202.外殻 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
第二ラウンドの朝食が運ばれてきて、話題はようやくブリュッセルに入るかどうかに正式移行した。
昨夜も一度議論した。問題は行くか行かないかじゃなく、いつ、どうやって、入ってから最初にどの線を辿るか。ただ、人は一晩眠って、朝の光と温かいコーヒーとまともな食事で理性を少し取り戻すと、同じ問題でも「引きずられている」じゃなく「決められる」ように見えてくる。
レイチェルが最初に口を開いた。
「今日入ることを支持する。安全だからじゃない。ディナンは短期滞在向けだから。ここは小さすぎる。私たちみたいな人間が長居すると、どれだけ目立たなくしても記憶される。特に二台とも地元ナンバーじゃなくて、外装に傷がある」
ヴィクトリアが頷く。
「同意。昨日来たのは正解。今日動かなければ、転進じゃなく逃亡に見え始める」
希はパンを半分噛みながら、それでもちゃんと話す。
「医療面でも今日入ることを支持する。ただし条件がある。先に基礎薬品を一回転補充すること。手術室は要らない。抗生物質、鎮痛剤、ガーゼ、固定帯、消炎剤、それから現実に絶望させない程度の消毒液が買えれば十分」
「消毒液を精神救済カテゴリに入れてるな」俺は言う。
「それだけの価値があるから」
林 雨瞳がルート図をテーブル中央に押し出した。
「リスクを説明する。今日の入城は可能。ただし中心部には直行しない。外縁に拠点を取って、現金、時間差、分乗で動く。初日は深追いしない。外装を整えて、位置を確定して、環境を探って、二層だけ人脈を試す。誰が出迎えに来るか、誰が俺たちに興味を持つか、誰が知らないふりをするか、まずそれを見る。一点でもおかしければ、即座に切る」
エリザヴェータは聞き終えて、俺を見た。
「そなたが決めよ」
俺は地図を見下ろした。
ディナンからブリュッセルまでの線は、地図上では短い。一本の道、一つの都市、いくつかの名前。でも俺にはわかっている。これは入城じゃない。戦場の変更だ。耳が痛くなるほど爆音が響いたバストーニュから、窓が明るく、書類が整い、全員が俺たちより清潔な服を着て、それでも俺たちをもっとうまく解体できる場所へ。
突き詰めれば、俺は混乱が怖いんじゃない。
清潔さが怖い。
混乱した場所では、善人も悪人も、敵も味方も、銃口も幽霊も、まだ見分けがつく。清潔な場所が最悪だ。表面は全部合法で、合理的で、手続きがあって、表札がある。そこに入ると、飲み込まれる瞬間でさえ、自分でサインしたみたいに見える。
俺はテーブルを見渡した。
全員が待っている。
俺は言った。
「今日入る」
誰も驚かない。最初から最も合理的な選択肢だったからだ。
俺は続けた。
「ただし、答えを探しに行くんじゃない。まず自分たちを人間に洗い直しに行く。拠点を取る、外装を整える、薬を補充する、車を洗う、データを切る、規則を決める。今日は誰も核心に急がない。公的機関に触れない、大きな組織に触れない、やたら熱心な手には触れない。外縁を探って、誰が俺たちを見ているか確認してから、次を決める。ブリュッセルはバストーニュじゃない。壁を爆破する頭で入るな」
言い終えて、俺自身が一番納得した。
ほとんど自分への戒めだったからだ。
レミが最後のコーヒーを飲み干して、低く言う。
「要するに、文明人のふりをするってことですね」
「そうだ」俺は言う。「ふりだけでも」
葉 綺安がようやく口を開いた。
声はまだかすれているが、目は昨日よりずっと安定している。
「じゃあ今日は、患者をやる」
「もともとそうでしょ」希が言う。
「対外的に患者をやるって意味」葉 綺安は彼女を見る。「できるだけ話さない、表に出ない、必要なら少し弱そうに見せる」
ヴィクトリアが小さく笑った。
「そんなに頑張らなくても」
葉 綺安がちらりと彼女を見る。
「今日、車の中で三本目の煙草を吸ったら、その場でもっと弱そうに見せてあげる」
「いい調子ね、回復してる」俺は言う。「チームメイトを脅せるくらいには」
朝食のテーブルが、珍しく少し緩んだ。リラックスじゃない。ようやく普通の人間みたいにお互いを煩わしいと思える隙間ができた、という感じだ。これは重要だ。人間はお互いをうんざりさせ合える限り、前の地獄に完全に搾り取られた抜け殻にはなっていない。
会議の最後は、最も実際的な出発手順だった。
Vitoが先行。
乗員は変わらない。俺、林 雨瞳、希、レイチェル、エリザヴェータ、葉 綺安、ヴィクトリア。車内には中核医療物資、破片、現金の一部、最低限の着替えを積む。K7とシュトゥルムシュライターは四十分後に出発。記者三人組は機材、映像データ、二次バックアップ、対外的に見せられる装備を担当する。二台は連絡を取れる距離を保つが、互いに縛られない。Vitoが先に問題に当たっても、K7は補いに来ない。迂回するだけだ。K7が尾行をつけられたら、Vitoは既定ルートを進み続ける。振り返らない。
「これが一番重要」林 雨瞳は記者三人組を見て言う。「どちらかの車に何かあっても、もう一台はまず自分を守る。英雄主義は禁止」
レミがゆっくり頷く。
「わかりました」
俺はその顔を見ながら、この光景がどこか滑稽だと思った。
記者たち、少し医療ができる原住民の女、元カノ、退駕中の女、行政怪物、毒舌の機巧工匠、そして肩が半分腐りかけの俺。ベルギーのディナンの宿の朝食テーブルで、文明的な方法で、文明社会に食われないようにするにはどうするかを話し合っている。
この世界は、どんどん病んでいく。
それでも今のところ、まだ動いている。
---
朝食が終わると、全員が動き出した。疲れているからじゃなく、今日の一番きれいな移動窓口を逃したくないからだ。
俺はまず希に二階へ引きずられて、包帯の交換と着替えをやらされた。
包帯を巻き直しながら、彼女は口を止めない。
「今日のあなたの目標は、死体じゃなくて病人に見えること」
「区別が細かい」
「あなたにはその価値がある」彼女は薬を傷の縁に押し込んだ。痛みで顔が国際情勢みたいに歪みそうになる。「我慢して」
「お前が我慢してと言うとき、大抵その後にもう一発来る」
「大抵そうだから」
逃亡兵には見えない程度の濃い色のシャツに着替えて、少し形のいい上着を羽織ると、「怪我をした普通の人間」と「戦場から引っ張り出された重要証拠物件」の間で、確かに少し前者に近づいた。鏡の中の顔はまだひどい。目の下は青く、無精ひげは乱れ、顔色は最悪だ。でも少なくとも、ブリュッセルに入った瞬間に誰かが反テロ通報をしたくなる見た目ではなくなった。
裏庭では、ヴィクトリアとレイチェルが記者三人組を連れて、第二ラウンドの洗車と装備の再分配をやっていた。Vitoの側面の擦り傷をできる限り目立たなくして、K7の結束バンドとガムテープを補強し直した。フロントバンパーは「事故現場の遺留品」から「なんとか走っているが相当苦労している車」程度には進化した。レミは撮影機材の外装から泥と血の跡を拭き取りながら、親族の遺体に化粧をしているような顔をしていた。
クレールはノートPCと何枚かのメモリーカードを持って、宿の裏庭の小さなテーブルで最初の切り分けを始めた。
「これが公開素材」彼女は言う。「市街地の混乱、火の光、避難、政府接収前の不鮮明な戦闘ダメージ。これは残せる」
ジュリアンが隣に座って、タグをつけながら言う。
「これは残せない。ドイツ軍の映像が鮮明すぎる。異常な火力網の接続が鮮明すぎる。ナチスの祭壇の外殻の細部が多すぎる。人物については、ジャック、神崎忠明、山口多聞に関連する映像は全部抜く」
「もし僕のカメラが本当に山口多聞を撮ってたら、今後の履歴書、どう書けばいいか分からない」レミが言う。
「履歴書を書く日まで生き延びてから言いなさい」ヴィクトリアが洗車用の布を彼の頭に投げつけた。
レイチェルが俺の隣に来て、簡潔なリストを渡してくれた。
「入城後の第一回調達と接触順序。生活物資、基礎薬品、目立たない拠点、使い捨てSIMカード、現金払い可能な家主候補。今日は情報網には触れない。表層だけ探る」
受け取って確認して、頷く。
「いい。これで生きてる人間らしくなる」
「今日、何度も『人間に洗い直す』と言ってるけど」彼女は俺を見て言う。「本当に怖いのはブリュッセルじゃない。ブリュッセルが私たちを別の何かに洗い替えることでしょ」
俺は顔を上げた。
彼女の目は平らだ。見えている構造をただ述べているだけ、という目だ。
俺はリストを折って、ポケットに押し込んだ。
「そうだ」俺は言う。「ああいう場所が一番得意なのが、それだからな」
---
十一時前に、全部片付いた。
チェックアウト済み、ゴミ処理済み、現金は分層、機材は再積載、メディカルキットと破片の位置は固定、服は替えた、顔も最低限、社会的機能があるように見える程度には洗った。俺は最後に宿の入口に立って、二台の車を眺めながら、薄くて、それでも厄介な感覚を覚えた。
ディナンは緩衝地帯だった。
終点じゃない。安全地帯でさえない。次の層の面倒ごとに入る前に、血を拭いて、人数を確認して、頭を少し繋ぎ直せる場所に過ぎなかった。
ここから先が、別の戦場だ。
女主人が入口のテーブルと椅子を片付けに出てきて、俺たちの「撤収準備完了」という様子を見て、レイチェルに一度頷き、フランス語で一言。レイチェルが訳してくれた。
「面倒ごとを持ち帰らないでほしいって」
「合理的ね」ヴィクトリアが言う。
「多くの政府機関より話がわかる」俺は言う。
それから、俺たちは車に乗り込んだ。
Vitoが先に動き出す。
ディーゼルエンジンの音が響いた瞬間、胃の中で例のあれが始まった。状態を切り替える前の、あの微かな締め付け。林 雨瞳は助手席に座り、地図と紙のメモを膝の上に広げている。希は二列目の内側、メディカルキットを腿の脇に押しつけている。葉 綺安は窓側、帽子をかぶって顔色を白いままにしてある。邪魔されたくない病人を演じるのにちょうどいい。レイチェルとエリザヴェータは前後に分かれて、それぞれ少し後ろ暗い商談に向かう人間みたいな構えをしている。ヴィクトリアが最後に乗り込み、ドアを閉める前にK7を一度振り返った。あの怪物が今日、普通の交通手段を演じる気があるかどうか確認するみたいに。
俺はハンドルを握り、ゆっくりとVitoをディナンの路地から滑り出させた。
今回は、誰も長く振り返らなかった。
ディナンを離れることが問題なんじゃない。ブリュッセルに入ってから、あの清潔で、体裁が整っていて、フォーマット化された街の中で、まず自分たちを普通の人間に偽装して、それからバストーニュの後始末を誰がやっているのか、少しずつ手を伸ばしていく。それが問題だと、全員わかっているからだ。
道中、ほとんど誰も喋らなかった。
車の流れが少しずつ密になり、道路が広くなり、標識が増え、文明社会のリズムが少しずつ車体に貼りついてくる。前方に広がる、どんどん整然としていく白線、どんどんきれいになっていく建物、どんどん間違いを許さなくなっていく分岐路を見ながら、胸の中の馴染みの不快感が少しずつ形を持ち始めた。
バストーニュは砲火で人を地面に叩き込む。
ブリュッセルは違う。
まだ何も見えていない。誰も、どんな組織も、どんな機構も、まだ姿を現していない。それでも俺にはもう想像できる。鍵がかかっていて、分類されていて、ラベルが整然と並んだ書類棚の列。入った瞬間、まず一度見られる。それから記録される。それから、どの引き出しに入るか決められる。運が悪ければ、その引き出しから一生出られない。
そういう場所は、砲撃しない。爆破もしない。
ただ、丁寧に書類への記入を求めてくる。
俺は昔から、書類を書かされるのが嫌いだ。
ブリュッセルの外縁に入る直前、林 雨瞳のスマホが一度震えた。
彼女が下を向いて一瞬見て、眉間がわずかに動いた。
「何か来た」彼女は言う。
俺は顔を向けない。目は前の車の流れに固定したまま。
「何が?」
彼女が画面をこちらに向けた。一瞬だけ。
名前じゃない。最も退屈で、最も恐ろしい種類の言葉が並んでいた。
「ベルギーの第一層金流シェル」彼女は言う。「軍じゃない。政治家本人でもない」
俺は目を細めて、いくつかの機関名を読んだ。
慈善財団。
歴史保存協会。
物流保険会社。
どれも清潔で、どれも正当で、どれも書類棚の外側に掛けるのにちょうどいい看板だ。その裏側で、最も汚い金を回しながら。
俺はハンドルを握ったまま、口の端をゆっくり引いた。
「なるほど」俺は言う。「どうやら俺たち、本当に書類棚の中に入っちまったらしいな」
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




