200.痛い目を見て学ぶ 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
バストーニュを離れた後、世界はすぐには元に戻らなかった。
そんなことは最初から分かっていた。ただ人間というのは懲りない生き物で、戦場をバックミラーに追いやりさえすれば、前の道路が自動的にヨーロッパの観光パンフレットに戻ると、どこかで期待してしまう。木立、渓谷、石造りの古い家、コーヒーの香り、誰も機関銃を持って追いかけてこない朝。できれば朝日がフロントガラスを照らして、「お疲れ様、あとはゆっくり休んでください」と言ってくれれば最高だ。
現実はそこまで礼儀正しくない。
ディナンへ向かう道中、空は確かに少しずつ明るくなっていった。アルデンヌの森が、人を押し潰すような漆黒の塊から、湿り気を帯びた深い緑へと変わっていく。道路の両脇に石壁の古い家が時折現れるが、窓は全部閉まっており、昨夜この一帯全体が示し合わせて死んだふりをしていたかのようだ。さらに遠くの田畑と緩やかな丘は霧に押さえつけられており、風車と電柱だけが、あまり乗り気でない骨みたいに霧の外へ突き出ている。
だが、車内は観光パンフレットとは程遠かった。
Vitoの中には消毒液、血、汗、軽油、冷めたコーヒーが混ざり合った臭いが漂っている。暖房は入っているが、全員の体に染み付いた寒気はまだ抜けず、車全体が巨大な保存容器みたいだった。戦場から引き上げたばかりで、これからどうやって生き続けるかまだ決めていない人間を、とりあえず詰め込んでおくための容器。K7が後ろについてきており、バックミラーに時折その半壊した左前ヘッドライトが見える。朝靄の中でちかちかと光るそれは、機嫌の悪い一つ目の怪物みたいだった。
走り始めてだいたい二十分で、左腕が自分のものじゃなくなってきた。
痺れじゃない。鉛を熱して肩に詰め込まれたような、鬱陶しい重さだ。「おめでとう、それでもハンドルを握り続けてね」と言わんばかりに。歯を食いしばってさらに十数分粘ったが、最終的に、車のほとんどない分岐路でVitoを路肩に寄せた。
林 雨瞳がすぐに振り返った。
「顔色が悪い。」
「ありがとう。今日は言葉がやさしいな。」
「やさしくない。医学的な判断だ。」
後部座席の希が乗り出してきて、遠慮なく俺の首の横に触れ、続いて額に手を当てた。期限切れ寸前の肉を確認するような手つきだ。
「熱がある。」彼女はあっさり結論を出す。「傷口が機嫌を損ねていて、お前自身も機嫌を損ねている。運転を代わりなさい。」
「まだいける。」
「その台詞は、倒れる十分前の定番セリフ。」
葉 綺安が窓に寄りかかったまま目を開けた。退駕からまだ間もなく、目の下にうっすらと青みが残っている。声は軽いが、頭は俺より明らかに冴えていた。
「私が運転するのは無理。」彼女は言った。
「誰も頼んでいない。」俺は返した。
「お前が次に言う間抜けな提案を、先に潰してあげただけ。」
希はすでに俺のシートベルトを外し始めていた。
「林 雨瞳が運転する。」
「できる。」林 雨瞳はすでにドアを開けて降りながら言った。
男の沽券を守ろうとする気力は、もう残っていなかった。今の俺の沽券なんて、Vitoの側面の引っかき傷と同じくらい、昨日散々な目に遭ったのが一目で分かる状態だ。
交代するとき、冷風が一吹きして、危うくその場で完全に目が覚めて悪態をつくところだった。K7も後ろで停まり、ヴィクトリアが降りてこちらへ歩いてきた。どこかで掘り出してきたエナジードリンクの缶を持ち、窓を叩く。
「野良犬に噛まれた上に洗濯機で回されたみたいな顔してる。」
「これがヨーロッパ人の気遣いの表現か。」
「違う。『今死なないでくれ』という私なりの言い方。」彼女は缶を窓の隙間から押し込んできた。「K7はまだ走れるが、ハンドルが少し流れる。左前のサスペンションもおかしい。ディナンまで持つとは思うが、市内に入る前に見てもらった方がいい。」
「燃料は。」
「Vitoは半分以上残ってる。K7は三分の一を切ってる。ディナンに入る前に補給が必要。」
頷き、缶を開けて一口飲む。工業事故みたいな甘さだが、少なくとも口の中の血の味を押さえてくれた。
再出発してから、林 雨瞳の運転は俺より安定していた。遅いんじゃない——頭の中で、あらゆる道路状況、封鎖、監視カメラ、そして今この車に何人の「表に出せない人間」が乗っているかを全部計算した上で、アクセルを踏む深さを決めているような安定感だ。幹線道路と目立つ検問所を避け、普通の旅行者が真っ先に選ばないが走れないわけでもない道を選び続ける。こういう場面の彼女は、生まれつき撤退計画を立てるために生まれてきたような人間に見えた。冷静で、正確で、余計なことを訊かない。
車内はほとんどの時間、静かだった。
この静けさは平和じゃない。電池が切れかけているときの静けさだ。全員起きているが、話すために使える力が残りわずかだ。レミは昨夜の映像カードを整理しようとしたが、三つ目のポケットに分け終えたところで眠り落ちた。頭がクレールの肩に傾き、口が半開きになっている。クレール自身もまともな状態じゃないが、本能的に彼のメモリーカードのポーチのバックルを留めた。危険な小さな爆弾の巣を守るように。ジュリアンは最後列で装備バッグを抱え、窓の外を流れる木立を真っ直ぐ見ていた。ぼんやりしているのか、それとも昨夜見たものを一つずつ記憶の奥底に押し込もうとしているのか、判別がつかない。
葉 綺安は異様なほど静かだった。
退駕後の虚脱とは少し違う。自分の体と意識を、もう一度縫い合わせているような静けさだ。時折、自分の喉に手を当てる。今ここから出てくる声が、本当に自分の声かどうかを確かめるように。二度見て、結局何も訊かなかった。こういうことは、訊いても答えが出ないか、答えが多すぎて今の車内に収まらないかのどちらかだ。
背もたれに頭を預け、半覚半睡の中で、形にならない夢を見続けた。
ナチスの祭壇の内層で鋼架と符圧に縛り付けられていた骨の節が浮かんでは消え、バストーニュ外周の白いテントが見えたかと思えば、霧の中をヘリのライトが掃いてジャックの、炭と血で汚れた顔を一瞬照らしてまた消えていく。その間に意味のないものが次々と差し込まれる——高速道路の標識、ドイツ軍の鉄兜、医療用鉗子、割れたプールのタイル、そしてまだ送っていないメール。件名は空白、宛先も空白、ただ鬱陶しく画面の中に浮かんでいる。
傷を負って疲れ果てたとき、頭はこうなる。
強く叩かれた後も無理やり動き続けるラジオみたいに、全部の周波数が混線する。
次に目が覚めたとき、Vitoは高い林道を下り終えたところで、前方遠くに渓谷と開けた空が見えていた。太陽はようやくそれらしく昇っていたが、慰めにはならなかった。むしろ、車体の傷、全員の疲れ果てた顔、まだ洗い流せていない血の染みを、容赦なく照らし出していた。
林 雨瞳がバックミラーを一瞥した。
「K7はまだついてきている。」
「見えてる。」
「さっき二回ライトを点滅させた。」
かろうじて体を起こし、後ろを確認する。K7が二度ライトを点滅させ、続けて短くクラクションを鳴らした。
「停まるか。」俺は訊いた。
「前に小さなガソリンスタンド兼コンビニがある。セルフの洗車と簡単な整備スペースもある。」林 雨瞳は言った。「規模は小さいが、一息つくには十分。」
「人はいるか。」
「分からない。あまり多くないといいが。」
「その言葉、今日は祝福みたいに聞こえる。」
二十分後、俺たちはその場所に入った。
休憩所と呼ぶのも憚られる場所だった。田舎道の脇に無理やり作り上げた補給点、という方が正確だ。給油機が二台、ガラスドアのコンビニが一棟、駐車スペースが一列、その脇には空気入れとタイヤ圧チェック、簡単な洗車ができるコーナーがある。裏には小さな空き地、その奥は森だ。こういう場所の良いところは、大抵あまり管理されていないことだ。悪いところは、一度目をつけられたら、長く覚えられることだ。
だが、今の俺たちに選り好みする資格はない。
二台が停まるなり、希が俺を車から引きずり出した。
比喩じゃない。物理的な行為だ。片手で袖を掴み、もう片方の手でメディカルバッグを提げ、コンビニ脇の風の当たらない壁際へ直接引っ張っていく。
「座りなさい。」
「その口調、犬の訓練みたいだ。」
「犬は少なくとも、怪我をしたら大人しくしてる。」彼女は俺をプラスチック椅子に押しつけ、バッグを開けた。動きは軍需品を検品する業者みたいに素早い。「服を左半分だけ脱いで。」
「平和な時代なら、その一言はかなり含みがある。」
「今のあなたに一番必要ないのは含みよ。黙って。」
素直に外套を引きはがした。包帯を剥がした瞬間、昨夜薬で押さえ込んでいた痛みが一面から押し寄せてくる。鈍い刃で内側を掻き回されるような感覚だ。息を吸い込むと、希が一瞥して顔色を変えた。
「少し炎症が起きている。泣いて見せるほどじゃないのが救いだけど。」彼女は処置を始める。「昨夜の環境が汚すぎた。きれいに治まる方が無理な話。今できるのは洗い直し、包み直し、抗生物質をもう一クール。」
「注射か。」
「符水でも飲みたいの。」
「今なら誰が符水を持ってきても、真剣に検討する。」
彼女は鼻を鳴らして処置を再開した。その痛みは具体的で、ピンセットが破片を掴む位置、消毒液が裂け目に流れ込む方向、押さえるたびに腕全体が痺れていく感覚まで、精確に感じ取れた。奥歯を噛み締めて声を出さなかったのは、意地があったからじゃない。コンビニで棚卸しをしていた中年の店員がこちらを三度も見ていたので、組織抗争に敗れた生存者みたいな印象を、これ以上強化したくなかっただけだ。
反対側では、ヴィクトリアがレミとジュリアンを連れて車の処置をしていた。
Vitoにまず給油し、目立つ血痕と泥汚れを素早く拭き取る。尊厳のない作業だが、重要だ。車体に乾いた血の飛沫や肉片が残ったまま市内に入れば、「職務質問してください」と拡声器で宣言するのと変わらない。K7の方はさらに手間がかかった。左前輪は破裂していないが、サスペンションが確かに歪んでおり、ハンドルの戻りが不安定で、フロントバンパーの固定クリップも二つ脱落していた。レミが地面に伏せて半時間ほど確認してから、工具箱の中のタイラップ、テープ、スパナを取り出し、真剣な顔で記者版の野戦修理を始めた。
痛みを堪えながら一瞥する。
「いつから車の修理ができるようになったんだ。」
レミは顔を上げない。
「報道局の予算が厳しいと、全員が少しずつできるようになる。」
「感動的だな。」
「違う。ただの貧乏だ。」
クレールがコンビニで買い出しをして、両手いっぱいで戻ってきた。ペットボトルの水、エナジーバー、サンドイッチ、鎮痛剤、ウェットティッシュ、コーヒー二袋、あとは見るからに体に悪いが生きた人間が踏ん張るには最適な糖分の塊がいくつか。Vitoのエンジンフードに全部置き、分け始める。
「食べられるものは先に食べて。補給できるものは先に補給して。」ハムとチーズのサンドイッチを俺に投げてくる。「もう少しで透けて見えそうよ。」
「今の俺が一番透明なのは、医療費の請求書だ。」
「ならもう少し食べて、保険会社をもっと苦しめなさい。」
包装を開け、最初の一口を噛んだ瞬間、危うく感動しそうになった。美味しいからじゃない。昨夜から今まで、口に入れたのが「まともな食べ物」だったのは、これが初めてだからだ。血でも灰でも錠剤でも恐慌でもない、ただの食べ物。
葉 綺安はもう一つのプラスチック椅子に腰掛け、温かいコーヒーを両手で包んでいたが、すぐには飲まなかった。出発直後よりはずっと良くなっており、少なくとも顔に人間の色が戻り始めている。だが、彼女がまだ「ただの葉 綺安に戻る」という作業を懸命にこなしているのは、見ていれば分かった。
サンドイッチの半分を差し出す。
「少し食べろ。」
彼女は一瞥して受け取り、ゆっくりと噛んだ。飲み込んでから、低く言った。
「退駕の後、喉が変な感じがする。」
「歌いすぎた後みたいな?」
「誰かが間借りして、出ていく前に家具を全部ひっくり返していったみたいな感じ。」
「生活感のある比喩だな。」
彼女はわずかに笑った。浅い笑みだったが、少なくとも、戦場から拾い上げたばかりの抜け殻には見えなかった。
「お前は?」
「肩の中に電源を切り忘れた草刈り機を詰め込まれたみたいだ。」
「それでも生きているなら、上出来ね。」
この瞬間、馬三娘のあの刃の背で歯を叩くような話し方が、少し恋しくなった。少なくとも彼女が貶すときは、精確に貶した。退駕後に残った静けさは、こんなに穏やかじゃない。
補給の整理が一段落したところで、林 雨瞳が全員をVitoの周りに集めた。
正式な会議じゃない。睡眠不足で、服が汚れていて、傷だらけの人間たちが、給油したばかりのバンを囲み、コンビニで調達した紙ナプキンの上にボールペンで矢印を書いている。だが、こういう場面で下される決断が、どんな会議室のプレゼンよりも実際に命運を左右することを、全員が知っていた。
「現状を確認する。」彼女は言った。
彼女の話し方はいつも回り道をしない。
「人員について。重傷者なし——これは良い知らせ。全員が程度の差はあれ、脱水、睡眠不足、急性ストレス反応を抱えている——これは悪い知らせ。周 士達は肩の炎症あり、希が一時的に押さえているが、高強度の戦闘には向かない。葉 綺安は退駕直後、休養が必要。レミ、クレール、ジュリアンはまだ動けるが、精神的疲労が重い。ヴィクトリアと私は、まだ運転できる。」
「『まだ』は要らない。」ヴィクトリアがエナジーバーを噛みながら言う。「今この中で一番人間に近いのは私よ。」
「あまり誇れることじゃない。」俺は言った。
「少なくともあなたよりはマシ。」
林 雨瞳は話を脱線させなかった。
「物資について。医療消耗品は六割残存、抗生物質は限りあり、鎮痛剤はしばらく持つ。飲料水と携行食は一度補充済み、燃料もディナン到着後の機動分まで確保。映像データは分散保管で、今のところ安全。車両について。Vitoは長距離走行可能。K7は走れるが、悪路はこれ以上厳しい。」
紙ナプキンに丸を二つ書く。一つに「ディナン」、もう一つに「ブリュッセル」。
「問題はここから。次の目的地をどうするか。」
誰もすぐには口を開かなかった。
この二つの地名が「都市の選択」に聞こえて、実際には「次は潜伏するか、息を整えるか、それとも最大の嵐の中心に自ら飛び込むか」という問いだと、全員が分かっていたからだ。
俺が先に口を開いた。
「今すぐブリュッセルには入らない方がいい。」
レミが顔を上げる。
「首都は監視が多すぎるから?」
「それだけじゃない。」俺は言った。「バストーニュの昨夜の件は、表向きは地方の事故として軍と警察が封鎖しているが、少しでも頭が回る人間なら、あれが普通じゃないと気づいている。ブリュッセルにはすでに情報が流れているはずだ。傷だらけの二台の車で、顔色が強制収容所から逃げ出したばかりみたいな人間を載せて、説明のつかない映像データと素性の怪しい連中を抱えたまま乗り込んだら、自分から荷物を届けに行くようなものだ。」
ジュリアンがコーヒーを抱えながら頷いた。
「首都には記者もいる、監視カメラもある、ホテルの登録がある、駐車記録がある。姿を消したいなら、デジタルの足跡を一番残しやすい方法だけは避けるべきだ。」
クレールも続ける。「でも、ずっと小さな町に留まるのも無理。医療、ネット、情報、人脈——最終的には大きな都市に頼らないといけない。」
「行かないとは言っていない。」俺は動く方の手で紙ナプキンのディナンの丸を叩いた。「先にディナンで息を整える。洗って、補充して、人員を立て直してから、どう入るか決める。首都は避難所じゃない、別の種類の戦場だ。入るなら人間らしく入る。逃亡者と証拠物件が混ざったような格好では入らない。」
希が注射器を片付けながら同意した。
「医療的には停止を支持する。少なくとも、彼の傷をちゃんと処置できる場所が必要。このままブリュッセルに入る前に、車の中で腐り始めるかもしれない。」
「その描写、絵が浮かびすぎる。」俺は言った。
「専門的な表現よ。」
葉 綺安がゆっくりと口を開いたのは、そのときだった。
声はまだ軽かったが、言葉は正確だった。
「もう一つ理由がある。」彼女は紙ナプキンの二つの丸を見ながら言った。「バストーニュから持ち出したものが、本当にバストーニュに置いてきたかどうか、先に確認する必要がある。」
全員が彼女を見た。
彼女は眉間を揉み、言葉を整えるように少し間を置いた。
「誰かに何かが憑いているという意味じゃない。」彼女は言った。「少なくとも今は、直接体に張り付いている感覚はない。でも、ナチスの祭壇が崩壊したとき、溢れ出たのは制御不能になった残兵の切片だけじゃない。ああいうノードが裂けたとき、周辺から別の何かが引きずり出されて、人について走ったり、物に残留したりしないかどうか、私には確信が持てない。ディナンで一度止まって確認する方が適切だと思う。今のままブリュッセルに入って、問題を持ち込んだ場合、後始末はずっと厄介になる。」
この一言で、その場の空気がまた一段沈んだ。
大袈裟な警告じゃないからだ。
あのナチスの祭壇の中身を、全員が自分の目で見ている。屍骨と鋼架と軽油エンジンと符圧を継ぎ接ぎした代物が崩れた後、何か見えないが車についてくるものが残っていないか——誰にも断言できない。
林 雨瞳はしばらく沈黙し、頷いた。
「ならディナンを先にする。」
誰も反対しなかった。
決定が下りると、全員の体が少し緩んだ。安全になったからじゃない。精神も体力も底を突いた状態で、これ以上先の三日間を一気に考え抜かなくていいと分かったからだ。今日を乗り切る、車を直す、傷を押さえる、何かが後部座席についていないか確認する——それだけで、首都の政治よりずっと今の俺たちに合っている。
ヴィクトリアが最後のタイラップを引き締め、K7のフロントバンパーを軽く叩いて満足そうに立ち上がった。
「良い知らせは、とりあえずバラバラにはならない。」
「悪い知らせは?」レミが訊く。
「人生について言うなら、たくさんある。」彼女は言った。「車について言うなら、もう少し走れるが、ディナンに入ったらまともな修理屋を探すこと。」
「人生と車を同列に並べるのは、どっちにも失礼だ。」俺は言った。
「でも正確よ。」
店員が四度目のこちらへの視線を向けたとき、休憩を終える潮時だと分かった。こういう場所で一番危険なのは、誰かに即座に見破られることじゃない。「あいつら変だったな」と思われた人間が、暇なある午後にそれを別の人間に話すことだ。
ゴミを片付け、補給品を二台に振り分け、水と食料を取り出しやすい場所にそれぞれ置いた。レミはわざわざコンビニへ走り、ひどく野暮ったい野球帽を二つ買ってきて、顔を隠すためだと言った。その色の組み合わせを見て、これを被ったら逆に覚えられると思ったが、黙っておいた。
再出発の前に、ふと振り返ってこの小さな補給点を眺めた。
陽光がようやく少し温かくなり、給油機、砂利の地面、コンビニのガラスドア、そして俺たちの二台の汚れた車を照らしていた。その光景は、何事もなかったかのように平凡だった。だが、そうじゃないことは分かっている。昨夜のあれこれは、夜明けが来たからといって自動的に消えるわけじゃない。車を少し遠くへ走らせたからといって、本当に振り切れたわけでもない。
ただ、まだ追いついていないだけだ。
Vitoのドアを開けて乗り込み、シートベルトを留めた瞬間、俗っぽいが本物の感覚が来た——ある世界から別の世界へ、数時間分の滞在許可を一時的に借りてきたような感覚。
林 雨瞳がエンジンをかけ、振り向いて訊いた。
「少し眠れる?」
目を閉じる前に、前方の道路を一瞥した。
「ディナンに着いてから考える。」
彼女は鼻を鳴らした。
「その言い方、『まだいける』と同じくらい信用できない。」
「仕方ない。俺の人格的魅力の延長だから。」
「その魅力が昼まで持てばいいけど。」
K7が後ろでライトを点け、ついてくる。二台は再びその小さな補給点を離れ、ディナンへ向かって走り出した。前方にはまだ長い道がある。渓谷、石造りの街、橋、休息、修理、血を洗い落とし、包帯を替え、そして後部座席に乗り込んできた、まだ触れていない問いかけ——ブリュッセルへ入るかどうか。
答えはそう急がなくていい。
だが、それはもう確かに、俺たちと一緒に乗り込んでいた。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




