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208.夜の女王 2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

近い。


目の下にある疲労が、その夜一晩でついたものじゃないとはっきり分かる距離。長いこと、他人の貨物や金や欲望のために道を開け続けてきた結果、自分がどこに立っているかさえ、少し曖昧になりかけている人間の目。


「昼間、わざとあなたを干した」と彼女。


「知ってる」


「あなたが先にキレるかどうか、見たかった」


「で、結果は?」


「思ってた以上に、面倒くさい相手だった」


「評価ありがとう。日々精進してる」


俺のクソみたいな返しは流され、彼女はまっすぐ俺の目を見て、声をさらに落とした。


「それに、あなたがワイスマンの名前を出したとき、虚勢を張っているようには見えなかった」


「奴らの『殻』を見たことがあるからな」俺も退かない。「あいつらが聖遺物をコレクションしないのは知っている。工業の骨格にし、呪術の中枢にし、機械単位の心臓にする。もしあんたが神父の裏荷物を運んだだけなら、俺は今ここにはいない。でも、もしあんたが噛んでいるのがワイスマンのラインだとしたら——」


彼女を見据え、一語ずつ叩きつける。


「——あんたは『駄目な荷物』を通したんじゃない。殺人鬼に海への門を開けたんだ」


彼女の呼吸が、一拍止まる。


短い。


だが、偽れない。


退きはしない。


むしろ、もう半歩詰めてきた。


別の物語だったら、ここから安っぽい艶っぽさに転がっていくのだろう。危険な大人二人、港の夜風、距離は近く、酒は軽く、灯りは柔らかく、話題はどす黒い。流れのままベッドかソファに倒れ込むやつ。だが残念ながら、俺は「厄介事をロマンスに仕立て上げる」って行為が、この世で一番嫌いだ。


だから俺は、その場から一ミリも動かない。


この距離を、「一番うっとおしいところ」で止める。


直接触れ合うより、よほど厄介だ。


一部の人間にとって、本当に怖いのは接触そのものじゃない。触れる前の一秒間、「どちらも先に負けを認めたくない」と言い張り続ける、その膠着《こうちゃく》だ。


ソフィアも、その真理をよく知っているようだった。


彼女の目から、昼間の癖になっていた「高い場所からの査定」がようやく剥《は》がれ、もっと剥き出しに近いものが顔を出す。


互いに、自分の手がどれだけ汚れているかをよく知っている人間同士が、十分に高く、十分に寒く、十分に遅い場所で、やっと昼のバージョンを脱ぎ捨てて向き合っている目。


「私は、ナチス側の人間じゃない」と彼女。


「分かってる」


「祭壇を作るために、あんなものを通したつもりはない」


「それも、分かってる」


眉間に皺《しわ》を寄せ、俺の落ち着き具合に明らかに苛立つ。


「それなら、どうして今にも私を吊るし上げそうな口調で話すの?」


「そうでもしなきゃ、昼間の玉座から降りてこなかっただろ」俺は彼女を見下ろす。「それに正直なところ、ちょっとはビビらせておくべきだとも思ってる。あんたみたいな位置の人間は、長く上に居座りすぎると、自分をただの『通行権管理者』だと勘違いする。実際には、足元は海で、その底は死体でぎっしりなんだよ」


今度こそ、反論は返ってこない。


彼女はただテーブルに戻り、一番上の書類を手に取ると、俺に差し出した。


受け取って開く。


それはルートの分解表だった。


正式な書類ではない。彼女自身が再整理したメモだ。アントワープ発の「名前だけの貨物」の主要な節点が抜き出されている。保険窓口、転送タイミング、改名のポイント、内陸水路の接続、ドイツ国内の鉄道貨物の接続点。そして、二つの地名に丸印が付いている。


Duisburg。Essen。


ルール地方。


心の中で同時に罵声が出そうになる。


そうだ。


ベルリンでもなければ、観光用の歴史を語るには綺麗すぎる町でもない。


ルールだ。


工業の「外殻」が一番自然に生え揃う場所。古い鉄、石炭、鋼鉄、廃工場、戦後の残骸、運河、内陸港、再開発、修復。いくらでも「合理的な用途」が挙げられ、いくらでも「不合理なもの」を紛れ込ませられる土地。


ソフィアは俺の隣に立ち、エッセンのさらに北側のグレーの一帯を指で示した。


「終点はロッテルダムじゃない」彼女は言う。「ロッテルダムは飲み込む口。本当に警戒するべきなのは、ここ」


彼女の指先が止まっているのは、「教会修復基金」の名目が付いた、旧工業地帯の倉庫群だった。


「表向きは、戦災教会の金属部材の修復と、古い鐘楼《しょうろう》骨格の再製作。でも、夜間だけ動く、極端にクリーンな鉄道分岐が一本ある。そこに入った貨物は、積荷目録を書き換えずに『工業修復用資材』に姿を変えて、内陸へ流せる」


「そこで受け取っているのは?」


「名前は確信が持てない」彼女は言う。「でも窓口なら分かる。教会じゃない。見た目だけは完璧な工業修復コンサルタント会社。その先で、『物』を分解し、組み直し、再構成する誰かがいる」


「ワイスマンの手の者か?」


「本人をこの目で見たわけじゃない」彼女の声が一段低くなる。「でも、一つだけはっきり分かる。普通の物流圏には、絶対に混ざらないはずの部隊がいた」


俺は顔を上げて彼女を見た。


彼女も俺を見ている。


「どんな部隊だ?」


「兵士じゃない」彼女は言う。「どちらかといえば……工業の殻に詰め込まれた何かの代物。二体。動きは異様に静かで、外見は重機のメンテナンス機材。でも保険の特記事項に『オペレーターが精神的干渉を受ける可能性あり』という文言が入ってた。あなたがさっき機械の殻と言った瞬間、私の勘違いじゃなかったと確信した」


胃の底が、すとんと落ちる感覚。


そうかよ。


もう「かもしれない」の段階じゃない。


ワイスマンのラインは、ただ物を探しているだけじゃない。


すでに容器の準備に入っている。


俺は書類を閉じ、彼女を見る。


「まだどれだけ隠してる?」


「今夜、あなたが無駄足にならない程度には」と彼女。


「それは答えじゃない」


「保身の習慣よ」即答してから少し間を置き、声を落とす。「でも、もう一つだけ渡せる」


彼女は踵《きびす》を返し、室内へ向かう。


俺も半開きのガラス扉をくぐり、最上階のプライベートスペースに足を踏み入れた。


ここも外と同じくらいどこかおかしい。成金趣味の広さじゃない。すべてが「他人の現実を外に締め出せる」と主張している。フローリング、低い照明、長い棚、酒、本、港の眺め、暖炉《だんろ》——そう、本当に暖炉がある。オランダ人は世界の海運資本主義の喉仏《のどぼとけ》みたいな位置にいても、こういう旧《ふる》い金の装置で「文明」を演出するのが好きらしい。


俺は絨毯《じゅうたん》の縁で止まり、それ以上は踏み込まない。


彼女が振り返り、俺の考えを察したような目をする。


「閉じ込められるのが怖い?」


「踏み込んだ瞬間、また何かの計算を始めそうで嫌なんだ」俺は言う。「今日は室内版の女王ごっこをしに来たわけじゃない」


「あなた、本当に『女王』って言葉にこだわるのね」


「三時間干し上げて水も出さない肩書きには、全部こだわる」


彼女は低く笑い、書棚の脇に歩いて隠し引き出しを開け、薄い茶封筒を取り出した。


戻ってきて差し出す時、距離はさっきより近い。


彼女の体温と残り香《が》が、風では散らない距離だ。


柔らかな温もりなんて陳腐《ちんぷ》な表現じゃない。


どちらかといえば、誰かの手で温められた刃物。刃であることに変わりはなく、ただ握るのが余計に厄介になった感じだ。


「中にコピーが二枚、内部転送コードが一つ、ドイツ人の名前が一つ」と彼女。「ワイスマン本人じゃない。奴らのために陸路を開けた人間。ドイツのラインを噛みたいなら、まずこいつから。ルール地方で、このラインに工業の殻を被せた男よ」


俺は封筒を受け取るが、すぐには開けない。


「名前は」


彼女は俺を見て、最後の計量をするように間を置いた。


それから言う。


「カール・ホフマン」


まぶたが、わずかに跳ねる。


普通すぎる名前だ。


わざとらしいほど。


ドイツの一番厄介なところはここだ。最も危険な名前が、税務署の職員や、鉄道局の技師や、週末に庭のフェンスを直していそうな中年男にしか見えない。だが死体を工業の殻に詰め込む人間は、大抵こういう名前の後ろに潜んでいる。


ソフィアは俺を見据え、後半を続ける。


「表向きは産業遺跡修復のコンサルタント。実際には、動かしてはいけない物の内陸輸送を何度も手配してきた。デュイスブルクの内港は煙幕《けむりまく》。本当の組み立て拠点は、エッセン北側の廃線試験倉庫。名目は教会金工修復の付帯工事だが、夜に運び込まれるのは金属だけじゃない」


今度は本当に、悪態が口から出た。


大きくはないが、十分に汚い。


このラインがルール地方に落ちた以上、この先はさらに見苦しくなる一方だ。


あそこは、ワイスマン式の化け物を育てるのに向きすぎている。


工業の殻、呪術の骨格、老いたナチスの迷信、鉄道、倉庫、内陸水路、ドイツ式効率。ふざけんな。呪いよりタチの悪い組み合わせだ。


俺が毒づくのを見て、ソフィアは薄く口角を上げた。


「これで分かったでしょう。なぜ真夜中に呼んだか」


「ようやく自分が港のルール遊びをしてるんじゃなく、祭壇組みの手伝いをしてることに気づいたから」


「……ええ」


また、その言葉。


二度目。


一度目より軽く、一度目より重い。


手の中の封筒を見下ろし、ふと笑いそうになった。


嬉しいからじゃない。


運命がその一番ゲスな顔をようやく見せてきた時に、人間は笑うしかなくなる、そういう感覚だ。


ベルギーで最初に追っていたのは金だと思っていた。


蓋を開けてみれば、金はただの煙。


本当に致命的だったのは貨物で、貨物の後ろに名前があり、名前の後ろに扉があり、扉の向こうには——死に切れずに教会の遺物と工業呪術で自分たちを歴史の舞台に溶接し直そうとしている、老いたファシストの亡霊《ぼうれい》どもがいた。


そして今、目の前のこの女は、その扉に海路を開けたことを認めた。


敵ではない。


少なくとも、完全には。


だが味方でもない。


自分の踏み外しに気づいて、地図の一部を渡さざるを得なくなった人間。どれだけ渡すかが良心からか、自分まで道連れにされたくないからかは、聞くだけ野暮《やぼ》だ。大人の世界は純度で回らない。利害がある夜に短く重なる、それだけで十分なことも多い。


俺は封筒を内ポケットに押し込み、彼女を見る。


「最後に一つだけ聞く」


「今夜、質問が多すぎる」


「昼間に三時間無駄にされた分だ」


彼女はふんと鼻を鳴らす。


「聞いて」


俺は彼女を見据える。


「もし今夜、俺が来なかったらどうするつもりだった?」


彼女は少し黙った。


それから顔を上げ、まっすぐ俺を見る。


「もっと面倒な方法で、あなたを引きずり出していた」


一瞬、虚を突かれた。


ロマンチックだからじゃない。


むしろ逆だ。ロマンチックさが欠片《かけら》もないからだ。


優しさも誘いも「来てほしかった」という含みも一切ない。意味は単純だ——この件はすでに、昼のバージョンで止めておける規模じゃない。俺が拒否しても、彼女は俺を本当の対話の席に引きずり出さなければならなかった。


だから信じられる。


だから余計に重い。


俺は頷く。


「なら、今夜は手間を省いてやったわけだ」


「違う」彼女は言う。「今夜あなたは、私が少しだけ装う手間を減らしてくれただけ」


テラスからまた風が吹き込み、遠い港の低い轟音《ごうおん》を運んでくる。


俺たちは近い距離で立っている。


あと半寸横にずれたら、この対話が別種の不必要な危険に変わる距離だ。彼女の視線は退かず、俺の視線も退かない。手を伸ばしたいという衝動と、伸ばすべきではないという理性の間にある空気が、細い糸のように粘り気を帯びて、俺たちの間に静かにぶら下がっている。


彼女がふいに手を上げ、指先で俺のジャケットの襟元に触れた。


ごく軽く。


愛撫《あいぶ》じゃない。


俺が本当に封筒をしまったか確認しているのか、それとも単に、この距離で俺が先に動くかを試しているだけなのか。


俺は動かない。


彼女もそれ以上は踏み込まない。


その接触を、一番厄介な場所で止める。


本当の意味での艶《なまめ》かしさは、ベッドに雪崩れ込むことじゃないことがある。あと一歩踏み出せば交渉が別の何かに変わると互いに分かっているのに、どちらもその一歩を踏まない——その膠着《こうちゃく》だ。


そういう時の方が、肉体そのものより生々しい。


そして、より危険だ。


彼女は手を引き、低く言った。


「周 士達(ジョウ・シーダー)」


「ああ」


「あの物を、ドイツで組み立てさせないで」


俺は彼女を見る。


命令じゃない。


取り引きでもない。


懇願《こんがん》にすら聞こえない。


めったに自分の非を認めない人間が、とびきり厄介な男に向かって、これ以上最悪の結末を見たくないという本音を、ようやく一つだけ差し出した——そんな響きだった。


俺は頷く。


「最初から、ぶっ壊しに行くつもりだ」


彼女の口角が、かすかに上がった。


「やっぱり、あなたは面倒な人間ね」


「今さらかよ」


「昼間から気づいてた」彼女は言う。「ただ、昼間は認めたくなかっただけ」


思わず笑いが漏れた。


上等だ。


少なくとも今夜、俺たちはようやく一つの共通認識に辿り着いた。


俺は一歩後ずさり、実体を持ちかけていた粘り気のある距離を引き剥がした。これ以上近づけば、今夜は本当に脱線する。脱線できないわけじゃない。ただ、必要がない。今はその時じゃない。ルールのドイツ線はすでにポケットの中にあるし、ワイスマンの工業の殻も頭の中で輪郭を描き始めている。こんな時に、このビルの屋上で港の女王とベッドシーツの方向へ雰囲気を捻じ曲げるようなら、俺は口だけ野郎じゃない、正真正銘のバカ野郎だ。


「帰る」俺は言った。


彼女は引き止めなかった。


それでいい。


本当に格のある人間は、こういう場面で安っぽい台詞は言わない。


彼女はただテーブルに寄りかかり、外の港を眺めたまま、淡い声で言った。


「周 士達(ジョウ・シーダー)」


「また何か?」


「次にあなたが来る時は——」少し間を置く。「もう三時間も待たせない」


俺は彼女を見て、笑った。


「上等だ。ようやく客あしらいを覚えたってことか」


彼女は少し顔を傾け、俺を一瞥する。


「違う」と彼女は言う。「あなたが、道を乞いに来たわけじゃないと分かったからよ」


俺はジャケットのポケットに手を突っ込み、茶封筒の感触を確かめた。中に入っているのはルール、ドイツ、廃線試験倉庫、カール・ホフマン。誰かが遺物を工業の殻に溶接し直そうとしている不発弾。


「ああ」俺は言った。


「俺は、扉をぶっ壊しに来たんだ」


言い残し、エレベーターの方へ向き直る。


背後のテラスは静かだったが、風は止まない。ロッテルダム港全体が眼下でゆっくりと呼吸を続けていて、俺たちはその呼吸のすぐ上で、ほんの短い間だけ、本当に重みのある言葉を交わした。


エレベーターの扉が閉まる直前、最後に見えたのは、テラスの縁に立つソフィアの姿だった。夜風が彼女の裾《すそ》と髪を少し乱している。昼間ほど高くもなく、夜の初対面ほど怠惰《たいだ》でもない。今の彼女は、間違ったものを船に乗せたと気づいて、それでも次の港を指し示せる人間に見えた。


扉が閉まる。


数字が下へ跳んでいく。


俺はエレベーターの中に立ち、ゆっくりと息を吐いた。


上等だ。


ベルギーは名前を洗う場所。


スイスは金を埋める墓。


オランダは飲み込んで、名前を変えて、吐き出す口。


ドイツこそが——あの槍が本当に組み直される、工業の墓場だ。


「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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