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193.戦術支援  2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

俺は半分に割れかけた壁に背中をつけて、まず階下の音に耳を澄ませた。


履帯の音はまだ続いている。


突進じゃない——礼儀正しく、辛抱強く、お前を標本にすることを楽しみにしているような、ゆったりとした動きだ。パンターが路地の斜め角に陣取り、半装軌車が両側の路地口を塞いでいる。歩兵と工兵が一軒ずつ掃討を進めていた。ときおりドイツ語の命令が壁の隙間から染み上がってくる、冷たい風が骨に入り込むように。もう少し遠くでは迫撃砲が断続的に圧力をかけ続け、さらに遠くには八十八ミリ高射砲の歯の根に響く重低音と、四一式多連装迫撃砲が酔っ払った悪鬼の群れみたいに鉄管で空を引っ掻く音がある。


バストーニュ全体が今、解体された獣のようだった。


通りが腸《はらわた》で、建物が砕けた骨で、炎がまだ完全には消えていない神経の放電だ。ドイツ軍装甲師団と砲兵連隊は戦闘をしているんじゃない——非常に工法にこだわった解体作業をしている。俺たち七人は、まだ取り壊されていないが、すでに赤線を引かれた区画に、たまたま残されているだけだ。


ジャックが俺の隣に蹲《うずくま》っている。手の中の銃は低く構えられていた——低すぎて、まるで彼自身もこれがもう武器じゃなく、精神安定剤に近いとわかってるみたいだった。レミはまだカメラを抱えている。体温の残っている頭を抱えるように。クレールは壁の後ろに縮こまって、表情は「自分がもうすぐ死ぬとわかっている」半分と、「でもあのパンターがあと半車身前進したら、このアングルはすごいことになる」半分だった。ジュリアンは膝を抱えて、顔の色が剥落した壁紙と大差なかった。希は足を砕かれた老婦人の包帯を巻き直していた。手が少し震えているが、止まらない。葉 綺安《イェ・キアン》がその隣に蹲り、袖口に血と灰をつけたまま、感情を全部折り畳んでポケットに押し込んだような、平らな顔をしていた——生きて出られたら、そのときまとめて清算するという顔だ。


正直に言えば、これが映画の脚本なら、脚本家に文句を言いたいレベルだ。


外でまた鈍い衝撃音がして、天井の灰が一面に落ちてきた。床板が長く呻《うめ》いた——天気が悪くなる前に自分の死を予告する老骨みたいに。天井を見上げて、このまま縮こまって待ち続けても、たどり着くのは援軍じゃなく、工兵が壁を爆破した瞬間の白い閃光だろうと思った。


大衣《だいい》の内ポケットに手を入れた。


指先がそれに触れた瞬間、まず冷たさが来た。


金属の冷たさじゃない——触れると、まだたくさんの言葉と、たくさんの借りと、たくさんの後始末を残したまま消えた誰かのことを思い出させる、あの種の冷たさだ。山口 多聞《やまぐち・たもん》の懐中時計を取り出した。表面には灰がついていて、縁にいつついたかわからない浅い傷が一本あった。以前この時計を手に持つとき、たいていは謎めかした老いぼれが残した記念品みたいな感触だった。今手に取ると、どちら側に神がいるのか鬼がいるのか、それともさらに大きな厄介事があるのかもわからない扉を、自分の命を握り拳にして叩いているような感触がした。


ジャックが俺の手元に気づいて、眉をひそめた。


「何だ、それ」


「高い電話だ」


「今そんな——」


「黙れ」


表蓋を開けて、ほとんど動いていない針を見つめた。階下からまたドイツ兵の足音が聞こえてくる。今度はもっと近い——俺たちの建物のドアの強度を、銃床で確かめているような音だ。壁の向こうの老婦人が衝撃でかすかに呻《うめ》き、希がすぐに肩を押さえた。クレールがこちらを見た。その目には、困惑と「世界の終わりに東洋の呪術でも始めようとしているのか」という疑念が半々に浮かんでいた。


息を吸い込んで、時計を握り締めた。


「来なければ、遺体収容だけになるぞ」


言葉が終わると、フロア全体が一瞬、静まり返った。


それから、風が変わった。


吹き込む風が強くなったんじゃない——部屋の中の空気が突然、一点に向かって収縮したような感覚だ。まるで建物全体がその瞬間に同時に息を吸い込んで、吐き出すのを忘れたように。窓際の破れたカーテンが内側へふわりと揺れ、床の灰と紙屑が誰かの指先で弾かれたように、ゆっくりと小さな渦を描き始めた。懐中時計の表面の暗い金属光沢が一瞬だけ輝いた——眩しくはない、しかし一本の針のように、その場にいる全員の視線を刺し貫いた。


レミが真っ先に低く悪態をついた。


影じゃないからだ。


以前のような残像でも、歴史の裂け目から一瞥《いちべつ》してくるような黒い影でもない。


本当に誰かが、部屋の中に立っていた。


影がある。床板の上に踏みしめられている。


重さがある。足元の灰が、かすかに押し開かれている。


体温がある。冷たい風の中に、場違いなほどの微かな温もりが混じっている——誰かがたった今、石油ストーブのついた指揮所から出てきたばかりのような温もりが。





山口 多聞《やまぐち・たもん》が、俺の目の前に立っていた。


軍服は腹が立つほど整っていて、帽子の庇《ひさし》の下の目は地獄から火消しに駆けつけてきた人間のそれじゃない。どちらかといえば、叩き起こされたわりに機嫌のいい古狐《ふるぎつね》だった。俺の手の中の懐中時計を一瞥《いちべつ》し、部屋の中の連中を順に見て、最後に俺の顔に視線を戻し、口の端をつり上げた。


「こういう呼び方をするってことは、腹は括《くく》ったわけだ」


俺は山口を見返し、口の端を歪めた。


「てめえが昔からわかってました面すんな。今はただ、生き延びたいだけだ」


「人間、死にかけるとたいてい急に正直になる」


「じゃあ今日は、耳が落ちるまで聞いてろ」


ジャックは全身を硬直させた。銃口はまだ下げたままだが、その目は歴史の教科書が壁から抜け出してきたものでも見るような顔をしている。レミのカメラは手から滑り落ちかけ、ジュリアンは口を開けたまま、脳みそがオーバーヒートし始めているのが見て取れた。クレールが一番わかりやすい。俺、山口、自分のカメラの順で見比べて、顔に「これ、撮っていいの? 撮ったら一生ヤク中扱いじゃない?」とデカデカ書いてある。


ただ、葉 綺安《イェ・キアン》と希《シキ》だけは、最初こそ固まったが、次の瞬間、笑った。


声を上げて笑ったわけじゃない。「ああ、やっとこのクソみたいな状況を、もっとバカげた何かが引き継いでくれたか」という種類の笑いだ。


山口は軽く顎をしゃくって、階下を示した。あの通りいっぱいに詰まっているドイツ軍装甲師団と砲兵連隊なんか、まるで眼中にない。


「どれくらい要る?」


歯を食いしばって、そのままぶつけた。


「四隻に榛名《はるな》と霧島《きりしま》を追加だ。まず八十八ミリ高射砲陣地を潰す。それから多連装迫撃砲。最後に艦砲で、下のクソどもを一帯まとめて吹き飛ばせ」


部屋の全員が俺を見た。


ジャックの顔にははっきりとこう書いてある。


——今お前、歴史の中から抜け出してきたかどうかも怪しい軍人に、絶対に存在しないはずの艦隊火力支援を、俺がわかるようでまったくわからない手順で申請しなかったか?


山口はすぐには頷かなかった。ただ俺を一瞥《いちべつ》する。


「構わん。で、お前は?」


声は淡々としていたが、意味は十分に伝わる。


——お前は退かないのか?


——艦砲の弾に混ざって、一緒に空へ飛ぶ気か?


豹式と半装軌車に噛みつかれている通りを、窓越しに見た。


「一度だけ観測する。位置を出す。三十秒後、その方位から拡散射撃を開始」


山口の口元が、さらにわずかに持ち上がる。


「都市再開発計画みたいな話だな」


「黙れ」俺は山口を睨んだ。「さもないとここにいる全員、今日中にまとめて死ぬ」


山口は一瞬、口をつぐんだ。


迷っている沈黙じゃない。もっと大きな勘定書きに、先に備考をメモしているような間だ。それから俺を見て、笑みを少し薄め、声もそれに合わせて淡くする。


「代償は——お前が生きて戻ってからでいい」


返事をする前に、もう一言。


「死んで踏み倒せると思うなよ」


そう言って、山口 多聞《やまぐち・たもん》という存在は、風に抜き取られるように部屋から消えた。


霧散したんじゃない。溶けたんでもない。この部屋に増えていた重さと、温度と、影が、その瞬間まとめてきれいに引き払われた。あとは窓から冷たい風がまた流れ込んでくるだけだ。さっきまで地獄からの臨時出張者がここでサインして、サインし終わって帰っていったと言われれば、それで全部説明がつく。


ジャックが、俺を見て、懐中時計を見て、さっきまで山口が立っていた位置を見る。


「俺、今、何か重大な説明を丸ごと聞き逃してないか?」


「大したことじゃない」


「さっきのは誰だ?」


「前にも会ってる。鏡の中の人だ。ただ今日は、神秘ぶるのをサボっただけ」


「生きてるのか、死んでるのか?」


「今日、その質問は優先順位が低い」


「さっき言ってた四隻と、プラス二隻ってのは——」


「もう少ししたら、俺が正気かどうか、自分の目で判断しろ」


レミがカメラを抱え込み、声まで変形していた。


「今の、撮れてた? 俺、本当に撮れてた?」


クレールは反射的に自分のカメラに手を伸ばした。


「もし撮れてたとして、帰ったあとって、まずピュリッツァー賞を狙うべき? それとも先に精神病院に入った方がいい?」


俺は銃を肩に押し当て、窓へ歩いた。


「まず生きろ。賞はそのあと、ゆっくり決めろ」


葉 綺安《イェ・キアン》が立ち上がり、まだまともな形をしているマフラーを一本投げてよこした。


「高く出るな。やるのは観測であって、的になりに行くことじゃない」


受け取って、そのマフラーを手首に巻き付ける。簡易の滑り止め代わりだ。


「ああ、わかってる」


希《シキ》は、さっき渡されたレターナイフを握りしめていた。目にはまだ恐怖の残り火があるのに、口元にはさっきの笑いの名残りが、かすかに残っている。


「周 士達《ジョウ・シーダー》」


「ん?」


「さっきの『遺体収容しかできなくなる』って言い方さ……完全に取り立て屋の台詞だった」


希を一瞥《いちべつ》する。


「もともと、あいつは貸しが山ほどある相手だ」


---


ラック・ド・ラ・オート=シュール(Lac de la Haute-Sûre)《ラック・ド・ラ・オート=シュール》湖一帯の前線指揮節点の風は、バストーニュ市街よりも冷たい。


冷たさが、妙に澄んでいる。冷たさが、開けている。冷たさが、火薬と人間の内臓で世界が汚れる前、本来の冬が持っていた冷たさに近い。湖面は、鉛を載せた金属板みたいに一枚の灰色で、風が水面を渡って岸に上がり、仮設の観測幕や通信線、地図の端をまとめて鳴らしていく。遠くの砲声は水面で引き延ばされ、ここに届く頃には爆発というより、地平線の向こうで誰かが延々と分厚い扉を叩いているように聞こえた。


山口 多聞《やまぐち・たもん》は、岸に立っていた。


さっきどこへ行っていたのか、今度は何をしでかしたのか。誰も訊かないし、訊く気もない。この湖畔に立っている者の大半は、すでに学習済みだったからだ——山口 多聞《やまぐち・たもん》が話したくないことを問い詰めても、喉が乾くだけだと。


伝令が記録板を抱えて駆けてきたが、口を開く前に山口が手を上げた。


「報告はいい」


伝令は即座に足を止める。


山口は大衣《だいい》の内側に手を入れ、指先を冷たい金属に触れさせた。その動きは小さい。だが彼をよく知る数名の参謀は、その瞬間、反射的に口をつぐんだ。風は相変わらず吹いている。湖面も揺れている。だがあたり一帯が、さらに深い静けさで押さえ込まれた。


「湖区の錨定《びょうてい》を確認しろ」


「了解」


「戦場実体インターフェイス開放を確認」


「了解」


「代償の精算を、後送りに」


一番近くにいた参謀の喉仏が、かすかに上下した。顔を上げず、低く答える。


「……確認」


山口は掌の中で、その鍵を返した。


大きくない。眩しくもない。むしろ落ち着きすぎているほどだ。


だがそれが掌から離れた瞬間、湖面全体が見えない指で真ん中を軽く押されたように、一度だけ沈み込んだ。それから風紋より深い輪がひとつ、生まれて外側に広がっていく。岸の標柱がかすかに揺れ、固定ロープが低く軋む。まるで湖区そのものが次に起きることを知っていて、誰も先に口に出そうとはしない。


山口は顔を上げ、灰白色の天幕を見た。


「飛龍《ひりゅう》」


風が、一拍だけ途切れた。


次の瞬間、湖面の彼方、空中に、巨大だがぼやけてはいない輪郭がゆっくりと押し出されてきた。影でもなければ投影でもない。歴史の深い水底から、そのまま現代へと引きずり上げられた巨塊だ。飛龍《ひりゅう》の船体が最初に形を取る。艦の線が霧の中から一寸一寸伸びてきて、飛行甲板、艦橋、舷側、舷窓、鋼板の継ぎ目まで、すべてが湿った鉄の気配をまとっていた。残像じゃない。一突きで霧散する幻でもない。むしろ、やたらと実体がある。もう一歩近づけば、湖も空も丸ごと押し潰されそうなほどに。


「蒼龍《そうりゅう》」


二隻目の空母が、飛龍《ひりゅう》の左後方に姿を現す。


「瑞鶴《ずいかく》」


「翔鶴《しょうかく》」


三隻目、四隻目が続いた。四隻の空母が、湖面と空の境目——本来ならば彼女たちを受け入れるはずのない空間に並び立つ。海はない。なのに耳には、艦体を叩く波頭の音が錯覚としてまとわりつく。甲板上の艦載機の輪郭が一機ずつ冷たい光で縁取りされていく。まるで墓所から起こされた猛禽が、刃《やいば》を拭いながら最初の獲物を待っているみたいだ。


山口の声は、どこまでも平板だった。


「榛名《はるな》」


遠くの天幕が、重みで薄く裂かれた。戦艦の長い影が、その裂け目から降りてくる。最初に見えるのは主砲塔。続いて艦橋、艦体、その周囲を囲う厚い装甲の輪郭——動く都市のシルエットだ。榛名《はるな》は「現れる」のではない。「降臨する」。その姿が出揃った瞬間、岸辺にいた何人かが思わず半歩退いた。圧《お》しつけてくるのは、視覚じゃない。胸のあたりを、主砲塔の質量そのもので押されている感覚だった。


「霧島《きりしま》」


六隻目。最後の一隻。


榛名《はるな》と並び立ったとき、湖区上空全体が一段低くなったように感じられた。空が低くなったのではない。この六隻の存在が、「遠く」という概念そのものを引き寄せたのだ。まるで誰かが一整場の海戦を時間から抉《えぐ》り取り、ベルギーのこの冬の空に釘で打ちつけてしまったみたいに。


風が再び吹き始めた。


だが運んでくる音は、さっきまでと違う。艦体の鋼骨が寒さに軋む低音。甲板を牽引車の車輪が転がる細い響き。ロープ。艙門《そうもん》。目覚める前の航空機エンジンが、野獣の喉の奥で一周唸りを溜めるような暗い震動。本来この湖に存在してはいけない音が、今はどれも当たり前みたいな顔をしている。


山口は、バストーニュの方角を見据えた。瞳にあるのは熱狂じゃない。冷たすぎて、もはや残酷としか言いようのない集中だ。


「艦載機第一波、目標は八十八ミリ高射砲陣地」


参謀が即座に復唱する。


「第一波目標、八十八ミリ高射砲陣地」


「第二波、多連装迫撃砲」


「第二波目標、多連装迫撃砲」


「榛名《はるな》、霧島《きりしま》は観測修正待機。三十秒後、都市部目標に対し拡散射撃を実施」


その意味を、ここにいる者は全員わかっていた。


これは支援なんかじゃない。ごく局地的な市街戦を、常識外れの艦隊火力レベルにまで強引に引き上げる行為だ。代償が安いはずがないし、後始末がきれいに終わるわけもない。だが、バストーニュ市街のあのラインを今こじ開けられなければ、人間ごと骨ごと、ドイツ軍装甲師団と砲兵連隊に噛み砕かれるしかない。


山口が手を上げた。


四隻の空母の飛行甲板で、艦載機がほぼ同時に動き出す。一機、二機、四機、十機——現代の滑走路から飛び立つような、整った離陸じゃない。もっと古くて、もっと獰猛な決意を翼に括り付けて、甲板後端から一気に飛び出していく。車輪が、この湖区の上空にだけ存在するはずのない甲板から離れた瞬間、天幕全体に鋭い裂け目が走ったような錯覚がよぎる。エンジン音が密度を増し、低空で湖面すれすれを掠め、灰色の波紋を幾筋も巻き起こしながら、バストーニュの方角へ押し寄せた。


近くに立っていた観測兵たちの顔色が、一様に悪くなる。


若い兵士の一人が、小さく問いかけた。


「司令……全部、実体化してるんですか?」


山口は振り返らない。


「いや」


兵士は戸惑って、黙り込んだ。


山口はバストーニュの方角から目を離さないまま、淡々と続けた。


「必要な分だけだ」


---


俺が半分壊れた窓枠に再び腹ばいになったとき、外の空模様はさらに悪くなっていた。


雲が厚くなったわけじゃない。もっと大きな何かが、遠くで空気そのものの手触りを変えている。煙はまだ煙だし、風はまだ風だ。だが、見えないどこかで戦場の等級が一段階引き上げられたことだけは、嫌でもわかった。


「三つ、ちゃんと見たい」俺は声を絞って言う。「八十八ミリ高射砲のおおよその配置。多連装迫撃砲の射方向。それから、下のクソどもがどこに固まってるか」


ジャックが眉をひそめる。


「肉眼でやるつもりか?」


「他に何がある。愛と気合いか?」


すぐにレミがカメラを抱えて寄ってきた。


「これを使え」


一瞥《いちべつ》する。


「いいのか?」


「よくなくても、今はいいことにする」肩紐を乱暴に引きちぎりながらレミが言う。「ズームが利く。煙の向こうを抜いて見たいんだろ? 持ってけ」


ずしりとした重みが、手に乗った。この場で、この重さはやけに貴重だ。何もかもが崩れ、砕け、燃えていく中で、金属とガラスだけがまだ真面目に教えてくれる——俺はここにいる。少しだけなら、遠くを見せてやれる。


レンズを割れた窓の隙間に押し当てて、まずは遠くから掃き始めた。


八十八ミリ高射砲の位置は、そう簡単には割り出せない。一発撃てば煙も火も反動も出るが、ドイツ軍も木偶《でく》の坊じゃない。陣地を丸見えの場所に晒すわけがない。まずは砲声の方向を辿り、長い通りと開けた地の縁で、不自然な遮蔽物や引きずり痕がないかを探る。案の定、教会広場の外周から北東寄りの断壁群の陰に、妙な輪郭が見えた——長い砲身、支持架、牽引車の残影、その脇を弾薬箱を運ぶ人影が行き来している。さらに外側、道路の交差点裏の低い家屋群の後ろにも、もう一門。


「二門、少なくとも」俺は声を絞って言い、位置を頭に刻む。「北東偏東、教会広場外周の断壁群。もう一組は交差点後方」


レンズを反対側へ振った。


四一式多連装迫撃砲の方が見つけやすい。発射時の尾炎と煙があまりにも下品だ。陣地を直接見なくても、空を引き裂いた軌跡が残る。南西の低地の縁で、二筋の残煙が立ち昇っていた。位置が整然としており、後方に車両の輪郭もある。さらに南寄り、樹林の際《きわ》に半分隠れた多連装発射架が一組、角度をかなり低く抑えて、次の斉射を準備している。


「多連装ロケット二組。南西低地に一組、南寄り樹林際に一組」


ジャックが傍らで聞きながら、じわじわと顔色を変えていく。


「本当にあの——さっき現れて消えた奴に、船でここを砲撃させるつもりか?」


「ここじゃない。あいつらだ」


「その区別、俺の耳には一ミリも安心材料に聞こえねえ」


「じゃあ黙って耐えろ」


階下から突然、機関銃の掃射が跳ね上がってきた。弾が窓枠の木片を噛んで散らす。俺は横に身を引いて、レンズが危うく手から落ちかけた。クレールが短く叫び、レミが反射的にカメラを庇《かば》うように飛びついた。思わず訊きたくなった——そのカメラ、生き別れの親父か何かか。


「反射光を拾われたな」ジャックが言う。


「当たり前だ。ドイツ兵が盲目なわけがない」


レンズを別の隙間に押し当てて、下を掃く。装甲と歩兵の展開は、さっきより広がっていた。パンターは相変わらず路地口を噛み、二輌の半装軌車はそれぞれ後部から歩兵を吐き出していた。工兵がこちらの家屋列に向かって詰め始めている——通りで消耗するつもりはなく、壁を直接爆破して屋内に入り込み、魚の小骨を抜くみたいに俺たちを一軒ずつ掻き出すつもりだ。


こいつらが、榛名《はるな》と霧島《きりしま》に潰される連中だ。


問題は、その前に俺自身とこの部屋の連中を、砲撃半径から引きずり出すことだ。


懐中時計を口元に寄せ、声を短く絞った。


「観測報告。八十八ミリ高射砲二組、北東偏東の教会外周断壁群と交差点後方。多連装ロケット二組、南西低地と南寄り樹林際。市街目標——現在位置前方の路地口にパンター一輌、半装軌車二輌、歩兵・工兵が民家連棟と路地口に密集。三十秒後、標定した街路軸に沿って拡散射撃。短くするな、遠慮もするな」


懐中時計から応答はない。


ただ、針がかすかに震えた。


聞こえている証拠だ。


「退くぞ」俺はすぐに振り返った。「今すぐだ」


レミがカメラを抱え直す。ジュリアンが足を傷めた老婦人を支え、希《シキ》が反対側から体を担ぎ上げた。葉 綺安《イェ・キアン》が後扉脇の棚を引き剥がすと、隣家の台所へ続く小さな穴が現れた——ドイツ軍が隔壁を爆破する前に残していった亀裂だ。今となっては、俺たちの抜け穴になっている。クレールがまだ窓際を振り返ろうとしたので、俺は後ろ襟を直接掴んだ。


「今振り返っても、自分が埋まる映像しか撮れない」


「でも私——」


「今日だけでもう十分ニュースになった。遺品にアップグレードするのはやめとけ」


ジャックが最後に残り、階段口を睨みつけた。


「あとどれくらいだ?」


「二十秒ちょっと」


「なんでわかる?」


「あの老いぼれのさっきの口ぶりじゃ、四十秒は絶対にくれない」


一人ずつ穴を潜り抜けた。亀裂は死ぬほど狭く、煉瓦と木の棘だらけだった。俺がまず老婦人の体を少しずつ押し込み、希《シキ》が前で受け止め、葉 綺安《イェ・キアン》が後ろから支えた。レミがカメラを抱えたまま半秒詰まったので、尻を一発蹴った。


「子どもをそんなに大事に抱くか?」


「これの方が高いんだよ!」


「ぐずぐずしてたら一緒に心中することになるぞ!」


レミが悪態をついて、ようやく押し込まれた。ジュリアンが続き、クレールが最後、途中で窓の外の通りを振り返りながら這い進んだ。大脳がまだこの光景を記憶すべきかどうか迷っているらしい。俺は手を伸ばして、まとめて引っ張り込んだ。


民家二階の後部屋から隣の半壊した建物へ潜り抜けた瞬間、外から異様な音が響いてきた。


砲声じゃない。


空が、沈んでいる。


顔を上げると、天幕のどこかが光った。稲妻でもロケットの尾炎でもない。もっと重く、もっと垂直で、まるで誰かが空の向こうから海ごと引きずってきて陸地に叩きつけたような、白い光だ。


「来たな」


最初に落ちたのは、市街への艦砲じゃない。


八十八ミリ高射砲陣地の方の爆発だ。


北東偏東の遠くで、まず二度光った。続いて単発の爆発ではなく、火の塊が連鎖して次々と空へ巻き上がった。空母から送り込んだ第一波は、ドイツ軍に挨拶をしに行ったわけじゃない——砲座ごと、燃え盛る部品工場に変えにいったのだ。断壁の陰で規則正しく装填と射撃を繰り返していた位置が、一瞬で崩れた。火の中で弾薬が誘爆し、煙柱が跳ね上がる。こちらからでも距離があるのに、空がその一瞬だけ明るくなった。


「あれは何——」ジュリアンが声を失う。


答える暇はなかった。


南寄りでも、続いて炸裂したからだ。


多連装ロケット陣地の位置に、まず横一線の火が走り、続いて発射架の列が見えない巨手にひっくり返された。ロケット弾は全弾撃ち出される前に、自分の陣地の上で先に爆発した。その光景は特別に醜悪で、毒蛇を籠ごと炉に突っ込んで焼いたような種類の醜さだった。


通りのドイツ兵も、ようやく気づいた。


それまでこちらの家屋列へ着実に圧力をかけていた歩兵と工兵の動きが、一拍だけ乱れた。顔を上げる者、振り返る者、通信兵に向かって走る者。パンターの砲塔が旋回を始め、半装軌車の機関銃が理解できる敵を探すように、焦った掃射を数発放った。だが、この一波は理解させるために来たわけじゃない。


三十秒が、来たからだ。


俺はほとんど本能で、全員を床に押さえつけた。


「伏せろ!」


次の瞬間、街区全体が、天から見えない鉄の扉を叩きつけられた。


榛名《はるな》と霧島《きりしま》の艦砲は、砲撃じゃない。


あれは、宣告だった。


第一発が落ちたのは、俺たちがさっきまでいた民家の正面路地口だ。一点を命中させたんじゃない——その点と、周囲にまだ名前のついていたものすべてを、まとめて消し飛ばした。壁、窓、木梁、石段、看板、人体、銃架、半装軌車の側板——すべてが一瞬のうちに白光と衝撃と破片と火に攪拌《かくはん》されて、上向きに噴き上がる鍋の中身になった。反応する間もなく、衝撃波に弾き飛ばされて前のめりに倒れ込んだ。顔が灰まみれの床に直撃する。


耳から音が消えた。


聞こえないわけじゃない——世界がいったん音を切って、半拍遅れで再起動したみたいな感覚だ。


第二発はもっと近い。


今度は後方の連棟民家の中ほどに落ち、家屋の列が見えない大鋸《おおのこ》で中ほどから断ち切られた。床板が一層ずつ崩れ落ち、火が窓から溢れ出して、壁が厚紙みたいに外側へ剥がれた。さっきまで俺がいた二階の小部屋が——半分砕けた窓も、観測のために腹ばいになっていた壁も——目の前で灰と木片になって空へ舞い上がった。


ジャックは頭を腕の間に深く埋め、それでもレミの半身を体で庇《かば》っていた。葉 綺安《イェ・キアン》は老婦人の上に覆い被さり、希《シキ》はその傍らで頭を抱えて縮こまっていた。クレールが悲鳴を上げたが、その声は三発目の砲弾に丸ごと飲み込まれた。


後方の民家が、次々と爆ぜ始めた。


比喩じゃない。一軒ずつ、俺が報告した街路軸に沿って外側へ広がっていく。ドイツ軍が盤石だと思っていた進攻ラインが、通りそのものより長い巨槌《きょつい》で横から往復殴打されている。パンターの左側の家屋列が先に崩れ、半装軌車の後方の建物が通りへ倒れ込んで、移動しようとしていた歩兵数名を煉瓦の下に埋めた。さらに外側では、工兵がまだ踏み込んでいなかった路地が、炎の溝に変わった。


これは普通の砲兵では出せない。


重すぎる。厚すぎる。理不尽すぎる。


海戦用の艦砲を、街の中の一本の通りに向けて撃ち込んでいる。そしてそれを呼んだのは、俺だ。


衝撃で頭が揺れ、口の中が灰と血の味しかしなかった。それでも、笑いが漏れた。


「レミ」


レミはまだカメラを死んでも離さないという顔で抱えていた。顔中が灰で塗り潰されている。


「何だよ——」


「今年はピュリッツァー賞だけじゃ済まないかもしれないぞ」


茫然とした顔で俺を見る。


俺は灰を一口咳き出して、口の端を上げた。


「アカデミー賞も狙えるかもしれない。この映像、編集すれば特撮費が丸ごと浮く」


ジャックが振り返って俺を睨んだ。耳から少し血が出ている。


「てめえ、本当に頭がおかしい」


「じゃあ今ここで泣くか?」


何か言おうとして、最終的にこう怒鳴った。「とにかく這え!」


そうだ、まず這う。


山口がくれたのは救済じゃない。街区ごと引っくり返す刃《やいば》だ。その刃は今、ドイツ軍の牙の間をこじ開けてくれた。だが刃の両側では等しく人が死ぬ。このままここにいれば、俺たちはあのドイツ兵と一緒に、艦砲と崩落した建物で同じ石灰の鍋に煮込まれることになる。


老婦人を床から引き起こし、裏庭へ続く壊れた扉の方へ向かうよう全員に合図した。扉の外はもともと細い路地だったが、今は半分崩れた壁に塞がれている。それでも正面の通りよりはずっとマシだ。俺が先に乗り越えると、着地した瞬間に膝が痛みを発し、危うく体勢を崩しかけた。後ろから葉 綺安《イェ・キアン》と希《シキ》が協力して老婦人を降ろし、ジュリアンとクレールが互いに手を引き合う。レミは聖遺物でも抱えるようにカメラを胸に押しつけ、ジャックが最後に飛び降りる前に、さっきまでいた通りを一度だけ振り返った。


その一秒で、顔から血の気が完全に引いた。


「神よ」


ここは神の管轄外だと指摘する気力も惜しんで、俺も同じ方向を見た。


あの通りは、もう通りと呼べる代物じゃなかった。


創口だ。


パンターはまだ生きているが、生き方が苦しそうだった。正面装甲はそう簡単に吹き飛ばされないものの、両脇の建物がまるごと崩れ込んで、履帯《りたい》部分が瓦礫《がれき》と梁《はり》に挟まれ、砲塔は無理やり不自然な角度にねじ曲げられている。半装軌車二台はそこまで運がよくなかった。一台は燃える後半分だけが残り、もう一台は横倒しになった壁ごと地面に押し潰され、機関銃架が折れた昆虫の脚みたいに歪んでいる。歩兵はもっと悲惨だ。さっきまで壁伝いに前進していた連中は、炎の中で転げ回る者、瓦礫に埋まって手だけ突き出している者、完全に消失し、立っていた場所に湯気を立てる何かだけを残している者に分かれていた。


艦砲の拡散射撃はまだ止まらない。


さらに後方のドイツ軍掃討部隊も巻き込まれている。着弾点は一定じゃないが、酔っ払いが大槌を持って地図をデタラメに叩いているようでいて、一発ごとに必ず一番痛いところを正確に突いてくる精度だった。建物が次々と爆ぜ、壁が紙細工みたいに引き裂かれ、ドイツ軍が立て直しかけた進撃のリズムを根元から叩き折り、後方の迫撃砲の弾着修正まで明らかに狂わせていた。遠くの空では艦載機が低空で唸りを引きずり、八十八ミリ高射砲と多連装迫撃砲のあった二つのエリアは、今や燃え盛る地面とひっくり返った車両の残骸だけになっている。


代償は間違いなく重い。


だが認めざるを得ない——効果も、重い。


俺たちは裏庭伝いに東側の崩れた壁を抜け、砕けたレンガと氷水の上を進んだ。数歩走るたびに背後でまた一発、衝撃が胸の奥を押しつぶす。希《シキ》は最初、爆発のたびに肩をすくめていたが、走っているうちに反応しなくなった。頻度が多すぎて、脳がいちいち恐怖を割り当てるのをやめたのだ。葉 綺安《イェ・キアン》は老婦人の反対側を支え、刃《やいば》の背みたいな冷たい顔で一度も振り返らず、ただときおり耳を傾けて次の着弾位置を判定している。レミは走りながら撮影を続けている。完全に憑《つ》かれたようだ。クレールが怒鳴りかけて、次の瞬間には自分も反射的にカメラを掲げ、崩れた壁の隙間から後方の通りが艦砲に丸ごとひっくり返される光景を抜こうとしていた。


それを見て、思わず怒鳴った。


「まだ撮ってんのか!」


彼女は走りながら息を切らして、それでも返してくる。


「こんなの、一生に一度しかないでしょ!」


笑いそうになった。


「そうだな。もう一回あったら全員死んでる!」


ジャックが顔の灰と血を拭いながら、喘ぎつつ訊く。


「次はどこへ向かう?」


「まずこの拡散線から抜ける。東だ。スポーツセンター付近の迂回路《うかいろ》を目指す」


「道はわかるのか?」


「わからなくても、わかってるフリをする。さもないとこいつらが先に発狂する」


後ろでジュリアンが壁にすがりながら走って叫んだ。


「もう発狂しそうよ!」


「それでいい」振り返らずに言う。「少しイカれてる方が足が速い!」


背後でまた一棟、民家の屋根ごと吹き飛んだ。炎と木材が宙を舞う。俺たちが裏路地を抜けた直後、二階部分がそのまま崩れ落ちて、砕けたレンガがクレールの背中すれすれに落ちた。彼女が悲鳴を上げ、レミが反射的に腕を伸ばして彼女を引き離した——カメラだけは肘の内側にしっかり死守したまま。


「頭を下げろ!」レミが怒鳴る。


「先にそれを置きなさいよ!」クレールが怒鳴り返す。


「無理だ!」


「あんたの頭、どういう構造してんのよ!」


「君と同じで、どこかネジが足りない!」


この三人の記者は、崩壊しながらも口喧嘩を続けている。この職業の採用試験では、脳のネジの欠損具合を事前チェックする項目があるんじゃないかと本気で思う。


二本目の路地を抜けたところで、前方に突然ドイツ軍歩兵が二名現れた。


完全な編制じゃない。艦砲の衝撃で別方向から吹き飛ばされ、ここに流れ込んできた散兵だろう。二人は俺たちを見るなり、「ようやく手頃な獲物を見つけた」という凶光をその目に宿した。一人が銃を構える——俺の方が半拍速かった。一発で壁に叩きつける。ジャックが二発目を続け、もう一人が振り向く間もなく、後ろの氷水の溝へ転げ落ちた。


二発の弾丸。


二つの命と交換。


心の中で静かに記録した。残弾は十発。


希《シキ》はまだ湯気を立てる二つの遺体を一瞬見て、顔色を失ったが、足は止めなかった。止めなくてよかった。今は一秒余計に見るたびに、一息分の余裕が削れる。


外の砲火がさらに遠くへ延びていた。山口 多聞《やまぐち・たもん》の方で第一波の街軸をほぼ掃き終わり、ドイツ軍の後退・集結地点へ向けて拡散を続けているのだろう。理にかなっている。山口らしい。代償を払った以上、相手が本当に痛いと感じるまで使い倒す。


俺たちはようやく、少し広めの裏通りに出た。さっき創口に変えられた本通りから二街区離れている。壁はまだ立っていて、火の手も遠い。だがバストーニュ上空の音は、もう完全に変わっていた。もともとの迫撃砲と散発的な銃声に混じって、海戦でしか聞けないはずの重い拍子が低く、一打ずつ、街の骨格に叩き込まれている。一発ごとに、町全体に向かって宣告しているみたいだった——今日お前は戦場じゃない、標的だ、と。


ジャックが俺の隣に追いついてきて、死神とレスリングでもしてきたような息をしている。


「さっきの……本当に艦砲だったのか?」


「ああ」


「ベルギーで?」


「ああ」


「湖から?」


「ああ」


二秒間の沈黙。それから絞り出すように。


「お前たちがみんな慢性的な睡眠不足に見える理由が、少しわかってきた」


鼻で笑った。


「いい理解力だ。ようこそ、こっち側へ」


前方で横転した小型トラックが通りを塞いでいた。一度止まるよう合図し、壁に背をつけて息を整える。老婦人は意識が朦朧《もうろう》としており、希《シキ》が膝をついて呼吸を確認した。葉 綺安《イェ・キアン》が顔を上げ、俺を真っ直ぐ見る。


「代償は重い?」


無駄のない問い方だった。


顔の灰を拭った。


「重い」


「どれくらい?」


「今はわからない。生きて戻ってから精算するそうだ」


葉 綺安《イェ・キアン》は俺を見て、口の端をかすかに引いた。


「なら、生きて請求書を見に行くしかないわね」


頷いた。


「俺もそう思ってる」


レミがそのとき、カメラのモニターを覗き込んで、感電したように震えた。


「なんてこった」


「今度は何だ?」


顔を上げると、目の中の熱に浮かされたような光が、さっきより一段階強くなっていた。


「本当に撮れてた……建物一列が、海からの炎に直接打ち抜かれるところが」


灰混じりの唾を横に吐いた。


「おめでとう。お前はもう戦場カメラマンじゃない。超常現象解体ドキュメンタリーの監督だ」


クレールが壁にもたれ、まだ完全に戻り切っていない頭で、反射的に返した。


「だったら本当にアカデミー賞を狙えるかも」


後方でまだ次々と爆ぜていく民家を見ながら、乾いた笑いが漏れた。


「前提は、俺たちが追悼映像の素材にならないことだがな」


通りの端から風が流れ込んでくる。灰と雪と火薬と焦げた木材、そして湖水とも海塩ともつかない匂いが混じっていた。その匂いはここにあるべきじゃない。だが今日は、あるべきじゃないものが多すぎる。海が一つ増えたところで、もう誤差の範囲だ。


遠くの空に、小さな黒点がいくつか煙幕の上を掠めていく。


艦載機はまだ仕事をしている。


山口 多聞《やまぐち・たもん》のあの老いぼれは、今回は本当に食器棚ごと全部持ち出してきやがった。


そして俺にはわかっていた——これはまだ、始まりに過ぎない。


ドイツ軍は一度の砲撃でそう簡単に退かない。装甲師団と砲兵連隊が、ひどく殴られたからといって急に平和の尊さに目覚めるような連中なら、とっくに別の歴史になっている。奴らは再集結し、角度を変え、また噛みついてくる。バストーニュ市街の攻城戦は終わったんじゃない。より大きな鉄槌で、一息だけ強引に叩き折られただけだ。


俺たちが手に入れたのは、勝利じゃない。


活路だ。


一時的な。


そして、高い。


懐中時計を胸のポケットに押し戻した。冷たい金属が肌に触れる感触は、まだ果たされていない約束のようでもあり、「後日精算」と書かれた借用書のようでもある。後方でまた遠い爆発音がして、路地の割れたガラスが小さく震えた。東の方角を見上げる。スポーツセンターへの道がまだ待っている。林 雨瞳《リン・ユートン》の方でも新しい中枢の接続が続いているはずだ。この連中を本当に生きて脱出させられるかどうかは、まだ俺がこの息を繋ぎ続けられるかどうかにかかっている。


濁った息を一つ吐いた。


「行くぞ」


ジャックが俺を見る。


「どこへ?」


まだ完全には崩れていない前方の路地へ、軽く顎をしゃくった。


「まだ完全に壊れきってない世界を探しに」


レミが走りながらカメラを抱え、ふと小声で言った。


「もし今日、本当に生き延びたら……」


振り返る気にもならない。


「ピュリッツァー賞でも取りに行け。ついでにアカデミー賞が『現実よりも現実的で賞』を新設してくれるか確かめてこい」


クレールが笑った。


希《シキ》も笑った。息を切らしながらも。


葉 綺安《イェ・キアン》でさえ鼻を鳴らした。このくだらない冗談が少しは役に立つと、ようやく認めたみたいに。


俺たち七人は、砕けたレンガと灰と氷水と、さっきまで俺たちごと埋め殺しかけた世界の終わりを踏みしめながら、裏通りを東へ走った。後方のバストーニュは、まだ海からの砲火に一口ずつ噛み取られている。前方が優しいという保証もない。だが少なくとも今は、俺たちはまだ動いている。まだ影がある。まだ体温がある。まだ誰かに遺体を収容される番じゃない。

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