152.死守 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
ヴィクトリアの最初の火線が地上に刻まれたとき、その振動は地下コンコースにまで届いた。
映画みたいに天井が崩れ落ちる、なんて誇張じゃない。だがコンクリートの奥から、低くて硬い共振が伝わってくる。地上で巨大な鉄の塊が、一帯の街路を半歩ぶん後ろへ押し戻したみたいな。 コンコースの吊り下げ照明とむき出しの配管が一緒に震え、隅に残ったガラス片が小さく跳ねた。階段の闇の中で隊列を整えつつあった白ローブたちも、一拍だけ動きを止めた。
俺は耳元のイヤホンを押さえた。
「地上の状況」
ヴィクトリア側の背景音は、高速射撃の名残の金属の唸りと、車体の中で燃え続ける火のパチパチという音で満ちていた。彼女の声だけが、妙に安定している。 「メイン出口正面、射界確保。北側と北西側の屍群は分岐済み。白ローブの弓兵確認。重装機械は未確認。交差点に蹄の残留音。騎馬指揮ユニットがまだ外周で探りを入れている模様」
「メイン出口を落とすな」俺は言った。
「分かってる」
通信が切れた。
俺は視線を階段口へ戻した。そこは、鉄柵とバリケードと押し倒された券売機でふさがれたばかりの暗い穴だ。下から伝わってくる、盾の縁がぶつかり合う音は止んでいない。一打一打、上へ響いてくる。適当に暴れているんじゃない。階段の幅、封鎖の厚み、こっちがどのレンジで撃ってくるか——それを測っている。
本当に厄介だ。
地下空間で、向こう側のことを「軍隊みたいだ」と感じ始めた時点で、それはたいてい、もはや普通の屍群ではない。
右隣に立つ少佐は、まだ無線を開いたままだ。さっき、「盾・槍・弓の編制」と「地下の前線ノード」という言葉を上に上げ終えたばかりだ。顔からは、さっきまで辛うじて残そうとしていた「体面」が消えている。残っているのは、軍人が硬い問題と向き合ったとき特有の真っ直ぐさだけだ。
「メイン出口の火力は安定している」彼は言った。
「なら、次は下を試してくる」俺は言った。
デュヴァルが血と埃で汚れた地下鉄構造図を持って歩いてきた。紙の角には血にまみれた指の跡がいくつもついている。 「このまま東向きホーム側を押された場合、次に奴らが回り込めるのはここだ」彼は一本のメンテナンス通路と、副次的なサービスシャフトを指差した。「それから、この排煙ダクト。だが狭すぎて、人間が通るのは難しい」
「人間が難しいなら、死人には関係ないな」俺は言った。
デュヴァルは何も言い返さなかった。
この夜、誰もが「普通なら起こり得ないはずのこと」をもう十分すぎるほど見てきた。いまさら地形がどうとか言っても、自分を慰めているだけだ。
バローロ神父は階段の封鎖口の前に、微動だにせず立っていた。コンコース全体で最も揺るがない一本の柱みたいに。 鎖は右手にきれいに巻き取られ、一巻き一巻きが几帳面に整えられている。左手の聖書、表紙の角には黒ずんだ骨片がこびりついたまま。最初から最後まで、急かすことも問うこともない。この一波は二言三言で変えられるものじゃないと分かっていて、奴らが自分から頭を出してくるのを待つしかないと知っている。
俺は構造図をデュヴァルの手から取り上げて、三秒見た。
「少佐、部隊を二層に分けろ。第一層はコンコースに残して階段とメンテナンス扉を守る。第二層はサービスシャフトと副次通路口へ。奴らが顔を出してから配置するんじゃ遅い」俺はペンで図面を二度叩いた。「デュヴァル、お前の人間は散らすな。お前は現場の警察窓口だ。あちこちの穴を塞いで回る工兵じゃない。どこに生存者がいて、どこの封鎖が先に割れそうか——真っ先に把握しているのはお前でなきゃならん」
デュヴァルが頷いた。
少佐も今度は一つだけ訊いてきた。「正面からまた押し上がってきたら?」
「正面は俺が崩す。神父が受け止める」
少佐は俺を一瞥した。虚勢を張っているのか見極めたかったんだろう。残念ながら、虚勢じゃない。
次の瞬間、階段口の下から最初の矢が飛んできた。
狙いは人じゃない。灯りだ。
矢は新しく据え付けた仮設ライトの土台に突き刺さり、灯具ごと横倒しにした。白い光が床を一転がりして、階段室全体がまた一段暗くなる。二本目はもっとえげつない。砂嚢を担いでいた警官の太腿を直撃した。男はその場に膝をつき、砂嚢が手からこぼれ落ちる。隣の二人が引きずり出そうとする前に、闇の奥から三発目の音が響いた。
今度は矢じゃない。
盾が鉄柵に叩きつけられた、最初の本気の一撃。
封鎖口全体がびくりと揺れる。
後ろにいた全員が、反射的に息を詰めた。
来たな。
「照明を補充しろ!」俺は怒鳴り、同時に散弾二人の背中を押し出した。「まず階段の踊り場を撃て。脚が見えたやつから順に潰せ!」
新しい灯りがついた瞬間、階段の下の輪郭が一気に浮かび上がった。
一列目は、やはり盾兵だ。
だがさっきホームで見たラインとは違う。今度は盾をさらに高く掲げ、階段の一番幅の広い部分をほぼ完全に塞いでいる。後ろの槍兵は、盾の隙間から水平に突くだけじゃない。階段の段差を利用して、槍の穂先を上向きに捻り上げ、鉄柵の隙間やバリケードの脚、人間の脚の下縁だけを狙ってきていた。そのさらに後ろ、三人の弓兵が踊り場の死角に張り付いて、半分だけ顔を覗かせている。矢はばら撒きじゃない。全部、ライトや無線機、荷物を運んでいる者に向かって飛んでいる。
これは第二波なんかじゃない。
修正された波だ。
さっきの戦いで喰らった分を、そのまま戦法に反映させてきている。
散弾の一斉射で、最前列の二体の盾兵の脚と肩口が吹き飛び、そのまま横へ崩れた。だが後列は止まらない。むしろ、その屍体を足場にして前に出てくる。槍の穂先は、その屍体の上からさらに伸びてきて、死人の山から生えた鉄の歯みたいだった。
「下半身を狙え!」俺は怒鳴る。
今度、フランス人警官の二人は馬鹿をしなかった。銃口を一気に下げる。階段口は狭い。弾が膝と脛に集中した瞬間、前列のリズムが一拍ぶれる。だが、一拍乱しただけじゃ足りない。こういう地形は、どこか一箇所を詰まらせたら、後ろがその詰まりを盾にして、第二列、第三列をじわじわ押し上げてくる。
神父が一歩、前へ出た。
本当に、一歩だけ。
低く抑えた経文が、また流れ始める。高くも速くもないのに、コンコース中に、金属の板でガラスをこすったみたいな澄んだ音で響き渡る。 右手の鎖がひと振りで鉄柵の隙間を抜け、最前列の盾の上縁に絡みついた。白ローブがまだ押し返そうとした瞬間、神父が手首を捻る。鎖が横へ引き倒し、その盾を無理やり半身ぶんずらす。
たった半身。
だが、それで十分だ。
俺は隙間から三発撃ち込んだ。二発は脚へ、一発は顔へ。盾持ちが横へ崩れ落ち、その背後で前へ突き上がろうとしていた槍が、丸見えになったところをもう一人の散弾がへし折る。
「運びを止めるな!」俺は後ろに向かって怒鳴る。「突っ立って見るな!」
こんなときに一番死にやすいのは、前で撃っているやつじゃない。
「今は自分の番じゃない」と思って立ち止まっている、後ろのやつらだ。
コンコースが再びざわめきを取り戻した。
誰かが金属箱を引きずり、誰かがケーブルを引っ張る。負傷した警官が後ろへ運ばれていく。別の方角のメンテナンス扉の向こうでは、まだ乗客が咳き込み、子どもの泣き声が途切れ途切れに上がっている。その全てが、階段の底から伝わってくる盾と鉄柵の鈍い衝突音と絡み合って、空間全体を、左右から同時に押し潰されかけた肺みたいにした。
イヤホンがまた点いた。
今度はヴィクトリアじゃない。市の危機管理センターだ。
回線が繋がると、最初に聞こえたのは市長ではなくルシアの声だった。向こうの背景音はさっきより騒がしい。指揮センター全体がギアを上げ始めたのが分かる。 「ジョウ・シーダー、北港ラインがもう一箇所落ちた。教会の鐘楼で同時に三つ異常。市長が、地下は持ち堪えられるのか知りたがってる」
「一定時間なら持つ。一晩全部は無理だ」俺は言った。視線は階段口から外さないまま。「『全部塞げるか』なんて質問はやめろって伝えろ。これは塞ぎ切る話じゃない。時間とノードの計算だ」
紙のめくれる音と人の声が重なって、そのあと、別の声が割り込んできた。
市長だ。
さっき指揮室で聞いた声より、短く、硬くなっている。 「結論だけでいい」
いいな。ようやく市政会議のノリじゃなくなった。
「結論は、下に湧いているのが一群の屍体じゃなくて、地下ラインそのものが編制された部隊に引き継がれつつあるってことだ」俺は言った。「東向きホームでは第二波の押し上げが来てる。盾と槍と弓が、階段の角度と照明に合わせて動き始めた。奴らは学習して、穴を埋めてる。今やるべきなのは、全部の駅を守り切れるか夢を見ることじゃない。どのノードだけは絶対に落とせないか決めることだ。」
「メイン出口は?」
「メイン出口は絶対に落とせない。次がメンテナンスシャフト、排煙ダクト、乗り換えのハブ。それと、地上の火線を一度でも引っ込めたら、地下の圧力は即座に倍になる」
市長は二秒、黙った。
いまの言葉を一度、自分の街全体で使える言葉に訳しているのが分かる。
「シュトゥルムシュライターはまだ持つか?」
「持つ。それに、今は持たせなきゃならない」
「理解した」
それ以上は訊かず、回線は再びルシアへ戻った。
それでいい。 こんな時に最高司令部がやるべきことは、「落とせないライン」を把握することであって、俺の感想を聞きに来ることじゃない。
階段の底が、不意に明るくなった。
照明じゃない。火だ。
どこから持ってきたのか分からない可燃物をべったり塗りつけた矢が一本、階段口の前に倒れている券売機のプラスチック外装に突き刺さる。火勢は大きくない。だが、いやらしい。人を焼き殺すつもりなんかない。ただ、この封鎖ラインを自壊させればそれでいい。
「消火!」少佐がすぐに怒鳴った。
憲兵二人が消火器を引きずってきて、白い噴霧を撒く。階段口はたちまち真っ白になり、視界が消えた。俺は顔をしかめる。
これが、面倒なんだ。
地下での白煙と煙は、こっちのための遮蔽物じゃない。あいつらのための遮蔽物だ。 奴らは視界が利かなくても困らない。困るのは、こっちだ。
案の定、次の瞬間、霧の中から槍の穂先が三本、一気に突き出てきた。さっき火を消し終えた憲兵の太腿に、一本が穴を開ける。男はのけぞるように倒れ、砂嚢の半分を巻き込んで崩した。弓兵もすぐに重ねてきて、胸元の無線機を一発で射ち砕く。
このラッシュは、奴らが煙幕の下で封鎖をこじ開けにきた一撃だ。
俺はハンドガンをホルスターに戻し、左手で指輪を返した。
死神の大鎌が掌に落ちた瞬間、隣のデュヴァルは一度も瞬きを増やさなかった。これが前線の利点だ。見慣れれば、理屈より先に受け入れが追いつく。
「神父、左は任せた」
「右はお任せします」神父は言った。
頷いて、俺は鉄柵の目前まで飛び出した。
白煙はまだ晴れ切っていない。ちょうどいい。
奴らにとって遮蔽物なら、俺にも遮蔽物だ。 最前列の二枚の盾が白煙の中から輪郭を現した瞬間、俺は斜めに鎌を伸ばした。最初の一撃は人を斬らない。盾の縁を引っかける。 刃が板の繋ぎ目に噛み込んだところで、一気に横へ引き倒す。前列の一枚が階段からまるごと引き剥がされた。後ろの槍兵が反射的に前に出てきたところへ、手首を返して上へ弾き上げ、顎の下から鼻梁まで、乾いた顔を真っ二つに裂く。
階段口は狭い。盾が一枚ひっくり返れば、その後ろはすぐに詰まる。
同じタイミングで、神父の鎖が左側の鉄柵の隙間から飛び出して、別の白ローブの首と肩に絡みつき、一気にこちらへ引き寄せた。身体が半分持ち上がったところへ、聖書が正面から振り下ろされる。一撃目で鼻骨が砕け、二撃目で側頭部が歪み、三撃目でその頭を階段の手すりに叩きつけて粉砕する。
神父は、まだ唱えている。
平板に、淡々と。
全部の動作が、あの経文の脚注でしかないみたいに。
俺はひっくり返した盾を階段の底へ蹴り落とした。それが後ろの第二列をまとめて崩す。散弾二人がすかさず追撃し、階段室は近距離の散弾で、鉄の砂をぶち撒いたみたいになった。 骨片、腐肉、マントの切れ端が四方に飛び、第一線で押し上がってきた連中が、ようやく本当に一塊の塊になって詰まった。
だが、まだ足りない。
もっと下に、まだいる。
踊り場の死角からまた白いフードが浮かび上がり、槍の穂先が前の屍体の肩へ一本ずつ重ねられていくのが見える。弓兵はさらに適応していて、もう人を狙っていない。封鎖の両脇に設置したライトと、鉄索を留めている支柱だけを撃ち抜きにきていた。この封鎖口を半分崩せば、後ろはゆっくり押し上げるだけでよくなると知っている動きだ。
イヤホンが三度目に点いた。
ヴィクトリアだ。
「地上北側に新しい盾兵の列。後ろに騎馬ユニット。北西の車列後方に弓兵が増加。まだ押さえ込めるけど、向こうは私の射角と補給のテンポを探ってる」
俺は、白煙から伸びてきた槍兵の手首を鎌で削ぎ落としながら答えた。 「探らせておけ。追うな。蓋が最優先だ」
「了解」
通信が切れた直後、地上からさっきより重い射撃音がもう一度、地下に伝わってきた。今度は短い点射じゃない。少し長めの制圧射撃だ。コンコースの床全体が揺れ、天井の埃が層になって落ちる。階段の底にいる白ローブたちも、明らかに再び一拍、動きを止めた。
その瞬間、はっきり分かった。
地上と地下は、別々に殴り合っているんじゃない。
同調して、圧をかけ合っている。
地上がメイン出口を揺さぶれば、地下はそのタイミングに合わせて押し上がり、地下が封鎖をぶつければ、地上のあの騎馬ユニットが白ローブの外縁を率いて、こっちの火線を試しにくる。偶然じゃない。同じ行軍パターンの、上下二枚の歯だ。
「少佐!」俺は背中越しに叫んだ。
「何だ!」
「このラインのリズムを軍に上げろ。単独の遭遇戦じゃない。地上と地下の同時圧だ。奴らは、お前らの全ての火点の反応時間を測ってる」
少佐は一秒も無駄にせず、すぐに通信兵に怒鳴りつけた。いい流れだ。 「周士達の話を聞く」から、「周士達の言葉を軍事用語に訳す」へ——ようやく一段階、進んだ。
階段口の白煙が半分ほど晴れた。
第二波の先頭を俺たちが切り崩し、階段室は白ローブと砕けた盾で埋まっていた。常識的には、これでさらに押し上がるのは難しくなるはずだ。だが、すぐに向こうの新たな調整が見て取れた——弓兵はもはや上を狙っていない。階段の手すりと側壁上部の照明ブラケットを崩しにかかり、階段全体をもう一度真っ暗にしようとしている。槍兵は慌てて突き上げてくることをやめ、前列の屍体を槍の穂先で手前へ押し上げ、仮設のステップを作り始めていた。
「クソが」デュヴァルが小さく悪態をついた。
「ようやく追いついたな」俺は言った。
今度は苦笑いしなかった。半歩前へ出て、俺の右隣に身体を寄せ、銃口を低く、安定して構えた。この状況で逃げもせず、取り乱しもせず、いまここで前へ出てこれるなら、現場として十分合格だ。
「周さん」彼は声を落として訊いた。「もし、こっちが主攻じゃなかったら?」
階段の底で、まだじわじわと押し上がってくる白い塊を見ながら、俺は言った。 「だったら、本当の主攻は別口ってことだ」
「どこだ?」
すぐには答えなかった。
答えは目の前にはないからだ。
答えは、全体の地下鉄図面、危機管理センターに残っている監視映像、北港ラインと鐘楼の異常点、そしてなぜこの死軍が、わざわざ地上と地下を同時に叩きにきているかというリズムの中にある。
だが、直感はもう方向を示していた。
奴らの狙いは、一気にこの駅を貫通することじゃない。
ここでこっちの火線と判断力を縫い止めておいて、別の場所から、本当の動脈を噛みに行くつもりだ。
「ルシア」俺は回線を叩いた。
「いる」
「この駅の周辺で繋がっているメンテナンスシャフト、排煙シャフト、サービス通路を洗い出せ。他の駅の異常報告と突き合わせてくれ。どこがサブノードで、どこが奴らが本当に繋ぎたいラインか、割り出したい」
「一分くれ」
「三十秒だ」
ルシアは短く息を吸い込む音を立て、それ以上何も言わずに通信を切った。
階段口の下から、またぶつかる音がした。
今度は一枚じゃない。三枚の盾が同時に押し上がってくる。鉄柵全体が少し内側へ弓なりになり、バリケードが嫌な音を立てて軋む。技術員二人がすぐに前に出て、鉄索を張り直す。フックをかけ終えた瞬間、その隙間を矢がひとつ抜けて、片方の手の甲に突き刺さる。
男は悲鳴をあげて後ろに倒れ込んだ。俺はとっさにそいつを蹴り飛ばして鉄柵から離し、次の一突きで串刺しにされるのを防ぐ。
「下がるやつはしっかり下がれ! 入るやつは前へ詰めろ!」俺は怒鳴った。「真ん中で詰まるな!」
これが、地下戦で一番タチの悪いところだ。
綺麗なラインなんて敷けない。
押し潰されかけた一本の通路の中で、戦闘と補強と救助を同時に回しつつ、人の流れが自分たちを殺さないよう管理しなきゃならない。
その時、神父が口を開いた。
俺にではない。
階段の底に向かって、だ。
その経文の声は、さっきよりはっきりと、そして低く響いていた。地下空間全体を、一つの共鳴箱として使っているみたいだった。
そして神父は一歩踏み出し、鎖をもう一度振り下ろす。今度は盾を狙うんじゃない。階段側面の手すりに直接絡ませて、力任せに引き倒した。
繰り返し叩きつけられて緩んでいた金属の手すりが、固定金具ごと数か所まとめて引き剥がされ、半分の護柵が崩れ落ちる。それがちょうど、屍体を積み上げて嵩上げしていた白ローブの頭上に圧し掛かった。前列が乱れた瞬間、俺はバリケードを踏み台にして体を一段高く上げ、鎌を鉄柵の上から差し込んで、最前列の盾の裏にいる体を斜め上から一閃した。
骨が断ち切られる音が、階段の吹き抜けの中でやけに澄んで響いた。
後列の槍兵が補充に出てきたところへ、俺は手首を返して鎌を横に薙いだ。階段の角度を利用した一閃が、槍の穂先三本と手首二本をまとめて吹き飛ばす。それらは屍体の山の中に落ちて、さらに一段、下へ弾んでいった。
この一撃で、第二波の押し上がりがようやく本当に止まった。
散ったわけじゃない。
止まったんだ。
白いフードはまだ後方に残っている。弓兵も、もっと奥で位置を変えながら待機している。だが最前列はこちらに切り崩され、短時間で完全な押し上げのリズムを組み直すのは難しい。
少佐はその三秒の空白を逃さず、すぐに人員へ命じて砂嚢と鋼箱の第二層を前へ補充させた。俺は息を整えながら鎌を指輪に収め、銃に持ち替える。今は追撃する場面じゃない。こういう地形で半歩踏み込みすぎれば、命一つで払うことになる。
そのタイミングで、ルシアの声が戻ってきた。
「見つけた」
俺は顔についた灰と血を手の甲で拭った。
「話せ」
「この駅は主突破点じゃない。噛み合わせの点だ。 本当に危ないのは南側の二駅が共有している旧メンテナンスシャフトと排水幹線。あそこは医療搬送ルートと地下駐車場に繋がってて、今は監視カメラが全部死んでる。それと、港湾方向の地下貨物接続線がさっき通信を失った」
俺の目が、一気に冷えた。
そういうことだ。
奴らはここを丸ごと飲み込もうとしているんじゃない。
俺たちが一番目に見えやすく、一番必死に守ろうとするメイン出口を縫い止めておいて、もっと暗く、もっと深く、もっと誰も注意を向けていない線から、街の地下で本当に内城を失血させられる場所を繋ぎにいっている。
「この判断を今すぐ市長と軍方に送れ」俺は言った。「ここへ無駄な人員を積み増すな。南側のメンテナンスシャフトと医療搬送ラインを守りに行かせろ」
「もう送ってる」
いい。
デュヴァルと少佐を一瞥した。
「二人とも、聞こえたな」
デュヴァルは短くフランス語で悪態をついてから、頷いた。少佐は、頭の中で何かが一枚めくれたみたいに、瞬時に全体の構図を追いついた顔になった。
「ここは釘だ」少佐は言った。
「そうだ」俺は言った。「奴らはこの釘で、お前たちの目を縫い止めている」
少佐はそれ以上何も訊かなかった。無線機を取り上げて、命令を出し直し始めた。これが、軍が本当に動き始めた瞬間の形だ。 俺に従うとか従わないとかじゃなく、目の前の戦いの論理を、自分の判断として内側に落とし込んだ。
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階段の底はまだ動いていた。
第二波は完全には死んでいない。後方の白ローブたちが前列の残骸を両脇へ引きずり始めていた。工兵が障害物を処理するみたいに、一つ一つ、ゆっくりとスペースを開けていく。 まだ来る。第三波、第四波、それ以上も。だが少なくとも今は、奴らがここで何をやっているかが分かった。そして本当に止血すべき血管がどこかも、分かった。
俺は頭を上げて、コンコース外の半壊したガラス扉を見た。
外の炎が差し込んでくる。さっきより赤みが増している。破れた部分の向こうに、遠くで短い金属の火線が再び光った。シュトゥルムシュライターがまた撃った。 まだ立っている。メイン出口の上がまだ落ちていないということだ。
あいつが立っている限り、この口はまだ俺たちのものだ。
バローロ神父は階段の封鎖口の前に立ち、聖書の表紙についた血汚れはすでに黒く乾いている。息も切れていないし、周りの人間を見もしない。ただ、暗がりの中で隊列を組み直している白ローブたちを見下ろしている。あと何度か判決を宣告しなければならないと、最初から知っている人間の顔をしていた。
俺は神父の隣に歩み寄り、声を落とした。
「ここは、ひとまず持ちこたえた」
「ひとまず、だ」神父は言った。
「それで十分だ」俺は階段の底を見ながら言った。「今夜手に入れられるものは、ほとんどの場合、ひとまずだけだ」
神父は何も返さなかった。
返す必要がない言葉だからだ。
マルセイユがここまで倒れずにいるのは、誰かが一気に局面をひっくり返したからじゃない。ただ、今にも断ち切れそうな線の一本一本に、「今すぐ死ぬ」を「ひとまずまだ生きている」へと引き延ばし続けているからだ。
そして街がひとまずでも生きていれば、次の手が打てる。
俺はイヤホンを押さえて、危機管理センターへ繋いだ。
「市長」
今回は、返事が早かった。
「聞いている」
「メイン出口は地上地下ともに持ちこたえている。だがここに注意を全部注ぐのはやめろ」俺は言った。「南側の旧メンテナンスシャフト、医療搬送ライン、排水幹線、港湾の地下貨物接続線を、今すぐ同レベルの優先度に引き上げろ。ここは奴らがお前たちの目を縫い止めるために使っている場所だ」
向こうが一秒、沈黙した。
それから、市長が隣の誰かに向かって言うのが聞こえた。
「やれ。今すぐだ」
いい。
ようやく同じことを二度言わなくて済む。
俺は通信を切り、コンコースの縁に立って、階段の底でまた一列一列、整然と並び直していく白を眺めた。奴らは急がない。この夜がまだ長いと知っているからだ。
遠くから、地上の四連装機関銃の連射音がまた地下へ転がり込んできた。街の表皮を鉄のブラシで往復しているみたいな音だ。 地下の白ローブは顔を上げない。地上の炎も、地下のために止まらない。今のマルセイユはそういう状態だ——上は燃えていて、下は這い上がっていて、その間に挟まれた生きた人間たちは、まだ断ち切れていない線の一本一本に縋りながら、かろうじて「まだ負けていない」を証明し続けている。
俺はマガジンを叩き込んで、階段の底から再び始まった盾の衝突音を聞きながら、かえって頭の中が澄んでいくのを感じた。
奴らが攻めているのは、一つの駅じゃない。
一つの街だ。
そして地上と地下、両方から同時に。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




