193.戦術支援 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
最後のK7トラックのテールランプが、路地の向こうで一瞬だけ光って、それから煙と雪と灰と炎にまとめて飲み込まれた。
その瞬間、俺の胸の中に壮烈感なんてものは、一ミリも湧いてこなかった。
ただ、乾いた一言だけがあった。
よし。次は俺たちがここで腐る番だ。
俺とジャックが民家の二階へ退いたとき、階段はすでに半分崩れていた。きれいに折れたんじゃない。木材、釘、手すり、壁の漆喰、そしてここに住んでいた誰かの日常ごとまとめて引き裂かれて、一階のリビングに叩き捨てられたみたいな崩れ方だ。ソファがひっくり返り、ダイニングテーブルの脚が一本折れている。壁には家族写真が一枚掛かっていた。ガラスが蜘蛛の巣みたいにひびわれていて、その向こうで四人家族が笑っている。この世界と自分たちは関係ない、とでも言いたそうな笑顔で。
気の毒だが。
今や関係ある。
しかも、かなり深く。
窓の外は、バストーニュ市街戦の一番みっともない顔だ。英雄的でも、叙事詩的でも、両軍が正面から激突する絵でもない。一つの町が装甲と迫撃砲とロケット弾と履帯の音によって、じわじわと粉に挽かれていく光景だ。ドイツ軍はもはや「前進」していない。「食べている」のだ。パンターが通りの口を塞ぎ、ハーフトラックが一台また一台と側路から人間を吐き出し、機銃班が窓を押さえ、工兵が壁を抜き、迫撃砲が死角を潰す。もっと遠くでは八八ミリ高射砲と四一式多連装ロケット迫撃砲が、まだ掩蔽物らしい形をしているものを「かつて掩蔽物だったもの」に変え続けている。
こちら側は?
七人。
銃二丁。
弾薬十数発。
風が吹き込み、灰が落ち、爆発のたびに「もう限界です」と呻く民家の二階一室。
軍校の学生に「こうなってはいけない」と教えるための反面教材みたいな状況だ。
俺は二階の通りに面した半壊した窓の縁に腹這いになり、片目だけ外へ出した。窓枠はすでに震動で緩んでいて、触ると全体がぶるぶる震えている。高熱の患者みたいだ。向かいのレンガ造りの家が八八ミリに一発食らって、外壁が花開くみたいに崩れ、レンガ、木板、布団、砕けたタイル、誰かの家のカーテンが一緒に飛び出して、向かいの街灯に引っかかった。今も風の中でぶらぶら揺れている。
その絵面が、やけにふざけていた。
誰かの家の洗濯物を、地獄の門の前に干したみたいだ。
ジャックは俺の隣にしゃがみ込み、背中を壁につけて、手の中の弾を一発ずつ確認していた。整理じゃない。命を数えているんだ。彼の手の中の銃は、今この瞬間、どんな宗教よりも正直だ。残り何発かは残り何発かで、祈りの量で増えたりしない。
「こっちは七発。」彼が低く言う。
俺は振り返らずに、自分のマガジンを引き抜いて一瞥した。
「こっちは六発。」
ジャックは二秒黙って、息を吐いた。
「最高だな。俺たちの今の火力は、機嫌の悪い郵便配達員二人ぶんくらいだ。」
「買いかぶりすぎだ。」俺は言う。「郵便屋は少なくとも、どこへ届けるかは知ってる。」
廊下の奥から、ガラスが落ちるような乾いた音がした。
振り返ると、希が廊下の奥の小部屋の入口にしゃがみ込んで、転がった薬瓶を慌ててキャンバスバッグに拾い戻していた。顔じゅう灰まみれで、こめかみに浅い血の筋が一本走っている。おそらく自分の血じゃない。さっき誰かの止血をしたときに付いたものだろう。動きは速いが、どこかふわついている。体がまだ「今俺はドイツ軍砲兵に包囲されかけている家の中にいる」という事実を、完全には受け入れられていないみたいだ。
葉 綺安がその隣にいた。
何も言わずに、ただしゃがんで、壁の角まで転がった薬瓶を一本ずつ拾い戻している。指先が、まったく揺れていない。外で通りを瓦礫に変えている爆発が、自分には関係ないとでも言うように。だが俺には分かる。そうじゃない。ただ彼女は、感情を骨の中にしまい込んで、顔の上を這い回らせないのが、他の人間より上手いだけだ。
こういう人間は戦場で危険だ。
死にやすいんじゃない。他の誰かが先に限界を迎えるまで、黙って持ちこたえ続けられる。
その少し奥の部屋では、レミ、クレール、ジュリアンの記者三人が縮こまっていた。正確には「縮こまっている」じゃない。三人がそれぞれ、三通りの方法で現実と格闘していた。
レミはカメラを抱えたまま壁にもたれて息を整えていた。目が、熱を出している人間みたいに光っている。その顔には一言だけ書いてある。「死ぬかもしれないのはわかってる。でもこの映像を撮らずに死んだら、もっと自分に申し訳が立たない。」
クレールは左脳が現実を受け入れて、右脳がまだ「は?」と言っている状態の典型だ。俺たちと一緒に二階へ駆け上がって部屋に飛び込み、最初にやったのが泣くことでも叫ぶことでもなく、レンズにひびが入っていないかの確認だった。この職業病は、寄生虫より根が深い。
ジュリアンは、三人の中では一番まともな人間に近かった。
ただし、まともなのは半分だけだ。
体を震わせながら、レミの録音機材を整理し続けている。その表情は、脳みその半分が「もう終わりだ」と言い、もう半分が「でも今のあの音、ちゃんと録れてたら相当すごいぞ」と言っているみたいだ。
俺はこの面々を見回して、笑いたくなった。
おかしいからじゃない。
状況が一定以上に最悪になると、顔の部品の中で「笑い」だけが最後まで動き続けるからだ。
階下の通りから、履帯の音が聞こえてきた。
一台じゃない。
少なくとも二台。
あの音は言葉で説明しにくい。単純な金属の摩擦音じゃなくて、ある種の重さが地面の上で法律を読み上げているみたいな音だ。一歩前進するたびに、壁も、床も、窓枠も、人間の胃袋も、全部が一緒にひと縮みする。パンターというやつは、写真で見ると「戦車」に見える。だが実際に二階の窓の下をゆっくり通過するのを聞いていると、それは移動する悪意に近い。
俺は窓の縁にさらに体を低くして、目を細めて下を覗いた。
一輛のパンターが通りの角に斜めに嵌まり込んで、砲塔をゆっくり回転させている。匂いでも嗅いでいるみたいだ。後ろでは二台のハーフトラックがそれぞれ側路の口を塞いでいて、車上の機銃が怪しい窓へ向けて断続的に試し撃ちをしている。さらに後方では、灰緑色の歩兵が壁に沿って前進し、工兵が爆破装具と穿孔工具を背負って続く。町に安楽死を施す専門業者みたいな足取りだ。
急いでいない。
それが一番腹立たしいところだ。
ドイツ軍は今、俺たちを恐れているんじゃない。俺たちにもう逃げ場がないと知っているから、全体のテンポを落としている。まず囲む。次に圧をかける。それから解体する。最後に入る。魚を食べるときみたいに、まず骨を丁寧に取り除いてから、口をつける。
俺は頭を引っ込めて、低く言った。
「下に少なくともパンター一輛、ハーフトラック二台、歩兵一個小隊以上、工兵あり。後方には砲兵まで付いてる。今日この家は、ずいぶんと大事にされてるな。」
ジャックは壁に背中を預け、一度だけ目を閉じた。
「バストーニュの戦いを調べていた頃、俺がよく使っていた言葉がある。」
「なんだ。」
「歴史がここでは、とても身近に感じられる。」
「今は?」
彼は目を開けて、俺を見た。
「近すぎる。もう少しで膝の上に座ってくる。」
俺は頷いた。
「そっちのほうが使える表現だ。」
言い終わった直後、外から一段と鋭い唸り声が空を裂いた。
四一式多連装ロケット迫撃砲だ。
俺はもうあの音が聞き分けられるようになっていた。人生の成果として、まったく誇れない。狂犬の群れが鉄パイプを咥えて雲の上から突っ込んでくるみたいな音で、地面に当たる前から、子供の頃にやらかしたことが全部頭に浮かんでくる。
第一波は南西側、二ブロック先に落ちた。
建物群がほぼ同時に白く光って、それから爆ぜた。一発じゃない。連続だ。街区を一気に、光を放つ骨折に変えた。壁の灰が一面ぱらぱらと降り注ぎ、希がびくっと縮んだ。葉 綺安が即座に肩を掴んで壁の内側へ押し込む。レミの手の中のカメラが額に当たり、それでも本能でレンズを庇った。
俺は彼を見て、こらえきれなかった。
「そんなにそれを抱きしめてると、一緒に埋葬されるつもりかと思うぞ。」
レミは額の血を拭いながら、それでも笑ってみせた。
「正直に言うと、今年のピューリッツァー賞、いけると思う。」
俺は二秒だけ彼を見た。
「もう少し頭を低くしないと、主催者に頼んで墓石に刻んでもらうことになるぞ。」
ジュリアンは泣きそうだったのに、その一言で短く笑い声を漏らした。驚いて出てきたみたいな、短い笑いだ。クレールは笑わなかった。部屋のドア枠に半身を沿わせ、レンズをほんの少しだけ外へ向けていた。どうやら下の装甲車が路地口から前進していく場面を撮ろうとしているらしい。
俺は一瞬で頭に血が上った。
「立ったまま何のつもりだ、ヒトラーにインタビューするつもりか。」
クレールが怒鳴られて縮み、振り返った顔には「は?」が半分書いてあった。
「ただ撮ろうと——」
「撮られる側になりたいなら別だ。伏せろ。」
彼女はようやく壁の陰に引っ込んだ。ただし、カメラはまだしっかり抱えている。その様子は、客観的に見てかなり滑稽だ。建物全体が爆破されかけているのに、構図を気にしている。だがその滑稽さこそが、この場面をより本物の終末らしくしている。世界が崩れたとき、人間は全員が英雄に変わるわけじゃない。大抵の人間は、自分の一番染みついた習慣を持ったまま、最後まで泥だらけで走り続けるだけだ。
外からまた迫撃砲が一発。今度はずっと近い。
建物全体が、ずんと沈んだ。
誇張じゃない。床が本当に一瞬だけ下へ落ちた感覚があった。上の階の板が乾いた悲鳴を上げ、廊下の端の壁に、斜めのひびが一本増えた。灰が喉に流れ込み、俺は一度咳をした。口の中が石灰だらけになった。死んでずいぶん経つ冬を丸ごと噛み砕いた味がする。
ふとMercier Motelのことを思った。
フロントのちらちら明滅するランプ。地図の前に立つ林 雨瞳の、手術刀みたいに冷たい顔。機材を抱えて走り回るレイチェル。医療箱を車に放り込むエリザヴェータ。銃を撃つより罵倒のほうが安定しているヴィクトリア。
あの連中は今頃、この包囲圏から抜け出して、新しい節点へ向かっているはずだ。Centre Sportif Porte de Trèves - Piscineへ向かって、中枢を繋ぎ直している。
それでいい。
俺たちが今ここに残っていることは、無駄じゃない。
ただ、代償が少し生々しい。
ジャックが、俺の考えていることを読んだみたいに低く訊いた。
「あの人たちは、もう出た?」
「出たはずだ。」
「じゃあ、俺たちは今、何なんだ。」
俺は少し考えた。
「アフターサービスだ。」
ジャックは口の端を引いた。笑いにはならなかった。
「こういうときに毒舌が出てくるのが、本当に嫌いだ。」
「やめたら、残り十三発しか弾がないことを、真剣に考え始める。」
「十二だ。」と彼は言った。
俺は振り返る。
「さっき七発って言わなかったか。」
「さっき、階下のドイツ兵が頭を上げすぎていたから、姿勢を一つ直してやった。」
俺は二秒だけ彼を見て、頷いた。
「よくやった。これで俺たちは正式に、弾薬は枯渇しているが死の需要は安定成長中という段階に入った。」
室内は酷く冷えていた。
単純に気温が低いだけじゃない。壁が抜け、窓が割れ、煙と風が一緒に流れ込んで、建物全体が穴を開けすぎた肺みたいに、どこから吸っても漏れる。希が見つけた毛布を、壁際に横たわっている老婦人にかけてやっていた。俺たちがこの家に撤収してきたとき、室内に取り残されていた住人だ。倒れてきた棚に足を挟まれて、顔が紙みたいに白いが、まだ生きている。葉 綺安が膝を固定し、希が残り少ない鎮痛剤と包帯で対処している。二人は最初から最後まで、俺に「どうすればいい」とは訊かなかった。そういう問いが今は何の役にも立たないと、二人とも分かっているからだ。
今どうすればいい?
持ちこたえる。
待つ。
向こうが、どうやって俺たちをこの建物から引き剥がすつもりなのかを見る。
それが、本当に不快なところだ。
今すぐ階下から一気に押し込んできてくれれば、むしろ単純だ。撃ち合って、血を流して、生き残ったほうが次へ進む。話が早い。だがドイツ軍はそうしない。外で丁寧に網を張り、パンターが表通りの視界を塞ぎ、ハーフトラックが両側の路地口を押さえ、歩兵が一棟一棟建物の中を検索しながら噛み進んでくる。砲兵はその間ずっと、この区域全体に「運で生き残ろうとするな」と伝え続けている。
この戦い方には、ひどく不快な効果がある。
時間が、ずっとある。
履帯が向きを変える音を聞く時間。
ドイツ軍の号令が風に乗って上がってくるのを聞く時間。
隣の通りのどこかの建物に、さっきまで誰かがいて、次の瞬間に静かになるのを聞く時間。
次にここの番が来たとき、最初に何が見えるかを考える時間。
火炎放射器の炎か。
工兵が壁を爆破して開ける穴か。
それともパンターの主砲が窓ごと俺を吹き飛ばすのか。
俺は窓の縁に縮こまったまま、手の中の銃を見下ろした。冷たく、灰まみれで、薬室の近くに誰かの乾いた血が一点ついている。俺のじゃない。誰のかも分からない。戦場がここまで来ると、武器も死体の一部みたいな顔になってくる。
廊下の奥から、ジュリアンの低い声がした。
「私たち……本当に、ここで死ぬのかな。」
誰もすぐには答えなかった。
その問いは正直すぎて、正直すぎるがゆえに、すぐに言葉を返せない。「死なない」と言えば子供に嘘をつくみたいだ。「死ぬかもな」と言っても、何の足しにもならない。
最初に口を開いたのは葉 綺安だった。
老婦人の傷を押さえたまま、声は揺れていない。
「順番が来る前に死ぬのは、損よ。」
ジュリアンがきょとんとして、彼女を見た。
「それ、慰めになってる?」
葉 綺安は顔を上げなかった。
「慰めじゃない。帳簿よ。」
俺は思わず彼女を見た。
そうだ。
これだ。
スローガンでもない。優しさでもない。世界の底に押しつぶされていても、まず帳簿をつけておいて、余裕ができたときに一行ずつ取り立てる、あの感覚。
希が顔を上げた。目の縁が少し赤いが、さっきよりずっと表情が落ち着いていた。
「下は全部、ドイツ軍の装甲師団か?」
「ああ」
「砲兵連隊も?」
「ああ」
彼女は数秒沈黙してから、小声でつぶやいた。
「じゃあ私たち、包囲されてるんじゃなくて——収蔵されてるのね」
一瞬頭が真っ白になって、それから思わず笑いが漏れた。
「たとえ方はクソ下手だけど、的確だわ」
ジャックも短く笑った。乾いた、ほんの一瞬の笑い。すぐに消えて、また現実に削り取られかけたあの表情に戻る。
「こういう単語、今まで全部地図の上で見てたんだ」と彼は言った。「装甲師団、砲兵連隊、歩戦協同、市街封鎖。紙に書いてある分には、どれもきれいに筋が通ってる」
俺がその続きを引き取る。
「でも実際に高いところから見下ろすと、もう名詞じゃねえんだよな。お前を殺すための一式の方法だ」
「そうだ」
割れた窓から風が吹き込んでくる。火薬と雪解け水と、焦げた木の匂いを連れて。遠くに教会の鐘楼の輪郭があったが、煙に半分飲まれて、灰白色の空に突き刺さった折れた指みたいに見えた。
バストーニュにも、かつては静かな朝があったはずだ。
誰かがパンを買いに出て、誰かが雪かきをして、誰かが仕事に向かって、誰かが喧嘩して、誰かが愛を交わして、誰かが窓を開けて隣の子どもがうるさいと怒鳴ってた、そんな朝が。
今は、もうない。
今この町に残っているのは、戦術的価値だけだ。
どの窓の角度で銃が据えられるか、路地のどこに機関銃の十字火が通るか、どの建物の床板が厚いか、どの壁が爆破できるか、どの撤退路がロケット砲で断ち切られるか、どの人間の集団が八十八ミリ高射砲で解体する価値があるか。
文明ってのは、こういう場所じゃ後退速度がバカみたいに速い。
砲弾が一発落ちれば、ソファは遮蔽物になり、ダイニングテーブルは障害物になり、シーツは止血布になり、住居は排除すべき建造物になる。人間は——息があれば兵士、息がなければ路上の障害物だ。
不意に喉が渇いた。唇を舐めたら、灰の味しかしなかった。
そのときレミが、また壁沿いにカメラをゆっくり持ち上げて、窓の外にレンズを向け始めた。怒鳴ろうとして、彼の顔を見て、やめた。
興奮じゃない。
現実に内側から押し破られそうになりながら、それでも何かに焦点を合わせ続けてる、必死すぎる集中だった。
怖いのか、記録したいのか、それとも何かを撮り続けないと自分が壊れると思ってるのか——本人にもわかってないかもしれない。ただ、なじみのある動作が必要だった。まだ理解できる範囲の中に自分がいると信じるための、なじみのある動作が。
俺は低く言った。
「撮るなら地這いで撮れ。また立ち上がったら蹴り飛ばす」
レミは一瞥して、頷いた。
クレールが傍らで縮こまりながら、ついに口を開いた。
「あなたたちって……ずっとこういうものと戦ってきたの?」
窓の外のパンターの砲塔を見ながら、ゆっくり答えた。
「違う。今日のはプレミアムコースだ」
ジュリアンは膝を抱えて、乾いた声で言った。
「歴史が繰り返してるのか、それとも私たちが存在してはいけない場所に踏み込んでしまったのか、だんだんわからなくなってきた」
ジャックは壁に背をつけたまま、低く言った。
「両方だろ。だから厄介なんだ」
その言葉が終わると、フロア全体が数秒、静まり返った。
平和な静寂じゃない。爆発と履帯の音の間に挟まった、ごく短い隙間だ。その隙間はあまりにも短くて、あまりにも残酷だった。静寂の中でこそ、人は頭の中に浮かんではいけない声を聞き始めるから。
——あのとき付いてこなければ、よかったんじゃないか?
——次の一発は、この建物に直撃するんじゃないか?
——もし下の階で捕まったら、ドイツ兵は先に撃つか、それとも先に火をつけるか?
——山口 多聞は、今まだ動けるのか?
その思考を、押し込んだ。
まだその時じゃない。
それだけははっきりわかっていた。山口が核弾頭になれないわけじゃない。まだそこまで追い詰められていないだけだ。死神の指輪は、今日気分が悪いからといって使うものじゃない。あれは代償だ、戦術ツールじゃない。本当に使うときは、局面が苦しいんじゃなく、もっと高い何かで買い戻さなければならないほど腐り切ったときだ。
俺はまだ、その金を払う気はなかった。
少なくとも、今はまだ。
階下から突然、ドイツ語の怒鳴り声が響いた。続いて金属が擦れる音——何かを路地に引きずり込んでいるような音だ。ジャックがすぐに顔を上げ、俺と目が合った。何も言わなかったが、互いにわかっていた。いい知らせじゃない。
もう一度、窓の外を覗いた。
二名のドイツ軍工兵が対戦車砲か重機関銃の架台のようなものを路地の角へ引きずっている。周囲を歩兵が掩護している。反対側では、半装軌車の後部から弾薬箱が次々と降ろされていた。さらに遠く、路地の入口のパンターがわずかに後退した——より広い射角のために、場所を空けているように見えた。
クソが。
この建物を落とせないのを恐れてるんじゃない。
どれだけ醜い方法で落とすかを、決めてるんだ。
頭を引っ込めて、低く言った。
「家具を並べ始めた」
ジャックはすぐ理解した。
「俺たちを解体するつもりか?」
「ほぼ確実に」
「主砲か、工兵か?」
「気分次第だろ。今日のドイツ軍は選択肢が多い。俺たちは特価品みたいなもんだ」
希が俺たちの会話を聞いて、指先がかすかに締まった。葉 綺安がちらりと見て、そのまま傍らにあったレターナイフを希の手に押し込んだ。
希は固まった。
「これ……役に立つ?」
葉 綺安は静かに言った。
「戦車には役に立たない。上がってくる人間には役に立つ」
希はその小さなナイフを見つめ、喉を動かした。それから、握り締めた。
その光景が、俺の胸の中の何かを一段、沈めた。
これが末路というものだ。
叫ぶわけでも、泣き崩れるわけでもない。誰かが静かに、まるで足りないナイフをお前に渡す。お前も静かに受け取る。本当にその瞬間が来たとき、足りるかどうかはもう問題じゃないとわかってるから。ただ、空手ではいられない。
外の空が、また暗くなった。
夜になったんじゃない。煙が濃くなったんだ。四一式多連装迫撃砲が遠くで別の区画を洗い、濃煙が路地を這って、まるで黒い海水が街の骨格へ流れ込むように広がっていった。炎が煙の中で明滅し、バストーニュ全体がまだ完全には冷えていない屍のように見えた——どこかがときどき痙攣し、どこかからまた熱い息が漏れる。
レミが突然、低く言った。
「もしこれを全部撮れたとして……外にいる人たちは信じると思うか?」
俺は窓際に寄りかかったまま、彼を見なかった。
「まず、何を吸ったのか疑われる」
「その後は?」
「その後は、自分が眠れる方の話を選んで信じる」
レミは黙った。
それも当然だと思った。俺自身、今足の下にあるこのすべてが、歴史なのか残像なのか現実なのか、それとも戦争を時間から切り取って現代に差し込んだ何者かの悪意ある実験なのか、わからなくなることがある。ただ一つだけ確かなことがある——どこから来たものであれ、これは今、人を殺す。しかも非常に効率よく。
それで十分だ。
哲学はすべて、後回しでいい。
階下から突然、犬の吠え声が響いた。
犬じゃない。
ドイツ兵が住人を追い出している声だ。
一軒ずつ。
一棟ずつ。
その声が通りを伝って上がってくる。不快なほど近い。どこかでドアを叩く音、蹴破る音、銃床で板を砕く音。隣の建物から女の悲鳴が一つ聞こえて、続いて短い二発の銃声。それから、静寂。
二階にいる全員が、動かなかった。
レミまでカメラを下ろした。
ゆっくりと窓際から壁へ体を引いた。背中を壁につけると、冷気がコートを貫いて、背骨の奥まで届いた。
ジャックが最後の一発を弾倉に押し込んで、顔を上げた。
「通りを封鎖している」
「わかってる」
「次は俺たちの番かもしれない」
「ああ」
彼は笑った。乾いた、薄い笑いだった。
「荒野の用心棒の最悪の結末みたいだな」
俺も笑った。
「違いは、あっちには少なくともBGMがあることだ」
外で風が吹き、破れたカーテンが揺れた。階下でまた履帯の音が緩やかに動き始める。遠くで砲声、近くで捜索の足音。葉 綺安が老婦人をもう少し壁際に移動させ、希が歯を食いしばって手を貸した。三人の記者は影の中に縮こまって、まだ現実の牙の間から頭を引き抜けていないようだった。ジャックが俺の隣に座っている——二丁の銃、十二発の弾丸、そして通り一本分のドイツ軍装甲師団と砲兵連隊を相手に。
この連中を見渡して、俺はふと思った。すべてが、恐ろしいほど単純になったと。
退路が本当になくなると、考えなくていいことが増える。
どの路地を選ぶか、考えなくていい。
どの地点を押さえるか、計算しなくていい。
あとどれだけ持つか、読まなくていい。
今残っているのは、二つだけだ。
待つこと。
それから、先に頭が壊れないようにすること。
階下でまたドアが蹴破られた。
今度はもっと近い。
ほぼ、俺たちの建物の隣だ。
ゆっくりと銃を持ち上げた。銃口を階段の上り口の闇に向ける。
外のどこかがまた光った。火かもしれない、砲かもしれない、それとも半装軌車の機関銃が旋回したのかもしれない。壁の奥から細かい振動が伝わってくる。まるで建物全体が、誰かがもうすぐ上がってくることを知っていて、俺たちより一歩早く震え始めているように。
低く言った。
「全員、声を出すな」
二階は、呼吸だけになった。
七人分の呼吸が、灰と血と冷たい風と、階下の装甲師団の重さと混ざり合って、この腐りかけた民家の中に閉じ込められていた。
世界の終わりの直前、最後に飲み込めなかった一息のように。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




