153.地下施設 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
俺は危機管理センターの外壁に沿って下っていった。靴の底が、まだ乾ききっていない灰の層を踏みしめる。ただの灰じゃない。プラスチック、車の塗料、布地、血、壁の塗装が燃え尽きた後に残ったものだ。地面にこびりつき、踏むたびに一晩分の火災を靴底に塗りつけているような感触がする。
バローロ神父は俺の左後ろを半歩遅れて歩いている。
彼は何も言わない。黒灰色の重厚な祭服の裾が階段の縁を掃く。鉛の重りが生地を下へ引っ張り、一歩一歩が地面に杭を打ち込むように重い。 金属の角当てがついた分厚い聖書は左脇に抱えられ、外縁には黒ずんだ血の線が何本か残っている。三メートルの鎖は再び右腕と腰に巻き付けられ、歩くたびに、ごく軽く一、二度擦れる音を立てるだけだ。
まるで、誰かが暗闇の中で、鉄格子の表面を刃の背でゆっくりと引きずっているような音だった。
デュヴァルは路肩で俺たちを待っていた。隣には臨時徴用した濃紺の憲兵用四駆が停まっていて、ドアにはまだ新しい番号を貼り直す暇もなく、フロントガラスに白い紙が一枚、「南線優先」と走り書きされている。顔色はさっきよりさらに悪く、無精髭に灰がこびりつき、左耳には無線イヤホンが刺さったまま。だが口にタバコはない。フランスの古参警官がタバコを忘れるほどなら、もう余裕が完全に消えた証拠だ。
「市長は南側の医療搬送ラインと旧メンテナンスシャフトを俺たちに先行させることに同意した」デュヴァルは言った。「限定的な火力支援と、地下封鎖区域の臨時突破権も認めた。全面撤退は不可だ」
「当然だろう」俺は後部ドアを引き開けて、さっき受け取った散弾二箱とケミカルライトを放り込んだ。「あいつは自分の目で見た半分しか認めようとしない」
デュヴァルは反論しなかった。ただ、まだ複写機の熱が残る平面図を俺に手渡した。不完全な図面で、旧メンテナンス線と医療バックアップ通路は大まかな位置しか示されていない。余白には赤ペンで、たった今更新された陥落点がいくつか書き込まれていた——南搬送口、バックアップ昇降シャフト、B3防火扉、地下鉄連絡通廊。
俺は図面を折りたたんでジャケットに押し込んだ。
「お前のところの人間は?」
「工兵の小チームが旧メンテナンスシャフト外で待機中。憲兵二名があんたと一緒に降りる。南線外周に機動隊を一チーム追加した。それ以上はない」デュヴァルは一拍置いた。「北区と港湾ラインも人を要求してる」
「港湾ラインはどうなってる?」
「終わってる」彼はあっさり言った。「陥落したんじゃない。ライン全体の機能が壊死してる。トラックの逆流、埠頭の火災、倉庫区域が二か所通信途絶。フォークリフトの間を白ローブが通り抜けているのを見たって話もある。位置を測ってるみたいだったって。確認する暇は誰にもない」
俺は頷いた。そういうことだ。
奴らは一番賑やかな場所に突っ込んでくるわけじゃない。ハブを解体しているんだ。 人の流れ、物流、医療ライン、地下の動脈、精神的な支柱——これらを全部潰せば、街に残るのは悲鳴だけになる。
副席に乗り込む。バローロ神父は後席に入らず、後部ドアを引き開けて乗り込んだ。その瞬間、車体が目に見えて沈んだ。 デュヴァルは運転席に回り込んで車を発進させた。タイヤが路面に散乱したガラス片を踏み越え、連続した乾いた音が響く。
危機管理センターを離れた時点で、街はすでに単純な混乱の段階を過ぎていた。第二段階に入っていた。
第一段階は、夜の中で誰も何が起きているか分からない混乱。
第二段階は、昼の光がその混乱を全部照らし出した後で、それでも人間が生き続けなければならない状態だ。
交差点に新設された重バリケードの後ろで、憲兵と警察が混在して立っている。散弾銃を持つ者、昨夜の鎮圧で使った盾と催涙弾発射器をまだ手放せていない者、まるで三つの別々の事故現場から無理やり寄せ集めたみたいな装備だ。 軍用トラックが市内へ向けて進んでいく。降りた兵士たちはまず火力を展開するのではなく、放棄された車を両脇へ引きずって救急搬送路を確保することから始めた。その搬送路の反対側には、パジャマとスリッパのまま飛び出してきた市民が縁石に腰を下ろしている。手には捨てる間もなかったビニール袋——中にはパン、薬の箱、子どものジャケット。泣いている者もいれば、ただ前を見ているだけの者もいる。
小さな交差点を通り過ぎたとき、一人の消防士がホースの脇に座っているのが見えた。頭を垂れ、両手にはまだ耐火手袋をはめたまま、それでも震えていた。誰かが水のボトルを差し出したが、彼は受け取らない。口が何のためにあるのか、もう分からなくなったみたいだった。
無線は止まらない。
「北二封鎖線、十五メートル後退。繰り返す、十五メートル後退」
「第三病院の救急入口が詰まった。東門への迂回を要請——東門も詰まっている。繰り返す、東門も詰まっている」
「港務局より報告、外周連絡車列が人の波に遮断された」
「教区の鐘楼が鐘を止めた——繰り返す、一号鐘楼停止——待て、二号がまた鳴り始めた」
「監視カメラ十九号、白ローブの隊列が方向転換を確認。散開ではない、転換だ。まるで……部隊が正面を変えるみたいに」
憲兵の四駆は、焼き抜かれたバスの残骸の脇を迂回した。窓の外の臭いがひどい。風の中に燃料と焼けた肉の臭いが混じっている。バローロ神父は後席で動かない。黒い鉄の塊が車に圧し込まれているみたいだ。 そのバスを通り過ぎた時、神父は低く一言だけ言った。
「主よ、彼らを憐れみたまえ」
祈りでも慰めでもない。すでに終わった手続きに判子を押しているような声だった。
俺は振り返って神父を一瞥した。その顔はいつもの死んだような静けさで、唇は刃の背みたいに平坦で、灰白の目は窓の外を見ている。まばたきさえ少ない。じっとしているとき、あいつは白ローブの連中より、石から彫り出されたものに近く見える。
「さっき中で言いかけたことがある」俺は言った。
「どの話ですか」
「林雨瞳が言ったやつだ。歩兵と地下浸透だけじゃ終わらない、って後ろ」
神父は二秒黙ってから口を開いた。
「彼女は正しい」
「それは分かってる」
「あなたはいつ出てくるかを考えている」神父は言った。
「どこを最初に試してくるかを考えてる」
バローロ神父は聖書の表紙に手を当て、指の関節をわずかに収めた。
「医療ライン。地下のハブ。そして、民間人が自分で間違った方向へ走り出すような場所」
デュヴァルがフランス語で悪態をついて、ハンドルを右へ思い切り切った。横の路地から制御を失った民間車両が突っ込んできたのだ。フロントガラスがすでに砕けていて、中に人はいない。斜面を自重で滑り出て、路肩の消火栓に激突し、白い霧が一気に噴き上がった。
「二人とも、俺が運転してない時に話してくれないか」デュヴァルは言った。
「無理だ」俺は言った。
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南側の医療搬送ライン外周で、俺たちは一度止められた。敵じゃない。味方だ。
交差点は三層の臨時封鎖物で塞がれていた——ひっくり返されたゴミ収集車、横倒しにされた鋼製柵、張り巡らされたばかりの有刺鉄線。後方には軍用トラックが二台停まり、工兵が横転した救急車の脇に砂嚢を積み上げ、人と車を分流できる狭い通路を無理やり作ろうとしていた。 路面は血の轍だらけだ。赤いもの、黒いもの、新しいもの、古いもの——全部が重なり合い、医療搬送拠点の入口へと続く線を描いている。
若い将校が俺たちを止めた。肩章は一晩中ここにいた人間とは思えないほど綺麗だったが、目の奥はすでに硬くなり始めている。まだ手続きを重んじる場所から、ここへ放り込まれたばかりの顔だ。
「地下突破の認可文書を」
俺が危機管理センターで発行されたばかりの臨時授権証を差し出した。彼がまだ読み終わらないうちに、後方でストレッチャーが地面に落ちる音がして、女の悲鳴が上がり、誰かが「どけ」と怒鳴った。
振り返る。二人の医療スタッフが腹部を損傷した男を分流口の向こうへ運ぼうとしていたが、前方で子どもを抱えた母親が路上に転倒し、後ろから人波が押し寄せてストレッチャーのラインが完全に詰まった。本当に問題なのは人が詰まったことじゃない。詰まった瞬間、左側の放棄車両の下で何かが動いた。
白ローブだ。
主力じゃない。後方で隙間を拾い歩いているタイプだ。 白い布はすでに半分焦げていて、動きは速くないが、人が身をかわしにくい場所だけを狙って出てくる。最初の一体が車の下から這い出てきたとき、口には輸液チューブの切れ端を咥えていた。
「右側!」俺は怒鳴り、すでに銃を抜いていた。
一発目、膝。 二発目、顎。 三発目、眼窩に補充。
そいつは後ろへ倒れてタイヤの脇に引っかかり、ちょうど後続の二体目の進路を塞いだ。デュヴァルも撃ったが、彼の警察用ライフルはこの距離では制圧には足りても速度が足りない。バローロ神父は俺たちより先に動いていた。
突進じゃない。ただ、一歩踏み出しただけだ。
その一歩が地面に落ちる音は重く、杭が泥に打ち込まれるみたいだった。 鎖が右腕からするりと落ちて、短い金属の擦れる音を立てる。二体目の白ローブが車の先端から半身を乗り出した瞬間、鎖はすでにその首に絡みついていた。神父が手を後ろへ引くと、そいつは横へ引き飛ばされ、救急車のドア枠に顔面を叩きつけられ、側頭骨がその場で陥没した。
バローロ神父はそいつを見なかった。左手の金属聖書がそのまま振り下ろされる。
一撃目、鼻梁。 二撃目、側頭部。 三撃目はさらに低く、下顎を喉の奥まで叩き込もうとするように。
「悔い改めよ」神父は言った。
四撃目、書脊が額骨を打つ。
「アーメン」
その場が一瞬、奇妙なほど静まり返った。さっきまで泣き叫んでいた子どもさえ声を失った。神父の足元のそいつはまだ痙攣している。神父は靴で胸を踏み、一度だけ見下ろした。
「主よ、あなたを憐れみたまえ」
それから聖書を胸元に戻した。
俺には眺めている暇がない。左の車の下からもう一体が出てきた。手槍の残り二発を叩き込み、鎌を引き抜く。死神の大鎌が指の間を滑り落ちる。昼間の光の中では、刃に何の輝きもない。ただ、薄く研がれた夜の欠片みたいだった。 その白ローブが半身を起こした瞬間、鎌が横から首を半分断ち切る。気管と脊椎の間で引っかかりながらもまだ前へ倒れ込もうとするから、俺はそのまま押さえ込んで車の下の影に叩き伏せた。
「引きずって通せ!」俺は怒鳴った。
この一言で、現場がまた動き始めた。
将校はようやく文書を見るのをやめ、工兵に右側の車の隙間を開けるよう怒鳴った。憲兵二人がストレッチャーを引きずる手伝いに入り、転倒していた子ども連れの女が引き起こされ、靴も履き直せないまま後ろへ下がった。崩れかけていた分流ラインが、三十秒だけ、持ち直した。
三十秒で十分だ。
ストレッチャー二台が扉の中に入れる。医療チームが角を曲がれる。救急車が二台分前に進める。そして、まだ完全に壊れていない人間が、自分が今何をしているかを思い出せる。
若い将校は顔が真っ青だったが、今度は文書を要求しなかった。そのまま俺たちを通した。
「旧メンテナンスシャフトは搬送拠点の後方設備区にあります」彼は言った。「さっきそこから出てきた施設管理員がいます。精神状態はあまりよくないですが、案内はできます」
「精神状態のいい人間は、もうここにいない」俺は言った。
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南側の医療搬送拠点のロビーを抜けていくと、建物全体が今にもオーバーヒートして爆発しそうな機械のようだった。
ストレッチャーが壁に衝突する音、車輪が滑る音、無線のノイズ、医療スタッフのベッド確認の叫び、患者の呻き、どこかでガラスが割れる音——全部が一緒くたになっている。壁際には搬送を待ち続けている人が一列に座っている。頭に血の滲んだ包帯を巻いた者、ギプスをはめた腕を自分で抱えている者、酸素マスクを逆向きに着けた老人——隣の実習看護師が直そうとしているが、手が震えてゴムバンドを留められない。
どこにも、もう病院らしい場所は残っていない。
ここはただ、自分が戦場のノードになったことをまだ認めていない野戦病院だ。
バローロ神父は道中、誰とも言葉を交わさなかった。だが狭い通路に神父が立ちふさがると、今にも詰まりそうだった人の流れが自然に割れた。誰かをなだめたからじゃない。祭服を纏った黒い壁に、誰も正面からぶつかっていこうとしないからだ。
設備区の奥で、その施設管理員を見つけた。
発電機の脇に座り込み、両手でヘルメットを抱え込んでいる。手の甲には自分で掻きむしった血の跡がいくつも刻まれていた。俺たちが来たのを見た時、最初に見たのは俺でもデュヴァルでもない。バローロ神父の姿に目を止め、まるで審判が前倒しでやってきたとでも思ったように固まった。
「シャフトは下だ」彼は南仏訛りのフランス語で言い、デュヴァルがそれを俺に訳した。「前に三人降りた。一人は戻ってきた。一人は下で死んだ。もう一人は……分からない。下は医療バックアップ通路に繋がっていて、旧連絡廊にも接続できる。扉はまだ完全には閉じていないかもしれないが、何かがぶつかっている」
「何がぶつかっているんだ?」
「白いやつだ」彼は言った。「たいていは足音が聞こえない。引きずる音だけが聞こえる。扉の前で止まって、急いで入ってこようとしない。こっちが自分で開けるのを待っているみたいだ」
俺は彼を一瞥した。この描写に問題はない。頭はまだ動いている。
「下にまだ生存者は?」
「いる」彼は唾を飲み込んだ。「さっき、配管の壁を叩く音が聞こえた。二回長く、一回短く、間を置いてまた二回長く一回短く。でたらめじゃない。救難信号だ。それから……その後、別の音が聞こえた」
「何の音だ?」
ヘルメットを抱える手がさらに強くなった。
「馬の蹄の音だ」
隣の若い将校が俺を振り返り、目の中に「ほら見ろ、精神状態が良くないんだ」と書いてある。デュヴァルも眉をひそめたが、すぐには否定しなかった。俺は説明しなかった。林雨瞳のさっきの台詞が、耳の奥にまだ残っている。
——「歩兵と地下浸透だけじゃ終わらない。」
「上で聞いたのか、下で聞いたのか?」俺は訊いた。
「下だ」施設管理員は言った。「遠くて、もっと広い空間から伝わってくるみたいだった。でも車でも、配管でも、機械でもない。地下鉄の保守を十五年やってきた。機械じゃない音は分かる」
俺は頷き、設備区の奥の防火扉に視線を移した。
扉の向こうが旧メンテナンスシャフトだ。
工兵二人がすでにシャフトの蓋と補助照明をセットしていた。ロープ一束、ケミカルライトの箱、予備の呼吸マスク二つ、折り畳み式の破壊工具——全部が脇に積み上げられている。救助の装備というより、一番安上がりな方法で人間を地下に送り込んで、自分たちの墓を掘らせるための道具立てに見えた。
「デュヴァル、半分を上に残してシャフトの口を守らせろ。残り半分は俺と一緒に下りる」俺は言った。
「俺も下りる」
「当然だ」俺は将校を見た。「外を守れ。医療ラインがまた崩れたら、まずシャフトの口と分流口を守ることを優先しろ。通り全体を守ろうなんて考えるな」
将校は歯を食いしばって、最終的に頷いた。
バローロ神父はそこで前へ進み、防火扉の前に立った。扉は三分の一しか開いていない。扉の下と床の間に、壊れたプラスチック製の台車の車輪が挟まっている。誰かが手に入るものを何でも使って扉を固定しようとして、途中で諦めたような跡だ。 神父は二秒ほど見下ろし、左手の聖書を上げて、扉の板を軽く一度だけ叩いた。
中から反響はない。
いや、正確には——もっと奥の衝突音に、反響が飲み込まれていた。
神父は扉の縁に手を当て、低く言った。
「下にまだ人がいます」
俺は彼を見た。「どうして分かる?」
「生者の恐怖と、死物の飢えは、音が違います」
それだけ言って、彼は黙った。右腕から鎖をゆっくり一巻きだけ下ろす。冷間鍛造の鎖の節が一つずつ滑り落ち、設備区の中に、鮮明すぎるほど細かい金属の摩擦音を立てた。 工兵も医療スタッフも、誰一人口を開かない。
俺はケミカルライトを一本拾い上げ、力を込めて折った。緑色の光がパチッと灯る。
「降りる前に最後に言っておく」俺は言った。「下は捜索じゃない。収口だ。 生存者を見つけたら連れ出す。塞げる扉は塞ぐ。塞げなければ撤退、未練を残すな。主力の編制を見かけたらすぐ報告。英雄になろうとするな」
誰も返事をしなかった。全員が理解しているということだ。
その時、胸元の通信機が鳴った。
危機管理センターの公共チャンネルでも、デュヴァルの警察チャンネルでも、南線の医療ラインでもない。俺個人の暗号化私用チャンネルだ。 繋いでこられる人間は多くない。
通信端末を持ち上げ、表示された識別コードを見て、半秒ほど固まった。
シキ。
接続ボタンを押すと、まず風の音とエンジンの低い唸りが聞こえてきた。不安定な信号のノイズも混じっている。向こうはまだ移動中だ。
「周士達」シキが俺の名前を呼んだ。声はいつもより乾いていて、背景には車輪が砂利を踏む振動が混じっている。「もうすぐマルセイユ外縁に着く」
俺は設備区の人声から離れるよう、二歩横へ動いた。
「どのラインだ」
「北東の外環。市街地の外周封鎖の手前、最後の高架区間。葉綺安と一緒よ」彼女は一拍置いた。「なんで今になって連絡したかは訊かないで。ここまでずっと迂回してきたから」
遠く、設備区のドアの方を一瞥した。バローロ神父はまだ防火扉の前に立って動いていない。デュヴァルは工兵とロープと照明の確認をしている。時間が削れていく。寒暄している暇はない。
「何が見えた?」
今度はシキじゃなく、別の声が割り込んできた。
葉綺安だ。
風切り音がさっきより大きい。シキから通信機を直接奪い取ったみたいだ。
「外周の状況は、あんたが中から見ているよりずっと包囲に近い」彼女の声は冷静で、移動中の人間特有の浮ついた感じが一切ない。「難民の流れは自然に散らばっているんじゃない。いくつかの固定された幹道に誘導されてる。白ローブは外周全体を埋めていない。意図的に穴を開けて、車と人を市内へ追い込んでいる」
俺は何も言わず、続けさせた。
「もう一つ」葉綺安は言った。「高架の外側で、民間人でも警察でもない移動ユニットをいくつか見た。散兵じゃない。急いで市内に入ろうとしていない。外周に沿って平行して移動してる。まるで距離を測ってるみたいに」
「編制は確認できたか?」
「遠すぎて、百パーセントとは言えない」葉綺安は言った。「でも少なくとも、長柄武器のシルエットはある。それと引きずった跡。車輪じゃないし、普通の補給用パレットでもない」
シキが通信機を取り返した。
「外周で鐘の音もするの」彼女は言った。「市内みたいな無秩序な打ち方じゃない。断続的で、ポイントを定めてる。信号を送ってるみたいで、気持ち悪いわ」
「俺も嫌いだ」俺は言った。
「そっちはどう?」
俺は目の前の半開きの防火扉と、その向こうに沈んでいく暗闇を見た。
「マルセイユは最初の一口を生き延びた。今から二口目を噛まれるところだ」
通信機の向こうが二秒、静まった。
葉綺安がまた受け取り、今度は一言だけ言った。
「持ちこたえなさい。二十分で外周に入る。市内に入る前にもっと大きなものが見えたら、先に連絡する」
俺は通信機を握り締めた。
「焦って突っ込むな。まず見て、まず報告、封鎖に正面からぶつかるな」
「分かってる」彼女は言った。
シキが最後に一言付け加えた。声は低かったが、はっきり届いた。
「周士達、外はただの包囲じゃないわ」
「分かってる」
「戦場を『残して』るのよ」
通信が切れた。
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俺は通信機を胸元に収め、振り返って防火扉の前へ戻った。デュヴァルが顔を上げ、俺の表情から何かを読もうとしている。
「お前の仲間か?」
「もうすぐ着く」俺は言った。
「いい知らせか、悪い知らせか?」
「移動中だ」俺はケミカルライトを戦術ベストに差し込みながら、銃と鎌の位置を手で確かめた。「それと、外周で彼女たちが見たものが、林雨瞳のさっきの言葉をさらに現実味のあるものにした」
デュヴァルはどの言葉かとは訊かなかった。シャフトに降りる前に余計な質問をしないことを、もう学んでいた。
バローロ神父がゆっくりと上半身を回し、俺を見た。設備区の冷たい光の中で、その灰白色の目は霜の張ったガラスの欠片みたいだった。
「彼女たちはもうすぐ来るのですか?」神父は訊いた。
「ああ」
神父は一度頷き、手を上げて聖書を胸元に押し当て直した。鎖が半巻きだけ垂れ下がる。
「では、先に扉を開けておいて差し上げましょう」神父は言った。
それから、防火扉の向こうに沈んでいく暗闇を見据え、すでに書かれていた判決書を読み上げるような、平板な口調で言った。
「行きましょう」
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




