199.瓦解 4
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
体育館外周まで撤退したとき、最初に浮かんだのは「ようやく戻った」じゃなかった。
「人間が死にかけているとき、安全区でさえ廃棄場に見えるんだな」という感想だった。
北側の外壁はもう壁じゃない。
砲撃で吹き飛ばされ、土嚢、体育器材、割れたドア板、ひっくり返った二台のバンで無理やり繋ぎ合わせた代物だ。探照灯は前の砲撃でとっくに全滅しており、仮設電線に繋いだ工事用ランプが数個だけ、白く冷たい光を放っている。煙、灰、血、人の顔——全部が遺体安置所みたいに照らし出されている。壁の後ろで撃っている者、負傷兵を引きずる者、怒鳴っている者、座標を叫ぶ者、そして腹を割かれたベルギー人警察官の腸を押し戻そうと膝をついている者。場面は忙しく秩序立っており、その秩序は干上がりかけた油鍋のようにぎりぎりだった。
ジャックが俺の防弾ベストの後ろ襟を掴み、ほとんど提げるようにして隙間へ押し込んだ。
「さっさと動け、英雄。」息は牛と格闘した直後みたいに切れているくせに、口だけは相変わらず殴りたくなる調子だ。「死ぬなら中に入ってから死ね。入口を塞ぐな。」
「自分でここに寝転がりたいわけじゃないのに。」口の中は鉄錆の味で、一言喋るたびに血を二口咳き出したくなる。「俺がこんな歩き方になったのは、お前たちの救援の品質のせいかもしれないとは考えないのか。」
「考えたよ。」ジャックは言った。「でも文句が言えるなら、品質は悪くない。」
神崎忠明は俺たちの右三歩のところで、割れたコンクリート柱の後ろに半跪みになり、短いバーストを正確に叩き込んでいた。この男は肩が一度縮むだけで、向こうが一人減ったと分かる。頭も回さず、冷たく一言投げてくる。
「止まるな。北側の火力網はきれいに断ち切れているが、完全じゃない。ドイツ軍外周がまだ噛み直そうとしている。」
分かっている。
誰よりも分かっている。
俺たちの背後の夜が、まだ動いているからだ。
単純な追撃じゃない。あの気配はもっと不快で、もっと理不尽だ。ナチスの祭壇が崩壊したことで、鋼線のように張り詰めていたものが全部ほどけた。数ブロック先の廃墟の上から黒い煙が立ち上っているが、普通の火煙の渦巻き方じゃない——何かが中で呼吸しているような揺れ方だ。断ち切れた観測網、脱落した歩兵の切片、回収し損ねた怨念、祭壇の内層に無理やり形を与えられたドイツ軍の残影——全部が今、制御を失っている。
街灯の残骸の下から、ドイツ兵の影が二つよろめき出てきた。人間の歩き方じゃない——見えない糸に引きずられているような動きだ。左側の一体は上半身がまだ原形を保っているが、右側の一体は胸に大きな穴が開いており、内臓はなく、黒く光る何かが滴り落ちているだけだ。
外周の機関銃手が一連射浴びせた。
最初の一体が後ろへ折れ、布人形のように倒れる。二体目はすぐには倒れず、光の中で二歩踏ん張ってから、中央から裂けるように崩れ落ちた。骨、布、灰黒色の液体が一緒に崩落する。
傍のフランス人義勇兵が低く悪態をついた。声が掠れていた。
「見るな!」誰かが怒鳴る。
問題は、それが目に見えるだけじゃないことだ。
音も出す。
口から出る声じゃない——亀裂から、骨の隙間から、鉄兜の下から漏れ出してくる音だ。八十年前の戦場の雑音を何種類か混ぜ合わせて外へ垂れ流しているような。ドイツ語の号令、履帯が泥を踏む音、負傷兵の泣き声、無線の電流音、祈りの言葉、そして人間の発声器官では絶対に出せない摩擦音が、全部重なって流れてくる。もともと耳鳴りがひどかった俺には、こめかみに釘を打ち込まれるような感覚だった。
馬三娘は俺の左前方を歩いていた。市場で野菜を選ぶような、速くも遅くもない足取りで。葉 綺安の体は明らかに衝撃を受けており、足首も袖口も泥と血で塗れているが、背筋は真っ直ぐで、頭は一度も振り返らない。冷たく言った。
「後ろを見るな。振り返った人間は、奴らに匂いを覚えられる。」
一息ついて、ずり落ちかけた銃帯を肩に引っかけ直しながら返す。
「今頃言うのは遅くないか。」
「お前がまだ死んでいないなら、遅くない。」
実に馬三娘らしい言葉だ。慰めも励ましもなく、ただ事実を述べて、ついでに踏みつけていく。
外壁の隙間の後ろで、誰かが俺たちを認識した。まず二声の大声、それから次々と人が集まってくる。俺を支えようとする者、馬三娘に手を伸ばそうとする者——その手が届く前に、馬三娘がちらりと横目で見ただけで、そのカナダ兵は素直に手を引っ込め、ジャックの弾薬箱を運ぶ方へ移った。
臆病だからじゃない。今の彼女の様子は、見知らぬ人間が気軽に触れていいものじゃなかった。
葉 綺安はもともとカメラに映えるような顔だ。だが今は、内側から別の何かに押し広げられているように見える。目が明るすぎる——生きた人間の輝きじゃなく、古い屍蝋燭の、冷たく真っ直ぐな光だ。口元はほとんど動いていないのに、出てくる声は古い舞台の木板一枚を隔てたような、乾いて、掠れて、残響を帯びている。外国人たちは幽霊も、切片も、ドイツ軍の残影も見てきた。だが至近距離で神降りを目の当たりにするのは、また別の話だ——恐怖というより、「今夜はまだこれ以上おかしくなれるのか」という麻痺した衝撃だった。
レミが土嚢の後ろにカメラを抱えてしゃがみ込んでいた。レンズが先に俺の肩の血を捉え、次に馬三娘の顔へと滑っていく。喉が一度上下し、それでもフォーカスを安定させることを忘れなかった。
「まだ繋がってるのか?」レミがジャックに訊いた。
ジャックは俺を中へ押し込みながら答えた。「不幸中の幸いってのは、こういうことを言うんだろうな。」
二つ目の遮蔽帯に踏み込んだ瞬間、背後の街角が突然光った。
砲撃じゃない。
何かが内側から自分で燃え上がったような光だ。黒煙の中でハーフトラックの残骸の一部が突然弾け上がり、半回転してから地面に叩き落とされた。続いて二つのドイツ兵の影が煙の中から飛び出してくる。一体は断ち切れた電話線をまだ体に絡ませており、もう一体は見えない何かに首を掴まれているように頭が後ろへ反り返り、あり得ない角度のまま走り続けていた。
「撃て!」誰かが怒鳴る。
外壁の上から数挺の銃が一斉に押さえ込み、弾丸がその二体を布切れにした。だがそれで終わりじゃなかった。後ろから三体目が這い出てくる。今度は人の形をしていない——軍用毛布、鉄兜、砕けた骨が誰かに乱雑に包まれて放り出されたような塊で、それでも動いていた。
二度見ただけで分かった。ドイツ軍の反撃じゃない。ナチスの祭壇が崩壊した後、回収しきれなかった「素材」が外へ漏れ出しているんだ。
「火炎瓶!」神崎忠明が一喝した。
二本の火炎瓶がほぼ同時に飛び出し、隙間の外三十メートルに叩きつけられた。炎が上がった瞬間、その塊は光を見たゴキブリのように痙攣し始め、中の布、骨、黒い油が一緒に燃え上がった。炎の中から人間の発声器官では出せない短い絶叫が漏れ、その場にいた全員の後頸を一瞬撫でていった。
それから、動かなくなった。
俺はその場に立ちつくし、突然、膝が折れた。
比喩じゃない。本当に折れた。
限界まで張り詰めているとき、人間というのは不思議なもので、命の半分を引きずりながらでも走り続けられる。だが味方の消毒液の臭いを嗅ぎ、味方の土嚢の列を見た瞬間、体が一斉に清算を始める。左肩の傷が一面に燃え上がり、胸と脇腹は一息ごとに抗議し、耳鳴りが「ジー」から「ドン」に変わり、目の前の白い工事灯が二本に分裂して揺れた。
ジャックが即座に後ろ手で俺を支えた。
「おい、ここで死んだふりをするな。中はもう満員だ。」
「俺が場所を選んでると思ってるのか。」
「その傾向はある。」
言い返そうとしたが、口を開いた瞬間に灰混じりの血の泡が出た。ジャックの顔から、ようやく憎たらしい表情が消えた。喉を張り上げて中へ向かって怒鳴る。
「医療班!希を呼んでこい!それと指揮系統に伝えろ、あいつが戻った!」
その一言が蜂の巣に棒を突き込んだように効いた。
一気に全員が動き出す。
臨時医療区はプールの脇の管理通路に設けられていた。水着やスナックを売っていたカウンターは全部解体され、ガラスの破片は壁際に掃き寄せられ、その上に点滴袋、包帯、止血鉗子、どこかから掻き集めた獣医用器材が並んでいる。消毒液の匂いは血の臭いを押さえきれず、湿ったコンクリートとカビと軽油の臭いも混ざっている。床には防水シートが敷かれ、その上に人が横たわっている。生きている者も死んでいる者も同じように静かで、近づいて初めてどちらがまだ息をしているか分かる。
二人に引きずり込まれたとき、希はある負傷兵の太腿の付け根から止血帯を外しているところだった。手袋が血だらけだ。俺を見た瞬間、顔色が一瞬白くなり、次の秒には完全に仕事モードへ切り替わっていた。
「ここに置いて!急いで!」折り畳みテーブルを一叩きし、すぐに振り返って怒鳴る。「生理食塩水!ハサミ!清潔なガーゼ!誰が私のリドカイン持っていった!」
「持ってない。お前の後ろにある。」ヴィクトリアが向こうから返した。
「なら渡してよ!」
二人の罵り合いはよく噛み合っており、手も止まらない。テーブルに押しつけられた瞬間、希が左肩の外套をハサミで切り開いた。布が剥がれ、冷気が傷口に当たった瞬間、視界が一瞬暗転した。
「弾丸は残っていない。破片あり、熱傷と挫裂創の複合、二次断裂も。」希は低頭して一瞥し、メニューを読み上げるような平静さで言った。「おめでとう。昨日より縫いにくくなってる。」
「ありがとう。励みになる言葉だ。」
「黙ってた方が血が節約できる。」
彼女はハサミで傷口に貼り付いた布を少しずつ切り開いていく。自分の肩を見下ろすと、正直、少し吐きそうになった。皮と肉が大きく削れており、周囲が焦げ黒くなり、不規則な金属片がいくつか食い込んでいる。この手の傷が一番厄介だ。致命的じゃないが、一動作ごとに生きていることを後悔させてくる。
馬三娘がテーブルの脇に立ち、俺を見下ろしていた。目は相変わらず冷たい。
「手間をかけさせるな。」
「今かけてるのは血であって、手間じゃない。」
「同じことよ。」
周囲の見知らぬ外国兵が何人か盗み見ていた。彼女が振り向いた瞬間、その数人が一斉に忙しそうに箱を運んだり、弾倉を交換したり、銃を磨き始めたりした。文明社会の礼儀正しい距離感が漂う。
希が消毒液を含ませた綿を傷口に直接押しつけた瞬間、俺は危うくテーブルを蹴り飛ばすところだった。
痛みじゃない。一面の炎だ。
奥歯が軋むほど食いしばり、手の甲の青筋が全部浮き上がり、視界が光の輪だけになる。希の片手が肩を死ぬほど強く押さえつける——私怨を晴らしているみたいな力だ。
「動くな。」彼女は言った。「動いたら、麻酔なしで縫う。」
「今もそうじゃないのか。」
「これは基礎教育。」
ジャックが壁に寄りかかって弾倉を交換しながら、それを聞いて笑った。
「俺、彼女が好きだ。」
「黙れ。」俺と希が同時に言った。
通路の奥から、林 雨瞳がようやく現れた。
外套のボタンは半分しか留まっておらず、袖口に灰が付いている。顔色は三日連続で徹夜した人間のそれだが、目だけはいつも通り、入室した瞬間に周囲の雑音を全部切り落とす目だ。後ろには神崎忠明、山口多聞の残像投影、ヴィクトリア、レミ、クレールが続いている。戦況報告を聞きに来た者、俺が本当に生きているか確認しに来た者、今夜はもう何があっても驚かないと腹を括って情報拠点から離れられない者——それぞれの理由で集まっていた。
林 雨瞳はテーブルの脇に来て、まず俺を見て、次に馬三娘を見て、すぐに本題へ入った。
「話せるか。」
息を整えて、頷く。
「話せる。訊いてくれ。」
無駄な時間は使わない。
「ナチスの祭壇の状況。」
「内層は破壊済み。表面的な損傷じゃない——核心樁体を二度斬り込んだ。」そこで一度止まった。希がピンセットで金属片を一つ抜いた瞬間、テーブルから跳び上がりそうになり、悪態を一つ吐いてから続ける。「外殻は工業的な偽装で、中は単純な祭祀空間じゃない——鋼架、軽油エンジン、縄結び、符圧、屍骨樁を複合編成した、実体化を維持するための制圧システムだ。もともとドイツ軍の火力網の定相を担っていた。特に観測と校正射撃の部分を。」
神崎忠明が一度頷く。外周で観測された混乱と一致するということだ。
林 雨瞳の問いが加速する。「破壊の程度は。」
干上がった唇を舐めてから答える。
「保守的に見て七割以上。原位置での復元は不可能。近くに代替ノードを新設する可能性はあるが、そう早くはできない。内層は今『壊れた』状態じゃなく、『反噬』している。停止じゃなく、噛み返している。」
言い終えると、馬三娘がようやく口を開いた。
「核心樁は断ち切っただけじゃない。妾が霊路を開いた。」
彼女の声が出た瞬間、通路全体が一瞬静まり返った。
「あれはもともと、死んだ兵、怨念を帯びた骨、古い戦場と、この地の新たな死者の混気を借りていた。今や骨樁は断たれ、気路は乱れ、鎮釘は位置を失った。外の残兵、残影は、しばらくの間は思い通りに動かせまい。」
山口多聞の残像が灯りの下に立ち、わずかに頷いた。
「つまり、ドイツ軍は一時的に重要ノードを失ったということだ。」
「一時的に。」馬三娘は彼を一瞥した。「『一時的』を『永遠に』と聞き違えるな。向こうにより上位の主持者がいれば、別の場所に新たに組み直せる。ただし今夜この一口は、奴らには相当苦いはずだ。」
林 雨瞳が即座に次の問いを重ねる。
「我が方への最も直接的な影響は。」
今度は俺が答える。
「北線の圧力は下がる。だが、すぐにきれいになるわけじゃない。外周では制御不能の切片、残留実体、誤射が続く。簡単に言えば、向こうは今、縛っていた猟犬の群れを一斉に放したようなもので、奴らは乱咬みする——味方にも。帰り道ですでにハーフトラックの誤動、機関銃班の脱節、歩兵への命令断絶を確認している。反攻で一定距離を押し返すなら今が窓口。固守するにしても、少なくとも今夜の北側は少し息ができる。」
レミが素早くメモを取っており、ペンが追いつかないほど手が震えていた。支線の質問を挟みたそうだったが、林 雨瞳は誰にも割り込ませなかった。
「敵内層の守備は。」
「第二層がある。機械室にも地下室にも見える場所で、近距離の反応が速く、入れる人間は限られる。中を守っているのは一般歩兵じゃない——核心と連動した近衛切片で、外の連中より硬く、死を恐れない。」少し間を置き、希が肩に最初の一針を入れる痛みを堪えてから続ける。「馬三娘がいなければ、二撃目には届かなかった。」
ジャックが壁から一言補足した。「修正しよう。彼女がいなければ、最初の一分も持たなかった。」
「ありがとう。相変わらず温かい戦後評価だ。」
「俺はリアリスト派だ。」
希がまた糸を引いた。俺は思わず冷気を吸い込んだ。
「二人とも、口喧嘩は別の場所でやって。」彼女は言った。「ここは医療区。漫才の舞台じゃない。」
ヴィクトリアが新しいガーゼの袋を渡しながら付け加えた。「それに観客も死にかけてるし。」
この一言は黒すぎた。だが、その場にいた二、三人が実際に笑い声を漏らした。面白かったからじゃない——疲れ果てて、こういう笑いしか残っていなかったからだ。
林 雨瞳は笑わなかった。
手元の略図を持ち、ペンの先が北側、鐘楼の斜面、教会の斜線の間を素早く点で叩く。
「ならば、ドイツ軍が今最も動く可能性が高いのは、別のノードで観測網と歩兵連絡を接収しようとすることだ。鐘楼、教会、北東路口、それとも湖方向の線か。」
目を閉じ、ナチスの祭壇の内層で見たものを記憶から無理やり引き出す。あの糸、あの骨の節、発電機にも供物台にも見えたあの装置たち、そしてそれらと市街の他の火力点の間にある、言葉では説明しにくいが一目で繋がっていると分かる関係性。
「鐘楼はまだ重要だが、今は唯一じゃない。」俺はゆっくり言った。「奴らはもともとナチスの祭壇で北側の火力をまとめて一つの拳に束ねていた。今その拳が崩れたから、短時間のうちに多点支持に切り替えてくる。教会の斜面にはまだ観測が残っている可能性がある。北東路口は機関銃と迫撃砲の補充に適している。だが本当に危険なのは、俺たちがまだ掴んでいない小ノードだ——地下室、倉庫、ガレージ、民家の祭壇まで。向こうのやり方は大きな舞台だけじゃない。小さな舞台も組んでくる。」
林 雨瞳は二秒沈黙し、頷いた。
「了解した。第一ラウンドの結論——北側の大型ノードは破壊済み、敵火力網は一時的に乱れているが、霊異の反噬は拡散を続ける。ドイツ軍は多点分散による接管に転換する可能性が高い。今夜は反攻と防衛再編の窓口が存在するが、高リスクの異常接触を伴う。」
神崎忠明が横から補足した。「外周巡回を二重にする。残留切片を発見した場合、捕捉は求めない。即時焼却のみ。」
山口多聞もゆっくりと言葉を継いだ。「湖上からもう一度圧力をかけることはできる。だが、より精確な地上からの報告が必要だ。敵のノードが小型化すれば、艦砲は万能薬ではなくなる。」
「最初から万能薬じゃない。」俺は掠れた声で言った。
山口の口元が、わずかに弧を描いた。
「ようやく海軍を尊重する気になったか。」
「なってない。死にかけてるから、口論する気力がないだけだ。」
この一言で、林 雨瞳まで目を上げて俺を見た——基本機能がまだ残っているかどうか確認するように。確認が済むと、彼女はペンを収めた。
「第一ラウンドの報告はここまで。」
つまり、任務は引き渡した。情報は全部吐き出した。次はようやく、俺の血と骨が今夜のスケジュールに入れてもらえる番だ。
全身の力を抜いた瞬間、本当に意識が落ちかけた。
ちょうどそのとき、馬三娘が一歩前に出て、俺のベッド脇に立った。通路はもともと暖かくなかったが、その一歩で気温がさらに二度下がったような気がした。彼女は俺を見下ろし、その瞳の奥にあった、葉 綺安のものではない光が、ゆっくりと退き始めていた。
「悪くなかった。」彼女は言った。
その言葉が彼女の口から出るのは、鎮痛剤よりも稀少だ。
俺は目を上げ、かろうじて口の端を引き上げた。
「その評価、冥府の年末考課みたいな言い方だな。」
「生きて考課を受け取れるなら、それだけで御の字よ。」
言い終えると、彼女は手を伸ばし、俺の額の前で虚ろに一点を触れた。
皮膚には触れていない。だが、眉間から細い氷の針を一本抜き取られたような感覚があった。葉 綺安の肩がわずかに揺れ、目の中の冷たい炎がついに消えた。内側で何かが無理やり張り詰めていたものが抜けたように、疲労と蒼白さと、人間本来の重さだけが残った。
彼女が横へ傾いた。ヴィクトリアと希の後ろにいた看護師が即座に支えに入る。
退駕した。
通路全体が、誰も声を出さなかった。
外ではまだ戦闘が続き、遠くで砲声が響き、担架が出入りし、負傷兵が呻いている。だがその短い間隙の中で、俺にははっきりと感じられた——俺たちは今、もっと悪い場所から、力技で自分たちを引きずり戻してきたんだと。
林 雨瞳が最後に俺を一瞥した。
「まず生き延びろ。次のブリーフィングは、もう少し死体に見えなくなってからでいい。」
「それはなかなか高い要求だ」と返そうとしたが、希がすでに新しいガーゼを肩に押しつけており、視界が一瞬暗転した。冷気を一口吸い込むことしかできなかった。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




