203.濁濁混交 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
俺たちがひっそりとブリュッセルに入ったとき、最初の感想はこうだった。この街は、化けるのが上手い。
高級に化けているんじゃない。普通に化けている。
高架道路、分岐路、ガラスカーテンウォール、オフィスビル、路面電車の架線、交差点の信号、歩行者はきちんとした服装で、カフェの外では誰かが煙草を吸いながらスマホを見ている。街全体が、外縁から見ると、靴紐まできちんと結んで自分を整えた人間みたいだ。バストーニュと同じ地図の上に置くのが難しい。一昨日の夜、バストーニュはまだ地獄の鉄スコップでひっくり返されたばかりだった。こちらはもう午前の車の流れが始まっていて、世界秩序がほんの少し居眠りしただけで、今は時間通りに出勤してきたみたいな顔をしている。
俺はVitoの助手席に座り、希が無理やり押しつけた薄いクッションを左肩の下に挟んで、左手はほとんど使わず、主に前方を見て黙っている担当だ。今日のハンドルは林 雨瞳が握っている。彼女の運転は安定しているが、観光客が知らない街に入ってきたときの安定じゃない。いつでも車線変更、迂回、消えられる準備をしている安定だ。この女は今、どんな交差点を見ても、頭の中でまず三本の撤退路と二つの最悪シナリオが生えてくるはずだ。
「前方、中心部には入るな」彼女は前の車の流れに目を固定したまま、声を低く抑える。「右に下りて、運河の外縁を回る。EU地区、駅周辺、観光軸線は全部先に避ける」
「その言い方だと、ブリュッセル自体が噛みついてくるみたいだな」俺は言う。
「噛みつくわよ」ヴィクトリアが二列目から言う。膝の上に薄いノートPCバッグを置いて、相変わらず世界に媚びる気のない口調で。「ただ、路上では噛まない。まず『ご支援が必要ですか』と聞いてきて、暖房の効いた部屋に通してからゆっくり食べる」
窓の外の整然とした建物と広告を眺めながら、俺は彼女の言葉が正しいと思った。
バストーニュは砲火とナチスの祭壇が正面から玄関を叩いてくる。ブリュッセルみたいな場所の危険は、たいてい表札の裏に、名刺の上に、会議の議事録の中に潜んでいる。コーヒーを一杯出してから、処理方法を話し合ってくれる。この種の面倒ごとは格が高い。そして、長続きする。はっきり言えば、戦場は人を殺す。首都は人を取り込む。少しでも遅れると、どこかの引き出しに分類されて、自分でどう出るか決める権利がなくなる。
K7は近くに付かなかった。
今朝決めた規則通り、四十分遅れで別のルートから入城し、予定エリア付近でそれぞれ別に停まる。同時に入らない、同時に姿を見せない、同じ通りで「この二台は関係がある」という印象を誰にも残さない。これは泥棒みたいなやり方に聞こえるが、今一番持てないのは、潔白な人間の無邪気さだ。
レイチェルは三列目の通路側に座り、手に二枚の紙を持っている。一枚は昨夜決めた対外説明、もう一枚は今日接触する予定の名前と住所だ。この道中、彼女はほとんど言葉を無駄にしなかった。翻訳が必要なときは翻訳して、道を覚えるときは覚えて、俺たちという負傷兵の集団に少しでも普通の輪郭を持たせる必要があるときは、自動的にその支柱になる。エリザヴェータは隣に座り、サングラスを鼻の上に乗せて、表情は平らだ。バストーニュから流れ出た人間をブリュッセルに連れ込んでいるんじゃなくて、少し後ろ暗い会社を買収しに来ただけ、という顔をしている。
葉 綺安は今日、ほとんど口を開かなかった。
帽子をかぶって窓側に座り、回復が遅いわけじゃないのに、わざと「休養中、話しかけるな」の方向に自分を寄せている。これは俺たちの意図に合っている。今の彼女に一番向いている役は、深く聞かれない人間だ。希は隣に座り、メディカルキットを足元に押しつけて、目つきは免許を持った番犬みたいだ。誰かが近づきすぎたら噛む準備ができている。
俺たちが最終的に落ち着いた場所は、ブリュッセルで一番華やかな圏内でも、観光客がスーツケースを引いて自撮りするような街区でもなかった。
選んだのは運河外縁一帯、旧倉庫を改装したスタジオと自動車修理工場と安いアパートの間に挟まれた古い建物だ。三階建て、外壁は少し剥げていて、一階はかつて金物と照明器具を売る小さな店だったらしく、今はシャッターが半分下りたまま、入口に空のパレットと明らかに引退済みの手押し車が積んである。外から見ると、きれいとは言えない。むしろ少し寂しい。でも利点は明確だ。現金交渉可能、出入りが雑多、駐車が目立たない、近くに十分使えるが高くない店がある。そして何より、こういう場所を拠点として注目する人間はいない。
この線を繋いでくれたのは、レイチェルがディナンで古い連絡帳から辿り着いた短期賃貸の家主だ。名前は普通だが、目が鋭い人間だ。記録を残したくない客を、人生でずいぶん多く見てきた。だから「余計なことを聞かない」ということに、ほとんど職業的な理解を持っている。
全員を一度に降ろしはしなかった。
エリザヴェータ、レイチェル、ヴィクトリアが先に入って交渉する。俺と林 雨瞳は車内待機、希が葉 綺安の様子を見る。記者三人組はまだ移動中で、俺たちと同時には現れない。この待機は十分だけだったが、半コマの審判みたいに長く感じた。この街は清潔すぎて、駐車が少し長くなるだけで神経が痒くなる。
バックミラーであの建物のドアを見つめながら、林 雨瞳に聞いた。
「ここ、何日持つと思う?」
「拠点としてだけなら、二日から三日」彼女は言う。「固定拠点にするには足りない」
「俺も同じ考えだ」
「グッドニュースは、私たちは最初から首都のどこかを好きになるつもりがない」
「その言い方、妙に恋愛遍歴を感じる」
彼女がちらっとこちらを見る。
「肩をまだ使いたいなら、今は軽口を叩かないで」
「了解。医療と元カノの二重脅迫」
彼女は無視して、また側面ミラーを確認した。
その十分間で、俺は初めてはっきりと感じた。「まず自分たちを人間に洗い直す」というのは比喩じゃなくて、今日の本当の中心軸だ。外見、リズム、説明、車、データ、感情、全部を普通の人間の方向に力任せに押しつける必要がある。押しつけ方が足りなければ、余計な視線を引く。押しつけすぎると、演じているように見える。この加減は、バストーニュで「どの火点が先に爆発するか」を判断するより、ずっと難しい。
エリザヴェータたちが出てきたとき、歩き方は変わっていなかった。大きな問題はなかったということだ。
レイチェルが車のドアを開けて、素早く言う。
「交渉成立。二階全体、部屋三つと小さなリビング、作業テーブルになるダイニング、裏に側階段があって直接中庭に出られる。現金、二日ごとに精算、パスポート登記なし、偽名と連絡先だけ。家主の条件は、警察を呼ばれるようなことをしないこと、深夜に遺体を運び出さないこと」
「その条件、だんだん俺たちの日常に近づいてきてるな」俺は言う。
ヴィクトリアが鍵を一本振った。
「気に入ったわ。条件が直接的で、高尚なふりをしない」
俺たちは二手に分かれて荷物を運び上げた。Vitoは先に中庭に入れて、屋根の下に斜めに停める。K7は後で入ってくる。同時に姿を見せない。この建物の階段は理不尽なほど狭くて、左肩が半分壊れている俺は軽いものだけ担当して道案内をするしかない。希は俺の後ろで冷たい目で監視し続けた。次の瞬間に俺が機材ケースを担いで「まだ男だ」を証明しようとするのを警戒しているみたいに。
「今日のあなたの最大の貢献は、裂けないこと」彼女は言う。
「その言葉、医療倫理の教材に載せるべきだな」
「私はどちらかといえば、警告事例の方よ」
二階の空間は外観より少しだけましだったが、本当に少しだけだ。壁はグレーがかった白、床は古く、窓枠から少し風が入り、家具はバラバラで、違う年代と違う破産した家庭からそれぞれ一点ずつ拾ってきて並べたみたいだ。でも利点は変わらない。閉められる、鍵がかかる、作業ができる、人を隠せる。そして裏窓から中庭と路地の半分が見える。居心地はよくないが、使える。今の俺たちにとって、使えることが美徳だ。
林 雨瞳が入って最初にやったのは座ることじゃなかった。各部屋のドア、窓、カーテン、コンセント、テーブルの上、死角を全部順番に確認していった。監視機器と盗聴器を探す動作が、もう生活習慣みたいに染みついている。彼女が部屋を一つずつ触っていくのを見ながら、俺たちの人生を不動産番組にしたら、番組名は『この部屋で死ぬ確率』になるだろうと思った。
K7が予定時刻に中庭へ入ってきた。シュトゥルムシュライターを積んだ車がようやく収まったとき、小さな中庭はどこか不格好なパズルが完成したみたいな見た目になった。記者三人組が機材を運び上げる。レミが撮影機材を抱える姿は、相変わらず自分の人生最後の職業的尊厳を抱えているみたいだ。
全員が揃ったところで、俺たちはダイニングテーブルの前でブリュッセル入城後の最初の正式な役割分担会議を開いた。
テーブルは小さく、椅子は快適じゃなく、窓の外には運河外縁の車の流れと遠くで路面電車がレールを擦る音がある。でもここはディナンの朝食テーブルより、本物の前線基地らしかった。今この瞬間から、俺たちは隠れているだけじゃない。この人間を食う書類棚の中で、自分たちで最初に開ける引き出しを選ぶ段階に入った。
エリザヴェータがスマホ、紙とペン、さっき買ってきたブリュッセルの簡易地図をテーブルに並べた。口調はいつも通り、慰めの要素ゼロだ。
「時間はない。まず分担、それから動く。英雄と経理を同時にやろうとするな、誰も」
「それ、チームの文化壁に貼るべき言葉ね」ヴィクトリアが言う。
「貼るのは後でいい。今は仕事」エリザヴェータは顔を上げない。
点呼が始まった。
「対外接触、住居、買い出し、交通拠点は妾、レイチェル、ヴィクトリアが担う。林 雨瞳はルート、撤退、監視、金流の初期解析。希は医療補給と日常状態の維持。葉 綺安は当面、対外露出なし、休養優先、必要なときだけ内部確認を担当——特に、ナチスの祭壇から持ち出した破片について。記者組は今日からバストーニュの映像切り分けを開始。公開版、封存版、保険版の三層。周 士達――」
俺を一瞥する。
「そなたは中心に座り、動き回らず、どの情報に触れる価値があり、どこが罠かを判断する」
「相変わらず抽象的な役職だ」
「あなたは元々、具体的なもので生きてないから」林 雨瞳が言う。
レミが手を挙げた。
「映像の切り分け、どこまでやればいいですか?」
その問いが出た瞬間、部屋の全員の視線がテーブルの上の三台のノートPC、二台の撮影機材、大量のメモリーカードに集まった。
これらは今、銃より扱いが難しい。
俺は椅子を少し引き寄せた。肩に響いて、表情が一瞬崩れる。希が無言で白い目を向けて、鎮痛剤を俺の近くに置いた。無駄な意地を張るなという意味だ。
「公開版に残すのは三種類だけ」俺は言う。「一、バストーニュの市街地の混乱と避難状況。二、政府接収前の不鮮明な戦闘ダメージ。三、通常の街頭衝突を超えた異常が起きたことは証明できるが、核心の仕組みを直接渡さない程度のもの」
クレールが素早く続けた。
「つまり、制御不能な感触は残す。解剖図は残さない」
「そうだ」俺は頷く。「封存版には完全な時間軸、異常な火力網、ドイツ軍実体化残兵、ナチスの祭壇の外殻と内外層の関連映像、それから俺たちの行動記録を残す。ただし封存版は一部だけじゃ駄目だ」
ジュリアンはすでにPCを開いて、フォルダを作り始めていた。
「三層バックアップ」彼女は言う。「オフラインのハードドライブ一部、暗号化してアップロード一部、バラして複数のメモリーカードと端末に分散一部。公開版はいつ奪われてもいい。非公開版は一気に持っていかれるな」
「人物も」林 雨瞳が補足する。「ジャック、神崎忠明、山口多聞、それから俺たち自身の具体的な身元と位置が特定できる映像は全部先に抜く。公開版を見た人間は、バストーニュで何か大きなことが起きたとわかる。『誰が』動いていたかはわからない」
レミが口の中で何か言った。
「この仕事を続けてたら、だんだん情報機関の外注みたいになってきた」
「あの距離で撮り続けたら、すぐ内注になるわよ」ヴィクトリアが言う。
「ありがとう、慰め方に深みがある」
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