189.侵入 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
数日前のあの音、残像、ガラスの反射にちらりと映っては消えるやつは、まだ「地元の伝説」「イベントの錯覚」「低温と集団疲労」といった文明社会専用の言い訳で包んでごまかせた。昨日の街での一件も、「事故調査中」というフォルダに官僚システムが無理やり押し込んで、交通規制さえ早めにやれば現実の出血は止まるふりができた。
だが今日からは、その薄皮すら要らなくなった。
夜明け前の五時四十分。俺を叩き起こしたのはエンジン音だった。
モーテルの駐車場に停まる現代的なエンジン音じゃない。ディーゼルのアイドリングでも、税金を払う生きた人間が動かす早朝配送トラックの機械音でもない。もっと古く、もっと重く、泥と火の匂いを纏った轟音。一九四四年にはとっくに骨格だけになっていたはずの何かが、世界の皮一枚を隔てた森の向こうで、もう一度エンジンをかけ直したような音だった。
目を開けると、窓の外はまだ夜明け前の薄闇で、Mercier Motelの安っぽくも正直な廊下灯が駐車場を霊安室みたいに照らしていた。林 雨瞳はもうベッドの傍にいなかった。それはつまり、普通の異常じゃなく、「彼女が俺を呼ぶより先にモニターを確認しに行く」レベルに突入したということだ。
上着を掴んで部屋を出ると、廊下の突き当たりに葉 綺安が立っていた。サーマルカメラを両手で構え、昨日よりさらに険しい顔をしている。
「どこだ?」
「北側。」振り向きもせずに答える。「モーテルの裏じゃない、もっと遠い。町の外。」
「エンジン音か?」
「それだけじゃない。銃声も。」
サーマルカメラを渡された。北側の林の縁と、その向こうの道路に向けて覗く。画面に映ったのは完全な輪郭じゃなく、不快なほど断続的な熱点と冷点が交互に並ぶパターン。まるで誰かが旧式の装甲縦隊と大量の死者を同じサーマル画像に無理やり重ね合わせて、説明するのが面倒だから半端な証拠だけ残して生者に想像させているみたいだった。
希も起きてきた。まだ眠りから抜け切れていない寝ぐせ頭で飛び出してきて、第一声がいかにも彼女らしかった。
「また幽霊車が朝礼やってんの?」
「違う、」俺は言った。「今日は幽霊車が本番に入った。」
下のガソリンスタンドにはまだほとんど客がいなかったが、フロントの女は既にドアの前で煙草を吸っていた。指でフィルターをきつく挟んで、一口吸うたびに、この町で何が起きているかを少しずつ知らずに済むとでも思っているみたいに。人間ってのはたまに可愛い。聞かなければ災害が遠慮してくれると本気で信じてる。
六時過ぎ、最初の報告が入った。
公式ルートからじゃない、もちろん問題が起きるたびに口裏合わせてから遅刻してくる機関からでもない。地域の活動サークル、地元の小さな店、早朝配送、そして普段は何でもスマホで撮りたがるくせに今日は手が震えて撮れない普通の人たちから。
町の南東、戦場再現イベント用に使われている林地で、何かが起きた。
そこには前夜まで、米軍制服を着た再現マニアが小さなグループでいた。テントの傍でソーセージを焼きながら、誰のM1スチールヘルメットの塗装が市販の公式復刻品に一番近いかを競い合っていた連中だ。俺はこういう人たちを嫌いじゃない。歴史マニアの最大の長所は細部へのこだわりで、最大の欠点は自分が愛しているものが本質的に誰かが一度死んだ結果だということを忘れがちなことだ。
その欠点を、現場で教育された。
朝六時半、俺たちが車で向かうと、道路はベルギー警察と活動ボランティアが入り混じった人間に半分ふさがれていた。封鎖とは名ばかりで、実態は睡眠不足の人間が寒風の中に立ち、誰の指示を聞けばいいか必死に維持しようとしている光景だ。反射ベスト、パトカー、市の小型トラック二台、救急車一台、それと不安定な飛び方をしているドローン一機。治安システム全体が、予算は限られているのに対象が物理常識を超えている臨時プロジェクトみたいだった。
車を降りた瞬間、最初に来たのは火薬の匂いだった。
現代の弾薬みたいな乾いた匂いじゃない。古い銃、古い火薬、古い木製銃床と湿った雪が混ざり合った、くぐもった匂い。さらに奥に進むと地面に血が見えてきた。一、二か所じゃない。明らかに、乱暴に引きずられた血の線。雪は正直だ。人は騙せても、白い地面は騙せない。誰が走り、誰が倒れ、被弾してからさらに二メートル這った者がいたか、雪がすべて記録している。
林の縁に、生き残った者が数人しゃがんでいた。
生きていると言えるのは、心臓がまだ止まっていないからだ。それ以外の部分は、たぶんもう一度死んでいた。その不運な連中は米軍の模倣制服を着ていた。ヘルメット、コットンジャケット、レッグラップ、一人の足元にはブランクカートリッジ入りのM1が転がっていた。問題は、地獄から戻ってきたドイツ軍の亡霊にとって、この格好は「イベント衣装」じゃなく「敵軍識別」だということだ。
彼らはこの偽米軍を、本物の米軍だと判断した。
結果は明快だった。
脅しでも散開命令でもなく、屠殺だ。
若い男が木の根元に座っていた。左胸に古い時代の貫通傷があり、血が制服の前を醜い黒赤色に染めていた。口の中でフランス語の一文を繰り返している。傍の人間によれば「僕たちは演技をしていただけだ」という意味らしい。その台詞、生きている人間に言えばまだ同情を買えるかもしれないが、戦場で死んだドイツ軍の亡霊に向かって言っても、歴史理解がイベント企画レベルだと証明するだけだ。
別の生存者は右手全体を銃剣で切り裂かれていた。手の甲から前腕まで続く傷口は、近接戦闘が文化体験じゃないことを、誰かが丁寧に教えた跡だ。年配の太った男は顔中に擦り傷を負い、魂が返品されたような虚ろな目をして、撃ち抜かれた弾薬ポーチをずっと握って離さなかった。手放さない限り、さっきの数分間をまだ没入型の再現イベントとして計上できると思っているみたいに。
近くにいた先着の警官に聞いた。「死者は何人だ?」
その警官は四十歳くらいで、目の下が青黒く、今日だけで世界観を二発殴られた顔をしていた。俺を見て、次に後ろからついてきた葉 綺安と林 雨瞳を見て、どの部署の人間か聞きたそうにしたが、今の現場はもう正規の問答プロセスを踏む価値もないくらい崩壊していた。
「今のところ九人確認、」彼は言った。「生きて戻ったのは四人、行方不明が二人。」
「行方不明じゃない、」俺は言った。「まだ回収されていないだけだ。」
彼の口元がかすかに動いた。反論したいのか、俺のその一言が現場より縁起が悪いと思ったのか、判断がつかなかった。
林の中にはさらに多くの痕跡があった。単純な足跡でも、イベント用車両が残す規則的なタイヤ跡でもない。古い戦場のリズムを持つ圧痕だ。軍靴の列、ハーフトラックが引いた浅い溝、そして車体が一時的に実体化してまた影の状態に戻ったような重圧点がいくつか。つまり残像が通過したんじゃなく、ドイツ軍側が実際にこの地面の一角を、一時的な屠殺場として使用したということだ。
レミが後ろで撮影しながら、呼吸が乱れていた。
「これは……もう怪談として書けないな?」
「昨日から書けなかった、」俺は言った。「ただ今日、向こうがタイトルを戦争犯罪に変えた。」
クレールが生存者の一人の傍にしゃがんで、低い声でいくつか質問した。男は明らかに恐怖で頭が止まっていたが、断片的な答えを繋ぎ合わせると意味は明確だった。最初は林の中から履帯の音とドイツ語の号令が聞こえて、別の再現チームが早めに入場してきたと思った。霧が晴れると、木々の間に現れたのは演者じゃなく、顔は死人なのに動きだけは生者より目的に満ちたドイツ軍の一団だった。誰かが何か叫んで、そのまま開火した。警告射撃じゃない。「米軍を見たら撃ち殺す」という古い効率の話だ。
この状況には黒いユーモアがある。
歴史マニアが金と時間と装備をかけて米軍に扮し、ある戦いを記念しに来た。歴史が本当に戻ってきたとき、一瞥して「ちょうどいい」と判断し、識別の手間を省いて当時のワークフロー通りに処理した。
ベルギー警察と地元の治安システムがようやくまともに介入し始めた。
問題は、ほとんど意味がないことだ。
まずパトカーが増えて封鎖線が伸びた。次に地方行政の人間、イベント主催者、防寒ジャケットを着ているが明らかに現場派じゃない安全担当官が道端に並び、ノートパソコンと無線機と焦ったフランス語で、事態を管理可能な断片に切り分けようとした。過激派が再現イベントに混入したと言う者、非合法武装の模倣犯だと言う者、未申告の旧式武器による事故だと言う者。見事だ。亡霊の軍団を前にして、文明社会の第一反応は常に、まず責任を負わせる生者を探すことだ。
サーマル搭載の治安車両まで二台呼んだ。
これがまた笑える。
サーマルが捉えたのは完全な部隊じゃなく、断続的に冷えたり熱くなったりする何かだった。燃えている戦車みたいに見えたかと思えば、体温がおかしい人影の列になり、次の瞬間には林全体の一区画の温度が丸ごと消えた。ドローンを飛ばすと最初は映像が映ったが、林の上空に入ったところで信号が乱れ、そのまま自動帰還モードに切り替わった。機械でさえ、これが自分の勤務時間外だと知っているみたいに。
濃紺のジャケットを着たベルギーの安全担当官が俺の傍を通り過ぎた。無線機を持ちながら「北側道路の管制強化」「不要な通行の一時停止」「連邦の映像鑑識支援を要請」と喋っている。その顔を見て、先生、今あなたに足りないのは鑑識じゃなくて神主の札と重砲ですよ、と言いたくなったが、やめた。官僚に数分間だけ尊厳を保たせてやるのも、一種の人道的配慮だ。
九時近くになって、二報目が入った。
今度は林地じゃなく、N30北側の県道だ。
ドライバー、農家、早班の配送車、それから中年のバイク乗りが、全員、燃えているドイツ軍の戦車を見たと言った。止まって燃えているんじゃない。燃えながら動いている。さらに呆れたことに、その燃える戦車の傍で、とっくに死んでいるはずのドイツ兵が路肩と雪原を南に向かって歩いていた。顔の半分がない者、胸に焦げた穴がある者、ヘルメットが傾いているのに足取りは安定している者。まるで自分がもう死んでいることを知らないか、あるいは知っていても行軍に支障はないと思っているみたいに。
これは村人の怪談扱いにできないと判断して、すぐN30へ向かった。
道路の封鎖は増え続けていたが、やはり効果は薄かった。警察は増え、バリケードは増え、空には回転翼が一機加わった。ベルギーがようやく「歴史マニアが林で遊びすぎた」じゃないと認め始めたらしい。認めるのと対処できるのは別の話だが。ヘリがバストーニュ上空を三周しても、住民をさらに鍵をかけたくさせる以外に、地面から戻ってきたドイツ軍残存部隊への説得力は何もない。死人は航空威圧を食わない。
N30北側の下り坂で車を止めたとき、降りる前にもう煙が見えた。
大火の黒煙じゃなく、断続的な、別の時代から漏れ出してきたような黒灰色。そして音が聞こえた。旧式の履帯が積雪と舗装路の縁を踏む節奏。重く、鈍く、金属の緩みが混じった悲鳴のような音。朝より明確で、もう錯覚を装う気もない。
路肩の高い側を見上げて、ようやくそれを確認した。
ドイツ軍の戦車。正確に言えば、燃焼中のドイツ軍戦車の残影。外形はパンターと、炎で歪んだ何かの中間だった。車体の半分は実体があるように見え、もう半分は焼けた写真から切り抜いて空気に貼り付けたようだ。砲塔の側面に破口があり、片側の履帯は明らかに二節欠けているが、それでも動いていた。ゆっくりと、頑固に、北側の県道を斜めに横切りながら、車体の縁から細かい火の粉を落とし続けていた。物理的な燃焼じゃない。怨念が高温の残滓になったような火で、雪の上に落ちると焦げた黒点だけ残し、雪を溶かさず、傍の草の葉をかすかに丸める。
戦車の後ろに、ドイツ兵の列が続いていた。
突撃じゃない。歩いている。
それがかえって気持ち悪かった。
生者の突撃なら、アドレナリン、命令への服従、訓練の結果として理解できる。死者がただ歩いているということは、士気を鼓舞する必要も、自分を説得する必要もないということだ。歩けばいい。前に道があれば歩き、前に敵がいれば撃つ。内面のドラマが一切ない軍隊は、文明社会の自己満足を壊すのに最も向いている。
希が息を飲んだ。
「これ、ちょっと……」
「規格外すぎる?」俺は言った。「ドイツ軍は昔から外見管理にうるさかった。死んでも例外じゃないらしい。」
葉 綺安は俺を無視して、歩兵の隊形を見つめていた。
「散兵じゃない。リズムがある。」
「ああ。」
「純粋な屍行じゃないということ。」
「ああ。」
「なんでそんなに冷静でいられるの。」
燃えながら歩くドイツ兵を見ながら、淡々と返した。
「今ここで感情を演じ始めても、この道が安全になるわけじゃないから。」
近づきすぎなかった。怖いからじゃなく、必要がないからだ。こういう場面で突進して視認距離を縮めるのは、敵側の弾道修正を自発的に手伝うようなものだ。林 雨瞳がサーマルで熱像と経路を記録し、レミが手を震わせながら映像を撮り、クレールとジュリアンが目撃者の証言を記録した。道端に立っていた農家の老人は、まだ手に熊手を持ったまま、ドイツ兵の一人が頭の側面を一部欠いていたにもかかわらず、自分の農場の柵を通り過ぎるとき振り返ってこちらを見た、と繰り返し話した。「死人に見られた」という話は、生者の数夜分の睡眠を確実に奪う。
頭の中でおおよその整理がついた。
バストーニュ外縁での件は、探りを屠殺に変えた実験だ。N30北側のこれは、機械と歩兵を同期させて現代世界に接続する練習だ。つまり向こうはもう「出てきて脅かす」段階じゃなく、戦場の各要素を現代の地形にどう接続するかを段階的にテストしている。壁の向こうからノックするだけだった隣人が、鍵の開け方、窓の外し方、電気メーターの取り外し方を覚えたようなものだ。
昼過ぎ、Mercier Motelに戻った。
戻る道中、封鎖はさらに厳しくなっていたが、やはり意味はなかった。警官が増え、バリケードが増え、空にはさらに一機、忙しく旋回するヘリが加わった。結構、ベルギーもようやく歴史マニアが林で遊びすぎた話じゃないと認める気になったらしい。ただ認めることと能力は別物だ。ヘリがバストーニュ上空を三周しても、住民をさらに鍵をかけたくさせる以外に、地面から戻ってきたドイツ軍残存部隊への説得力は何もない。死人は航空威圧を食わない。
旅館は今度こそ前線基地の様相を呈していた。
部屋に入って、レミがまだメモリーカードを全部外し終わらないうちに、鏡が先に曇り始めた。
山口多聞は今回、一人じゃなかった。
霧が鏡面の中央からゆっくりと広がった。湖面の反射を無理やり室内に押し込んだみたいに。そして彼のいつもの顔、負けると分かっていても最後まで戦い抜く戦争から歩き出してきたような顔の傍に、もう一人の姿があった。
陸軍の制服を着た男だ。
直立不動で立ち、頭には白い鉢巻を巻いていた。額の布には何か手書きされているようだが、霧がかかっていて読めない。腰には軍刀を下げ、制服は山口のような海風と炎の痕跡がなく、もっと乾いて、硬い。それ自体が前に突き進む鉄の板みたいだ。顔は若くはないが老いてもいない。三十代前半、目つきは「一言命令が下れば今すぐ機関銃口に向かって突撃する」という標準的な日本陸軍将校のそれだった。はっきり言えば、いつでも万歳突撃の準備ができている顔で、静かに立っているだけで、こちらが先に彼の戦地葬儀を予約したくなる。
希が一瞥して、つぶやかずにいられなかった。
「海軍が会議に陸軍連れてきた?死んでからやっと統合作戦覚えたの?」
俺は笑いそうになった。
山口多聞はいたって平静で、この組み合わせに歴史的な皮肉があるとはまったく思っていないようだった。
「地上戦はもはや艦載機と水鏡の干渉だけでは賄えない。」彼は言った。「歩兵には、混乱の中で前進し、分断し、拠点を奪える人間が要る。」
山口は身を少しずらし、その陸軍将校を一歩前に出させた。
「神崎忠明大尉。」山口が言った。「今回の地上戦歩兵指揮は、彼が担当する。」
男はわずかに頭を下げた。短い動作で、礼儀というのが射撃開始前の最後の文明の薄皮に過ぎないみたいな下げ方だった。
「神崎忠明であります。」彼が口を開いた。中国語は意外なほど落ち着いていた。「夜間浸透、近接突撃、ルート掃討、拠点奪取が必要なら、お任せを。」
俺は二秒ほど見てから、実際的な質問をした。
「上がったとたんに万歳突撃するんじゃないだろうな?」
目が一ミリも揺れなかった。
「戦術的に必要なら、実施します。」
「いいね。」俺は言った。「少なくとも正直だ。」
山口多聞は俺がそう聞くと最初から分かっていたみたいに、声色ひとつ変えない。
「安心しろ。彼は、お前の前で感傷を演じに来たわけではない。」
「そうであってほしいな。」俺は机の前に歩いて、バストーニュ外縁とN30の数か所を指した。「今日はもう『ここに幽霊がいる』レベルじゃない。ドイツ軍が各部隊を現実に試験的に差し込み始めた段階だ。林地では偽米軍を本物の米軍と判断して屠殺した。N30北側では燃えているドイツ軍戦車が死人の歩兵を引き連れて県道を歩いている。湖区のやり方がまだリズムを切るだけで止まってるなら、次はアルデンヌ全体の地主に人間の扱い方を教わるはめになる。」
神崎忠明は地図を一瞥して、かすかに笑った。
愉快じゃない。専門家としての、ある種の認識の笑いだ。
「ドイツ軍は重い。」彼は言った。「だから、まずバランスを崩させればいい。」
「言うのは簡単だな。」
「歩兵ってのは元々、簡単じゃないことをやるために使うものですから。」
理屈としては正しい。半分だけ点をやる。
山口多聞は続けて湖区の配置を簡単に説明した。飛龍の前線指揮は安定済み、九九艦爆は装甲切断と要点打撃で待機、九七艦攻は道路と側面の撹乱担当、零戦が短時間の目眩ましを維持。第101特別陸戦隊はすでに死角ルートから切り込める状態で、神崎忠明は亡霊歩兵部隊を率いて地上の拠点奪取、近接突入、残存部隊の分断を専門に担う。つまり日本側はようやく「湖にやたらとよく出る幽霊船がいる」から「まあ少なくとも地上部隊はある」に正式にアップグレードした。
聞き終わって一言だけ評価した。
「日本人は死んでから陸海協同を覚えたのか。歴史のブラックジョークとしては相当厚いな。」
神崎忠明は今度は本当に笑った。目の奥に、あまり健全じゃない戦意が少し見えた。
「生きているときは余計な配慮が多すぎる。死んでからのほうが集中しやすいんですよ。」
この一言はあまりに直球で、レミでさえ口を挟めなかった。
会議はそう長くならなかった。もう雰囲気を話し合う段階じゃなく、どこが先に崩れて、誰が先に補って、補えるかどうかを話す段階だからだ。山口多聞はきっぱり言った。ドイツ軍側の第三層はまだ完全に頭を上げていないが、前の二層だけで町に死者が出始めるには十分だ。ベルギーの治安システムが「封鎖→証拠収集→増援→記者会見」という手順でのろのろ這い続けるなら、向こうはむしろ喜ぶ。亡霊が一番好むのは、手続きが完了する前の空白だからだ。
要するに今日の警官、連邦部隊、安全担当官、ヘリは、数だけ見れば多い。実態は、制度という服を着た人間が戦場の縁に立って、書類フォルダを持ちながら歴史に落ち着くよう説得しようとしているようなものだ。
鏡の霧が散ったとき、ドアの外に人が立っているのに気づいた。
俺たちのメンバーじゃない。フロントでもない。
あのアメリカ人の歴史オタクだった。
もう遠くから軽く頷くだけじゃなかった。「たまたま通りかかった」という顔もしていなかった。今回ははっきりとドアの前に立っていた。金のかかりすぎてまともな仕事道具に見えない機材を背負い、見すぎた末にやっと通行人のふりをやめる決心をしたような疲れた顔をしていた。外で何かを聞いたのかもしれないし、もっとありそうな話では、証拠を積み上げすぎて、誰かと話さないと自分の世界観が駐車場でひとりでパンクすると悟ったのかもしれない。
俺は彼を見た。
彼も俺を見た。
今回、ようやく正式に顔合わせの番が来た。
彼が先に口を開いた。中国語は標準的とは言えないが十分で、意識的に落ち着かせていた。
「ジャック・レイノルズ。テキサス出身。弾道史と戦場装備分析をやってる。」
俺はドア枠の内側にもたれたまま、道を開けなかった。
「周 士達だ。」
「知ってる。」
「へえ?」俺は一瞥した。「調べたのか?」
「違う。」彼は言った。「あなたがこのグループで唯一、物事が崩れたと直接認めそうな人間に見えたから。」
この一言は気に入ったので、半歩分だけ道を開けた。
「入れよ、テキサス人。ドアの前に立ちすぎると、フロントにカルト説明会を開いてると思われる。」
彼が入ってきた。視線が素早く部屋の機材、地図、全員の顔を一周して、最後に俺の机のサーマル画像とN30の写真数枚で止まった。いい。この男は人脈を作りに来たんじゃなく、自分がまだ正気かどうかを確認しに来た。
「先に整理しておく。」彼は俺を見て、口調はきっぱりしていた。「今日、町の外で米軍の服を着た連中がやられたのは、人間に奇襲されたんじゃない。N30の燃えているドイツ軍戦車も、ミリタリーマニアのグループが作ったネタじゃない。俺の機材には存在するはずのない熱点、冷洞、圧力のズレが全部映ってた。」
「おめでとう。」俺は言った。「正気な人間が踏み込みたくない領域に、あなたは正式に足を踏み入れた。」
彼は笑わず、メモリーカードを一枚机の上に置いただけだった。
「英雄になりたいわけじゃないし、馬鹿になりたいわけでもない。ただ一つだけ分かってることがある。今日から、ここはイベント会場じゃない。」
俺はそのカードを見て、それから彼を見た。
「これが正式な挨拶ということか?」
「そうだ。」彼は言った。「それと、あなたたちのほうが警察より自分たちが何と向き合っているか分かってる、という認識でもある。」
俺は頷いた。
「そんなに正直だと、すぐ後悔することになるぞ。」
外の風がちょうど駐車場の方から吹いてきた。ガソリンスタンドの灯りの下の冷たい白い匂いと、もっと遠くで封鎖と恐慌がゆっくり締まっていくときだけある、あの重苦しい匂いを運んで。バストーニュは今日、異常から戦域の縁に踏み越えた。偽米軍が屠殺され、燃える戦車が走り出し、死人が行軍し、海軍の亡霊が陸軍大尉を連れてモーテルに顔を出し、治安システムが大げさに介入しながら自分たちの無力さの議事録を作っているみたいだった。
そして今、テキサスから来た歴史オタクが、この前線基地に歩いて入ってきた。
ジャックを見ながら、頭の中に結論が一つだけ浮かんだ。
よし、証人が揃った。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




