150.マルセイユの夜 3
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
K7がロータリーを離れると、通りの現実が一片一片、俺の目の中へ突き刺さってくる。
高速で戦場に切り込んでいるときは見えないものも、救助を終えて次の場所へ向かうときには、かえって全体がよく見えるものだ。
最初の交差点で、三台の車が横向きにぶつかり合って止まっていた。運転手は全員逃げていて、助手席には子どものぬいぐるみが頭を下にしてシートベルトに挟まれ、風が吹くたびに窓ガラスにコツコツ当たっていた。
二つ目の角では、小さなカフェのシャッターが半分開き、中の椅子は倒れ、テーブルの上には出されたばかりの皿が残っていた。パンが赤ワインと砕けたガラスの中に沈み、照明は点いているのに、人は一人もいなかった。入口には靴が二足、大きいのと小さいの。靴紐が絡まったままで、持ち主は走り出すときに結び直す暇もなかったのだろう。
三本目の通りは広く、普段なら車で埋まっている幹線道路のはずだった。今は道路全体が駐車場になっていた。車を道の真ん中に放り出し、スーツケースを引きずって横道へ逃げる人間。車内でひたすらクラクションを押し続けている人間。自分が十分怒れば、世界がまた交通ルールどおりに動き出すとでも思っているかのような顔で。そして一番多いのは、出口を失った蠅のように流れ回る人々だ。前方で誰かが悲鳴を上げると、人の波全体が自動的に向きを変え、別の方向へ押し寄せる。
消防車がようやく入ってきたが、避難車両の流れに半分で詰まっていた。乗員が降りてきても、火を消しに行くのではなく、まず道路上の車を押し退けていた。これが大都市の災害で一番醜い光景だ。システムは一声で止まるんじゃない。各段階が、その一つ前の段階の死体によって詰まっていく。
バローロ神父の運転は冷酷なほど安定していた。前がどれだけ乱れていても、デュヴァルの警察車が動ける限り、K7も動ける。時折、放棄された車が道を完全に塞ぐと、神父はK7を歩道側へ乗り上げさせ、タイヤで倒れた看板やゴミ箱を踏み潰した。窓の外で車体を叩く者、助けを求める者、シュトゥルムシュライターや神父の鎖を見て退く者がいた。
俺はそれら一つ一つに反応はしなかった。
冷血だからじゃない。現場が大きすぎるからだ。数百万人の災害の中で、一人一人の表情に反応していたら、本当に下すべき決断ができなくなる。
無線はまだ鳴っていた。
今度は警察用と市政バックアップの二つのチャンネルが開いていた。
市政チャンネルの方が混乱していて、リアルだった。警察にはまだコードやコールサインがあるが、市政は各区の下請け、清掃隊、交通管制、救急拠点、地下施設当直、学校の警備員、港湾配車担当本来同じチャンネルに同時にいるべきじゃない人たちが今は全員押し寄せ、誰かに自分のエリアの問題を拾ってほしいと叫んでいた。
「南二トンネルの排煙が機能していない、中の車がエンスト、大勢が降りている!」
「第三小学校の体育館が満員、外にまだ二百人以上が待っている!」
「配電盤が破壊された、人為か衝突か不明!」
「鐘楼の中にいる、ここには誰もいない、鐘が勝手に動いている!聞こえているか?鐘が」
音が突然途切れた。
通話終了の切れ方じゃない。ひどく雑で、まるで線を無理やり切断されたような消え方だった。
俺は窓の外から視線を戻した。
「ルシア。」俺は口を開いた。
イヤホンの向こうで半秒止まってから、彼女の声が返ってきた。「いる。」
向こうの背景音も乱れていた。画面と信号源を複数同時に開いている音だ。今この女が通信端にいる方が、現場へ入るよりもずっと価値がある。局面はもう、一丁銃が増えたくらいでは解決しない。
「結論だけくれ。」俺は言った。「細部じゃない。今の形だ。」
彼女は二秒黙った。情報を並べ直していたのだろう。
「マルセイユは単一方向から圧されているんじゃない、複数ポイントが同時に悪化してる。」彼女は速く、しかし乱れずに言った。「白袍死軍の主軸は北と北西から市内へ押し込んでいる。港区と一部教会エリアは事前配置の疑いあり。君たちが今入ったのは外周の接触点で、核心じゃない。消防、医療、交通、地下施設が互いに足を引っ張りあい、市民通信は既に逆流し始めている。誤った映像と救助要請が同時に拡散中。このまま統一指揮が『暴動ではなく超常的な侵攻だ』と認めないなら、十五〜二十分で都市が自壊する。」
俺は椅背に身を預け、息を吐いた。
「軍は?」
「いるが、まだ上位確認待ち。」
「教会は?」
「二本のライン。一つは完全沈黙、もう一つはバローロ神父を探してる。」
俺は横目で神父を見た。
彼は前だけを見て、指がハンドルの上を一度だけ軽く叩いた。何かを記憶したみたいに。
「見つかったと伝えろ。」俺は言った。「今は返事できない。」
ルシアが短く「ん」と応じた。
「それと、」彼女が付け加えた。「映像があるわ。」
「何の映像だ?」
「市政の予備システムといくつかまだ生きている監視カメラを繋いだもの。ひどい映像よ。」
「取っておけ。」俺は言った。「指揮センターで見せろ。」
こういうとき、まだ手順を死守している部屋を説得するには口だけじゃ足りない。自分の目で見せるしかない。
デュヴァルのパトカーが少し狭い通りへと入った。ここは元々古い区画で、建物の間隔は狭く、窓が多く、街灯は暖色。普段なら観光客が「情緒がある」と言いそうな一角だ。今は窓一つ一つが別種の危険に見える。上階で誰かが叫び、荷物が投げられ、バルコニーでスマホを向けて通りの端の白帽の列を撮り、最後に自分で泣き出す者もいる。
アーケードの下で、六、七歳の子どもを抱えた男が立っていた。手にはスーパーの買い物袋。袋が破れてオレンジが二つ転がり出て、地面で跳ね返っていた。
彼は車を止めず、ただ呆然と立ち尽くしていた。デュヴァルのパトカー、K7を見比べて、どちらが答えに近いか測っているようだった。
もちろん、どちらも答えじゃない。
デュヴァルの車が前で急ブレーキをかけた。
俺は顔を上げた。通りの先がまた詰まっていた。
今度は車じゃない。人だ。
横の通りから群衆が雪崩のように飛び込んできた。看護師服、反射ベスト、パジャマ、スーツ。誰かは未開封の水やファイルケースを掴んだまま。最初はただ避難しようとしただけだったのに、走るうちに後ろに何かがいることに気づいたみたいだ。
実際、いた。
二体の白袍が路地から出てきた。速くはないが、確実だった。血も怒号もない。ただ淡々と前に進み続ける自分たちが歩くだけで、生きた人間はいずれ自滅することを知っているかのように。
人波が押し合い、すぐに誰かが転倒した。
こういう場面こそ一番崩れる。怪物が強いからじゃない。人が多すぎると、互いが互いの障害物になるからだ。
俺はドアを開けて車を降りた。
二発撃ち、膝、顎。あいつらのリズムを崩した。
「立て!踏むな!」英語で叫ぶ。言葉が通じるかどうかは別。だがこういう時、人間の声の最大の意味は、パニックの連鎖を断ち切ることだ。誰かが十分に強く叫べば、頭が動いている者が反応する。
案の定、救急ベストの男が二人、転んだ人間を両脇へ引きずり始めた。
デュヴァルも警官二人を連れて駆けてきた。今度は胸を撃たず、銃口は低く構えていた。弾が一体の白袍の脚を撃ち砕き、バローロ神父の投げた鎖がもう一体の首を巻いて壁に引きずった。
神父が歩み寄った。急がず、焦らず。一方でそいつを引き下げ、もう片方で聖書を顔面に叩き込む。
一発。壁に黒い灰と乾いた肉片。
二発。顔が完全に凹む。
三発。頭が歪み、皮だけでぶら下がっている。
経文の声は平坦で、上訴を許さない結論を確認しているみたいだった。
周囲の群衆は呆然と立ち尽くし、走ることも忘れていた。
俺は最後の一体を片付けてからデュヴァルに言った。「案内しろ。通りで同じことを二度やる余裕はない。これ以上遅れれば、ライン全体が詰まる。」
彼の答えは速かった。「この先二つ目の角を左、地下の車道に入る。」
「よし。」
俺たちは車に乗り込んだ。さっき路地から逃げてきた人たちが道端に立ち、同じ目で俺たちを見送っていた。それはヒーローへの希望じゃない。むしろ「自分の知っている世界は自動的に修復されない」と初めて気づいた人間の目だ。
こういう目は、何度も見てきた。
市庁舎外縁は、俺が思っていたよりもさらに混乱していた。
混乱してるのは前の広場じゃない。内側がヤバいんだ。
外の封鎖線はまだかろうじて形を保っていた。パトカーが斜めに停まり、バリケードが半分引かれ、憲兵たちの立ち位置もそれなりに整っている。だが致命的なのは、全員がバラバラの方向を見ていることだ。街角を睨む者、空を見上げる者、スマホを凝視する者、無線機に耳を傾ける者。これは受け取っている情報量が処理限界を超えて、注意力がズタズタに引き裂かれ始めている証拠だ。
デュヴァルの車がライトを点けると、第一封鎖線はあっさり開いた。
第二封鎖線では止められそうになったが、近づいてきてうちのK7のフロントバンパーが半分潰れ、車体にさっきの灰黒い破片がこびりついているのを見るなり、形ばかりの質問を二つ三つして道を開けた。
本当の入口は地下にある。
スロープの入口には政府車両、救急車、軍用通信車が押し込まれるように停まっていて、本来なら上の階にいるべき幕僚タイプの連中が何人か、スーツのボタンを外し、ネクタイを緩め、ファイルとノートパソコンを抱えて入口付近をうろついていた。下に行ったら戻ってこられないと怯えているくせに、行かないわけにもいかないと分かっているそんな顔だった。
バローロ神父がK7を斜めの位置にねじ込んだ時、俺は下がろくな匂いじゃないと確信した。
地下空間の最大の問題は湿気なんかじゃない。人が多すぎて圧力が高すぎると、空気が薄まって、誰もが半分しか息を吸えていないような状態になることだ。
案の定、車を降りた瞬間、その臭いが一気にせり上がってきた。
汗、コーヒー、熱を持った配線、湿ったコンクリート、血、消毒液、安物の香水。そして俺がよく知っているもう一つの臭いパニックに陥った人間が処理しきれなかった排泄物の臭いだ。
誰も認めたがらないが、大規模災害の発生直後、最初の二時間において、この臭いはたいてい最も正直な指標の一つになる。システムより先に、身体の方が「これはおかしい」と理解するからだ。
---
入口まで歩いていくと、スーツを着て胸に臨時証明書をぶら下げた男が近づいてきた。明らかにデュヴァルに話しかけるつもりだったが、視線が俺と神父に触れ、神父の手にあるまだ何かがこびりついた聖書に移った瞬間、半歩止まった。
「彼らは?」男はデュヴァルに訊いた。
「さっき北外環で俺を助けてくれた人たちだ」デュヴァルは淡々と言った。「そして現在、あの化け物どもを止められる数少ない人間の一部でもある」
男は俺と神父を見て、目に明らかな拒絶を浮かべた。俺個人への敵意じゃない。官僚組織の人間が、編制外の答えを本能的に排除しようとする、あの反射だ。
「市長は中で会議中だ」男が言った。
「ちょうどいい」俺は言った。「また探し回る手間が省ける」
男は拒否しようとしたが、その時無線機から怒声が爆発した。彼は二秒だけ迷って、身を引いて道を開けた。
「こちらです」
---
地下指揮センターは想像以上に広かった。
空間が贅沢なわけじゃない。もともと複数部門の合同展開を想定して設計されているんだ。壁には各区の地図や配線図がびっしり貼られ、臨時で引いてきた長テーブルの上にはモニターが並んでいる。奥には大型ディスプレイウォールがあって、普段なら交通流量や気象、大型イベントの監視なんかに使っているんだろう。今夜は、全部のスクリーンが血を流していた。
中に入って最初に感じたのは、忙しいじゃない。
うるさいだ。
その次が混沌。
各セクションがそれぞれ自分たちの問題を喋り続けている。警察、憲兵、消防、医療、交通、市政、港湾、電力、教会連絡官全員が同じ空間で自分たちの専門用語を維持し続けた結果、誰も本当に同じことを話していない。
これは災害対応が死ぬときの典型的なパターンの一つだ。
誰もサボっているわけじゃない。
全員が何かしている。だが、事態が実際に何に変わったのか、誰も先に認めようとしない。
---
部屋の中央で、白髪交じりの濃い色のスーツを着た男が、テーブルに両手をついて区域図に向かって話していた。顔色は悪く、目の下には深い影があるが、声にはまだ張りが残っている。こういう人間は一目で分かる。飾り物の行政タイプじゃない。今夜までは会議を仕切るのも、場を制圧するのも得意だったはずだ。ただ、外の状況がすでに、彼のこれまでの危機演習のスケールを超え始めているだけだ。
あれが市長だろう。
その脇には軍警系統らしき連中が何人か。憲兵の大佐、警察総監らしき人物、消防系の老人、それと二人の幕僚が交互に資料を手元に運んでいる。全員の顔に典型的な災害初期の表情が張り付いていた深刻なことを先に言いたくないが、事態は自分の口が許せるラインより悪いと理解している、あの顔だ。
俺たちみたいな人間が入ってくると、空気は勝手に変わる。
俺たちに威圧感があるからじゃない。手順を維持しようとしている人間全員が、「この部屋に属していないもの」を本能的に感知するからだ。
案の定、ドア近くの数人がまず止まり、次にテーブル周りの半円が止まり、最後に市長も振り向いた。
視線がまずデュヴァルの顔に落ち、次に俺に移り、最後にバローロ神父の手の聖書と鉄鎖に止まった。
「どういうことですか」市長が言った。
詰問じゃない。まだわずかに最後の制御を保とうとしている声だった。
デュヴァルが口を開く前に、俺が先に言った。
「今夜の事態を、そろそろ暴動ってラベルから降ろす時が来たってことですよ」
部屋全体が静まり返った。
何人かの顔に即座に不快感が浮かんだ。特にあの警察総監らしき男目が一気に硬くなった。体制内の意見しか受け付けないことに慣れきった連中が、どこの馬の骨とも知れないアジア人の男が、どの部署にも属さない道具を提げて乗り込んできて、開口一番に今の一番脆い説明を踏みにじられたんだ。耳障りなのは当然だ。
「あなたは誰ですか」男が言った。
「さっき北外環であんたらの封鎖線を一つ拾い直してやった人間だ」俺は言った。
デュヴァルがそこに肉付けをした。誇張はせず、ロータリーでの状況をそのまま説明した。通常射撃が白衣の干からびた連中にほとんど効かないこと、神父の近接処刑、俺が死神の大鎌で前衛部隊を切り裂いたこと。話し終わる頃には、「話を盛ってるんじゃないか」という顔をしている人間は一人もいなかった。
外の無線がずっと、その証人を務めてくれていたからだ。
---
市長は俺を見た。目の中の警戒が、ゆっくり別のものに変わっていく。信頼じゃない。今は疑うことに時間を浪費しないという判断だ。
この手の判断力は高く評価できる。
「あなたは現状を何だと見ている」市長が訊いた。
「超常侵攻です」俺は言った。「突発的なアウトブレイクじゃない。事前配置あり、誇示意図あり、ペース配分まで計算された侵攻だ」
「誇示意図とは?」
「奴らは人を殺すことだけが目的じゃない」俺は言った。「あんたらの警察、消防、医療、交通、市民、教会、港湾が、互いに崩れていくのを目の前で見ながら、一層ずつ機能不全に追い込まれるように仕掛けてる。そうすれば明日、生き残った人間がいたとしても、この街の半分は先に恐怖に食い殺される」
ずっと黙っていた憲兵大佐が、そこで初めて口を挟んだ。
「局地的な屍体化と街頭パニックの複合ではないと、なぜ言い切れる?」
俺は一瞥した。
「局地的な屍体化なら、隊列なんて組まない」
「局地的な屍体化なら、宗教装具で統一されたりはしない」
「局地的な屍体化なら、地下施設と港湾と教会を多点同時で押さえにこない」
「局地的な屍体化なら、熱源のない連中が行軍速度で市街地に向かって押し寄せてこない」
一言ごとに、部屋の中の反論が一つずつ消えていった。
俺の口がうまいからじゃない。外から転がり込んでくるバラバラの情報が、もともと最初からこの形に向かって積み重なってきていた。それを、誰もまだ、最初の一人として声に出したくなかっただけだ。
---
ここでようやく、バローロ神父が口を開いた。
誰の顔も見ず、ただその聖書をテーブルの上に置いて、議論の余地がない事実を読み上げるような、平坦な声で言った。
「彼らは患者でも暴徒でもありません」神父は言った。「すでに、あなた方が知っている処置の範囲を越えています。これ以上治安維持の手順で対処すれば、手順の中で死ぬ生者が増えるだけです」
何人かが反射的に彼の手の血汚れに目をやって、すぐに視線を逸らした。
市長は深く息を吸った。
「分かりました」市長は言った。「では、全体像を見せてください」
俺が予想していたより、ずっと潔い一言だった。
まあいい。
ルシアはタイミングを見計らっていたかのように、インカムから彼女の声が響いた。「いけるわよ」
俺は頭を上げて、あの巨大なディスプレイウォールを見やった。
「生きてるカメラを全部出してくれ」俺は言った。
さっきまで俺と神父を露骨に煙たがっていた幕僚タイプの男が一瞬固まって、まず市長を見る。市長が頷くと、ようやく操作卓に向かった。
次の瞬間、巨大スクリーン全体が一斉に灯った。
各所に散らばっていた小さな映像が再編成され、部屋全体が静まり返った。
この瞬間まで、全員が初めて同時に「マルセイユ全体」を目の当たりにしたからだ。
地図上の区画でも、報告書の数字でも、各部署が握っている断片的な制御不能でもない。街まるごとだ。
北側の高架道路長い車列が完全に詰まって、ヘッドライトが腐りきった川のように連なっている。その車列の間を、白衣の隊列が廃棄されたランプからゆっくりと切り込んでくる。速度は速くない。だが止まらない。車を降りて走る者、車の屋根の上で手を振る者、カメラには人波に押し倒されて二度と立ち上がれない人間の姿まではっきりと映っていた。
東区の地下鉄入口鉄格子は半開きで、階段は外へなだれ出ようとする人々で埋め尽くされている。下からは照明が点滅し、時折、人波に逆らって上へ向かう白いフードを照らし出す。奴らは追わない。ただ上がってくるだけだ。追わないからこそ、その光景全体がなおさら悪夢じみて見えた。
港湾エリはもっと酷い。コンテナヤードは本来なら整然としたブロックとラインで構成されているはずが、今はいくつかの区画が完全にブラックアウトし、生き残っている監視カメラはわずかしかない。映像の中では、白衣の隊列がコンテナの間を定規で引いたような真っ直ぐな白線となって進んでいる。あらかじめ選ばれたルートに沿って奥へと押し進む、あの速度と角度は、地形を知り尽くした者にしか取れない動きだ。偶然迷い込んだものじゃない。
別の分割画面では、教会の鐘楼が揺れていた。
風に吹かれているわけじゃない。鐘が自ら動いているのだ。
鐘を鳴らしている人間の姿はどこにも見えない。それでも鐘は一打また一打、歪んだ音をマイク越しに地下指揮センター全体に響かせていた。その音が鳴るたび、部屋の中の何人かの顔色がさらに悪くなった。ようやく理解したからだこれはどこかの火事騒ぎなんかじゃない。この街で秩序を象徴する拠点が、相手の拡声器として使われているのだと。
ど真ん中の画面は、サーモグラフィーだった。
長い大通りの両脇を、人体の熱源が赤と黄色にめちゃくちゃに散らばっている。その真ん中だけ、ゆっくりと前進する一つの隊列が、きれいに、完全に、一滴の熱も発していなかった。
想像の余地なんてない。
証拠だ。
部屋の中でしばらく誰も口を開かなかった。
言葉がないわけじゃない。日常の思考を支えてきた言語が、一度全部死に絶えなければならなかったからだ。
警察総監の指がテーブルの縁にめり込むように食い込んで、関節が白くなっているのが見えた。消防の老人は一気に十歳老けたように、病院外周の画面を凝視したまま、口の中で何か低く罵っていた。憲兵大佐は全員の中で一番表情が少なかったが、それでもあの隊列前進の画面を見た瞬間、目が明らかに細くなった。もはや警察問題じゃない、戦術問題だと分かったからだ。
市長はそこに立ったまま、丸々五秒、口を開かなかった。
五秒は短い。
だが、全市の物語をコントロールしようとしている人間にとっては、十分長かった。
最後に彼はテーブルに手を押し当て、大きくはない声でそれでも初めて別の言葉を使った。
「これは暴動ではない」市長は言った。
誰も続けなかった。だがその一言が出た瞬間、部屋全体の空気が変わった。
災害の中で最も重要な一歩は、たいてい解決策じゃない。認めることだ。
自分が向き合っているものが普通じゃないと認めること。今まで使っていた言葉ではもう足りないと認めること。レベルを上げなければ、死ぬのはこの街全体だと認めること。
俺はジャケットのポケットに手を突っ込んで、テーブルの縁に寄りかかり、大スクリーンに映る悪化し続ける映像を一枚ずつ眺めた。
「じゃあ」俺は言った。「ようやく本題に入れるな」
市長がゆっくり振り向いて、俺を見た。
「話せ」
俺は北側高架と港湾区の二画面を指した。
「一つ目。警察力を、秩序崩壊を遅らせるだけの栓として使うのはやめろ。そのやり方じゃ、第一陣でお前らの部下が犬死にするだけだ。今すぐ動ける武装部隊を再編して、各交差点の死守から、遮断・誘導・退避拠点の保護に切り替えろ」
次に地下鉄と教会の画面を指した。
「二つ目。地下施設と宗教的ランドマークは分けて考えろ。地下施設は人流と避難圧力の問題だ。だが教会や鐘楼みたいな場所は、相手が心理戦のノードとして意図的に選んでいる可能性が高い。同じ問題として扱うな」
続いて病院と収容拠点の画面。
「三つ目。医療拠点を、市民が自分でおとなしく並ぶと思い込んでるような場所に設けるな。今必要なのは、守れて、出入口を管理できて、重装備で進退できる臨時集結拠点だ。見栄えと利便性なんてものは、今はドブに捨てろ」
俺は一拍置いて、市長を見た。
「四つ目。対外発信を変えろ。このまま市民に局地的な暴力事件だと思わせ続けたら、連中が自分で交通と収容システムを踏み潰す。全部の真実を言う必要はない。だが今すぐ認めろ複数区域での同時超常脅威、地下施設への接近禁止、自家用車での避難回避、近隣の指定高封鎖建物への退避」
幕僚タイプの男が本能的に反論しようとした。「それを公表すれば、パニックが」
「パニックはもう外で始まってる」俺は遮った。「今お前らが選べるのは、パニックを起こすかどうかじゃない。パニックを勝手に増殖させるか、それとも方向を与えてやるかだ」
その言葉が終わると、部屋がまた静まり返った。
バローロ神父が横で一言付け加えた。声は相変わらず、法廷の木槌が打ち下ろされるように平坦だった。
「もう一点」神父は言った。「教会を、当然の安全地帯として扱うのをやめてください。今夜は違います」
この一言が一番えげつない。
多くの人間が本能的に逃げ込もうとする場所を、安全リストから直接消し去ったからだ。
だが、それが正しかった。
大スクリーンの一画面鐘楼の映像が突然ブラックアウトした。
ゆっくり途切れたんじゃない。何かがカメラの前に立ったかのように。最後の一コマに映ったのは、ただ一面の白だった。
地下指揮センターの中で、誰かが息を呑んだ。
俺はその暗転した画面を見つめたまま、視線を動かさなかった。
白衣の死軍は闇雲に押しているわけじゃない。奴らは自分が見られていることを知っていて、どう見せるかも分かっている。
この進軍は最初から最後まで、街全体に見せつけるためのものだった。
---
市長がようやくテーブルから手を離して、チームの方を向いた。
「彼の言う通りにしろ」市長は言った。「レベルを上げろ。今すぐだ」
警察総監が最初に頷いた。完全に納得したわけじゃない。従わないことに意味がなくなったと分かったからだ。憲兵大佐はそのまま通信席へ歩いていった。消防の老人はテーブルの角に手をついて自分を立て直すように一息ついてから、医療集結拠点の再設置可能なリストを読み上げ始めた。
部屋全体が一気に、焦点の合っていない混乱から、もっと冷たい種類の忙しさへと切り替わった。
忙しいからといって勝てるとは限らない。だが少なくとも、正しい問いで考え始めたことを意味していた。
---
俺はそこに立って、大スクリーンのマルセイユを眺めた。
どの画面も、ろくなもんじゃない。
高架は詰まり、地下鉄は人を吐き出し、港湾区は闇に侵食され、鐘楼は独りで鳴り続け、白衣の隊列は疲れを知らない病のように、体裁を保とうとしていたこの街に一本また一本と切り込んでいく。遠景の監視カメラには、いくつかの街区の間で次々と上がる火の手まで映っていた。まるで誰かが真っ赤に焼けた針を持って、都市の皮膚の下に一本一本突き刺しているような光景だった。
俺はその時、ロータリーでのあの小競り合いなんて本当に些細なことだったんだと、はっきり悟った。
あれは、この街が自分の目で初めて、自分が負けつつあることを見た瞬間に過ぎない。
---
ルシアの声が、もう一度インカムから響いた。さっきより低かった。
「周士達」
「言え」
「新しい隊列が入ってきた」
俺は頭を上げて、大スクリーン右上に新たに映し出された画面を見た。
臨海大通りの突き当たりまた一本の白い線。
乱れた奔流じゃない。整然と前進している。
俺は短く「ああ」と答えて、それ以上は何も言わなかった。
これ以上何か言っても、無意味だからだ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




