196.破敵の計 3
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
悲鳴もない、後ずさりもない。ただ純粋に見た。今日これだけの超自然現象を目にしてきて、もう一つ増えたところで、外のパンサーの履帯が死体を踏みにじる音より不条理なわけがないと、全員が分かっているからだ。
葉 綺安の上着を着直し、髪を結い上げ、手首の赤い糸はそのままで、眼差しだけが完全に別人だった。歩きながら衿元を引き正すその仕草は、どこか余裕すら感じさせた。封鎖線を突破しに行くのではなく、誰かの葬儀場に乗り込みに行くような、あの落ち着きだ。
希が彼女を見て、一瞬固まった。思わずつぶやく。「葉 綺安……」
馬三娘は足を止め、振り返った。
その一瞥には凄みはない。だが葉 綺安が普段持っている温度でもなかった。
「牛小琴。」彼女は希に答えず、希の後ろに薄らと存在している牛小琴に向かって言った。「ここは頼んだよ。」
希は二秒ほど固まってから、三娘が誰に話しかけていたか理解して、うなずいた。
「……分かった。私と小琴に任せて。」
レミがカメラを抱えながら、クレールに小声で言った。「もう何が賞を取れて、何が先に精神科に行くことになるのか、全然分からなくなってきた。」
クレールが小声で返した。「両方あり得る。」
ジュリアンはまだ書いていた。手が少し震えているだけで。
「決めた。」彼女は言った。「生きてここを出られたら、政府の記者会見が退屈だなんて、一生文句を言わない。」
「なら生きて出ろ。」俺は言った。
彼女は顔を上げて俺を見て、うなずいた。今度は言い返さなかった。
林 雨瞳が最後の配置を固めた。
「神崎忠明は北口正面を守る。ジャックは五人連れて内線を補充。ヴィクトリアは後送と物資の圧縮を引き継ぐ。希は西側に留まり、命令なしに前に出るな。記者組は地下廊下の範囲から出ない。撮影は許可する。立ち上がって死にに行くのは不可。」
クレールがすぐに抗議した。「それは不公平よ。」
「戦場は元から不公平だ。」林 雨瞳が一言で押し返した。「公平が欲しければ、来世に期待して。」
ジャックは配置の説明を聞き終えると、俺の前まで歩いてきて、手を差し出した。
俺は彼を見た。
「なんだ?」
「握手だ。」彼は言った。「後で気恥ずかしくなる前に済ませておく。」
灰と血まみれのその手を一秒見てから、俺も手を伸ばして軽く触れた。
握り終えると彼はすぐ引いた。弾倉を一つ手渡すのと変わらない、あっさりした動作だった。
「外で死ぬなら、俺が見つけられる場所を選べよ。」
「まだそれを言うか。」
「迷子になりそうだから。」
「心配するな、俺は頑丈だ。」
ジャックはうなずいた。
「その点は信じる。見た目が爆発に強そうだ。」
言い返そうとした瞬間、胸の懐中時計がまた熱を持った。
さっきより、ずっとはっきりと。
取り出して蓋を開けると、中の暗い光が誰かの指で一周かき回されたように揺れていた。人影はない。ただ山口多聞の声だけが、分厚い霧の向こうから薄く漏れてくる。
「第二波、開始する。」
俺は顔を上げた。
遠くの夜空が、また一瞬明るくなった。
「あと何波いける?」俺は低く聞いた。
「お前たちが外に出るには十分だ。」山口多聞の声は平らだった。「欲張るな。飛龍の残影で視線を切れる回数は限られている。歩く代わりにはなれん。」
「分かってる。」
「それと、周 士達。」
「なんだ。」
「生きて帰れ。代価はそれで初めて意味を持つ。」
俺は冷たく笑った。
「借金取りってのは、どいつもこいつも同じ口の利き方をするな。」
懐中時計の中から、ごく薄い笑い声が聞こえた。それから暗い光が沈んでいった。
蓋を閉じる。
馬三娘が隣に立って、俺の胸元の金属を見ていた。その目の奥に、俺には読めない何かが一瞬よぎった。
「海の古い鬼かい?」彼女は聞いた。
「ああ。」
「随分と大きな口を利くじゃないか。」
「あんたも負けてない。」
彼女はふっと笑った。
「だから釣り合いが取れるんだよ。」
外の砲声が密になり始めた。
俺たちの銃でも、ドイツ軍の迫撃砲でもない。もっと遠く、もっと重く、もっと理不尽な何かが、城外のいくつかの地点を叩いている。一発一発が、空全体を使って地面を殴りつけているみたいだ。北口外のハーフトラックが一時的に沈黙し、ドイツ軍の怒鳴り声が乱れた。外周陣地がまた、湖の向こうの「それ」に掃かれたらしい。
窓口が開いた。
林 雨瞳が深く息を吸い、俺を見た。
「行って。」
俺はうなずいた。
馬三娘は上着の裾を後ろへ払い、腰の側面を露わにした。中に入るとき持っていなかったはずの短い武器が、そこにあった。現代の刃物でも軍用銃剣でもない。細く、冷たく、古い時代の殺気を帯びている。パンサーがいて、ハーフトラックがいて、迫撃砲がある戦場に、本来あるはずのないものだ。
だが今この場で、いちばん理屈に合わないものが、たいていいちばん役に立つ。
俺は消防斧を腰の後ろに固定し、短銃を確かめ、地図をしっかり押し込んだ。ジャックが俺の衿を引き正した。車の修理でもしているみたいな、雑な手つきで。
「北側の排水路、二分後に火力の空白が一瞬できる。」彼は言った。「神崎忠明が向こうの視線を正面に引きつける。出たら、振り返るな。」
「結婚式の見送りみたいな言い方だな。」
「88ミリ砲に狙われる結婚式なら、だいたい同じだ。」
俺は彼を見た。
「ありがとう。」
ジャックは一瞬固まった。まともな言葉が来るとは思っていなかったらしい。それからすぐに、面倒くさそうな顔に戻って返した。
「よせよ、俺はまだ死んでない。」
「だから生きてるうちに言った。」
彼は悪態を一つ吐き、すぐに背を向けて歩き去った。一秒でも長く立っていたら、人間らしく見えすぎると思っているみたいに。
林 雨瞳が北側の設備室に繋がる小さな扉を引き開けた。冷たい風が煙灰を連れて吹き込んでくる。街全体が燃えて、燃え尽きないまま残っている匂いだ。外は暗い。だがその暗さは安全じゃない——砲火、探照灯、炎に交互に舐められた後、短い時間だけ残った隙間の暗さだ。
神崎忠明が前方の掩体の端に立って、こちらを一度だけ振り返った。
一度だけ。
余計な言葉はない。
その目が言っていた——俺がこの一口を支えてやる。無駄にするなよ。
俺はうなずいた。
馬三娘が俺の横を通り過ぎた。湿った地面を踏む足音が、葉 綺安の普段の軽い歩き方とは全く違う。重く、安定していて、一歩一歩、あらかじめ寸法を測り終えたように確かだ。
彼女は扉口で立ち止まり、体育館全体を最後に一度だけ見渡した。
メルシエ・モーテルの薬箱。ラック・ド・ラ・オート=シュール(ラック・ド・ラ・オート=シュール(Lac de la Haute-Sûre))から届く遠い砲声。飛龍の残影が壁面を横切る冷たい光。傷兵のうめき声。記者たちのレンズ。ジャックの背中。林 雨瞳の地図。希の血の気のない顔。ヴィクトリアの手の中の、ぼろぼろになった名簿。そして外で、バストーニュを廃墟に引きずり込んでいるドイツ軍実体化部隊の攻勢——全部が、その一瞥の中にあった。
彼女は鼻を鳴らした。
「生きてる奴らってのは、面倒くさいねえ。」
俺は彼女の隣に立った。
「死んだ奴らも、たいして楽じゃない。」
彼女は横目で俺を見て、目尻をわずかに持ち上げた。
「じゃあ行くよ、坊主。」
外でまた、極めて遠い重砲の鈍い轟きがした。
北側の火力が、本当に一瞬だけ止まった。
林 雨瞳が俺たちの背中に向かって、最後に一言だけ言った。
「見つけて、壊して、生きて帰ってきて。」
俺は振り返らなかった。ただ手を上げて、分かったと示した。
次の瞬間、俺と馬三娘は一前一後で、体育館北側の、暗く臭く、街全体の腐った腸に直接繋がっているような排水路に潜り込んだ。
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排水路に入った瞬間、世界は三つの匂いだけになった。
腐った泥、錆、そして死にきれない水。
臭いというより、辛抱強い腐敗だ。バストーニュ全体の傷口を切り開いて、血が乾かないまま、この管の中に全部流し込んだような匂い。頭上が時々震えると、亀裂から灰と砕けた石が落ちてきて、溜まった水に落ちる。ぽちゃ、という音が、棺桶の蓋を指の関節で叩くのに似ている。
俺は身を低くして前へ進んだ。膝と手のひらがすぐに濡れる。水は、死人の口から吐き出されたばかりみたいに冷たい。後ろの出口は闇に飲み込まれ、体育館から漏れていた青白い光も、二度揺れてから消えた。
馬三娘は俺の後ろをついてくる。
足音が俺よりずっと小さい。
水を踏んでいないわけじゃない。踏んでいるのに、音が一回り小さいのだ。こんな場所をこれほど落ち着いて歩ける人間は、本来いない。彼女は逃げているんじゃない。自分の家の裏庭を歩いているみたいだ。
「犬みたいに息を切らしてるねえ。」後ろから声がした。
俺は壁を手探りしながら返した。
「パンサーとハーフトラックの下をくぐり抜けてきて、それでも平気で謡えるなら、認めてやる。」
「謡?」彼女は鼻を鳴らした。「アタシが本気で声を出したら、外のドイツ軍の廃骨どもが先に膝をつくよ。」
「今試してみるか?」
「嫌だよ。」あっさりと返ってきた。「今は生きてる身体を借りてる。鼠を脅かすのに使うもんじゃない。」
言い返そうとした瞬間、手のひらが何かぬるりとしたものに触れた。泥でも水草でもない。どこかから流れてきた腐った布と毛髪が絡まったものだ。俺はすぐに手を引いて、低く悪態を吐いた。
後ろで馬三娘が笑った。
小さな笑いだったが、この場所では十分に妖しい。古い井戸の底で誰かが歯を研いでいるような音だ。
「坊主、汚いのが怖いのかい?」
「汚いのが怖いんじゃない。自分の命より硬そうなものを触るのが怖い。」
「今日は怖いものがたくさんあるねえ。」
前方の曲がり角は天井が低く、俺はほとんど腹這いになって潜り抜けた。頭上は一面のコンクリートで、亀裂から水が滲み出している。外の炎が時々差し込んで、赤く、白く、排水路の内側を照らした。まるで何かが肉の中で蠢いているようだ。遠くで重砲の鈍い音がして、管全体が震え、溜まった水が傾斜に沿って俺の手首まで滑り込んできた。歯の根が痛くなるほど冷たい。
その轟音は、山口多聞がまた火を入れた音だった。
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