196.破敵の計 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
葉 綺安——いや、ベンチに座っているその身体が、ゆっくりと頭を上げた。
目が開く。
その瞬間、俺の背中全体に鳥肌が立った。
瞳の色が変わったとか、目が赤く光るとか、そういう安っぽい演出じゃない。眼差しそのものが、根こそぎ入れ替わっていた。
本来の葉 綺安の視線は、布に包まれた刃物のようだった。だが今、その目が持ち上がると、刃はすでに鞘から抜かれ、隠す気すら完全に失せていた。
唇の端の血を舐め取り、左右を見回し、最後に俺で視線を止めた。
「坊主、図太く生きてるじゃないか。」
俺は息を吸い込んだ。
「馬三娘。」
彼女は口を開いて笑った。薄く、艶やかで、そして獰猛な笑みだった。
「他のどこの阿婆擦れだと思った?」
ドアの外でレミがついに堪えきれずに「うわっ」と声を漏らした。
クレールがすかさず続けた。「中国語を話すリズムまで変わってる。」
ジュリアンが正直に補足した。「左脳が『科学的じゃない』って叫んでるけど、右脳が『もっと見ろ』って言ってる。」
ジャックは三秒沈黙してから、極めて米軍らしい評価を下した。
「なるほど。」彼は言った。「確かに、これは亡霊より完成度が高い。」
馬三娘は首を傾けて彼を見た。針で寸法を測るような視線。
「毛唐、見世物はもう終わりだ。満足したかい?」
ジャックは落ち着いて返した。「まだだが、状況の飲み込みは早いほうだ。」
「上等だ。」彼女は鼻を鳴らした。「少なくとも、外でカメラを持ってるあの猿三匹よりはマシだねえ。」
外のレミが律儀に言い返した。「聞こえてるぞ。」
「なら遠くに立ってな。後で腰を抜かされたら、薬の無駄になるからねえ。」
思わず笑いかけた。
この女——いや、この古い女鬼の口は、本当に暖機運転がいらない。
そのとき、林 雨瞳が外から入ってきた。ベンチに座っている、もはや葉 綺安ではない葉 綺安を見ても、視線が一瞬止まっただけで、余計な反応は見せなかった。
今、驚いている芝居をしている暇などないことを、彼女は誰よりも分かっている。
「馬三娘。」林 雨瞳は単刀直入に切り出した。「外に、ドイツ軍の重火力と指揮系統全体の実体化を維持している何かがある。周 士達と一緒に外へ出て、それを壊してもらいたい。」
馬三娘は顎を上げて彼女を見た。
「随分と自然に使い走りにするじゃないか。」
「丁寧にやってる時間がないから。」
馬三娘は少し笑った。
「その小娘、嫌いじゃないねえ。」
彼女は立ち上がった。身体は間違いなく葉 綺安のものなのに、立ち上がる姿勢は完全に別人だった。肩が開き、背筋が伸び、足運びまで違う。現代人の重心じゃない。古い舞台の上を何百回と踏んできた、あの歩き方だ。
自分の手を見下ろし、一度握り、また開く。刃の切れ味を確かめるように。
「骨は悪くないし、肉も腐っちゃいない。」彼女は言った。「少しばかり痩せっぽちだがねえ。」
俺はドア際で彼女を見ていた。
「悪いな、最近ここの食事情が最悪でね。」
「お前を食うわけじゃないさ。」彼女は俺を一瞥した。笑うのか怒るのか分からない、あの凄みのある口元で。「アタシが欲しいのは道だけだ。」
林 雨瞳がすかさず地図を差し出した。
馬三娘は受け取らず、ただ一瞥した。
「地図は死んでいる。」彼女は言った。「アタシが知りたいのは、その物が土の下に埋まっているのか、木にぶら下がっているのか、それとも鉄の腹の中に隠されているのか——それだけさ。」
俺と林 雨瞳は目を合わせた。
林 雨瞳が素早く答えた。
「分からない。でも外側は工業的な偽装で、内側が呪術構造である可能性が高い。」
馬三娘がそこで初めて、本当に笑った。少し冷たい笑みだった。
「よろしい。それでこそ骨がある。地面に丸を描いただけの代物なら、アタシのほうが恥をかくところだった。」
ジャックが堪えきれずに聞いた。「どうやって壊すつもりだ?」
馬三娘は振り返って彼を見た。頭は鈍いがまだ使える兵士を見るような目で。
「兵器を使う。」
「どんな兵器だ?」
「千里追魂。」
更衣室の中が一瞬、静まり返った。
ジャックは明らかにもっと詳しく聞きたそうにしたが、聞きすぎると後悔するという本能が勝ったらしく、最後に一言だけ絞り出した。「随分と物騒な響きだな。」
「お前たちの88ミリ砲も、十分物騒に見えるがねえ。」馬三娘は言った。「戦場じゃ、愛想のいい奴から先に死ぬもんさ。」
外でまた激しい銃撃音が響き、続いて廊下で誰かが北側の低い壁が機銃で一部撃ち抜かれたと叫んだ。神崎忠明が外で命令を下す声は速く、安定していて、砥石の上を連続して滑る刃物みたいだった。その声を聞けば分かる——日本軍地上部隊の実体化後に残ったわずかな硬骨が、今、死に物狂いで踏ん張ってくれているからこそ、俺たちはここで脱出の算段を立てていられる。
林 雨瞳がドアの外を一瞥して、即座に本題に戻した。
「時間切れ。準備区域を出るまで、最長五分。」
馬三娘は両手首の赤い糸を引っ張り、きつく結び直した。
「五分で十分だ。」
彼女は俺の前まで歩いてきた。葉 綺安が普段まとっているはずのない匂いが漂ってくる。香りでも汗でもない。古い時代の女が線香を上げ終えて、門をくぐり、土埃を踏んで歩いた後に残る匂い。薄いが、ひどく妖しい。
「周 士達。」彼女は目を上げて俺を見た。「アタシがついてきてやるのは、散歩の付き合いじゃないと分かってるね?」
「分かってる。」
「外のあれが、お前たちの読み通り、鉄皮を被った邪悪な骨格なら、仕留めるのはアタシの仕事だ。お前はアタシを、手が届く場所まで連れていくだけでいい。途中でお前が先に死んだら、その身体を借りて続きをやる。」
俺はうなずいた。
「励みになる話だ。」
「生きてる間もたいして役に立たないんだ、死んだら死んだで二、三歩くらいは担いでやれるだろう。」
ジャックが脇でついに笑いを漏らした。嬉しいからじゃない。こんな状況でここまで毒舌を維持できる人間がいるという事実が、この場をかろうじて生きている者の世界に引き留めてくれているからだ。
クレールがドアの外から恐る恐る首を突っ込んだ。「あの……今から彼女のことは何て呼べばいいの?」
馬三娘は振り返りもしない。
「ご先祖様と呼びな。」
レミが盛大にむせた。
ジュリアンは手帳に猛スピードで一行書き込みながら、小声でつぶやいた。「これは絶対に書き残さないといけない。」
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俺が出て行くとき、体育館全体はすでに「希望を口にする者は誰もいないが、全員が希望がまだ意味を持つかのように動き続けている」状態に入っていた。
北側の後送ルートが二度開いて一度閉じた。ベルギー兵二人が胸部全体が黒く焦げた傷兵を担いで地下倉庫へ走り、希が後ろから追いかけながら止血帯を補充している。ヴィクトリアは箱を一つずつ西側へ積み上げながら、口から悪態を絶やさず、それでも誰より手が速い。レミは予備テープを胴体にガムテープで巻きつけ始めた——爆発で真っ二つになっても、せめてデータだけは一つの塊でいられるように。クレールはもう窓際に突撃しようとはしていない。室内を撮っている——手、血、担架、地図、照明、靴底。ジュリアンはうめき声が飛び交う中で命令の一言一言を記録し続けていた。この言葉をいつか誰かが読むと信じているみたいに。
荒唐無稽な光景だった。
だが戦場は、お前が荒唐無稽だと感じるかどうかを気にしない。
林 雨瞳が俺を引き寄せて、小さな包みを渡した。
「中に三つ入ってる。」彼女は言った。「防水マッチ、短いペンチ、それから暗号を書いた紙。紙はお前が読むためじゃない。外で何かの組織か人間が残した記録を見つけたとき、似た文字列があれば、方向のヒントになるかもしれない。」
俺は包みを胸元に押し込んだ。
「いっそ答え合わせの本でも渡してくれればよかったのに。」
「そんなものがあれば、私が自分で行く。」
「それは本音だな。」
「本音だ。」
彼女は俺をまっすぐ見た。
「もう一度言う。これは英雄の任務じゃない。格好よく出て行くためじゃない。俺たちの首の後ろに刺さっている釘を探しに行くんだ。見つからなければ帰ってこい。外で意地を張るな。」
俺は彼女を見て、二秒してから言った。「意地を張るなって、それは馬三娘が身体を借りるより無理な話だ。」
林 雨瞳は笑わなかった。
「今は軽口に付き合う暇がない。」
「分かってる。」俺はうなずいた。「だから帰ってきてから続きをやる。」
彼女はようやく、ごく小さく息を吐いた。この腐った約束を、渋々受け取ったような吐息だった。
ジャックが歩いてきて、短柄の消防斧を俺に放った。
「見つかった。柄は一度折れて打ち直してある。鋼の頭はまだいける。」
俺は受け取り、重さを確かめた。
手触りは最悪だが、硬さは十分だ。
「俺に似てる。」
「いや、これはまだ役に立つ。」ジャックはそう言ってから、少し間を置いて、首から下げていた認識票を一枚外し、俺の手に押し込んだ。「もし本当に外で何か見つけて、戻れないと分かったら、これを通ってきた場所に残せ。」
俺はその、体温の残った金属片を見た。
「俺を呪ってるのか?」
「位置確認だ。」ジャックは言った。「後でお前を拾いに行くとき、どの穴を掘ればいいか分かるように。」
俺は認識票をポケットに収めた。
「さっき、拾いに来ないって言ってたじゃないか。」
「気が変わっちゃいけないのか。」
「別にいい。アメリカ人の信用は元から変動相場制だ。」
「くたばれ。」
「順番待ちだ。」
北口が突然大きく揺れた。
崩壊じゃない——向こうが急に圧力を上げてきた。機銃の連射が二列分壁に叩き込まれ、白い漆喰が吹き飛んだ。続いて誰かが照明弾発射架を確認したと叫ぶ。神崎忠明の声がすぐに被さった。命令は短く、刃物で切り落としたみたいだ。
「伏せろ!」
「左側、補充!」
「ハーフトラックを壁に近づけるな!」
その数声で、体育館の中でまだ走れる全員が動いた。そのリズムは恐ろしく、そして頼もしかった。外のドイツ軍の実体化した鉄屑があと少し近づけば、ここは丸ごと引き剥がされる——それは分かっている。だがその前に、少なくとも今は、誰かが命を一列に並べて、俺たちの代わりに前に立ってくれている。
馬三娘がそのとき、更衣室から出てきた。
全員の視線が一斉に流れた。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




