172.策略 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
白い壁は、相変わらず白い壁だった。
上品なほど白い。椅子を引いてくれて、水を注いでくれて、「どうぞ緊張しないでください」と言ってくれる、そういう種類のろくでなしみたいに白い。そしてあなたが腰を下ろした瞬間、さりげなく外から鍵をかける。
俺はその、座り心地が悪いわけじゃないが、決して快適とも言えない椅子に腰かけて、指でゆっくりと指輪を擦っていた。気難しい死人のリハビリでもやってやるような、そういう手つきで。部屋の照明に影はない。フランス人は照明というものに対して、驚くほど文明的な自覚を持っている。暗いとは感じさせない。ただ、自分の体のどこにも光の外がないことを、ひどく明確に意識させる。
ドアは開かなかった。
先に動いたのは指輪だった。
嗅ぎ慣れて嗅ぎ慣れて、もう嗅ぎ飽きるほど慣れた、あの臭気が指輪の表面から滲み出てくる。誰かが棺桶の中で渋々寝返りを打って、まだ体勢も定まらないうちから、先に顔だけ長くしているような気配。山口多聞が白い光の中にゆっくりと輪郭を結んでいくとき、その表情はフランスの公文書よりも冷たく、目つきだけはフランスの公文書よりもずっと正直だった。少なくとも、その不機嫌は本物で、手続きを借りた偽物じゃない。
「また擦ってる」現れるなり彼は言った。恨み言が満タンに詰まった声で。「俺のことをサービスベルだと思ってんじゃないか?」
俺は目を上げて彼を見た。笑う気も起きないので、口の端だけ少し動かした。
「感謝しろよ」俺は言った。「普通、死んだ後に残るのは遺影くらいだぞ。お前には労働時間がある」
彼は二秒ほど俺を見つめた。「もう一回死なせてやろうか」という衝動が目の中で非常に誠実に燃えていた。ただ、彼はすでに一度死んでいる。技術的に言えば、二回目はいささか重複感が否めないので、やむなく諦めた。
「ヴィクトリアのところ、最後まで聞いてた」彼は冷たく言った。「フランスが線を切り替えた」
もともと俺は目を伏せて、指輪の表面をぼんやりと擦り続けていた。よその家の火事を聞くような、別に関係ないけど夜の暇つぶしにはちょうどいい、そういう態度で。だが「線を切り替えた」という言葉を聞いた瞬間、指が一度だけ止まった。
一度だけ。
ほんの一瞬。
死人と詐欺師にしか気づけないくらい、短い止まり方だった。
「話せ」俺は言った。
山口多聞は壁にもたれ、不機嫌な顔のまま、ヴィクトリアの「技術安全確認」とやらを一つ一つ俺に流し込んでいった。
まず、部屋に入ってきた連中の話。
前の二ラウンドみたいな、手続きを語りたがって、タブレットを持ちたがって、一言しゃべるたびに三層の免責事項を先に敷きたがる、ホワイトカラー型の尋問官じゃない。今回来たのは軍の連絡官、国防の技術評価官、内務治安の人間、それに記録兼通訳が一人。編成がいかにもフランスらしい。つまり、どの部門も自分の取り分を一口でも減らされたくないから、それぞれ代表を一人ずつ押し込んで、肉の前に座らせたわけだ。
次に、聞き方の話。
誰が誰に命令したかじゃない。俺とどういう関係かでもない。マルセイユのあの日、誰が先に動いて、誰があとで動いて、誰が何を見て、誰が何を隠したか、でもない。そのあたりは前の段階で全部聞き終わっている。国勢調査みたいに聞いていた。違いといえば、普通の国勢調査はドアに鍵をかけないくらいだ。
今回、彼らが聞いたのは技術の話だった。
本当に分かっている人間が聞くような技術じゃない。国家機械が一番好む種類の技術だ。予算に切り込めるくらい正確で、委員会に送り込めるくらい曖昧な、そういう技術。使えるかどうか、使ったら人が死ぬかどうか、死んだら誰の責任か、それは次の部門が検討することだ。
シュトゥルムシュライターの出力レベルを聞いた。
圧縮エーテルの安定限界を聞いた。
素材も環境も操作者もフランス側の現行体制に置き換えた場合、理論上、効果の一部を再現できるかを聞いた。
それが武装プラットフォームか、術式増幅装置か、場域媒介かを聞いた。
転用を聞いた。
適合性を聞いた。
封存条件を聞いた。
リスクの外溢を聞いた。
低階の代替モデルを先に作れるかを聞いた。
最後には、非常に文化的で、非常に強盗じみた一言まで出てきた――フランス国内に監督付きの研究保護枠組みを設置した場合、ヴィクトリア女史は、関連技術に「管理下での協力」の可能性があると考えるか、と。
山口多聞はそこまで話し終えて、嫌悪と感心の間のどこかにある表情を浮かべた。
「盗むにしても、様になった盗み方をしたがる」彼はまとめた。「さすがフランス人だな」
最初、俺は本当に笑い話として聞いていた。
だが彼が一言しゃべるたびに、俺の顔から笑みが少しずつ消えていった。最後には、俺自身も取り繕う気がなくなっていた。
部屋が急に静かになった。
平静な静けさじゃない。誰かがようやくパズルを最後まで組み上げて、最後のピースの形が非常に気持ち悪いことに気づいたとき、初めて訪れる種類の静けさだ。
白い壁、白い照明、白いテーブル、それからフランス人のあの、何もかもを制度の書式に整理せずにはいられない悪い癖――全部まだそこにある。だが空気が変わった。もともとゆるく張っていた一本の糸が、誰かに引っ張られて、ぴんと真っ直ぐになったみたいに。
山口多聞は急かさなかった。
俺が計算しているのを、彼は知っていた。
俺は口が悪くて、骨も柔らかくなくて、たいていのことに対して「来てから考える」というろくでもない態度で構えている。だが俺が本当に黙り込んだとき、それは誰かが近々ひどい目に遭うというサインだ。
数秒後、俺はふっと笑った。
短い笑いで、温かみもない。歯が礼儀として顔を出した程度のものだ。
「分かった」俺は言った。
山口多聞が眉を上げた。
「何が分かった?」
俺はすぐには答えず、ただ背もたれに体を預けて、あの白くほとんど無邪気に見える照明を見上げた。祖先が強盗だったとようやく認めた貴族を見るような目つきで。
「最初、俺はあいつらのことを焦ってるんだと思ってた」俺は淡々と言った。「火消しに焦ってる、口封じに焦ってる、話を一本に統一するのに焦ってる、一人一人を箱に詰めて『保護』『調整』『安全手配』みたいな、文明社会が使いそうなラベルを貼るのに焦ってるんだと」
俺は少し間を置いて、指をもう一度指輪の表面に落とし、ゆっくりと一周なぞった。
「でも違った」俺は言った。「あれは焦りじゃない。流れ作業だ」
山口多聞は黙っていた。
俺は続けた。声の調子は平坦で、平坦すぎてかえって冷たい。
「林 雨瞳のところで欲しかったのは枠組みだ。何を記録に残せるか、何を将来引用できるか。葉 綺安のところで欲しかったのはストレステストだ。俺たちの中で誰が一番崩れやすいか、誰に亀裂があるか、誰をケーススタディに仕立て上げられるか。ヴィクトリアのところまで来て――」
俺は一度笑った。
「商品の品定めを始めた」
山口多聞が「ふん」と鼻を鳴らした。
「最初から分かってたんじゃないかと思ってたがな」
「俺はフランス人じゃないんでな」俺は彼を見た。「あいつらほど制度を信用してない。怪物を見ても、逃げる前にまず書類を取り出すくらい信用してるやつらとは違う」
彼の口元が動いた。笑いかけて、死人としての最後の一欠片の尊厳をかろうじて守った。
俺は視線を白い壁に戻した。
さっき見たときは、ただの壁だった。
今見ると、皮を剥いだ行政哲学みたいに見える。清潔で、完結していて、感情がなく、そして何より、出口がない。フランス人の本当の凄みは、他の国より残酷なことじゃない。残酷さを、十分に体裁のいい容器に詰め込む技術にある。そうして長く座らせることで、やがて「自分が空気を読めていないだけじゃないか」と思わせる。
それが本当の芸だ。
革命も、断頭台も、バリケードも、六月蜂起も、あれは全部正直すぎた。若者の気性みたいに正直で、火があれば点けて、血が出れば流した。今のパリはそういう荒仕事はしない。今のパリはもっと洗練されている。刃を少し鈍らせて、ビロードで包んで、通訳まで手配してから、穏やかに説明する。
これは切ることじゃない。
これは修整だ。
あなたの身体的な位置関係の修整。
あなたの法的な性質の修整。
あなたと仲間との間の関係の記述の修整。
修整が終わったら、ついでにあなたの技術の帰属も修整する。
なんと文明的な。なんと進歩的な。写真を撮るのに向かない晩餐会みたいだ。
山口多聞が俺を見て、ふいに言った。「顔色が悪いぞ」
俺は首を傾けて彼を見た。
「普段はそんなにいい顔してるか?」
「そういう意味じゃない」彼は正直に言った。「普段のお前は、もっと他人の顔色を悪くさせる側の生き物に見える」
俺は相手にするのをやめた。
今は頭が動いていて、しかも動くほど速くなっていたからだ。ここ数ラウンド、ずっとどこかちぐはぐで、不快で、でも核心には届いていないと感じていた違和感が、今ようやく全部つながった。
フランスは、誰かの口から正確な答えを引き出したかったわけじゃない。
正確な答えなんか、どうでもよかった。
欲しかったのは、正確な書式だ。
人間をどう分類するか。
危険をどう段階分けするか。
関係をどうファイルするか。
能力をどう切り分けるか。
技術を国家の言語にどう翻訳するか。
もっと率直に言えば、あいつらは俺たちを尋問していたんじゃない。前処理をしていたんだ。高級レストランの厨房に、出所不明だが一嗅ぎで値打ちが分かる食材が何種類か届いた。シェフも、仕入れ担当も、検疫員も、オーナーも、同じ調理台の周りに押し合いへし合いで集まって、全員がフランス語で丁寧に話しながら、内心では全員が同じことを考えている。
これは最終的に、誰のものになるんだ?
そこまで考えたとき、俺はふいに笑いたくなった。
フランスを笑いたかった。
自分自身も笑いたかった。
ここまでの道のりで、大国を警戒しなかったわけじゃない。軍を警戒しなかったわけじゃない。教会を警戒しなかったわけじゃない。表向きは礼儀正しく、裏では人間を部品に分解しようとする連中を警戒しなかったわけでもない。それでも俺は、目の前のこの状況を「拘束」として理解していた。制御不能になったあとの緊急止血。行き当たりばったりの、荒っぽい反応。
俺の読みが外れていた。
これは臨時の拘留なんかじゃない。
起動が速かっただけで、最初からずっとそこにあった機械だ。
国家は理解の範囲を超えたものを見たとき、たいてい二つの本能しか持たない。まず名前をつけて、それから管理する。すぐに管理できなければ、とりあえず「管理に十分に似た場所」に閉じ込める。フランスはこれが特に得意だ。この国は哲学者すら教材にできる。生きていて、危険で、おまけに技術的な価値まで持っている異常サンプルを、放っておくはずがない。
白い部屋は牢屋じゃない。
白い部屋は、前処理室だ。
ドアの外の連中も、ただの見張りじゃない。
仕分け人だ。
そこまで考えたとき、俺はようやく本当に静かになった。
怖いからじゃない。
俺みたいな人間は、怖くなるとむしろうるさくなる。
ただ、少し腹が立っていた。しかもその腹立ちには層があった。一番外側は、計算されていたことへの腹立ち。真ん中の層は、フランス人に計算されていたことへの腹立ち。一番奥の層は、もっとシンプルだ――俺はようやく気づいた。あいつらがやろうとしているのは、俺を制圧することじゃない。俺たち全員を「フランスが処理できる形」に作り替えることだ。
それは気持ち悪い。
単純に人を捕まえようとするより、ずっと気持ち悪い。
山口多聞は俺が黙り込んでいるのを見て、ふいに聞いた。「自分がどこにいるか、もう分かったか?」
俺は目を上げて彼を見た。
彼は口の端を引いて、ひどく刻薄に笑った。
「牢屋じゃない」彼は言った。「展示前の保管庫だ」
俺はそれを聞いて、意外にも小さくうなずいた。
「まあな」俺は言った。「もう少し正確に言うなら――」
俺は手を上げ、指先を空中でとんと打った。巨大で馬鹿げた何かに、注釈を打ち込むみたいに。
「――フランス流の、上品な罠だ」
その言葉を口にした瞬間、俺は自分でも分かっていた。俺はある意味で、認めたのだ。
負けを認めたんじゃない。
現実を認めた。
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