整然としている。こちらの前端が僅かにリズムを押し返すたび、向こうのより深い層から新たな重量が即座に補われてくる。一発二発の乱射じゃない——作戦面全体が、じわじわと厚みを増している。
俺はその海を睨みつけながら、ふと口を開いた。
「山口、正直に答えろ」
「何をだ?」
「これは結局、ドイツ艦の残影が何隻か集まったものなのか? それとも別の何かか?」
山口多聞がようやく海面から視線を僅かに俺へ向けた。
炎に照らされた横顔は、もともと軍令状のような顔を、さらに生者の気配から遠ざけて見せた。
「単艦の残影じゃない」彼は言った。
「それくらい分かる。問題は、どの程度の規模かだ」
彼は少し沈黙した。
そして、今夜これまでで最も聞きたくなかった答えを返してきた。
「ドイッチュラント海軍亡霊序列だ」
俺はすぐには言葉を継げなかった。
この言葉の重さは、「ドイツ海軍」「幽霊船」「残影艦隊」といった表現よりも遥かに不快だ。適当に船を何隻か引き上げて怪談を演じているわけじゃない——序列化され、編成され、呼び覚まされた亡霊の作戦体系そのものだということだ。
序列というものには、階層があり、ノードがあり、主従があり、王がいる。
シュペーとシェーアはただの前衛だ。
その後方から上がってきているものこそが、この序列で本当に夜も眠れなくなる部分だ。
俺は冷たい風を吸い込み、胸の奥で暴れる罵倒の衝動を短い結論に圧縮した。
「ワイスマンは今回、火遊びじゃなくてちゃぶ台をひっくり返しに来たわけだな」
山口が頷く。
「そうだ」
「俺が一番嫌いな敵のタイプ、知ってるか?」
「どんなタイプだ?」
「世界観を丸ごと持ち込んで頭に叩きつけてくるタイプだ」俺は言った。「殴るなら殴ればいい。なのに帝国の残魂だの、海軍序列だの、深海反応だの、霊界海域だの、そういう押し売りを全部セットで持ってくる。作戦じゃない。悪質商法だ」
山口が珍しく、すぐには返さなかった。
ちょうどその時、海が本当に一寸沈んだからだ。
比喩じゃない。
本当にそういう感覚があった。
より深い海面一帯が、巨大で、緩慢で、重い何かに底から押し潰されたように変容した。その一帯の炎の反射が一斉に歪み、風向きも引っ張られて変わる。前端で噛みついていたシュペーとシェーアの二匹でさえ、命令も合図もなく、自然と左右に道を空けた。
命令じゃない。信号でもない。
親分が来る——そう察した子分が、本能で立ち位置を変える動きだ。
死神の指輪が、今度は熱さを通り越して肉を焼き貫くように食い込んできた。
「クソッ!」
手が震え、艦橋の縁を掴む音が金属を軋ませるほどだった。
より深く、より古く、より圧倒的な圧力が海から押し寄せてくる。砲火を通じてじゃない——この戦場そのものを通じて。まだ完全には姿を現していない巨艦が、その名前と存在だけで、海全体に姿勢を正させている。
脳裏にいくつかの断片が走った。黒い海、巨艦、砲火、傾斜、水、炎、国家そのものが海に沈んでいくような重さ。
山口の声が、耳骨に直接押し込まれるように響いた。
「深く見るな」
「今更言うのか」
「今ならまだ聞こえる」
「本当にありがたいことで」
俺は荒い息を整えながら、視線を少し手前に戻した。あの深海反応を凝視し続けるのは危険だ。怖気づいたわけじゃない——指輪が今やヒューズのない剥き出しの電線状態で、亡艦の記憶が完全な形で流れ込んできたら、ドイツ海軍に撃沈される前に自分の配線で焼け落ちる。
前方では、飛龍、蒼龍、瑞鶴、翔鶴の艦載機残影がすでに第二波のリズムに入っていた。
こちらの航空層は安定している。だがその代償として、胸の痛みも着実に上昇し続けている。榛名と霧島は相変わらず前端を支え、扶桑と青葉がより深く斜めの位置から補強を続け、駆逐艦群が外周でリズムを噛み続け、筑摩と利根が二本の神経のように、より深く遠い海況と敵情を容赦なく俺の中へ引き抜いてくる。
外海の主戦面が一寸一寸、外へ移動していく。
背後でロッテルダムが遠ざかる。
前方で深海が口を開ける。
俺はふと、長い絞首台の上に立っているような気分になった。前には帝国の亡霊艦隊、後ろには燃える現代の港湾都市——そして俺というこの縄だけは、切れることを許されない。
「今夜一番クソなのが何か、分かるか?」俺は言った。
「言え」
「俺が焼け焦げそうなことでも、ドイッチュラント海軍亡霊序列が展開してることでもない」前方でまだ形を成しつつある黒い帯を睨みながら、俺はゆっくりと言った。「この戦いが、本当に成立してしまっていることだ」
山口多聞はすぐには答えなかった。
艦隊指揮官にしか読めないリズムを測るように、静かに海を見つめていた。
少しして、淡々と口を開く。
「互角だからこそ、ここまで引きずり込まれる」
俺は笑った。
短く、冷たく、そして最高に不愉快に。
その一言が現実を釘付けにしたからだ——俺たちは港の掃討戦をやっているのでも、ロッテルダムから時代遅れのドイツ艦を追い払っているのでもない。互いに骨を砕き合える本物の艦隊戦で、しかも向こうの本当の重量は、まだ顔を出し始めたばかりだ。
遠海の深みで、黒い帯がようやくより明確な構造を持ち始めた。
全体じゃない。まだ縁だけだ。
だがその縁の一欠片だけで、十分に不快だった。
海が先に頭を垂れ、風が先に変わり、炎の反射が先に歪み、前衛艦が先に道を空け——それからようやく、その何かが闇の中からゆっくりと輪郭を押し出してくる。
俺はその一点を見つめ続けた。左手の指輪は焼けた枷のように熱く、口の中は血と海塩の味だ。
山口多聞が飛龍の艦橋前に立ち、その目に初めて、これまでより深い沈黙が宿った。
彼はその名前をもう一度口にしなかった。
必要がなかったからだ。
俺にも分かる。次に上がってくるのは、前衛の猟犬でも、噛みつく装甲艦でも、戦場を深海へ引きずる中層圧力でもない。
本体が、現れようとしている。
喉が渇く。だが視線は動かせない。
ロッテルダム沖の鋼鉄霊界全体が、この瞬間にさらに深く、暗く、広く引き伸ばされたようだった。日本側編隊は山口の指揮下で主戦面を死守し、ドイッチュラント海軍亡霊序列は深海から本当の圧力を一層一層持ち上げてくる。港湾の炎はとっくに背景に退き、代わりに海上の王権が浮上し始める。
ようやく分かった。さっきからずっと感じていた奇妙な感覚の正体が。
単に「でかい船が来る」という話じゃない。
この海全体が——その真の支配者を迎えようとしているのだ。
次の瞬間、遠海の黒い帯の中央から、最も深く、最も重く、最も罵倒したくなる輪郭が、ついに炎と霧の間から立ち上がり始めた。
山口多聞の声は低く——判決文のように低く。
「ビスマルク」
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




