165.生配信 4
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
パリ、首相府地下危機管理会議室。
そこの空気は、誰かが紙にすり替えたみたいに薄っぺらだった。
大型スクリーンでは、マルセイユの生放送映像が二つの枠に分割されている。片側にはジョウ・シーダーが一号塔の上に立って外線と破口を同時に指揮している姿。もう片側には、かなり乱暴な切り替えで拡大された海側の実況——三号黒ミサ塔の第一層外殻が剥ぎ取られ、岳家軍の先頭部隊が盾・戟・短兵重歩のコンビネーションで内部へ楔を打ち込んでいく様子。
フランス首相はその画面を睨みつけ、さっきよりさらに険しい顔をしていた。
EU代表は、これが通常の国際調整プロセスで処理できる危機だと装うことを完全に諦めていた。机の上には資料が広がっているが、ペンはとうに止まっていて、一行も新しい文字は増えていない。
バチカンの高位聖職者は、ただ黙ってスクリーンを見つめ続けていた。まるで、もっと古い種類の規則が破られていないかを確認しているかのように。
中国大使は、まだあの死人みたいな顔のままだ。
台湾駐仏弁事処の代表は、実に正直な困惑の表情をしていた。わざとわからないふりをしているわけじゃない。本当にわからないのだ。もっと正確に言うと、このすべてがとんでもなく重要だということは理解しているのに、手元にある行政と外交の言語体系では、当てはめられる引き出しがまだ見つからない、という状態だ。
最初に口を開いたのは、フランスの内務高官だった。
「マルセイユの情勢はすでに地方自治体の管理可能範囲を超えています。首相府は直ちに正式声明を発し、本件を『超常規武装および宗教構造災害』と定義することを——」
「その一文で、港に出現した中国古代軍隊がなぜ十字軍を包囲しているのか、国会に説明するつもりか?」首相が冷ややかに遮った。
高官は口をつぐんだ。
その問いのほうが、彼の提案よりも現実に近かったからだ。
バチカンの黒衣が、ようやく口を開いた。
「もし今、フランス政府が声明を出すのであれば、二点だけを明確にすることをお勧めします。」彼は言った。「第一に、マルセイユ現地の戦術指揮権は現状のままとすること。第二に、一号塔の行動リズムに干渉しないこと」
EU代表が顔を上げた。
「それは、主権国家に対して、身元不明の人物がその領土内の戦場で事実上の指揮権を持っていると認めろと言っているのと同じでは?」
「違います。」聖職者は言った。「すでに存在してしまっている現実を、認識することを薦めているだけです。意味はまったく違いますよ」
中国大使が、ここでようやく割り込んできた。
「中国側は、いかなる国際的授権を経ない武装行動に対しても——」
フランス首相は、手を一つ上げた。
「もう黙っていてくれ」
会議室に再び静寂が落ちた。
台湾代表は視線を横に逸らし、今見ているものが外交的玉突き事故の実況だということを顔に出さないよう、全力で気をつけていた。
バチカンの聖職者は、このやり取りをあらかじめ予想していたかのように、瞬きすらしなかった。
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俺は塔冠に立ち、パリの連中の心配に余裕を割く暇なんてなかった。
三号塔内部から、第二波の反撃が出始めていたからだ。
先頭部隊が第一層の内肋にようやく足場を固めたそのとき、斜面の奥にある内廊が、一瞬だけ明るくなった。灯りじゃない。肋架の影の中に隠されていた火盆と裂鐘が、一斉に点火されたのだ。その光が、奥に潜む連中の輪郭をあぶり出した。
普通の白袍じゃない。
塔内部の、本当の守核ユニットだ。
黒い鉄片の甲冑を身にまとい、手にしているのは短柄の斬鉤と、長槍を半分に切ったような、近距離で連続突きするためだけの太く短い槍。外の封海道兵のようにラインを押し上げる動きはしない。敵が十分近く、狭く、身動きしにくい場所まで入り込むのを待ち、一挙に前へ絞り込んでくるタイプだ。
この一点において、三号塔は本当に生き物に近い。
口が破られれば、喉の奥に生えた牙で噛もうとする。
「先頭隊、左側を下げろ!」俺は即座に言う。「内廊の火点が上がった。立ち上がるな。盾で真正面を全部塞ぐな。短兵歩が割り込める半身分の角度を残せ。後列長戟手は盾の上を行け。足元を踏むな」
この手の指示は、遅ければそのまま塔の一部にされる。
破口の中の岳家軍も、それに応えるだけの成熟度がある。最前列の二枚の大盾がわずかに角度をずらし、完全な塞ぎから、右の短兵重歩が身体半分をねじ込めるような形に変える。後列の長戟手は、もはやあのぬかるんだ斜面を踏まない。戟尻を盾の縁に掛け、上から内廊の奥へ向かって戟先を送り込む。
最初の守核ユニットの波がぶつかったとき、両陣営の出す音はまったく違うものだった。
向こう側は、短鉤と短槍と鉄片甲が擦れ合う、硬い音。
こちら側は、盾面の打撃音、戟先が肉を貫く音、短刀が骨を断つ湿った音。
空間が狭すぎて、誰も派手な技を繰り出す余地はない。先頭隊が正しくやったことは一つだけだ——前へ速度を求めるのをやめ、一歩一歩、「踏んで崩れず、滑って死なない」場所だけに足を置き、その位置に届くものを順番に全部切り落としていく。
訓練というのは、こういうことだ。
突っ込む速さじゃない。死ぬまでの時間の長さだ。
「いいぞ。」俺は言う。「奴らと気合い比べをするな。どっちが先に立つ場所を失うかの勝負だ」
岳家軍の外線も、それに合わせるように内側へ締まり始めていた。
これが今の俺の最大の優位だ。三号塔は、外から叩かれているだけじゃない。内側からも噛まれ、外側からも絞め上げられている。大盾手と長戟手は、破口の三十メートル外で、まだ内部へ補充に走ろうとするユニットをすべて潰し、高位節点は神臂弓に撃ち抜かれて、塔が上層の視界を再構築できないようにする。床弩は第二層の外肋を交互に叩き、破口の縁全体を、さらに大きく、さらに醜く裂いていく。
こういう時、指揮官が一番恐れるのは突破できないことじゃねえ。
味方が興奮しすぎて、開いた穴に一斉に雪崩れ込むことだ。
だから俺はすぐに制限をかけた。
「後続部隊は全員、外周第二線で待機。突破口から二列以上は絶対に入るな。呼ばれてもいねぇのに勝手に突っ込んだやつは――死んでも武勲扱いはしてやらねぇ」
これは正しい命令だし、どうしても必要な一言だ。
塔攻めは満員電車の乗り込み合戦じゃねえ。
先に人を詰め込んだ方から、塔にゆっくり消化してもらえるだけだ。
女記者がそのタイミングで口を開いた。
「あなたの命令、どれも最悪のケースを前提にしてるみたいね」
俺はようやく振り返って、彼女を一瞥した。
「前提じゃねえ」俺は言う。「先に現実にならないようにしてるだけだ」
彼女は小さく頷いて、その言葉をどこかに仕舞い込んだようだった。
確信できる。この女が帰って原稿をまとめる時、俺は相当イヤな奴として書かれるだろう。
それでいい。
塔を落としてから嫌われる方が、塔に食い殺されるよりマシだ。
***
パリの会議室では、ようやく状況があの連中に本気の態度を強いていた。
フランス首相が口火を切る。
「内務省は第一次全国声明を準備しろ。内容は三点のみ。マルセイユを国家レベルの封鎖災害区域とすること。地方の軍警および現場協力部隊は既存の戦術テンポを維持すること。許可なきいかなる組織も、マルセイユ港湾部の戦闘区域へ近づくことを禁ずる――以上だ」
外務省の官僚が明らかに法律用語と手続き文言を山ほど付け足したそうにしていたが、首相の一瞥で黙らされた。
「簡潔にしろ」首相は言った。「今、法令朗読を聞く気力があるやつなんていない」
EU代表も態度を示さざるを得ない。
「EUとしては、国境・メディア・交通面での調整支援を提供する」そう言ってから、一拍置く。飲み込みづらいものを無理やり嚥下するように。「ただし、マルセイユ戦闘の主体的性質については、現時点で公式見解を出さない」
そこまで言って、さらに続ける。
「とはいえ、現地の状況を踏まえれば、現在マルセイユには機能している実戦指揮系統が存在すると認めざるを得ない」
これを人間の言葉に訳すとこうだ。
――塔の上のあいつが誰かは知らんが、今のところ戦わせるしかない。
台湾代表はそのあたりからもはや困惑ではなく、これから数日間の記者電話地獄を想像して頭痛を覚え始めた顔だった。
中国大使はまだ諦めていない。
「中国側は改めて――」
「今さら何を改めても無駄だ」フランス首相は冷たく言い放った。「あんたの先祖を上陸させて手伝わせるつもりでもない限りな」
オンライン会議の場が、数秒だけ凍りついた。
台湾代表はついに堪えきれず、わずかに頭を下げて肩を震わせる。
EU代表は今度ばかりは本当に咳払いをした。
そのタイミングで、教皇庁の黒衣が最も重い一言を落とした。
「教皇庁としては、マルセイユ現場における第一塔作戦に対し、暫定的正当性を認める」彼は言った。「ジョウ・シーダーとバローロ神父が引き続き共同で指揮系統とリズム攪乱を維持するかぎり、すべての外部組織は両名を友軍中枢として扱うよう勧告する」
フランス首相はそれを聞き終えて、ゆっくりと頷いた。
教皇庁への同意ではない。
ここまで来て、まだ通常手続きで押し通せるふりを続けられるのは、バカと記者会見の壇上くらいだ――そう理解した頷きだ。
***
塔の上では、簡略化された外部報告が俺の耳機にもすぐに入ってきた。
雑音を裂くように、レイチェル(レイチェル)の声が滑り込んでくる。
「パリが態度を決めた」
俺はまだ突破口の中の白兵戦から目を離さない。
「要点だけ」
「フランスは正式にマルセイユ封鎖。EUは現地テンポに不干渉。教皇庁は第一塔の指揮系統を承認。つまり、あなたはしばらく非合法存在じゃなくなった」
俺は半秒だけ黙った。
「感動的な話だな」
「もっと感動する話がある」レイチェルが続ける。「中国大使がさっき会議で、フランス首相に先祖ネタで公開処刑されかけた」
今度は俺も本当に笑った。
大きくはない。
だが、塔上の記者全員には見えたはずだ。
「なら今日、一番恥をかいてるのは俺じゃねえな」
そう言い捨てて、俺はすぐ意識を海側へ引き戻した。
突破口内の第二層守核ユニットが後退を始めていたからだ。
俺たちが一気にぶち抜いたわけじゃねえ。
第一層の内肋を守りきれないと悟って、その奥の鐘廊まで下がろうとしている。もっと狭い死角と、もっと密な打撃ポイントで新しい屠殺ゾーンを作り直すつもりだ。
その退き方を完了させちまえば、先頭部隊はもっと最悪な位置まで引きずり込まれる。
だから、外側から殴らせてるだけじゃ足りねえ。
内と外、両方から挟み込む必要がある。
「先頭隊、注意しろ」俺は言う。「深追いするな。まず第一層の内肋を完全に固めろ。二列の大盾を内向きに切り返して、仮設の折角掩体を作れ。長柄は鐘廊入口を押さえるだけ、中へ踏み込むな。短兵重歩は左右の死角を順番に掃除。動いてるものを見つけたら、足を落としてから腕を潰せ。外周の床弩は狙いを変えろ。鐘廊上の外肋を撃ち抜いて、第二層入口を少しでも押し潰せ」
これが挟撃だ。
内側は速度を捨てて、まず足場を取る。敵をより狭い場所へ押し込むために。
外側は、敵がそのために使おうとしている構造物を壊し、退路そのものを不安定にする。
両方を同時にやられたら、こいつらはもう自分が一番得意な地形の中で、ゆっくり窒息していくしかなくなる。
床弩がすぐさま射角を変えた。
太いボルトが外側から突破口を越え、鐘廊上部の黒い外肋に突き刺さる。
構造ごと内側へと大きくたわんだ。
ちょうど後退中だった第二層の守核ユニットが、頭上から落ちてきた木片と鐘の破片でリズムを崩される。
先頭隊はその一瞬を無駄にしない。
大盾持ちが第一層の内肋をひっくり返し、内向きの折角へと変形させる。
短兵重歩は、その折角に沿った左右の死角を一体ずつ丁寧に掃除していく。
長柄持ちは折角の後ろに張り付いて、半ば崩れた鐘廊入口の隙間へと突きをねじ込み続ける。中の守核ユニットは、さらに小さなスペースで互いに押し合うしかなくなった。
「それでいい」俺は言う。「詰めさせろ。こういう場所じゃ、先にスペースを失った方から死ぬ」
背後の女記者が、その一言を小声でなぞった。
俺は構わねえ。
俺が見るのは結果だけだ。
第三塔内の第一層は完全に足場を取った。
第二層入口は外からの射撃と内側からの圧力で固定されている。
外周からの増援ラインは岳家軍とマー・サンニャンにきっちり封じられ、高位ノードもエリザヴェータにほぼ潰されている。
まだ死んじゃいねえ。
だがもうこのバケモンは、喉を締め上げられた人間みたいになっている。どのあがきも、自分が長くねえと証明する動きにしかなっていない。
分かってる。次は第二層へ踏み込む番だ。
ただしそれは、外側がもうひと締めしてくれるのを待ってからだ。
相手の首を、もう一段階短くしてもらう。
俺は耳機のスイッチを叩き、全線に向けて声を飛ばした。
「現状維持、三十秒。内部は深追いするな、外部は包囲を緩めるな。先に息が詰まるのはあっちだ」
風はまだ吹いていた。
海側の第三黒ミサ塔の突破口からは、木片と鎖と死体が絶え間なく外へ落ちてくる。岳家軍の先頭隊は第一層の内肋を自分たちの仮拠点へと変えつつあり、さらに外側の大盾手と長柄手は、何重もの鉄輪のようにじわじわと締め上げながら、塔そのものと残されたわずかな空間を一緒に絞り潰していく。
背後では記者のカメラがまだ回っている。
パリ、教皇庁、EU、台湾弁事処、それにゴミみたいに表情の平坦な中国大使も、おそらくまだ見ているだろう。
結構なことだ。
どうせ見るなら、ちゃんと見ていけ。
俺は第一塔の塔冠に立ち、双眼鏡を目に押し当てながら、耳機に向かって淡々と次を告げた。
「次段階、第二層挟殺に入る」
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




