195.バストーニュ体育館 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
林 雨瞳が口を開いたのは、外の迫撃砲が一通り落ち終わってからだった。
怒鳴るわけでも、頼むわけでもない。
血が飛び散った地図をプール管理室のプラスチックテーブルに押しつけて、手の甲にはまだ誰かのヨードチンキが染みついていて、声はサンドペーパーで磨いたみたいに乾いていた。
「城外に出して。」
室内が一秒、静まった。
二秒目に、ジャックが眉をひそめた。
三秒目に、俺が先に悪態をついた。
「砲撃の震動で脳みそのネジでも緩んだか?」壁に立てかけていた、もう焚き付けにしか使えそうにない小銃を掴み直し、一歩前に出る。「外は今、ピクニック会場じゃない。バストーニュ市街攻城戦の真っ最中だ。ドイツ軍が実体化してから全部持ち込んできた——パンサー、ハーフトラック、88ミリ砲、ネーベルヴェルファー、工兵まで付録でついてくる。城外に出るって言うのは、二本の脚で履帯の幅でも測りに行くつもりか?」
林 雨瞳は俺を見なかった。地図だけを見ていた。
「私じゃない。」彼女は言った。「あなたよ。」
俺は一瞬、固まった。さっきの砲撃でまた耳がおかしくなったのかと思った。
ジャックが先に反応した。即答だった。
「ダメだ。」
「理由を。」林 雨瞳が顔を上げた。
ジャックの顔についた灰は汗で筋になっていて、炭鉱から引きずり出されてきたみたいな顔だった。壁の外を指さして、声を落とす。だが一言一言は釘みたいだった。
「理由は、外に完全なドイツ装甲師団の断面が俺たちの顔に貼りついてるからだ。パンサーが大通りを塞ぎ、ハーフトラックが路地を機動し、迫撃砲は三発の試射でこのプールの蓋を吹き飛ばせる。あいつを城外に出すくらいなら、白い布で包んで、遺書でも添えたほうがマシだ。」
俺は口を挟まなかった。彼の言っていることは、基本的に間違っていないからだ。
体育館という臨時拠点は今、誰かに踏みつけられて半分しか残っていない肺みたいだった。傷兵はプールの更衣室、廊下、階段の下に横たわり、メルシエ・モーテルから撤退してきた医療箱が監視員の椅子の横に積み上げられている。発電機の音は強くなったり弱くなったりして、蛍光灯がちかちかと点滅している。死にかけた人間が、それでもまばたきしようとしているみたいに。
希はベルギー兵の横にひざまずいて包帯を替えていた。顔は壁と同じくらい白く、膝の周りの血はもうズボンの裾まで滲んでいる。葉 綺安はドア際に寄りかかり、右手はまだ震えているが、目は誰よりも硬い。ヴィクトリアは人数を数えながら、家族を探しに外へ飛び出そうとする傷兵二人を怒鳴りつけて押し戻している。レミは器材箱の上に座って息を整えながら、それでもカメラを離さない。クレールはレンズを首から下げたまま、目が煙で燻されたみたいに赤い。ジュリアンは壁際に縮こまってメモを取り、手首には包帯が巻かれ、唇は血の気がない。
七人の小隊、まだ生きている。その事実自体が、もうジョークみたいだ。
しかも、口に出しても誰も笑えないタイプのジョークだ。
林 雨瞳は指で地図を二度叩いた。
「問題は街の中にない。」
俺は冷たく笑った。
「今その台詞、ずいぶん空虚に聞こえるな。街の中のやつらがもう俺の顔の上に乗っかってきてるのに、問題は街の中にないって言うのか?」
「罵倒したいなら最後まで聞いてから。」声はまだ平らで、それが余計に苛立たしい。「ドイツ軍はさっき艦砲で一度洗い流された。普通なら縮んで、散って、乱れて、まず負傷者を確保して、火点を抑えて、欠けた場所を塞ぐはず。でもあいつらはそうしなかった。最初にやったのは、観測網の再構築。」
ジャックがしばらく黙った。
俺は彼を見た。
彼も俺を見て、それからゆっくりうなずいた。
「鐘楼の外周。」ジャックは言った。「斜面、教会、北東の交差点。俺たちを追い回してたんじゃない。陣地を元の位置に戻してた。」
「検品みたいだ。」俺は一言添えた。
林 雨瞳はうなずいた。
「そう。これは通常の包囲殲滅じゃない。これは校正よ。」
また室内が静まった。
外で鈍い音がした。88ミリ砲じゃない。もっと厚く、もっと直線的な音だ。通り全体の突き当たりで、誰かが鉄槌で棺桶の蓋を叩いているみたいな音。続いて履帯が瓦礫を踏みしだく音が、一定のリズムで聞こえてくる。ゆっくりすぎて、余計に引き金を引きたくなる。
廊下の向こう端で、神崎忠明が双眼鏡を下ろしていた。顔についた灰は誰よりも厚く、肩の軍服が一角えぐれて、下の痂になった傷口が覗いている。日本軍地上部隊の亡霊が実体化した中で最も釘に近い男は、今、窓の外を見ながら、刃物で刻んだような眉間の皺を作っていた。
北側の観測点から引き上げてきたばかりだ。
ドイツ軍は混乱に乗じて体育館に突入してこなかった。代わりに外で、ほとんど冷酷なほど整然と収縮し、補充し、砲撃座標を再設定していた。勝ったら相手を踏みにじりたい部隊の動き方じゃない。誤差を修正している機械の動き方だ。神崎忠明はこの感覚が嫌いだった。敵が発狂しているんじゃなく、仕事をしているということだから。
彼は振り返って管理室に入ってきた。
「半分だけ同意する。」神崎忠明は言った。
ジャックが一瞥した。
「どっちの半分だ?」
「問題は街の中にない。」神崎忠明は双眼鏡をテーブルに置いた。「北側のドイツ軍が優先して回復させたのは、砲兵観測と街路軸の火力連絡だ。建物掃討は副産物に過ぎない。これは城を奪いに来た動きじゃない。条件を維持しに来た動きだ。」
「条件?」レミが顔を上げた。声がかすれている。「つまり……この街全体が——」
俺は途中で遮った。
「ピュリッツァー賞を焦るな。」睨む。「余計な口を挟んだら、次の写真はお前が地面に伏せてる接写になるぞ。」
レミはそれでも口の端を引きつらせた。
「今年こそ本当に狙えそうな気がしてきた。」
「自分を埋める前に言え。」
クレールはカメラを抱えて、俺を見て、それから窓の外の燃える街区を見て、乾いた声で言った。
「横顔を撮ってもいい? 文学的な感じがするから。」
俺は窓の外を指さした。
「ミュージックビデオでも撮るつもりか?」
クレールが少し笑った。
この三人が今まで正気を保っているのは、職業病への忠誠心が、生存本能より時々強くなるという、人間の奇妙な性質のおかげだと思う。
林 雨瞳は俺たちの無駄話を無視して、もう一枚の紙を引き出して、俺の前に押し出した。びっしりと線が引かれていた。メルシエ・モーテルからラック・ド・ラ・オート=シュール(ラック・ド・ラ・オート=シュール(Lac de la Haute-Sûre))まで、さらに北側の林の外のいくつかの、俺には読めない標識まで続いている。
「艦砲は答えじゃない。」彼女は言った。
「それは分かってる。」俺は言った。
「山口多聞も違う。」
俺は顔を上げて彼女を見た。
彼女が初めて、まっすぐに俺を見た。
「でも、彼はあなたのために扉を開けられる。」
胸の中の懐中時計が、ちょうどその瞬間、ずしりと沈んだ。
物理的な重さじゃない。あの、どうしようもない存在感だ。ポケットの中に手榴弾を入れていて、安全ピンがちゃんと刺さっているかどうか確信が持てない、あの感覚。
俺は外套の中に手を入れて、その古い懐中時計を取り出した。ケースの縁は傷だらけで、金属は死人の歯みたいに冷たい。ジャックがそれを見つめていた。俺がズボンのポケットから生きた蛇を取り出したのを見ているような顔だ。
親指で弾くと、蓋が開いた。
中に針はない。
あるのは、水面のようでもあり、油膜のようでもある、暗い光だけだ。
管理室の灯りが、一瞬、全部落ちた。
次の瞬間、山口多聞が俺の隣に立っていた。
扉から入ってきたわけでも、床から湧き出してきたわけでもない。ただ、当然のようにそこに立っていた。
軍服は皺一つなく、肩章は完璧に整い、顔には長年腐りきった世の中を海の上から見続けてきた老海軍にしか出せない静けさが宿っている。屋外の爆発なんて、遠くで誰かがドアを少し乱暴に閉めただけ——その程度にしか聞こえていないような顔だ。
ジャックが半歩後ずさって、壁に背中をぶつけた。
レミは息を呑み、カメラを落としかける。クレールの目が一瞬で輝いた——危険なほど鋭く。ジュリアンの顔全体には「理解したくないのに、脳が強制的に理解させられている」とそのまま書いてあった。
山口多聞はまず俺を見て、次にテーブルの地図を見下ろし、最後に礼儀正しく、わずかにうなずいた。
「周 士達。」彼は言った。「今回私を呼んだということは、ついに格好をつけて誤魔化せる段階ではなくなったと理解したわけだな。」
「無駄口はいい。」俺は言う。「外のドイツ軍がまた再編成を始めてる。」
山口多聞の眉がわずかに動いた。
「単純な話ではなさそうだな。」
「当然だ。」俺は地図を指さした。「装甲車と戦車に穴を開けてもらいたい。」
山口多聞は地図を眺めた。老艦長がレストランのメニューでも見るような、落ち着いた目つきで。
二秒の沈黙。それから、ひどく静かにうなずく。
「よかろう。」
彼は指を地図の一点に置いた。その動作は、老艦長が海図に航路を引くときのそれだった。
「場所は同じく、ラック・ド・ラ・オート=シュール(ラック・ド・ラ・オート=シュール(Lac de la Haute-Sûre))だ。」彼は言う。「そこに展開する。主力四隻で制圧支援を提供するが、神扱いはするな。」
「誰かを神扱いしたことは一度もない。」俺は言った。
「それでいい。神というものは、たいてい砲兵より当てにならないからな。」
思わず笑いかけた。
このクソ爺さんは、本当に絶妙なタイミングで毒を吐く。
林 雨瞳がすぐに割り込んだ。「窓口はどのくらい維持できる?」
「そこの男が往復するくらいは問題ない。」山口多聞は答える。「ただし、誰かが高所で観測を提供してくれ。さもないと、一発撃ち込んだ後、周 士達をシャベルでかき集める羽目になるかもしれん。」
俺は口元の灰をぬぐった。
「まだ撃ってもいないのに、もう呪いをかける気か。」
山口多聞は薄く笑い、そのまま姿を消した。
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林 雨瞳が間髪入れずに言った。「次の問題は、どうやって彼を城外に出すか。」
「そうだ。」俺は言った。
ジャックが猛然と振り返った。
「本気か?」
「じゃなければ何だ。」俺は地図を彼のほうへ押した。「お前も見ただろう。ドイツ軍が実体化してからの一連の動きは、ただの攻城戦じゃない。あいつらは何かの条件を維持しようとしている。街の中の各拠点は全部、表面だけだ。問題は外にある。重装甲と砲兵をずっと現実に引きずり込み続けている、そのクソみたいな根源を探しに行く。」
「そのクソみたいな場所がどこかも分かってないくせに。」
「だから外に出るんだろう。」
神崎忠明が腕を組み、扉の脇に立ったまま口を開いた。
「単独行動には反対する。」
俺は彼を見た。
「お前がついてくるのか?」
「いや。」彼はきっぱりと言い切った。「城内は空にできない。日本軍霊体地上部隊の実体化後残存戦力では、近距離で敵歩兵を噛み続けるのが精一杯だ。パンサーは止められないし、ハーフトラックの継続圧迫も防げない。これ以上人員を割けば、ここが先に崩壊する。」
「それで?」
「だから二人だ。」
葉 綺安が扉際で背筋を伸ばした。まるでずっとその一言を待っていたかのように。
「私が行く。」彼女は言った。
希がはっと顔を上げた。
「右腕、もうほとんど上がらないじゃない。」
葉 綺安は彼女を見ようともしなかった。
「斬るのに右腕は必要ない。」
俺は二秒ほど彼女を見つめて、何も言わなかった。
分かっていたからだ。彼女だけがその台詞を言っているわけじゃないと。少なくとも、全部が彼女の意思じゃない。
その目の奥から透けて見える冷たさは、普通の人間のものではなかった。とっくに研ぎ澄まされ、鞘から抜かれるのを待つだけになっている古い刃物みたいな冷たさ。馬三娘はまだ表に出ていない。でも、もう中で目を覚ましていた。
ヴィクトリアが手の中のリストをテーブルに叩きつけた。
「結論から言うわ。」彼女は俺たちを見回した。「このプランは気に入らない。全然気に入らない。でも、問題を外に引っ張り出さない限り、ここにいる全員が次の封鎖を待つだけになる。メルシエ・モーテルはもう捨てた。体育館も長くは持たない。本当に出て行くなら、最小編成、最短窓口、最明確な報告よ。」
林 雨瞳が続けた。「私も反対。でも、反対は無効。城内のあらゆる兆候が、私たちは今、誰かの実験台の上でもがいているだけだと教えている。誰かが外に出て、テーブルクロスの下に手を入れて、このテーブルが何でできているか確かめてこないといけない。」
ジャックは悪態を一つ吐いて、俺、林 雨瞳、葉 綺安、神崎忠明を順に見回し、最後に腰に手を当てた。世界全体を力ずくで真っ直ぐに直したいのに、手をかける場所が見つからない人間の顔だった。
「お前ら全員、頭がおかしい。」彼は言った。
俺はうなずいた。
「ようやく意見が一致したな。」
彼は俺を見た。その目には怒りがあり、疲労があり、そして本人が認めたくない理解があった。
「外で死んでも、拾いには行かないからな。」
「助かる。」俺は言った。「お前に背負われる手間が省ける。」
「生きて帰ってきたら、まず殴る。」
「その時は順番待ちの札を取れ。」
レミが遠慮がちに手を挙げた。
「あの……もし本当に出て行くなら、俺たちも——」
俺は睨んだ。
「密着取材は却下だ。」
クレールがすかさず続けた。「遠距離なら?」
「それもダメだ。」
ジュリアンは下を向いてメモを取りながら、小さくつぶやいた。「軍がどうして記者を嫌うのか、少し分かってきた気がする。」
「今更だ。」ジャックが冷たく言い放った。「俺たちは昔からずっと嫌いだった。」
そのとき外で、突然もっと密集した銃声が響いた。続いて誰かが廊下に駆け込んできて叫ぶ。「北口にハーフトラック確認! 二両! 後方に歩兵多数!」
神崎忠明は振り返らずに外へ向かった。
「北口は俺がやる。」
ヴィクトリアも続いて出て行き、銃声より速く指示を飛ばし始めた。
希はガーゼを歯で噛み切り、壁に手をついて立ち上がった。顔は幽霊みたいに白い。
「後送を手伝う。」
葉 綺安は動かず、ただ俺を見ていた。
林 雨瞳は地図を折りたたんで、俺の手に押し込んだ。
「窓口が開いたら、あなたと彼女で北側の排水路を抜けて、住宅区の外縁へ。大通りには絶対に出ないで。林線の外まで出て、まだ連絡が取れるなら、第二段階の誘導を送る。」
「取れなかったら?」
「その時は、あなたのその憎たらしい顔で、自分で生き延びて。」
俺は鼻を鳴らして、地図を外套に押し込んだ。
「その台詞のほうが、らしいな。」
彼女がついに、ほんの少しだけ口の端を緩めた。刃の上を走る細い光みたいな笑いだった。
次の瞬間、建物全体が軽く震えた。
近くの爆発じゃない。
遠く、深く、とてつもなく巨大な何かが火を噴いたとき、空気がその衝撃を身代わりに受けて、こっちに伝えてくる平手打ちだ。
俺は懐中時計を見下ろした。
文字盤の中の暗い光が、風に吹かれた水面みたいに波打っていた。
山口多聞が一歩後ろに下がり、その輪郭が薄くなり始めた。
「始まったぞ。」彼は言った。
「外すなよ。」俺は返した。
「まずは死なない方法を覚えろ。」そう言い終えると、彼は夜の闇に回収されるように、跡形もなく消えた。
ジャックは彼がさっきまで立っていた場所をしばらく見つめてから、ようやく一言だけ吐き出した。
「……今夜これで眠れたら、俺は本物のクソ野郎だ。」
「安心しろ。」俺は小銃を掴み上げ、ボルトを引いた。「今夜、そんな贅沢な待遇を受けられる奴は一人もいない。」
外で再び艦砲の音が轟き、ほぼ廃墟と化したバストーニュに、もう一度叩きつけられた。
全員の動きが、一瞬止まった。
希望を感じたからじゃない。
これが、俺たちがついに下した決断の合図だと、全員が理解したからだ。
いい決断じゃない。
賢い決断でもない。
ただ、今この瞬間、まだ「決断」と呼べる形をしている、唯一のものだった。
俺は林 雨瞳を見た。
彼女も俺を見て、それから、どこまでも正式に——腐り果てた命令書をテーブルに提出するみたいな口調で、もう一度言った。
「あなたを城外に出す。」
俺はうなずいた。
「分かった。」
その一言の後、室内で反対する声は消えた。
まだ死んでいない俺たちは、ついに、ガラスみたいに脆い合意に辿り着いた。
まず俺を外に送り出す。
それから、この街が、少しでも長く死なずに済むかどうかを見届ける。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




