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151.メトロの新種  1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

列車が止まったとき、ジャックの反応は恐怖じゃなくて、苛立ちだった。


ちょうど仕事が終わったところで、スーツの上着は腕にかけたまま。スマホのバッテリーは残り19パーセント。本当なら乗り換え駅でラインを変えて、元妻と子どもの迎えを交代するはずだった。車内の灯りがまず二回チカチカして、その直後、列車全体が外から誰かに鷲掴みにされたみたいにガクンと揺れて、ホームの端で止まったのに、ドアはなかなか開かない。


アナウンスが流れた。


最初は普通のフランス語の女声で、設備のトラブルだからしばらくお待ちください、みたいなよくある文句。三十秒後、もう一度アナウンスが入ったが、内容が別物に変わり、乗客は直ちにホームを離れて地上へ退避してください、と言い出す。さらに十秒経つと、三つ目のアナウンスが割り込んできて、その場に留まり、係員の指示を待ってください。


車内で罵声が上がり始めた。


ドアを叩く者、電話をかける者、立ち上がって周りに「今の聞いたか」と確認する者。ジャックはスマホを掲げてみたが、アンテナは一本も立っていない。目の前では女が七つか八つくらいの男の子を抱きしめている。子どもはランドセルを背負ったまま、ずっと火事なのかと訊いていた。女の唇は真っ白で、「大丈夫よ」とだけ繰り返すが、声は紙切れみたいに震えていた。


ようやくドアが開いた。


普通の開き方じゃない。何かに引きずられているみたいに、左右のドアが半分まで開いて一瞬止まり、それからやっと全開になった。


外のホームの照明は半分しか点いていなかった。


白い光の列のあいだに、でかい影の塊が挟まっている。広告ライトの半分は死んでいて、残り半分だけが光を出して、床一面のめちゃくちゃなものを照らしていた。靴、落ちたブリーフケース、ひっくり返ったベビーカー、排水溝の脇まで転がっていったペットボトルの水、そして何本も何本も、踏み潰されて形の崩れた濡れた足跡。


最初の人たちが車両から駆け出した直後、ホームの反対側の端から悲鳴が上がった。


煙や火を見たときの叫びじゃない。


本来見ちゃいけないものを目にして、喉が勝手に裂けるような叫びだった。


ジャックは人波に押されるまま前へ進み、前方の肩越しに視線が抜けたとき、ホーム北端の闇の塊の中で、何かがこちらへ動いてくるのが見えた。


走っているわけじゃない。


飛びかかってくるわけでもない。


きれいに、揃って、押し出してくる。


先頭の二体は白いローブをまとっていて、その下からだらだら足を引きずっているのではなく、一歩一歩踏みしめて前進していた。手には細長い盾を構えている。盾の表面は灰白色で、縁には擦り傷やひびが無数についている。今日持ち出されたばかりの代物じゃない。その盾の後ろから、何本かの槍の穂先が、肩口と隙間からぶれもせず突き出ていた。そのさらに後方は、はっきりとは見えない。ただ、尖って高い白いフードが一列に並んで、闇の中からじりじりと押し出されてくるのだけが分かる。


最初の一発が撃たれた。


多分、駅の警備の警官か、あるいは拳銃を持った私服だ。地下空間に響く銃声は、短くて固く炸裂した。一発目は盾の表に当たり、灰白色の点を一つ刻んだだけ。二発目はやや高めに入り、左側の白ローブの肩口を半分吹き飛ばした。そいつはぐらりと揺れたが、隊列は崩れない。三発目はもっと役に立たず、背後の広告パネルのガラスを砕いただけで、ホームの悲鳴をさらに一段階引き上げただけだった。


さっきの女が、人の波に押されて前へ弾き出され、ジャックにまともにぶつかった。子どものランドセルが彼の膝の脇に引っかかり、チャックが開いて、中から算数ドリルが一冊こぼれ落ち、半分のページが踏み潰された。


このときになって、ようやくホームの人間が本気で崩れ始めた。


退避じゃない。崩壊だ。


列車内へ引き返そうとする者もいれば、線路に飛び降りてすぐさま横から引きずり上げられる者もいる。駅務室の方向から反射ベストを着た職員が二人飛び出してきたが、まともな一文を叫ぶ暇もなく、向かい側の闇から細長い影が一筋飛んできて、そのうち一人の首元に突き刺さった。


弾じゃない。


矢だ。


男は両手を宙に泳がせたあと、その場に崩れ落ちた。もう一人は呆然と立ち尽くし、次の瞬間、ホーム上方の連絡通路の灯りが二つ、パンッと弾け飛んだ。ガラス片と闇が一緒になって降ってくる。


ジャックはその瞬間やっと悟った。下にいるのは、ただ歩き回る死人だけじゃない。


奴らは隊列を組んでいる。


盾があり、槍があり、弓矢まである。


胃が底まで沈んだのに、脚は言うことをきかない。周囲の人間に押されて、自分がどこを向いているのかさえ分からなくなる。さっきの女はホームの縁で尻もちをつき、子どもは弾き飛ばされるように半回転して転がり、甲高い泣き声が一気に突き上がった。白ローブの盾列はなおも前進を続け、盾の後ろから槍の穂先がゆっくり伸び出してくる。その姿は、闇の中で生きた人間を探る歯の列のようだった。


次の瞬間、ホーム南端の方角から、別種の音が伝わってきた。


まず、金属が床を引きずる音。


重く、固く、一節一節がタイルの床を擦る。速くはない。だが、頭皮が縮むほど確実に刻まれてくるリズムだった。


続いて、もっと短い炸裂音が連なった。


銃声。


今度は乱射じゃない。最初の三発はほとんど一つにくっついていて、低く、えげつなく、正確だった。前列の一枚の盾がガクンと沈み、その隙間から突き出ていた一本の槍の柄が同時にへし折れる。四発目は別の白ローブの露出した眼窩にそのまま突っ込み、半分の頭蓋を吹き飛ばした。


人の群れがまだ理解を追いつかせる前に、南側の闇の中から誰かが歩いてきた。


黒いコート。硬い襟。肩のラインは、夜に切り出されたみたいに真っ直ぐだ。左腕には馬鹿みたいに分厚い聖書を抱え、右手をひと振りすると、鎖が床から跳ね上がって、蛇のように最前列の槍持ちの白ローブの首に巻き付いた。


神父は止まらない。


口の中で低く経文を唱えているが、その声は大きくない。法廷の訴訟記録でも読み上げているみたいな平板さだ。だが、手の動きは祈りとはまるで別物だった。鎖を一気に引くと、その白ローブの頭が不自然な角度までねじられ、身体はなおも前進しようとする。次の瞬間、聖書が正面から振り下ろされた。


一撃目で鼻梁が潰れる。


二撃目で頬骨が砕ける。


三撃目で頭全体が横に崩れ、皮と頸椎だけがかろうじて繋がっている。


光もない。火もない。黒い靄を祓うような「演出」も、一切ない。


あるのは、固いものが骨を砕く音だけ。その音が、地下鉄のホームいっぱいに、やけに澄んで響き渡っていた。


神父の口から出る経文は止まらない。


右手の鎖がもう一度しなり、今度は別の白ローブの盾の縁に絡みつき、思い切り横へと引き倒す。盾ごと背後の体まで引きずられる。次の瞬間、神父の背後からさらに銃声の連なりが切り込んできて、弾丸はほとんど彼の肩線をなぞるように飛んでいき、盾の裏から覗いた喉と膝裏を正確に撃ち抜いた。


そこでやっと、ジャックは二人目の存在に気づいた。


東洋人の顔をした男。銃の構え方が、何度も繰り返して体に叩き込んだ仕事の動作そのものみたいに冷たい。わざと突っ込んでいって虚勢を張るわけでも、撃ちながら怒鳴り散らすわけでもない。ひたすら素早くホーム全体を掃くように見渡し、どこが先に崩れるか、どこがまだ持つか、誰があと半秒遅れたら死ぬかそれを一瞬で全部終わらせている。


「伏せろ!」男が英語で怒鳴った。


自分に向けて言われたかどうか、ジャックには分からない。だが、身体の方が先に勝手に床に貼りついていた。子どもを抱えていた女も、横から飛び込んできたフランス人警官に押し倒され、男の子は襟首をつかまれて引き戻される。涙と埃で顔がぐちゃぐちゃになっていた。


上からもう一本の矢が射込まれ、車両のドアの縁に突き立った。


男は銃口を上げて、考えるより先に、暗くなった連絡通路の広告ライトの脇に二発叩き込んだ。闇の中の白い影が後ろへと仰け反り、手すりにぶつかり、そのまま音もなく落ちていく。


「南側に向かって歩け!」男がまた叫ぶ。「止まるな! 後ろを見るな!」


今度は、ジャックの身体もやっと動き出した。


立ち上がったとき、神父がまだ前に進もうとしている白ローブの死体を片足で踏みつけて、片手で聖書をもう一度振り下ろしているのが見えた。ドン。ドン。ドン。一撃一撃に焦りはなく、ただ、異議を許さない判決を執行しているみたいに重かった。


ジャックは片手でさっきの女を引き起こし、もう片方の手でまだ泣いている子どもを押しやりながら南へ走った。振り返る勇気はない。だが、それでも背後の音は耳に焼き付く銃声、鎖が盾面を打つ音、タイルの上を何かが引きずられる摩擦音、そして聖書が頭蓋を叩き割る、あの重くて鈍い衝撃音。


駅の職員用のメンテナンス扉の中に引きずり込まれ、鉄扉が目の前でバンと閉まったときになって、ようやくジャックは理解した。さっきホームに飛び込んできた連中は、「普通の意味での」救援部隊じゃない。


それでも確かに、人を救い出したのはあいつらだった。


---


俺たちがこの駅に降りてきたとき、デュヴァルが一番心配していたのは将棋倒しの方だった。


今となっては、そのくらい暢気でいられた自分を喜ぶべきだな。


さっき助け出したのは、これで二組目だ。一組目は改札口で詰まり、白ローブどもが目の前まで来る前に、自分たちの足で自分たちを半殺しにした。二組目が今の連中。止まった列車と半壊のホームの間に挟まれて、前には盾と槍の隊列、頭上には弓兵までいる。


最後の生存者の背中をメンテナンス扉の中へ押し込んで、俺は反転しながらマガジンを交換した。


傍らにいる軍の連絡将校顔つきが、生まれたときから一度も民間人を信用した経験がなさそうな憲兵少佐は、扉の内側に立ったまま、目の前で展開された一連の光景を、明らかにまだ咀嚼しきれていない。さっき、白ローブが盾を構えて押し上がってくるのを自分の目で見たし、その白ローブの頭をバローロ神父が分厚い聖書で石膏像みたいに砕き割るのも、同じ目で見た。


だが、今は疑っている暇がない。


ホームの反対側の連中は、まだ前進を続けている。


「お前らの普段の暴動訓練に、盾列で地下鉄ホームを封鎖するやり方なんて教わること、あったか?」俺は訊いた。


少佐は一度だけ俺を見て、何も言わない。


代わりに、デュヴァルが口を開いた。ロータリーのときより顔色が悪く、こめかみの傷はまた少し開いて、血が眉骨に沿って流れ落ちている。


「ないな」彼は言った。


「じゃあ今日は特別講義だ」


俺は扉を押し開けて外に出て、柱の陰から回り込もうとしていた白ローブの弓兵を一人、もう一発で沈めた。弾丸が顔面を貫き、白いフードが後ろへ吹っ飛ぶ。身体だけが欄干に引っかかったままぶら下がり、壊れた人型ピクトグラムみたいになった。


この駅は内側エリアの乗り換えハブの一つだ。さっき危機管理センターで市長が頷いた時点で、地下がただの避難ルートで済むはずがないのは分かっていた。人が多いだけなら交通問題だ。だが白ローブの死軍が地下ラインまで噛みついてくるとなれば、話は「どこが破られたか」じゃなくなる。この街の内臓そのものが、下から食い破られ始めているってことになる。


もっと厄介なのは、こいつらは地上にいるときより、地下にいるときの方がよほどタチが悪いってことだ。


地上なら、少なくとも空が見える。煙がどこから上がっているかも分かる。地下にはそれがない。あるのは、反響と、死んだ照明と、曲がり角と、タイル張りの柱と、車両の車体と、肺まで圧し潰してくる湿った冷たい空気だけだ。人間の視界は細切れにされ、それにつれて肝っ玉も一緒に削れていく。


俺たちが駅に入る前に、シュトゥルムシュライターはすでに地上入口に着いていた。


ヴィクトリアがその上に腰を下ろし、あの機体全体が、動く鋼鉄製の砲塔みたいになって地下鉄駅前の広場の端に陣取っている。その存在感だけで、出口付近に野次馬のつもりで近づいてきていた警官たちを、きれいに半円ぶん押し返していた。デュヴァルは、あれを下へ降ろすかと俺に訊いたが、返したのは一言だけだったエスカレーターの口ごと詰まらせたいなら、好きにしろ。


あれは地上に残してこそ意味がある。


下で頼りにできるのは、人間だけだ。


バローロ神父がホームの向こう側から戻ってきたとき、鎖の先にはまだ白ローブの布切れが一かけらぶら下がっていた。余計なことは一言も言わず、ただ連絡通路の上の方を一度見上げてから、軽く俺に頷いた。


どういう意味かは分かっている。


まだ上にもいる。


「デュヴァル。二人つけて、この一団をメンテナンス通路に押し込め。二度とホームに顔を出させるな」俺は言った。


「お前は?」


「上に行って、矢を撃ってるクソどもが何匹残ってるか見てくる」


そこでようやく、GIGNの憲兵少佐が口を開いた。フランス語に、ぎこちない英語を挟んでくる。


「我々の任務は、このジャンクションを封鎖することだ。掃討じゃない」


「じゃあ一つ目から覚えろ」俺は彼を見据えた。「ジャンクションを封じる前に、その中で誰が指揮を執ってるかを確認する」


少佐は眉をひそめ、それでも完全には否定しない。だが、すでに彼の思考は自分の手順書じゃなく、俺の投げた問いの方に寄っている。それで十分だ。


俺たちは側面の階段を上がっていった。


階段には非常灯しか残っていない。緑色の光が一段一段上へと這い上がり、そこにいる全員の顔を青白く切り刻んでいる。壁には手形がついていた。新しいものも、古いものも、汗と埃と血が混ざり合っている。上へ行くほど、矢の跡が増えていく。あの白ローブの弓兵は無差別に射ていたわけじゃない。照明を狙い、誘導標識を狙い、最初に人を避難させようとした駅員と警察官を狙っていた。一気に全員を殺そうとしているんじゃない。秩序を解体して、人間に自分で自分を踏み潰させるそれが目的だ。


そこが一番厄介なところだ。


歩き回る死人の群れなんて、怖くない。


どうすれば人間が自分で自分を踏み殺すかを理解している死人の群れそっちが本当に厄介だ。


二階のコンコースは、ホームよりさらに暗かった。


ガラスの仕切りが粉々に砕け散り、券売機の前にはいくつかの遺体が折り重なっている。乗客もいれば、駅員もいる。一番奥の監視モニターだけがまだ生きていて、画面がコマ送りのように切り替わる。映っているものの半分はノイズだが、残り半分には乗り換え通路の奥までかろうじて映し出されていた。通路の突き当たりで、白ローブの影が一列になって曲がり角を折れたところだった。盾が前、槍が後ろ、歩調は苛立つほど遅い。


「陣形を組んでやがる」俺は言った。


少佐は今度は理解した。画面を見つめる目から、軍人特有の苛立ちが消えて、別のものに変わっていく判断だ。


「散兵じゃない」少佐は低く言った。


「おめでとう、ようやく追いついたな」


少佐は俺を無視して、隣の憲兵二人に手を上げて呼び寄せ、コンコースの構造と防衛可能なポイントを確認し始めた。それでいい。現場にいる人間が「こんなのあり得ない」から「ここでどう戦うか」に切り替わった瞬間、まだ全部が終わったわけじゃない。


次の瞬間、コンコースの反対側の端から、蹄の音が響いてきた。


錯覚じゃない。


配管の振動でもない。


遠くて、でも、はっきりと聞こえる。タイルとコンクリートを踏み鳴らすリズムは、地下鉄という場所に根本的に噛み合っていない。噛み合っていないからこそ、その場の全員が最初の半秒、動きを止めた。


デュヴァルはちょうど老婦人を非常扉の中に押し込んだところで、その音を聞いた瞬間、全身が固まった。


俺は頭を上げ、コンコースから地上広場へと続く、半壊した大きなガラス扉の方を見やった。


外で炎が一瞬閃き、より高いところに立つ白い影を照らし出した。


歩兵じゃない。


馬だ。


いや、正確には干からびて筋と骨格の輪郭だけが残り、ボロボロの白布と錆びた防具を纏った馬の死骸だ。そいつは斜面の高いところに立ち、砕けたガラスと水たまりを蹄で踏みながら、息を吐くわけでも、暴れるわけでもなく、ただそこにいる。馬の背には、さらに背の高い白ローブの影が乗っていた。尖った帽子を後ろに引き、肩には灰白色の長い外套を羽織り、手には長い杖か旗竿のようなものを持っている。


突っ込んでこない。


ただ、見ている。


ガラス越しに、炎越しに、コンコースの半分死んだ照明越しに、静かに下を見下ろしている。


その眼差しは、言葉にしにくい。飢えでも怒りでもない。このジャンクション全体がどう崩れていくかを最初から知っていた者が、高い場所に立って進捗を確認しているような目だった。


俺の隣の少佐は、ついに一言も発しなくなった。


あいつも見えたからだ。


あれは屍変じゃない。


あれは指揮官だ。


次の瞬間、その背後から矢が一本射込まれ、コンコースに残っていた最後の点灯中の誘導灯を砕いた。ホール全体がもう一段暗くなる。デュヴァルの隣にいた警察官が反射的に銃を持ち上げてガラスに向けた。俺は即座にその銃口を押さえた。


「ガラスに向けて撃つな」俺は低く唸った。「あいつはお前にそうさせたいんだ」


バローロ神父が俺の右側から前へ出た。鎖を引きずり、一歩も急がない。ガラスの数メートル手前で立ち止まり、外の騎馬白ローブを見上げながら、口の中で低く経文を唱え始めた。挑発でも、呪詛でもない。ようやく姿を見せた被告を前に、その罪状を読み上げ始めているような、そういう声だった。


外のあいつは応じなかった。


炎の中に一秒だけ座り、それからゆっくりと馬首を返して、斜面の上の闇の中へ消えていった。


遠ざかっていく蹄の音だけを残して。


コンコースの全員が二秒間、黙った。


二秒で十分だった。


「特殊な暴力事件」という言葉でまだ自分を誤魔化せていた軍の連絡将校が、その四文字を完全に飲み込むには。


「生存者を先に撤退させろ」俺は言った。「下の盾矛隊と正面からやり合うな。二階コンコースとメンテナンス扉を封鎖して、下層への通路を二分割しろ。奴らが押し上がってくるなら、代償を払わせながら上がらせろ」


少佐は今度は反論しなかった。


「何が必要だ?」


「土嚢、スチール製バリケード、散弾銃、照明弾、それとエスカレーターを完全停止させられる技術者だ」俺は少佐を見た。「あと、上に報告しろ。地下鉄の中にいるのは歩行死体だけじゃない。兵種が分化していて、騎馬の指揮官ユニットまでいる。暴動でも突発的な屍変でもない。これは編制された軍だ」


少佐は半秒だけ俺を見て、頷いた。


それで十分だ。


デュヴァルが最後の生存者をメンテナンス通路に押し込んでから振り返ったとき、その顔にはもう「お前は一体何者だ」という表情はなかった。残っているのは、もっと実際的なもの今この階層で誰の指示に従うべきか、という判断だけだった。


「東向きホームに、まだ停車中の列車が一本ある」デュヴァルは言った。「車内にまだ人がいるかもしれない」


俺はコンコースの案内図を一度見て、完全に暗くなった連絡通路をもう一度見た。


「分かった」俺は言った。


バローロ神父は視線を戻し、鎖を一巻き一巻き右手に巻き取った。聖書の角には、黒ずんだ骨片と肉の滓がまだこびりついている。もう一度下りるかどうかなんて訊かず、ただ平坦に一言だけ言った。


「下はまだ終わっていません」


「分かってる」


俺は新しいマガジンを叩き込んで、東向きホームへ続く階段口を見上げた。


そこは、誰かがわざとこの街の肺を一塊くり抜いて、地底に詰め込んだみたいな暗さだった。


地上では、マルセイユがまだ崩れ続けている。


地下では、奴らがすでに軍列を組み始めていた。


銃を提げて階段へ向かいながら、外の斜面からまた遠く蹄の音が届いた。今度は、俺だけじゃない。


コンコースにいた全員が聞いた。


今夜のことを「事故」だと思っている人間は、もう一人もいなかった。


そして俺にも、ようやく一つのことが確信に変わった


この街が屍の群れに内側から押されているだけじゃない。


地上から地下まで、一層一層、一つの軍隊に接収されつつある。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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