206.ロンギヌスの槍 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
電話の向こうに背景音はなかった。世界中の雑音を先に絞め殺してから俺の電話を取ったみたいに静かだった。
「周 士達。」神父の声が届いた。相変わらず、敵が刃物を持って目の前に立っていても聖体拝領を待っているだけみたいな、あの焦りのない口調だ。「思ったより早かった。」
俺は冷たいガラスに背を預けた。肩がすぐに痛んで、眉が引きつった。
「こっちには悪い知らせと、もっと悪い知らせがある。どっちから聞く?」
「まずどこまで調べたか言いなさい。」
この老いぼれは、いつもこうだ。誰かが助けを求めて電話してきても、まず相手の手持ちの札を確認する。心配するにもコスト計算が先に来るみたいに。
「ベルギー側の資金の流れは」俺は単刀直入に切り込んだ。「最終的に全部スイスに吸い込まれてる」
電話の向こうが二秒、沈黙した。
驚きの沈黙じゃない。ようやく本題に入ったかという種類の沈黙だ。
「ああ」と神父が言った。
それだけだ。
俺は危うく受話器をその場で握り潰すところだった。
「驚かねえのか?」
「私が驚いたとしたら、教皇庁がこの数百年、ヨーロッパで無為に過ごしてきた証拠になってしまう」殴りたくなるほど平然とした口調で言う。「金は必ずスイスに集まる、周 士達。ベルギーは洗浄に適し、オランダは通過に適し、スイスは隠匿に適している。君がようやくそこまで辿り着いたということは、少なくとも調査の方向性は間違っていないということだ」
深く息を吸い込む。冷たい空気が胸に流れ込み、少し刺した。
「上等だ。じゃあ次の話をする」俺は続けた。「アントワープの連中は単純な貨物輸送じゃなく、名前を運んでる。本物のコンテナ、本物の航路、本物の保険証券、本物の倉庫移管。偽物は中身だけだ。いや正確には、中身は必要に応じてどんな名目にでも書き換えられる。保険約款には宗教的汚染の免責条項、指定内容物の保全規定、それから悪魔払いに請求書を切るようなふざけた特約まで紛れ込んでやがる。港の噂がロッテルダムに繋がって、そこで一つの名前が浮かび上がってきた——ソフィアだ」
今度の沈黙は、さっきより長く続いた。
遠くで車輪が濡れた路面を軋ませる音がする。ヴィクトリアは電話ボックスの外に立ち、表情を変えずに両側の街角を見張っている。林 雨瞳は反対側の壁に背を預け、両手をコートのポケットに突っ込んだまま。天候に一切文句のない街灯、そのもの。
神父がようやく口を開いた。
「その名前を、どうやって聞き出した?」
「港の風聞、地下のルート、偽造積荷目録の影。それと少し、俺の気に食わねえ直感だ」
「直感など、大抵は一文の価値もない」
「俺の首から上は、その一文の価値もねえ直感のおかげで今まで繋がってんだよ」
「それもそうだな」
あいつが情報を整理してるのがわかる。
こういう手合いは沈黙を無駄にしない。黙っているということは、どの程度の真実を俺に渡すか量っている証拠だ。
急かさず待った。
数秒後、向こうから口を開いた。
「ソフィア——ロッテルダムの海運女王。この名前は我々にとっても秘密ではないが、報告書に軽々しく記載できるものでもない。彼女は教皇庁にも、政府にも、公開企業名簿に載るいかなる組織にも属していない。だが、もし特定の貨物が北海沿岸で名前を変え、外殻を入れ替え、一度姿を消した後に別の身分で合法的に現れるのだとしたら——彼女はそのルートの開き方を知っている可能性が高い」
「そいつは個人か、組織か?」
「君にとって、その違いに意味はない」
見えないのを承知で、俺は盛大に白目を剥いた。
「あんたら教皇庁は、物事をはっきり言うと罰金でも取られるのか?」
「いや」淡々とした返事が返ってくる。「ただ、ある種の言葉は明確に語りすぎると、聞いた者の寿命を縮める。私はそれを知っているだけだ」
こんな言い回しの応酬に付き合ってても埒が明かない。俺は話を先に進めた。
「スイスにはまだ触れるなと?」
「そうだ」
「理由は?」
今度は即答だった。
「スイスは金庫であり、入り口ではないからだ。今スイスを追っても、口座、信託、貸金庫、ファンドの構造、プライベートバンカーの愛想笑い、そして百重の法律の壁にぶつかるだけ。金がそこにあることは証明できても、貨物が何をしているかは証明できない。貨物は真実を語る、周 士達。だが金は語らない」
俺はガラスに背を預け、電話ボックスの外に延びる冷たく濡れた通りを見つめた。今夜初めて、まともな人間の言葉を聞いた気がする。
貨物は真実を語る。金は語らない。
「つまり、オランダが扉ってわけか」俺は言った。
「オランダが扉だ」神父が答える。「少なくとも現状では。アントワープが物を洗浄し、ロッテルダムが物を通過させる。スイスはただ、その一連の流れに十分上品で見栄えの良い保管方法を提供するだけだ」
「なら俺が欲しいのは、もっと核心の話だ、神父」俺は声を少し落とした。「あんたたち、一体何を探してるんだ?」
すぐには答えが返ってこない。
この質問はもっと早く、それこそ何度でも問い詰めるべきだった。これまでは教皇庁の連中に半端な言い逃れを食らわされ続けてきた——『極めて機密性が高い』だの『現在も確認中』だの『世代を超えた保管と承認に関わる』だの。終いには、奴ら自身も何を探しているのか分かってないんじゃないかと疑ったほどだ。だが今は違う。ベルギーの資金ライン、アントワープの港湾ライン、ロッテルダムの噂。すべてが噛み合い始めている。これ以上目隠しされたまま付き合う気はない。
電話ボックスの隙間から風が吹き込む。
肩の傷が熱を帯びて痛む。
そして、神父がついに口を開いた。
「ロンギヌスの槍だ」
一瞬、言葉が出なかった。
意味が分からなかったからじゃない。分かりすぎたからだ。
神父は俺の思考を見透かしたように、付け加えた。
「俗称、運命の槍」
その場に立ち尽くし、呼吸すら一拍遅れた。
電話の向こうは相変わらず湖面のように静かな声だ。ヨーロッパの裏社会全体をひっくり返しかねない聖遺物について語っているというのに、まるで夕べの祈りの名簿でも読み上げているかのように。
「教皇庁も、ようやく俺に話す気になったか?」低く唸るように問う。
「ようやくではない。そうせざるを得なかったのだ」神父が言う。「君がすでにスイス、アントワープ、ロッテルダム、そしてソフィアにまで辿り着いているのに、目標を隠し続けるのは、我々が愚かで利己的だと証明するようなものだからな」
「あんたらは元から——」
「周 士達」
彼が初めて俺の言葉を遮った。声は高くないが、普段あいつからは滅多に聞けない硬さがそこにあった。
「よく聞け。教皇庁は現在、それがどのような形で存在しているか、百パーセントの確証を持てていない。必ずしも完全な『槍』の形をしているとは限らないのだ。槍先だけかもしれないし、柄の残骸かもしれない。後世に分割された封印物の可能性もあるし、別の文化財の一部として再包装されているかもしれない。あるいは、付随する文書、保護、承認、そして儀式が揃って初めて『それ』と認められる概念的な代物かもしれない。名前に騙されるな。あれの最も危険な点は、決してその外見ではない」
受話器を握る手が、じわりと力む。
林 雨瞳が遠くから俺を見つめている。口は挟まない。
「ワイスマン」その名を口にした瞬間、まるで鉄屑を噛み砕いているような味がした。「ワイスマン率いるナチス・ファシストの残党どもが、これを探してるってのか?」
「そうだ」神父ははぐらかさない。「正確に言えば、彼らの背後で今も生き続けている旧体制のライン全体が、それを探している」
「用途は?」
「不明だ」
「またそのクソみたいなテンプレかよ」
「本当に不明なのだ」神父の声は平坦だった。その平坦さが余計に腹を立たせる。「奴らがそれで何を企んでいるのか、我々にも分からない。認証、起動、召喚、複製、封印の破壊、何らかの権限証明として使う、あるいは単に正しい所有者の手から奪い去ること——どれをとっても最悪だ。バストーニュを経由した君なら、私よりもよく分かっているはずだ。ナチスの残党がこの数年間、単なる骨董品収集などしていないことを。奴らが集めているのは『現実に、間違った出来事が起きることを無理やり了承させる』ための物だ」
その言葉で、首筋が粟立った。
現実に、間違った出来事が起きることを無理やり了承させる物。
ナチスの祭壇がまさにそれだった。八十年前に止まったはずの鉄と炎に再び身体を与え、ドイツ軍の機械化部隊の残影にバストーニュの外郭を何度も引き裂かせた。あれは単なる超常現象なんかじゃない。現実が、誤った歴史の一時的な帰還を強制的に了承させられた結果だ。
もしワイスマンの連中が今探しているのが運命の槍なら——それが今どんな姿をしていようと——これはもはや文化財密輸なんて可愛らしい話じゃない。
それは主軸だ。
紛れもない、真の主軸。
俺たちがベルギーで掴んだ資金の流れ、財団、保険証券、偽造積荷目録、港の噂、ソフィア——そのすべてが一気に中心を得た感覚があった。バラバラだった部品の山に、目に見えない鋼鉄の芯が突き刺さったような。
「あんたら、最初からこれの可能性に気づいてたな」
「ずいぶん前から疑ってはいた」神父はあっさりと認めた。「だが、疑うことと口に出すことは別だ。ロンギヌスの槍という名は、不適切な者に確認されれば、招かれざる手をさらに惹き寄せることになる」
俺は鼻で笑った。
「なら、今俺に吐いたのは、もう抑えきれなくなったからか?」
「君がすでに扉の前に立っているからだ」神父が言う。「それに、君の推測は一つ当たっている——スイス側で資金が回収されているという点だ。これは捜索が中盤から終盤に入ったことを意味する。資金が金庫に沈み始めたということは、前段階の調達、輸送、根回し、そしてテストがほぼ完了した証拠。次に起こるのは、手がかり探しではない。扉を開けることだ」
扉を開ける。
今夜この言葉は、どうにも縁起が悪い。
「だから俺をオランダへ行かせたいわけだ」
「スイスには一時的に手を引き、オランダを調べろと言っている」神父は続ける。「今スイスに手を出せば、金庫の扉に額を叩き付けるようなものだ。痕跡を残すだけで、真に有用な物は何も手に入らない。オランダは違う。貨物は通過し、名前は変わり、保険証券は書き換えられ、道には痕跡が残る。扉は自らを扉とは名乗らないが、扉には必ず蝶番がある」
数秒沈黙し、その言葉をゆっくりと腹に落とし込む。
それから、より実務的な質問を投げた。
「ソフィアがその蝶番か?」
「彼女は門番の一人だ」神父が言う。「あるいは、本人の姿は見えなくとも、決して避けては通れない類の人間だ。オランダのルートに入るなら、遅かれ早かれ彼女の影に突き当たることになる」
「彼女はどっちの味方だ?」
「海の味方だ」
「それが答えのつもりか?」
「今の君には、それで十分だ」
電話線を伝って首を絞めてやりたい衝動に駆られる。
だが、このクソ親父が時折見せる殴りたくなるような曖昧さは、単なる勿体ぶりではないことも分かっている。あいつ自身も、ここまでしか踏み込めないのだ。これ以上深く掘り下げれば、深夜のベルギーでの電話会談では済まなくなる——教皇庁の内部でも、誰かの棺桶を用意する必要が出てくる。
俺は今日最後の核心を突く質問を投げた。
「目標が運命の槍だってんなら、聖書の朗読みたいな情報はもういらねえ。実用的なやつを寄越せ。外見、偽装身分、輸送方法、想定される梱包形態だ」
神父の側から、微かなページをめくる音が聞こえた。
「今は三つのことだけ覚えておけ」
俺は黙って耳を傾ける。
「第一に、教会の壁画にあるような姿で現れると思い込むな。実際に輸送されているのは、その一部、あるいは『それを代表するに足る』一部に過ぎない可能性が高い」
「第二に、所持者が自分の持っている物を理解していると仮定するな。多くの中継点は運ぶことだけが任務であり、理解することは求められていない」
「第三に、遺物が本来あるべき場所に収まっていると考えるな。特に相手がワイスマンの旧体制ラインである場合、奴らは神聖な物品を一度単なる物流項目に格下げし、そこから再び儀式の核心へと格上げする手口に長けている」
俺は目を閉じ、冷たいガラスに額を押し当てた。
「上等だ。それじゃあ、ヨーロッパ中どこにでも運命の槍が隠せるってことじゃねえか」
「ほぼそういうことだ」神父は静かに言った。「だからこそ、真実を語る場所から手をつけなければならない」
「貨物か」
「貨物だ」
「金じゃなく」
「金ではない」
俺は笑った。微塵も面白くない笑いだ。
「知ってるか、神父。あんたらがもっと早く吐いてりゃ、俺もこんなに長いこと官僚のクソ答弁を食らわずに済んだんだぜ」
「そして、もっと早く巨大な何かに目をつけられていただろうな」と彼は言う。「今のタイミングで教えたのは、私が勝ち取れた最短の妥協点だ」
「神の御恩に感謝しろとでも?」
「まずは生き残ることだ。感謝するかどうかは、それからゆっくり決めればいい」
その言葉で、通話は唐突に終わりの形を帯びた。
だが、俺はまだ終わらせるつもりはなかった。
「もう一つある」俺は言った。「バストーニュが崩壊した後、俺たちはある物を持ち出した。ナチスの祭壇の破片だ。それが最近、港のルートや特定の名前に対して反応を示してる。そっちに記録はないか? 運命の槍と、この手の祭祀工業の残骸との関連についてだ」
神父は今度こそ本当に沈黙した。
駆け引きではない——純粋な思考の沈黙。
最後に、彼は半分だけ答えた。
「もし本当に反応しているのなら、奴らが求めているのは収蔵価値ではないということだ」
「似たようなセリフ、さっきも聞いたぞ」
「では、君にも分かる言い方に変えよう」彼の声が一段低くなる。「周 士達。ワイスマンが運命の槍で何を企んでいようと——少なくとも、それをガラスケースに入れて観光客に写真を撮らせるためではない」
俺はそれ以上、何も聞かなかった。
もう十分だ。
本当に、十分すぎるほど。
この章に必要だった軸が、神父自身の手によって打ち込まれた。これ以上、国際物流詐欺を追っているフリをする必要はない。今や俺たちは知っている——ベルギーに張り巡らされた慈善財団、歴史保存協会、物流保険会社。アントワープの偽造積荷目録と港の噂。ロッテルダムにいるソフィアという海運女王。スイスへと沈んでいく資金の流れ。それらはすべて、バラバラではない。
一つのものへの道を、整えていたのだ。
ロンギヌスの槍。
運命の槍。
そして、ワイスマン率いるナチス・ファシストの残党どもが、それを探している。
「分かった」俺は最後に言った。
「これからどう動く?」
顔を上げ、電話ボックスの外に目をやる。林 雨瞳が街灯の下に立ち、顔の半分が影に沈んでいた。まるで俺が何を言うか、すでに知っているような佇まいで。
「スイスは追わない」俺は言った。「先にオランダへ転換する」
電話の向こうで、初めて満足に近い間があった。
「正解だ」
「だが、もっと多くの資料を用意しておけ。ロッテルダムの入り口まで辿り着いてから、『実はもう一本釘がありました』なんて後出しは御免だぞ」
「渡せる範囲でまとめておこう」
「その言い回しが反吐が出るほど嫌いだと言った」
「知っている」
「あんたら教皇庁は本当に——」
「周 士達」
「なんだよ」
「ソフィアには気をつけろ」
俺は目を細めた。
「運命の槍より危険だとでも?」
「いや」神父は言った。「だが彼女は、銃を持った多くの者よりも明確に理解している——何を海に沈めるべきで、何を岸に上げてはならないかを」
それだけ言って、彼は引き延ばすことなく電話を切った。
電話ボックスの中に残ったのは、自分の息遣いと機械の微かな底鳴りだけだった。
数秒そのまま立ち、ようやく受話器を耳から離した。
ヴィクトリアが先に近づいてきた。内容は聞かず、ただ俺の顔色を読む。林 雨瞳はもっと直接的だった。
「何を言われた?」
電話ボックスの扉を押し開けると、冷気が一気に流れ込んできて、あの閉塞感を少し押し流してくれた。
「調査の方向は間違っていないと」
「それだけ?」
「スイスは金庫だ。今は触れるな」
「それだけ?」
俺は彼女を見た。
それから、今夜の本物の弾丸を口にした。
「ワイスマンのナチス旧体制ラインが、ロンギヌスの槍を探している」
林 雨瞳の表情は変わらなかった。だが瞳の奥が一瞬、きゅっと収縮した。俺には見えた。
「運命の槍?」と彼女は問う。
「ああ」
風が街角を吹き抜けた。金属の匂いと湿った冷気を連れて。
彼女は二秒黙り、それからゆっくりと一言を吐き出した。
「これで筋が通る」
「どこが?」
「すべての辻褄が合わなかった部分が」彼女は言う。「なぜ金をあれほど綺麗に洗う必要があったのか。なぜ貨物の名前を書き換えるのか。なぜ港の古参たちは名前を読み違えることを恐れるのか。なぜスイスへの資金回収が始まったのか。奴らにとって、これは一山の荷物じゃない。一本の鍵だ」
俺は車に背を預けた。肩が脈打つように痛む。だが頭は、ここ数日のどの瞬間よりも冴え渡っていた。
そうだ。
鍵だ。
それが必ずしも扉を開けるとは限らない。戦場を開くかもしれないし、祭壇を開くかもしれないし、二度と開けてはならない何らかの権限を開くかもしれない。いずれにせよ、単なる文化財ではない。文化財のために、国をまたいだ金融と物流の網が赤絨毯を敷くことはない。
拠点への帰り道、余計な言葉は交わさなかった。
情報が大きすぎる。大きすぎて、街中で一言余計に喋るだけで、追跡者のコストを肩代わりしてやるようなものだ。屋内に戻り、鍵を掛け、カーテンを引き、ジュリアンが監視ポイントに異常がないことを確認し、希が電気ケトルのコードを挿し直してから、俺は今夜の通話を最初から最後まで話した。
運命の槍という四文字を口にした瞬間、部屋全体が停電したように静まり返った。
レミが極めて小声で毒づいた。
クレールはその場で背筋を伸ばし、手の中のペンが落ちそうになった。レイチェルは声を出さなかったが、普段から十分に冷たい目が、さらに一段階冷えた。エリザヴェータが最も長く沈黙し、最後にただテーブルの上の地図を少し北へ押した。
「というわけで、ベルギーはここまでにするべきじゃの」妾は言った。
「ああ」俺は頷く。「少なくとも主軸は明確になった。資金はスイスへ、貨物ルートはオランダへ、ソフィアが扉、ワイスマンが運命の槍を探している」
「スイスはまず置く」林 雨瞳が即座に引き取る。「あそこは今、金庫の構造しか見せてくれない。手は見えない。オランダは違う。オランダには手の痕跡が残る。貨物は真実を語る、金は語らない」
レミがその言葉をノートに書き留めた。まるで命を救う戦場の格言を書き写すように。
葉 綺安はずっと口を挟まなかった。この時になって初めて口を開いた。
「つまり、これから向かうのは遺物を探しに行くためじゃない」
全員が彼女を見た。
彼女はあの防護ケースの傍らに立ち、顔色が照明より白かった。
「遺物は絶対に手に入らないと分かっていても、誰かが必ずそのために場所を確保しているはずの——そのラインを探しに行くということ」と彼女は言った。
俺はそれを聞いて、思わず笑った。
おかしいからじゃない。その言葉が正確すぎたからだ。
絶対に遺物が手に入らない遺物ライン。
それが、俺たちの次の道だ。
本物の遺物は、すでにより深い場所に隠されているか、分解されて名前を変えて封印されている。だが誰かがまだそれを探しているなら、必ず一連の準備の痕跡が残る——保険証券、倉庫移管、仲介者、船舶業務、中継点、偽名、偽の名目、本物の資金の流れ、本物の焦り。
俺たちはあの槍を引き上げに行くんじゃない。
あの槍が通り過ぎる前に、水面に残したすべての波紋を引き上げに行くんだ。
エリザヴェータが素早く決断を下した。
「これより、ブリュッセルの線は縮小じゃ。アントワープは必要最低限の監視のみ残し、深追いはせぬ。主軸はオランダへ転換。スイスの資金追跡は継続するが、こちらからの能動的接触はせぬ。ジュリアン、ベルギー段階の封存版と実行可能版を分けて整理せよ。レミ、クレール、今夜中にアントワープ—ロッテルダム間で繰り返し登場する船務代理、保険中継点、文化財修復名目をすべてリストアップせよ。レイチェルは北上用の身分と経路を準備。希は負傷者が明日も車に乗れるよう、途中で腐り落ちぬよう手当てを。葉 綺安は引き続き破片を監視し、異常があれば即報告せよ」
希が俺を冷ややかに一瞥した。
「すぐに腐り落ちへんことしか、保証できへんわ」
「それで十分だ」俺は言った。
「あんたにとっちゃ、生きてるだけで十分やろ」
それも間違いではない。
全員が動き始めると、部屋は再びあの、忙しさが安定に近づく独特のリズムを取り戻した。紙をめくる音、キーボードの音、電気ケトルが沸く音、包帯が擦れる音、地図が広げられる音。その音を俺はよく知っている。平和ではない。前にもっと厄介なものが待ち構えていると分かっているから、今手元にあることを片付けているだけの音だ。
俺はすぐには上に上がらなかった。
その場に座り、北へ押された地図を見つめながら、今夜神父が言ったすべての言葉をもう一度頭の中で繰った。
スイスは金庫。
オランダが扉。
貨物は真実を語る、金は語らない。
ワイスマン率いるナチス・ファシストの残党が、ロンギヌスの槍——運命の槍を探している。
そしてソフィア——ロッテルダムの海運女王——はおそらくその扉の傍らに立ち、何を船に乗せるべきか、何を沈めるべきか、どの名前が海を渡れて、どの名前が渡れないかを見極めている。
バストーニュ外郭でのドイツ軍機械化部隊の残影から始まり、ナチスの祭壇の爆砕、ブリュッセルのファイルキャビネット、アントワープの偽造積荷目録、ロッテルダムの噂、スイスの資金の流れ——すべてが一つのことへと収束していた。
運命の槍。
ワイスマンがそれで何をするつもりなのかは、まだ分からない。
だが一つのことは、もう確信に変わっていた。
阻止しなければならない。
教皇庁に頼まれたからじゃない。神父がようやく本当のことを話してくれたからでもない。まして俺が急にヨーロッパを救う聖人になりたくなったからでもない。ただ純粋に——バストーニュで、間違った歴史が一度だけ再び許可される様を見たからだ。あれがさらに「権限」に近い何かを手に入れたとき、失われた文化財のニュースが一件増えるだけでは済まない。誰かが現実を丸ごと、過去へ向けて引き戻そうとするだろう。
そして俺は、一つの都市全体を授業料にするような間違いが、心底嫌いだ。
深夜がさらに深くなった頃、林 雨瞳が新しく整理したリストを俺の前に置いた。北上の最初の中継点が並んでいる——アントワープ外郭の再保険、ロッテルダムの船務代理、歴史保存協会と重複する背景を持つオランダの法務顧問二社、港周辺の接触圏候補三箇所。
彼女は俺を見て、抑揚のない声で言った。
「寝る?」
俺は彼女を横目で見た。
「それ、脅しみたいに聞こえるぞ」
「真剣に聞いてる」と彼女は言う。「明日から道が変わる。途中で死んだら面倒」
「努力する」
彼女は頷き、それ以上何も言わなかった。
俺はそのリストを折り畳み、ジャケットの内ポケットに収めた。明日の厄介ごとを肌身に貼り付けておくように。それから顔を上げ、隅に置かれた無言の防護ケースを一瞥して、妙な感覚に気づいた。
恐怖ではない。
どちらかといえば、確認に近い感覚だ。
ここまで追い続けてきて、ようやく——散らばったガラスの破片を見て、元の窓がどんな形だったかを推測するだけの作業ではなくなった。窓はまだ完全には繋ぎ合わさっていない。でも少なくとも、外の方角は見えた。
次はスイスを追わない。
金庫に頭を叩きつけない。
オランダへ転換する。遺物は絶対に手に入らないと分かっていても、誰かが必ずそのために空きを確保しているはずの——その遺物ラインへ。
扉はそこにある。
そして俺は、扉の向こうに何かがあるくせに先に鍵を探し始めているような奴らが、心の底から嫌いだ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




