162.反撃 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
第一の塔が俺の手に落ちた瞬間、戦場はもう路地の斬り合いじゃなくなった。
砲台になった。
塔の上に砲があるからじゃない。ようやく俺に「目」と「耳」が生まれ、街区全体を一枚の火網として繋ぎ合わせる「喉」が手に入ったからだ。
塔冠の観測フレームに立った瞬間、風の中には焦げた木材、海塩、死体の油、黒煙が全部混ざっていた。マルセイユの夜景は細かく切り刻まれている。東は市庁舎の方向、火線が途切れ途切れに続き、広場の縁にはシュトゥルムシュライターと神父のK7が停まっていて、車の周りでは弾薬の積み替え、負傷者の搬送、タイヤ交換、防護板の取り外しをやっている人間がいる。南西は、この塔が一路轢き潰してきた街区で、邪教徒、守護兵、穿刺者がまだ錯乱した鐘令の中に捕まっており、一部はその場でぐるぐる回り、一部は互いに押し合い、一部はもとの拍子を探そうとしている。もっと遠い路地口では護教騎士が再集結を試みているが、まだ新しい隊形を作れていない。
これが塔を奪った目的だ。
高いところに立つのは、風景を見るためじゃない。
誰を先に殺すかを決めるためだ。
耳機を押し込み、まず市庁舎チャンネルに切り替える。
「市庁舎、こちらジョウ・シーダー(周士達)。第一塔の接収完了。予定通り反撃を開始する。イェ・キアン(葉綺安)、応答しろ」
雑音の中にまず二度、短い衝撃音が混じる。誰かが弾薬箱を階段の端に蹴り飛ばしたみたいな音だ。それからイェ・キアンの声が来る。冷たく、速く、正確。舞台の上で一度もリズムを外さないときと、今とで、たいして変わらない。
「了解。市庁舎の二級防衛圏展開済み。シュトゥルムシュライターの左側トランスミッションは応急固定、K7は前輪補強と副発電機の配線完了。負傷者は一部後退、一部は搬送と弾薬補給に転換。リン・ユートン(林雨瞳)は東側入口で補給線を守っている。シキ(希)は刀を取った。目標を言え」
「遠くは後回し、まず近場を潰す。広場の南西口、二本の通りの交差点、ひっくり返ったバス停が見えるか?」
半秒の間があった。「見える。横に守護兵の死体が二体」
「そこだ。バス停の後ろ、左に一店舗分ずれたところ、低い壁の内側に穿刺者の残隊がいる。四から六体。錯乱した拍子に捕まってるが、再集結できる。まずそれを崩す。K7は短点射を二ラウンド。シュトゥルムシュライターは車を出すな、車載銃架だけで右側の逃げ口を抑えろ。シキは動くな、俺の次の命令を待て」
「了解」
チャンネルを手放さずに、そのままヴィクトリアに切り替える。
「ヴィクトリア」
彼女の声には金属の反響が混じっていた。まだシュトゥルムシュライターの車体の下か側面の防護板の横に張り付いていて、口にはたぶんまだスパナを咥えている。「いる。奇跡は頼むな」
「奇跡はいらない。あのポンコツを三分だけ動かしてくれ。バス停の右逃げ口、低めに抑えて、車二台分の幅で試射一ラウンド」
「わかった。着弾を見ててくれ」
俺は下を見る。
市庁舎側の動きは速い。K7は車体全部を出さず、車頭だけ広場の崩れた壁の後ろに隠し、銃口と射手の半分だけ出している。シュトゥルムシュライターはまだ完全に目を覚ましていない鉄の獣みたいで、左履帯の前半分に明らかなズレがあるが、車体はなんとか向きを直してある。広場にはまだ散発的な軍警、市民工、臨時の技術者が走り回っているが、その走り方はさっきの逃げ惑う感じとは違う。本物の補給点として動き始めている。
それで十分だ。
黒塔の下から、鐘令の崩壊後の連鎖衝突音が上がってくる。神父と修女がまだ下の主軸を制御しているのはわかっているので、俺は直接塔冠の伝音管に割り込む。
「バローロ、南東向けの伝音を出してくれ。黒ミサじゃない、短い鐘令だ」
耳機の向こうから神父の、いつも通り感情の起伏がほとんどない声が返ってくる。「三短か?」
「三短、一拍置いて、もう一短。下の連中に内圏収縮の命令だと思わせる」
「わかった」
数秒後、黒塔の四面伝音管から乾いた硬い鐘令が響き渡る。聖歌でも説教でもない、軍号化された純粋な拍子だ。下の邪教徒と下位単位はもとの節奏を探していたところに、「内圏収縮」に近い鐟令が聞こえてきて、案の定、塔の根元と路地の中心に向かって縮み始めた。
これが俺の狙いだ。
縮んだ瞬間、市庁舎側に側射角が生まれる。
「今だ。K7から打て」俺は言う。
バス停の左後方で最初の火花が炸裂した。K7の銃口は長くは抑えない、短点射を二ラウンドだ。弾線は完璧じゃなかった。一ラウンド目は少し高くて、低い壁の上縁をかすめ、二ラウンド目でようやく後ろに隠れていた穿刺者二体を吹き飛ばした。
「半人分高い、下に修正。右に半メートル。もう一ラウンド」俺はすぐに言う。
イェ・キアン側は無駄口なし、「了解」の一言だけ返ってくる。
二ラウンド目は当たった。
壁の後ろの白袍残隊が散開しようとしたところに修正済みの点射が直撃し、隊形全体が真ん中から切断されたみたいに崩れた。そこへシュトゥルムシュライターの銃架も火を吹いた。ヴィクトリアのほうがK7より性格が悪い。目標本体を狙わず、右逃げ口の壁の角と道路標識の支柱を撃ち、壁沿いに滑り出せる道を完全に塞いだ。砕けた石、鉄片、看板の骨組みが爆散して、穿刺者の群れが中央線に追い込まれる。中央線はK7の次のラウンドの射線に落ちた。
一組、片付いた。
すぐに二つ目の命令を出す。
「シキ」
今度の返答は速い。しかもさっきより何か一つ、俺が知っているものが混じっていた。自信じゃない。刀が手に戻ったあとの、ようやく自分の場所に立てたときの静けさだ。
「いる」
「バス停の組は崩れた。今、南西口が一時的に空いた。動ける二人を連れて出て、死体を回収しろ。首は要らない、槍、盾、弾薬、まだ使える防具だけ拾ってこい。ルートは最初の横転車まで、それを超えるな。守護兵の生き残りを見たら膝を斬って、深追いするな。見せ場を作りに行くんじゃない。次のラウンドで俺たちが使えるものを持ち帰るだけだ」
耳機の向こうで少し間があった。たぶん頷いているんだろうが、俺には見えない。
「わかった」と彼女は言う。
いい。それでいい。
観測角を西側にもう少し引く。
第一塔が奪われた後、敵の一番はっきりした反応は全面崩壊じゃなく、短い「失語」だった。こいつらは本来、節拍、鐘令、伝音管、隊形で生きている。塔冠の主が変わった瞬間、停電みたいな空白が一時的に生まれる。問題は、高位単位はその空白をそう長くは放置しないことだ。
すぐに見つけた。
北西の斜め路地、焼け焦げた石造アパートの並びの近く、三名の護教騎士が再集結中の守護兵の一組を率いてこちらに向かって切り込んでくる。市庁舎を狙っているんじゃない、塔の根元を狙っている。その後ろにはさらに、長い白袍をまとい、長柄の拍板槌を持った二体がいた。普通の誦読手じゃない。鐘監の野外版に近い。歩きながら地面に一定の節奏を叩きつけ、まだ制御を失っていない周辺の単位を引き戻そうとしている。
こいつらが本当の厄介だ。
下位の雑兵は錯乱した拍子で自滅する。高位単位は自分からシステムを修復しに来る。
「見つけたぞ」俺は低く言う。
エリザヴェータは俺の右側の塔冠フレームに立っていて、俺より早く見つけていた。風が黒衣を体に張り付かせ、彼女は夜に釘付けにされたみたいに動かない。塔の根元に切り込んでくる高位単位を見つめる目に、ようやく「興味」に近い何かが宿った。
「あの数体は多少ましじゃ」と彼女は言う。「特に後ろの二体。単純な道具じゃない」
「わかる。拍子を戻しに来てる」
「どれを食いに行く?」
「今はどれも駄目だ」俺は言う。「まずあいつらの編成を見ておいてくれ」
彼女が振り向いた。人間の顔色とは思えないほど白い顔に、少し不満の色が浮かぶ。「人間というのは、高みに立った途端に本能を我慢することから始めるのう。それで疲れ果てるのも当然じゃ」
「我慢できるから、次の階まで生きていられる」
彼女は反論しない。軽く鼻を鳴らして、また見下ろし続けた。
市庁舎チャンネルに戻る。
「イェ・キアン、南西口を片付けたらすぐ北西の斜め路地に転火しろ。護教騎士は急いで打つな、その後ろにいる拍板槌持ちの二体を先に狙え。目標はアパートの壁沿い、長い白袍、長柄の槌を持っている。K7から試射。ヴィクトリアは俺の修正を待て」
「了解」イェ・キアンが言う。
「リン・ユートン、聞こえるか?」俺は訊く。
今度はリン・ユートンが返す。背景で誰かが咳をし、何かを運ぶ音がして、弾薬箱が地面に当たる音がする。「いる」
「広場の右側にいる搬送組の半分を回して、掩体を積ませろ。さっきシキが回収してきた盾と路障を使って、市庁舎の正門の左翼に沿って二線目の銃座を作れ。このあと向こうが護教騎士を広場口まで押し込んできたとき、車だけじゃ持たない」
「了解」
言い終わった瞬間、北西方向で発砲が始まった。
K7はこの一ラウンド目がちょっと甘かった。射手が今しがた位置を変えたせいかもしれないし、斜め路地の角度が取りにくかったのかもしれない。弾線は一番手前の拍板槌手の一人身幅前に着弾し、壁の表面を一枚剥がしただけで人には当たらなかった。
「窓一つ分短い、左に修正」俺はすぐに言う。「シュトゥルムシュライターは右側の護教騎士の馬の前脚の位置を圧せ。騎士本体を打つな、乗り物の前脚を打て」
ヴィクトリアが短く笑った。短くて、性格の悪い笑いだ。「その命令、好きだわ」
次のラウンドで結果が出た。
K7の修正後の点射が、左側の拍板槌手の胸と後ろの壁の隙間を直接抜いた。倒れるとき、手の中の長柄槌がまだ地面に一打、短い拍を刻んだ。もう一体の拍板槌手は即座に壁の後ろに縮んだが、シュトゥルムシュライターの銃架のほうが速かった。数発の低めの弾線が、それ本体じゃなく、その前にいる護教騎士の乗り物の膝前を掃った。白袍の騎乗単位の乗り物はもともと普通の獣じゃない。馬の形をした死体に白袍を被せたみたいなものだ。前脚が折れた瞬間、騎乗陣列の一角が崩れた。後ろの拍板槌手がその倒れた乗り物に弾き飛ばされ、斜め路地の中央に丸ごと晒された。K7の三ラウンド目がそれを仕留めた。
拍板槌手、二体、片付いた。
高位単位がようやく動き方を変えた。
三名の護教騎士は隊形を立て直すことも、塔の根元への切り込みを続けることもしなくなった。左二騎は斜め路地の廃車の後ろを押し、右一騎は市庁舎広場の外縁に向けて向きを変えた。騎乗突撃で俺たちの新しい火線を試しに来るつもりだ。さらに悪いことに、錯乱した拍子に捕まっていた守護兵の群れが、拍板槌手を失った後に崩れるどころか、最も原始的なやり方で騎士についてきた。整列なんか求めていない、ただ節点を取り戻そうとしている。
こういう局面で、塔冠砲台の価値が出てくる。
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