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186.バストーニュ 2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

ドアを押すと、暖房と安物の空気清浄剤が一緒に顔に当たった。香りで偽装された濡れ雑巾みたいな感触だ。この匂いには覚えがある。世界中の安モーテルは、自分が臨時の落脚点じゃないと証明しようと必死で、部屋に何かの罪を消毒し終えたような匂いを噴き付ける。問題は、何度かこういう場所に泊まった人間なら全員知っていることで、こういう場所ほど匂いを信用してはいけない。ある政府がずっと透明性を強調しているなら、大抵は透明であることの方向性がどこかおかしい。それと同じだ。


カウンターの後ろに五十代くらいの女が座っていた。髪をきつく束ね、眼鏡を鼻先に引っかけ、手元には開いた宿泊台帳と、彼女より先に生まれたんじゃないかと思えるデスクトップのモニターが置いてある。彼女は俺たちを一瞥したが、「この人たちはどう見ても遊びに来てない」という表情は一切見せなかった。


いい兆候だ。こういうモーテルで夜勤をしながら余計なことを聞かない人間は、二種類しかいない。世の中を見すぎて動じなくなったか、人間に完全に期待するのをやめたかだ。どちらも俺は好きだ。


俺は身分証と現金を先にカウンターに押し出した。


「五部屋。できれば続きで、駐車場が見える方がいい」


女は身分証を受け取り、二秒ほど俺の顔に視線を止めた。こいつはチップを弾む客か、それとも前科を残していく客か、値踏みしているような目だった。最終的に彼女が選んだのは第三の選択肢——何も見なかったことにする、だった。


「五部屋あります。二階に三部屋、一階に二部屋。ツインベッドが基本です。今夜は込んでいて、この配置しか残っていません」


「それで構わない」俺はカウンター脇に刺さっているイベントのチラシに目をやった。「この辺り、最近賑やかみたいですね」


「毎年この時期はこんなものです」彼女は平坦な口調で言った。「戦跡ガイドツアー、記念イベント、再現マーケット、外から来る歴史マニア。昼間は多めで、夜は少なめ。この数日はちょっと騒がしくなります」


「どの程度騒がしいんですか?」


彼女は顔も上げずにキーボードを叩いた。「何を騒がしいと思うかによります。観光客の酔っ払いだと思う人もいれば、古い土地の古い持病だと思う人もいる」


俺はカウンターを指で一度叩いた。


「古い持病?」


「森の中で時々音がします」と彼女は言った。「道路でも、時代の合わない服を着た人を見たという話が出ることがある。外から来た人はすぐ大騒ぎしますが、地元の人間はもう慣れています」


後ろで希(シキ)が声を落として言った。「へえ、商売上手だな。怪談まで宿泊体験にパッケージしてる」


俺は振り返らず、カウンターの女だけを見続けた。


「つまり、本当に何か出るということですか?」


彼女は肩をすくめた。実にヨーロッパ的な動作だった。


「私が言いたいのは、もし夜中に変な音がしても、自分から森の中に入っていくな、ということです。明日の朝になってもまだ勇気が残っていたら、ガイドに聞いてください」


「責任感のある観光アドバイスですね」


「私はモーテルの夜勤です。神父じゃありません」


ルームキーが一枚ずつ吐き出され、彼女はペンで紙に簡単な図を描いて、俺の方へ押し出した。


「二階が三部屋、二一三から二一五。一階が二部屋、一〇八と一〇九。朝食は七時から。向かいのガソリンスタンドは二十四時間営業。裏口は深夜十二時に施錠しますから、そちらからの出入りはしないでください。それから——」


彼女は顔を上げ、初めて注意の口調になった。


「廊下の一番奥の物置は開けないでください。鍵に少し問題があります」


「噛みつきますか?」


「物が落ちます」と彼女は言った。「以上でよろしいですか?」


「十分です」俺はルームキーをしまった。「もし今夜誰かが酔って廊下で暴れたら、まず物置から遠ざけるよう言っておきます」


「もしあなた方の中にそういう人がいるなら」彼女は俺の後ろを一瞥した。「今のうちに縛っておくことをお勧めします」


今度は俺も危うく笑いそうになった。この女は定年まで生き残る価値がある。


俺は振り返って、ルームキーを一枚ずつ配った。


「部屋割りです。一〇八はレミとジュリアン。車に近い、機材が多い、夜中に一番職業病を起こしやすい二人。一〇九はクレールとヴィクトリア。二人とも眠りが浅いから、ちょうどよく互いを消耗させろ。二一三は俺と林 雨瞳(リン・ユートン)。二一四は希(シキ)と葉 綺安(イェ・キアン)。二一五はレイチェルとエリザヴェータ」


希(シキ)がすぐに顔を上げて、口の端を吊り上げた。


「ずいぶん自然に分けるじゃん」


「俺は棺桶のサイズだって測り分けられる。部屋割りくらい難しくない」


「そういう意味で言ったんじゃない」


「なら聞かない方がいい」俺は彼女の手にルームキーを押し付けた。「今夜は俺の気分がお前の想像力に付き合える状態じゃない」


林 雨瞳(リン・ユートン)は二一三のキーを受け取り、何も言わず、ただ俺を一瞥した。その視線は短く、柔らかくもなく、余計な感情もなかったが、意味は分かった。俺が適当に分けたわけじゃないと理解している。こういう場所では、判断を下す人間と地図を読む人間が同じ部屋にいる方が、別々にいるより役に立つ。夜中に本当に何かあれば、一人起こせば二人起きる。


クレールは自分の一〇九を見て、ヴィクトリアを見た。


「なかなか創造的な組み合わせね」


「安心しろ」と俺は言った。「二人が夜中に殴り合いになっても、階が低いから引きずりやすい」


ヴィクトリアが淡々と返した。「私は殴り合いはしない。恨みを溜めるだけ」


「私もそう」とクレールが言った。


「それならなお都合がいい」と俺は言った。「同じ部屋を共有すれば、文明社会への憎悪の効率が上がる」


部屋割りを終えても、俺はすぐに上がらせず、全員を連れて駐車場をもう一度見回った。


夜の駐車区画は、向かいのガソリンスタンドの白い光で硬く切り取られている。Vitoは内角に、K7は外側に。この配置は見栄えのためじゃない。万一のためだ。Vitoはメインチームの車で、バックを省けるなら省きたい。K7は機動車両で、記者病が発症したとき自分で飛び出せるよう外線に置いてある。


俺はVitoの後ろに回って、車のドアを軽く叩いた。


「先にルールを言う。大型機材は今夜全部降ろすな。半分は車に残せ。一網打尽にされるリスクを避けるためだ。K7の映像データはまずローカルでバックアップを取って、それからオフラインのミラーを作れ。全部クラウドに頼るな。メインチームは各自一泊分だけ持て。武器は使い慣れたものを一つ、あまり慣れていないものを一つ残せ。こういう場所で国会答弁でも始めるような重装備をするな」


レミがK7のドアに寄りかかって煙草を吸いながら、それを聞いて鼻で笑った。


「記者への偏見が安定してるな」


「偏見じゃない」と俺は言った。「経験だ。記者が死ぬのは大体二つの場所だ。真相に近づきすぎたときと、真相をはっきり撮ろうとしすぎたとき。お前ら三人は両方完全に当てはまってる」


ジュリアンはすでにトランクを開けて、ハードディスクとバックアップボックスを運び出し始めていた。顔も上げずに返してきた。「少なくとも死ぬ前にはコピーを残すわ」


「それ、墓石に彫るといい」


クレールが車の脇に立って向かいのガソリンスタンドを見ながら、不意に言った。「あそこの人間がずっとこっちを見てる」


俺は彼女の視線を追った。ガソリンスタンドのコンビニに、グレーのジャケットを着た男が一人、ミネラルウォーターを持ったまま、ガラスドアの内側で少し長く立ち止まりすぎている。疲れたドライバーの放心でもなく、列待ちでもない。見ているのだ。あの手の視線には覚えがある。車を値踏みし、顔を値踏みし、人数を数えて、情報を上に流す価値があるかどうかを計算している目だ。


「見たいなら見せておけ」と俺は言った。「こういう場所で完全に気配を消す方が、かえって怪しい」


「適度に面倒くさそうに見えろということ?」


「そうだ」と俺は言った。「みんなが関わりたくないと思うが、通報するほどでもない程度の面倒。それが理想だ」


希(シキ)がコートを肩に羽織って俺の隣に立った。


「ついでに今夜誰がシャワーを浴びていいか、ダメかも決めたら?そろそろ呼吸回数まで割り振りそうな勢いだけど」


「誰かがお湯を使い切るほど長風呂したら、本当に割り振りを始める」


「ロマンチックね」


「今俺がいるのはベルギーのモーテルの駐車場で、隣は二十四時間のガソリンスタンドで、後ろはたぶん古戦場の林帯で、前には記者チームの半分がいて、車の中には見つかったらまずいものが山ほど積まれてる。どこにロマンを見つけたんだ?」


希(シキ)は笑って、それ以上は突っ込んでこなかった。


上に行く前に、俺はもう一度カウンターの女を振り返った。彼女はすでに古いモニターに視線を戻していて、俺たちが今夜泊まって明朝出ていく普通の旅客の一組にすぎないかのように振る舞っていた。この無関心は貴重だ。世界にこういう人間がもう少し多ければ、多くの政府機関の業績はかなり下がるだろう。


階段は狭く、カーペットを踏むと古いモーテル特有の湿った柔らかさがあった。二階の廊下にはドアが一列に並び、照明は病み上がりのような黄色い光だった。一目で分かる。ここは夢を泊めるための場所じゃなく、疲労が一時的に横になる場所を見つけるためだけの空間だ。


俺が先に二一三に入り、林 雨瞳(リン・ユートン)が続いた。ツインルームで、窓は駐車場とガソリンスタンドの正面を向いている。机の上には地元の観光パンフレットと小袋のクッキーが置かれていて、モーテル側がまだ良心があると思っている感じがした。


俺はまずカーテンを開けて閉めて、視角を確認した。それからドアの鍵、バスルームの換気口、ベッドの下、クローゼットを点検した。林 雨瞳(リン・ユートン)は何も聞かず、荷物を置くと自分のルーティンを始めた。地図の確認、コンセント、携帯の電波、明日外出時に持ち出す資料の選別。こういう人間の最大の利点は、「なぜベルギーのモーテルのバスルームの天井をチェックしているのか」を説明する必要がないことだ。彼女自身も同じことをするからだ。


「安全?」と彼女が聞いた。


「十分に汚い」と俺は言った。「十分に汚い場所は、高級な罠に金をかけない」


「その評価、覚えておく」


机の上の観光パンフレットを開いて、適当に数ページめくった。一ページ目は歴史ガイドルート、二ページ目は記念集会と再現イベントのスケジュール、三ページ目からは地ビールと遊歩道の宣伝だった。


いい。やはり全部きれいにパッケージされている。死、記憶、消費、散歩。この大陸は昔から、最も見苦しいものを文化として売るのが得意だ。


「十分後に下で集合」と俺は言った。「先に何か腹に入れる」


「まず落ち着くって言ってなかった?」


「人間は腹が減ると感想を語り始める」と俺は言った。「今夜はあまり感想を聞きたくない」


彼女は頷いた。同意の意味だった。


---


一階の小さな食堂は、実はそれほど広くなかった。ロビーの隣にあり、一面の壁はカウンターと背中合わせ、もう一面の壁は外の白い光と背中合わせだ。中にはまだ三組いた。トラック運転手が二人、明らかに顔を見られたくない中年の男女、それから隅で一人スープを飲んでいる老人。


メニューは戦地の配給のようにシンプルだった。牛肉のシチュー、フライドポテト、オニオンスープ、ローストチキン、冷菜、ビール、コーヒー。いい。少なくとも、ヨーロッパ人が腹を空かせたときに人間性を試すために出してくる凝った料理はない。


俺たち十人は二つのテーブルに分かれた。メインチームが一卓、記者三人組とヴィクトリアがもう一卓。クレールは口には出さなかったが、席を選ぶ速さから分かった。食堂の入口、駐車場のガラス窓、バーカウンターを同時に視界に収められる位置に満足している。


ウェイターは二十代前半の若い男で、顔には「給料が欲しいだけで、あんたたちがどこから来たかは知りたくない」という表情が浮かんでいた。この表情も俺は好きだ。全員に一番シンプルな温かい料理を頼ませた。節約のためじゃない。夜が更けるほど、見知らぬ厨房の創意工夫を試すべきじゃないからだ。


料理が運ばれると、数分間誰も喋らなかった。熱いスープと肉汁には奇妙な力がある。国境線を迂回して入ってきたばかりの一車分の人間を、一時的に普通の旅行客に変えてしまう。俺がずっと皮肉に思っているのはここだ。直前までどんな国家、陰謀、残影、ルート、逃走、情報を語っていても、温かい一皿が出てくれば全員がまず下を向く。


牛のシチューを切り分けていると、向かいの希(シキ)がフォークを咥えたまま俺を見た。


「なんでそのシチューを罵倒したそうな顔してるの?」


「罵倒したいわけじゃない」と俺は言った。「ただヨーロッパ人はすごいと思ってる。戦後の疲労感まで定番メニューに煮込めるんだから」


「この大陸への敵意、ちょっと個人的すぎない?」


「個人的じゃない」俺はスープを一口飲んだ。「公正だ。歴史をブランドとして経営してる場所には全部同じだけ敬意を払ってる」


レイチェルが皿の肉を切りながら、淡々と聞いた。「あなた自身の場所も含めて?」


「もちろん」と俺は言った。「ただうちの方は、死体の臭いをバターの香りに調理するのがそこまで上手くない」


希(シキ)が吹き出しそうになり、林 雨瞳(リン・ユートン)は下を向いてスープを飲みながら、肩が微かに震えた。


向かいのテーブルでそれを聞いたレミが、グラスを持ち上げた。


「バター香る死体に乾杯」


「一人で飲め」とクレールが言った。「これ以上ベルギー人を追い詰めて、今すぐ通報されても困る」


そのとき、隅の老人が不意にこちらを一瞥した。会話には入り込まず、ただウェイターに明日「あっちの林道」でもガイドツアーがあるかと尋ねた。ウェイターはあると答え、最近外から来る歴史マニアが多くて、夜にうろつく人もいるが、地元の人間は普通勧めないと言った。


「どうして?」とレミが自然に聞いた。


ウェイターが肩をすくめた。


「夜は道が悪いし、変な音が聞こえることもある。イベント主催者が機材を試してるって言う人もいれば、古い土地が機嫌を悪くしてるって言う人もいる。どっちにしても翌日の昼間はみんな普通に写真を撮りに来ますよ」


そのとき老人が一度咳払いして、ゆっくり付け加えた。


「昔は見えても、撃てなかった。今は、あまり確かめない方がいい」


テーブル全体が一秒だけ静かになった。


ウェイターはその手の話が明らかに嫌いで、すぐにパンのバスケットを老人のテーブルに置いた。炭水化物で不吉を塞ごうとするかのように。


老人も続けなかった。下を向いてスープを飲み続け、さっきの一言はただ口から転げ落ちてきただけというような顔をしていた。


俺はグラスをテーブルに戻した。


「見えても、撃てなかった」俺は低く繰り返した。


林 雨瞳(リン・ユートン)が目を上げた。「何を考えてる?」


「考えてたのはな」と俺は言った。「この場所は怪談まで整然としてる。自治体が毎年定期的に剪定でもしてるみたいに」


希(シキ)が頬杖をついて俺を見た。


「少しは気になってるって素直に認めたら?」


「気になってる」と俺は言った。「だから今ここでシチューを食ってる。夜中に全員を連れて森に突っ込んで死ぬんじゃなくて」


この一言で、全員が「聞きたいけど今聞く価値もない」という宙ぶらりんの状態から引き戻された。食事を終えると、俺たちは長居しなかった。レミは向かいのガソリンスタンドへ煙草と水を補充しに行き、ついでに二周ほど見回った。ジュリアンは先に部屋に戻ってバックアップを始めた。クレールはイベントのチラシを手に持ちながら歩いて、明日どの予定が一番罠っぽいか、字の行間から読み取ろうとしているようだった。


メインチームの方は、先に部屋に戻って洗面と整理をさせ、うろつくなと言った。葉 綺安(イェ・キアン)が最初の見回り当番で下に降り、俺が三十分後に交代する。希(シキ)は廊下でもう少し余計なことを言おうとしていたが、ルームキーで額を軽く叩いたら笑いながら走って逃げた。


「それ、寮の教官みたいだよ」


「俺が教官だったら、今頃お前は反省文を書いてる」


「じゃあ反省ってどういうものか、まず見本を見せてよ」


「今一番反省してるのは、お前がまだ喋る体力を持ってることを許したことだ」


廊下が静かになってから、俺と林 雨瞳(リン・ユートン)は二一三に戻った。


部屋の暖房は少し効きすぎていて、窓の外はガソリンスタンドの眠らない白い光だった。カーテンを引くと、ようやく世界が普通の部屋らしくなった。俺はコートを椅子の背にかけてベッドの端に座り、ホルスターを外した。林 雨瞳(リン・ユートン)は洗面台の前に立って手を洗っていた。動作はゆっくりで、水の音は細く、今日のルートと道中の埃を一緒に流しているようだった。


しばらくして彼女がバスルームから出てきた。タオルで髪を適当に二、三度拭いて、俺を見た。


「今夜、車を見に行くのは何回?」


「最低一回」


「一回だけ?」


「俺が必要以上に動き回ったら、実は不安だということがばれる。それは士気に響く」


「今さら士気を気にするようになったの?」


「ずっと気にしてる」と俺は言った。「ただ俺の表現の仕方が呪いに近いだけで」


彼女は机の端に寄りかかって、手にまだタオルを持っていた。


「今日はいつもより口が悪い」


「今日がいつもよりヨーロッパっぽいから」


彼女が少し笑った。短い笑いだった。それから歩いてきて、俺の隣のベッドの端に腰を下ろした。


二つのベッドの間には小さなテーブルが一つあるだけで、この距離は作戦を話し合うのにも、作戦を一時的に忘れるのにも、どちらにも向いている。


俺は横を向いて彼女を見た。


「こっちに来たのは、明日のルートを話したいからか、それとも俺のこの不機嫌な顔を少し黙らせたいからか?」


「両方」と彼女は俺を見て言った。「順番は決まってないけど」


「じゃあ今夜は仕事量が多いな」


「今日は本当に無駄口が多い」


「ここが明日死人の出そうな場所に見えるから」


「だからこそ、今夜ずっと張り詰めた弦みたいにしてたらダメ」


この一言を言うとき、彼女の声は大きくなかった。余計な表情もなかった。ただ静かに、一つのことを言葉にしただけだった。


これが俺がずっと彼女を好きな理由の一つだと思う。林 雨瞳(リン・ユートン)は近づくことを恩着せがましくしない。欲望を慈悲のように語らない。人を起こしておくべき時と、人を身体の中に引き戻すべき時を、彼女は知っている。


俺は手を伸ばして彼女の手首を掴み、少しこちらへ引いた。


「いいのか?」


「今それを聞くのは、わざとらしい」


「珍しく行儀よくしてみた」


「じゃあここまでにして。これ以上進歩しなくていい」


彼女が顔を寄せてきたとき、俺は思わず少し笑った。楽だからじゃない。こういう瞬間にまだ笑えるということは、少なくとも物事がまだ、生きている人間が生きているように振る舞えないほど悪くはないということだ。


その後しばらくの間、外のベルギーも、パリも、ルートも、国境も、記者チームも、ガソリンスタンドのガラスの向こうにいた通行人らしくない顔たちも、全部一段後ろに退いた。


部屋に残ったのは、効きすぎた暖房と、少し粗いシーツと、カーテンの隙間から差し込む白い光と、明日がうまくいかないと分かっている二人の大人が、今夜だけ互いを肉体の中に引き戻そうとしていることだけだった。


彼女が俺の肩を噛んだのは、いつもより少し強かった。ずっと武器のように自分を張り詰めさせるなという意味に取った。俺の手のひらが彼女の背中を下へたどると、疲労と熱と、長い道のりと圧力に削り出された、より鮮明になった輪郭が伝わってきた。甘くもなく、記念アルバムに収まるような柔らかい絡み合いでもない。どちらかといえば、声を押し殺した止血のようなものだった。


途中で彼女が低く俺を罵った。こういうときでも世界に喧嘩を売っているようだ、と。俺は返した、世界はたいていそれに値するから、と。彼女は笑い出しそうになって、代わりに膝で俺を一度突いた。


こういう瞬間はいい。説明しなくていいし、称えなくていい。二人がただ十分に近くにいて、それだけで明日が少し遅く来る。


その後、彼女は俺の隣に横になり、まだ呼吸が完全には落ち着いていなかった。俺はベッドの頭板に寄りかかって息をついたが、煙草には手を伸ばさなかった。このモーテルはカーテンもシーツも匂いが強すぎて、煙草を吸えば部屋が犯罪現場に近づくだけだ。


「明日もやっぱり嫌な人でしょ」と彼女は目を閉じたまま聞いた。


「たぶん」


「よかった」


「俺が嫌な人なのが好きなのか?」


「嫌な人でいられる体力がまだあることが好き」


その言葉には返さなかった。何を言っても気障になるから。


林 雨瞳(リン・ユートン)は寝返りを打って背中をこちらに向け、しばらくして呼吸が落ちていった。深い眠りじゃないが、俺より早い。それは当然だ。俺みたいな人間が他の人間より先に眠れるときは、大抵状況が好転しているか、俺が死にかけているかのどちらかだ。


時間を確認して、起き上がって顔を洗い、ドアを少し開けて廊下の音を聞いた。


外は静かだった。静かすぎた。


遠く一階から、ごく軽いドアの掛け金の音が一度した。おそらく葉 綺安(イェ・キアン)が車の見回りを終えたか、レミがまた煙草を吸いに降りたかだ。それ以外は、モーテルの水道管と暖房が時おり立てる老体の音だけだった。


窓際に戻って、カーテンを少し開けた。


向かいのガソリンスタンドはまだ点いていた。一晩中退勤する気がないようだ。駐車場の二台はどちらもそこにあり、輪郭は大人しかった。K7のガラスの反射は冷たく、Vitoは何でも飲み込めそうなほど黒かった。さらに遠くには、バストーニュ外縁の、道路と灯りと祭りと記念と観光ガイドと地域経済が一緒に包み込んでいる闇が広がっていた。


ここから見ると、本当に何もないように見えた。


それが一番厄介なところだ。


カーテンを引き直してベッドの端に横になったが、すぐには眠れなかった。


頭の中で明日の段取りを一通り流した。昼間は核心に触れる必要はない。まず場所を踏んで、祭りがどう配置されているかを見て、どの道が本当に観光客向けで、どの道が観光客向けのふりをしているかを見る。地元の人間があの「古い持病」に対して見せる反応が、本当に当たり前なのかどうかを見る。記者チームをどこに置けば、初日から自分たちの遺影を撮ることにならないかを考える。


それから、後ろの林帯を見張る。


あの場所が気に入らない。この気に入らなさは直感じゃない。普通に見える戸棚の前に立っているのに、中に入っているものがこの時代に属していないと分かっているときの感覚に近い。


どれくらい経ったか、ようやく少し眠気が来た。眠りに落ちる直前、遠くの方から、ごく軽い乾いた音が一度した。


銃声じゃない。少なくとも現代の銃声じゃない。


どちらかといえば、金属の部品が冷気の中で一度ぶつかったような音だ。短く、乾いていて、すぐに消えた。


別の人間なら、どこかのトラックが停まり切れていないか、ガソリンスタンドの裏の鉄骨が緩んだかと思うだろう。でも俺はベッドに横になったまま、二秒だけ目を開けて、結局起き上がらなかった。


怠けたからじゃない。こういうときに一番やってはいけないのは、自分で自分を怖がらせることだ。


初日の夜、街がまだ本当には噛みついていないうちに、すべての影を狼だと思い始めたら、後は自分を消耗させるだけだ。


寝返りを打って、一番近くにあるホルスターの縁に手のひらを乗せ、もう一方の手が林 雨瞳(リン・ユートン)の温かい肩に触れた。それでようやく、呼吸がゆっくりになった。


バストーニュの初日の夜は、とりあえず義理を果たしてくれた。


時代の合わない人影をすぐにモーテルの玄関まで送り込んでくることもなく、森の古いものを窓まで叩かせることもなかった。ただ俺たちを泊まらせて、温かいものを食わせて、フランスから持ち込んだ埃を洗い流させた。そして眠りに落ちる直前、礼儀正しい主人のように、遠い闇の向こうからグラスの縁を一度軽く叩いて、こちらに知らせてきた。


お前たちが来たことは分かっている、と。


そして俺たちも、これがまだ本当の始まりじゃないと、分かっておいた方がいい。

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