149.マルセイユ事変 3
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
俺たちがフランス側からの第二波の明確な対応引き上げ報告を受けたとき、K7はもうフランス南部の区間に切り込もうとしていた。
今回ルシアは音声メッセージを送ってこなかった。直接電話してきた。
通話を取ると、俺が口を開く前に彼女の第一声が来た。
「マルセイユが崩れ始めた。」
俺は前方の公路を見ながら、軽く返した。「その言葉はデカすぎる。中身があるなら言え。」
「ある。」彼女は言う。「フランスの地方警務が前列の白袍に非正常個体の存在を確認した。最初の路障での接触後、分類が崩壊。中央は高レベルの非常規対応を起動するかどうかを議論中。でも一番の問題はそこじゃない。」
「じゃあ何だ?」
「街自体が拡散し始めた。」ルシアは言う。「ネット、地方メディア、現場映像、警官の非公式報告が全部走ってる。公式の説明が現場の目撃に追いつかない。」
俺は少し笑った。
「上等だ。C.A.L.F.(カルフ)が欲しかったのはまさにそれだ。」
「分かってる。」彼女の声がさらに低くなった。「それと、工業地区の活口からもう一件補足情報が取れた。先行白袍隊は単純な前導じゃない。『扉を開ける』役割も担っている。」
「どんな扉だ?」
「地理的なものなのか、あなたたちの宗教的な文脈の中の扉なのか、それは分からない。活口の供述が不完全で、マルセイユは終点じゃない、『街に先に見させる』場所だとしか言っていない。」
それを聞いた瞬間、こめかみがピクッとした。
こういう言い回しが一番厄介だ。
意味が分からないんじゃない。それが宗教的な狂言なのか、半具体半象徴の実行語なのか、すぐに判断できないからだ。
「ハビエルに掘り続けさせろ。」俺は言う。「俺たちは二、三時間でマルセイユに入る。神父も車にいる。ヴァチカン側からフランスの納骨庫、十字軍遺骸、南門の象徴、旧港の修道院に関係する対応情報があれば、全部吐き出させろ。」
「もう追い込んでる。」
俺は横目でバローロ神父を見た。
神父はちょうど聞いていた。振り返らず、冷たく一言だけ言った。
「追い込んでいるんじゃない。精査している。」
「そうだな、精査だ。」俺は適当に合わせてから、ルシアに続ける。「それと、マルセイユの市長側に繋げるラインがあれば俺に回せ。フランス中央が今どれだけ官僚語を愛していようと関係ない。地方が完全な上位承認を待ち続けるつもりなら、C.A.L.F.の入城式を自分たちで仕切る羽目になる。」
ルシアが少し間を置いた。
「フランスの地方行政と直接話すつもり?」
「誰を信じるか決めかねているなら、証拠箱を持って、スペインの地下白袍倉庫から這い出てきたばかりの東洋人を先に信じさせればいい。」俺は言う。「どうせこれ以上荒唐無稽にはならない。」
ルシアが今度は本当に笑った。
短く、でも本物の笑いだった。
「了解。手配する。」
電話が切れると、車内がまた静かになった。
この静けさは話すことがないんじゃない。全員が、これから向かう街を頭の中に収めようとしている。地図の上のマルセイユじゃない。観光ガイドに載っている陽光と港と熱狂的なサポーターと海鮮と旧市街の城壁でもない。「先に見て、それから理解する」ことを強いられている街だ。
俺は椅背に身を預け、低く言った。
「フランスはまず線を辿るつもりだったのに、いつの間にか街を救う話になってる。」
林雨瞳が目を上げて俺を一瞥した。
「どっちが好き?」
俺は少し考えた。
「正直に言えば、どっちも好きじゃない。」俺は言う。「でも少なくとも街を救う方が、線を辿るよりは意味がある。」
バローロ神父が言った。
「間に合わなければ、救うんじゃない。遺体を片付けることになる。」
俺は振り返って神父を見た。
「神父、こういうときに限って口が冴えてるな。」
「議論する時間じゃないからだ。」彼は前を見たまま、声が乾いたように硬い。「裁決する時間だ。」
そうだ。
その通りだ。
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マルセイユ、七時四十分。
街はまだ完全には爆発していなかった。
でも、震え始めていた。
ヴュー・ポール付近のカフェは普通にテーブルを並べていた。ある短い動画が十五分以内に数千回シェアされるまでは。映像の中で、白袍の一体が肩口に銃弾を受けても前進し続け、布が捲れた瞬間に露出したのは血と肉ではなく、乾いた黒い骨格と、古い皮のように硬化した胴体だった。
映像は短かった。短すぎて、最初に見た多くの人間はCGじゃないかと疑った。
だが第二の角度、第三の角度、第四の角度がすぐに補われた。
偽物は多角度に弱い。
本物の災害は弱くない。
そして街全体に、細かいが決定的な変化が現れ始めた。
スーパーで朝食だけでなく、ペットボトルの水、缶詰、薬を多めに手に取る人間が出始めた。
ガソリンスタンドに短い列ができ始めた。
地下鉄の電光掲示板はまだ通常の時刻表を流しているのに、乗客は全員スマホを見下ろしていた。
学校の前で子どもを送ろうとしていた保護者が互いに聞き始めた。「あなたはまだ入れる?」
病院の管理ラインには衛生部門からの通常警戒通知が届き、五分後に警務部門からの曖昧な通知が届き、さらに十分後にようやく本当に重みのある一言が届いた。
大量の異常外傷および集団パニックの受け入れ準備をせよ。
港務局はもっと直接的だった。
最初は陸上の騒ぎで港には関係ないと思っていた。だが北側道路のリアルタイム空撮を引っ張り上げて、あの白い行列がどの方向から圧し進んでいるかを見た瞬間、調度室全体が落ち着かなくなった。
その方向は、街へ向かうだけではなかった。
コンテナ区、コールドチェーン倉庫、旧埠頭、乗り換え匝道へも向かっていた。
港というのはそういう場所だ。秩序が一度崩れれば、死人の軍団は要らない。大型トラックが十数台横になるだけで、ライン全体が詰まる。
七時五十二分、市長の危機センターでついに最初の明確な分裂が起きた。
一方は、中央からの正式な高レベル承認を待たずに、より高い避難指示と交通規制を即刻発令すべきだと主張した。先にパニックを引き起こしてでも、市民を北線と港区から引き離すべきだと。もう一方は、中央がまだ正式な上位承認を出していない段階で過激な言葉を使えば、街の社会面を先に爆発させると主張した。特に「死人が歩く」という話が先に流れ出たら、収拾がつかなくなると。
市長は五分間聞いてから、最後に一つだけ聞いた。
「今、北にいるあれが二時間以内に市民の視野に入らないと保証できる者はいるか?」
誰も保証できなかった。
彼は手に持っていたペンを机に叩きつけた。
「だったら『パニックを避ける』を言い訳にするのはやめろ。」彼は言った。「まず命を守れ、それから物語を守れ。」
この一言が出た瞬間、危機センター全体の空気が変わった。
もう通常の都市行政の言葉遊びで引き延ばせる状況じゃないと、全員が理解していたからだ。この瞬間から、彼らが下すすべての決断は、行政ではなく賭けになる。どちらの混乱の方が、より多くの人間を生かせるかという賭けだ。
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八時五分、マルセイユ北側外環。
最初の本格的な群衆の逃走が始まった。
全面的な崩壊にはまだ至っていない。でも局所的な路線ではすでに車の流れが逆方向に積み上がっていた。警察の呼びかけを信じず、自分の目を信じた人間がいた。何も見えていないのに、前の車が向きを変えたからつられて一緒に変えた人間もいた。そしてスマホで友人から一言届いた人間もいた。
止まって見るな、後ろにはもっといる。
この一言は効いた。
人間が一番恐れるのは、往々にして目の前の一列じゃない。「後ろにはもっといる」という想像だ。
同じ頃、北側道路の第二の臨時封鎖線も後退を始めた。
潰走じゃない。位置の強制調整だ。前方の白袍隊列の前進速度が予測より安定していて、さらにその後方、熱源異常の広範囲低温群が、ようやくより鮮明に見え始めた。
望遠鏡の中に映っているのは、単純にさらに多くの白袍じゃない。
もっと高く、もっと硬直していて、もっと生きた人間に見えないものだった。
誰かが無線で一言言った。
「騎士みたいだ。」
別の誰かがすぐ返した。
「そういうことは言うな。」
でも無駄だった。
一度誰かが正確な比喩を口にしてしまえば、他の人間はもう元の安全な言葉に戻れない。
騎士。
乾いた騎士。
白袍の騎士。
死人の騎士。
その名前は、現場にいる人間の頭の中で勝手に育ち始めた。
そして名前が育つと、恐怖も形を持ち始める。
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マルセイユまで最後の一区間というところで、空はもう完全に明けていた。
K7の窓の外に、フランス南部らしい乾いた光が広がり始めた。道路の両脇に、ぶどう畑、低い丘、工業地帯、街へ向かう大きな道路標識が流れていく。表面上は、何もかもがまだ普通の南フランスの朝だった。
でも車内に届く情報は一件ごとに、前方の「普通」が剥がれ落ちていることを告げていた。
林雨瞳が最新のフランス地方報告をまとめたものを俺に回してきた。
俺は素早く流し読みして、感想は一言だった。
「マルセイユは自分の正規手順に絞め殺されかけてる。」
「マルセイユだけじゃない。」彼女は言う。「フランスのシステム全体が、こういう事案の成熟した分類を持っていない。今は各部署が自分の慣れたフレームに無理やり当てはめようとしてる。」
「警察は暴動扱い、市役所はパニック扱い、教会は冒涜扱い、中央は治安維持扱い。」俺は言う。
「だいたいそう。」
バローロ神父がそのタイミングでスマホを耳から離した。さっきより表情が固い。
「ヴァチカンから返答が来た。」
俺は神父を見る。
「何て言ってる?」
「フランス南部にいくつかの旧納骨庫と十字軍遺骸の封印ポイントがあって、以前に『公開での再整理は不適切』とされたものが確かに存在する。」彼は少し間を置いた。「そのうち二か所が、マルセイユ外縁からそれほど遠くない。」
俺は目を閉じた。
「上出来だ。C.A.L.F.(カルフ)にまた一層の信憑性を足してやった。」
「もう一件ある。」神父は前を見たまま、声がさっきより低くなった。「マルセイユ北側の旧城門と港区の間には、歴史的に『南門』の象徴が存在する。現代の行政上の門じゃない。宗教と港が共に関わる儀式的な入城の境界標だ。C.A.L.F.が言う『南門を断つ』が純粋な比喩じゃないなら、彼らが切ろうとしているのは一本の道じゃない。象徴としての入城口だ。」
俺は聞き終えて、口の端が引きつった。
「最高だ。あいつらは入城にも演劇的構造にこだわってやがる。」
「それが問題の核心だ。」バローロ神父は言う。「単純に街へ突撃しているんじゃない。歴史と宗教が共に認める場所で、あの死人の軍団を『正当化』しようとしている。」
俺はゆっくりと息を吐いた。
今、山口多聞の飛龍を先に動かしたくない気持ちがさらに強くなった。
もう十分に明確だ。C.A.L.F.が欲しいのは物語の主導権だ。ここで空から過剰な火力や死人部隊が降ってきたら、局面はただ世界大戦の予告編みたいにかき乱されるだけだ。マルセイユに今必要なのは、より大きな場面じゃない。C.A.L.F.より先に場面を収められる誰かだ。
車内の通信ランプがまた点いた。
今度は、フランス地方ラインだった。
ルシアはさすがだ。本当にマルセイユ市政危機センターへの臨時ルートを繋いでくれた。
俺は接続を押した。
非常に抑制されているが、現場に引き絞られているのが明らかな男の声が聞こえてきた。
「こちらはマルセイユ市政危機センターです。確認させてください。あなたがスペイン側から証拠を持ってきた人物ですか?」
「そうだ。」俺は言う。「周士達。」
「時間がない。」相手は言う。「北にいるあれが何なのか本当に分かっているなら、今すぐ話してください。」
俺は前方の道路標識に近づいてくるマルセイユの方向表示を見ながら、通信機を握り、静かに返した。
「いいだろう。」
「ただしまず、街の中でまだあれを無許可宗教集会扱いにしようとしている人間を、全員追い出してくれ。」
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マルセイユ市長と繋がったとき、K7は外縁の検問線の手前で完全に止まっていた。
普通の渋滞とは違う止まり方だった。
道路全体が、見えない手に喉を掴まれたみたいだった。前方では軍警の灯が何層にも重なって点滅し、後方では一般車が出口を失った蠅みたいに塊になって押し合い、救急車のサイレンが風の中で途切れ途切れに聞こえてくる。錆びた刃物で鉄をゆっくり引いているような音だった。
バローロ神父は両手をハンドルに置いたまま、黙っていた。
神父が黙ると、車内の空気は大聖堂の石柱みたいに硬くなる。彼が耐えているのは渋滞じゃない。前にある街だと、俺には分かった。
俺は窓を少し開けた。冷たい風が塩気を連れて入ってきた。その中に別のものが混じっていた。
煙。
機械油。
それと、ごくかすかだが間違えようのないもの——古い墓の石扉をこじ開けたときに漂う、あの乾いた冷たい死の気配。
俺は窓を閉めた。
「繋いだ。」ルシアの声が通信機から届いた。いつもより短く、硬い。「マルセイユ市政危機センター。市長本人が回線に出てる。」
俺はイヤホンを引き寄せて耳に押し込んだ。口を開く前に、向こうの音が先に飛び込んできた。
一人じゃない。部屋中の人間が同時に声を出していた。
港区東側の封鎖が失敗したと叫ぶ声。
A7南下入口が一般車で完全に塞がれたと言う声。
白袍の隊列が高架橋の下を通過するところを市民が撮影し、映像が抑えきれず全ネットに拡散していると言う声。
憲兵隊は正式に管轄を引き継いだのかと喉を張り上げて問う声。
その中から、一人の男の声がそれを断ち切るように出てきた。
「こちらはマルセイユ市長、バティスト・ヴィダルだ。話しているのは誰だ?」
俺は少し笑った。声には出さなかった。
フランス官僚の口調。こういう状況でまだそれを保てるなら、たいしたものだ。
「周士達だ。」俺は言う。「スペイン側からの資料と警報パッケージが、もうあなたの机に届いているはずだ。」
向こうが半秒止まった。
隣の誰かが確認しているのかもしれない。あるいは市長自身が、この名前に今時間を割く価値があるかどうか考えているのかもしれない。
「非常に信じがたい報告を受け取っている。」彼は言った。声は低く、場を抑えられている。でも背後でどんどん乱れていく足音は抑えきれていない。「大規模な不明武装集団がマルセイユ南側に接近中、宗教過激組織との関連が疑われ、そして……遺体に関係している、という報告だ。あなたは今、これが何らかの馬鹿げた国際情報ミスではないと言いに来たのか?」
俺は椅背に身を預け、検問所の上で点滅する青い灯の列を見た。
「今から二つのことを言う。」俺は言った。「一つ目、これは情報ミスじゃない。二つ目、あなたがあれをまだ一般的な暴動かテロとして扱い続けるなら、この街は今夜葬式を出すことになる。」
ルシアは割り込まなかった。
バローロ神父も俺を見なかった。
でも聞いているのは分かった。
電話の向こうが静かになった。
市長は怒鳴らなかった。すぐに反論もしなかった。それだけで、スーツを着た連中の中でも頭の中が票読みだけで埋まっているタイプじゃないことは分かった。
「今どこにいる?」彼は聞いた。
「北外縁の検問線、あなたたちの第一封鎖ラインまでまだ少しある。」俺は言う。「車の中に、あなたが今悪夢を見ているわけじゃないと証明できるものがある。それと、フランスが教皇庁というものをまだ覚えているなら、会いたがるはずの人物も一緒だ。」
バローロ神父がそのタイミングで手を伸ばし、通信機を自分の方へ半インチ引き寄せた。
動きは小さい。意味は明確だ。
自分が話す番だ、ということだ。
「バローロだ。」神父が口を開いた。判決文を読み上げるような、揺るぎない声だった。「聖座授権連絡者の立場として、マルセイユ市政府と地元教区に対し、二重封鎖の即時構築への協力を要求する。道路だけ封じても意味がない。港だけ管理しても足りない。あなた方が相手にしているのは通常の武装集団ではない。儀式的編成を持つ死者の部隊だ。これは修辞ではない。」
電話の向こうが、一瞬でかなり静かになった。
俺にはあの危機センターの光景が目に浮かんだ。さっきまでそれぞれ別のことを叫んでいた官僚、軍警、補佐官たちが、一斉に同じ電話へ視線を向けている。熱した鍋に冷水を叩き込んだみたいに。
市長の声が戻ってきたとき、さっきまでの官僚的な口調が少し削れていた。
「神父、あなたは今正式に、一支——死者の部隊——に対して、都市レベルの緊急対応を起動するよう勧告しているのか?」
「正式に通告している。」バローロは言った。「今夜を治安事件として処理し続けるなら、明日にはあなたの警官が自分たちの封鎖線の上で先に死ぬことになる。」
俺は思わず横目で神父を見た。
この老いぼれは普段無駄口を叩かない。いざ本当に命懸けになったとき、俺より遥かに容赦がなく、しかも一言も無駄にしない。
市長の方から椅子を引く音がした。続いて誰かが書類を机に叩きつけるような音。次の瞬間、若い男の慌てた声が割り込んできた。
「市長、北港第二消防分隊からの報告です。サン=タンドレ通りの交差点で、白袍の一列が濃煙の中を通過しているのを目撃。熱源反応がほぼゼロ……繰り返します、ほぼゼロです。」
別の声が被さった。
「国家憲兵隊が、不明隊列の入城阻止に実弾使用の授権を市政府に確認するよう要請しています。」
さらに女性の声が、すでに少し震えていた。
「市長、市民ホットラインが爆発しています。教会の鐘が勝手に鳴り始めたという通報、地下鉄の出口に白い帽子をかぶった人間が列を作っているという通報、死人が歩いているのを見たという通報が——」
「もういい。」市長が低く一喝した。
向こうがまた押さえ込まれた。
俺に向き直ったとき、その呼吸さっきより重くなっていた。
「周さん、最短で、最も正確な判断を聞かせてほしい。」彼は言った。「あいつらは何が欲しい?」
俺は前方で止められている一台の乗用車を見た。後部座席に小さな女の子がいて、ランドセルを抱えたまま、窓越しに外の警告灯だらけの道路を見ていた。今夜が終わったあと、この子が覚えているのは宿題でも夕飯でも寝る前の話でもないだろう。
街がどう壊れたか、だ。
「あいつらが欲しいのは街の占領じゃない。」俺は言った。「少なくともそれだけじゃない。俺たちが持っている資料と一致するなら、あいつらは『見せに来た』んだ。秩序がどう機能しなくなるか、教会と警察と市役所がどう一緒に声を失うかを。これは公開処刑のリハーサルだ。処刑されるのはマルセイユ全体の神経だ。」
向こうで誰も声を出さなかった。
俺は続けた。
「今あなたに足りないのは銃じゃない。判断だ。兵力を均等に撒いても無駄だ。今すぐやるべきことは三つ。一つ目、南門、旧港、A7の主要入口に近づく人の流れを全部断て。説得じゃない、強制的に断て。二つ目、消防と医療に踏み潰し、ショック、集団パニックへの対応準備をさせろ。銃創を先に想定するな。三つ目、表には出していないが必ず連絡ルートを持っているはずの宗教関係者、古い教会の管理人、地下墓所の担当者を全員叩き起こせ。今夜、街の中で扉が勝手に開くとしたら、そいつらの方が警察の地図より先に知っている。」
市長が数秒黙った。
その数秒の間に、K7の外で鋭いブレーキ音がした。警察のバイクが路肩に横向きに滑り込み、フランスの警官が飛び降りて検問所の前まで走り、上官に向かって激しく手を振っている。何を叫んでいるのかは聞き取れない。ただその顔が、完全に白くなっていた。
勤務中に顔色が悪くなる、というレベルじゃない。
目が見てはいけないものを先に見てしまった人間から、一瞬で血の気が引いたときの白さだ。
バローロ神父の指が、ハンドルの上で一度だけ、軽く叩いた。
一度だけ。
「市長、」俺は言った。「あなたの人間がもう見え始めているんじゃないか?」
電話の向こうで、ごく小さく息を吸う音がした。
「北側巡回線から今報告が入った、」彼はゆっくり言った。一語一語が喉の奥の何かを押し潰しながら出てくるみたいに。「工業地帯の外縁で、白い縦列を確認した。隊列は非常に長く、呼びかけなし、旗なし、車のライトなし、熱源なし。街に向かって歩いている。まるで——」
そこで止まった。
俺がその続きを補った。
「巡礼みたいに。」
向こうは返さなかった。
俺が正しいと分かっていたからだ。
俺は前方の空を見た。マルセイユの上空はまだ完全に暗くなっていないが、その灰色は夕暮れの灰色じゃない。嵐の前に海面から浮き上がってくる鉛色だ。灯り、煙、海風、人の恐慌が一緒に溶け合って、街全体が締まっていく経帷子に包まれているみたいだった。
「市内中心部まで何分で来られる?」市長がついに聞いた。
「あなたの人間が今すぐ通してくれれば、最初の封鎖ラインが踏み潰される前に間に合う可能性がある。」俺は言った。
市長はすぐには答えなかった。
背後で誰かが「市長!北港の監視カメラ!」と急き立てる声がした。続いて、マイクが近づきすぎたときの金切り声みたいな金属ハウリング音。
そして次の瞬間、誰にも抑えられない声が、遠くの方で恐怖に満ちて叫んだ。
「なんだあれ、デモ隊じゃない——」
通信が一瞬途切れ、次の秒に繋ぎ直された。
市長が口を開いたとき、もうさっきの手順を先に確認しようとしていた人間の声じゃなかった。
「周さん、バローロ神父、」彼は言った。「北外縁検問所に対し、あなた方の車列への直接通行を今この場で授権する。入城後、市政危機センターへ直行してください。この瞬間から、電話の向こうじゃなく、私の目の前にいてほしい。」
俺は口の端を少し上げた。
ようやく人間の言葉になった。
「分かった。」俺は言った。「もう一つだけ。」
「言え。」
「あなたの人間に英雄になろうとさせるな。」俺は前方の検問所のバリケードが上がり始めるのを見ながら、声も一緒に冷やした。「今夜最初に死ぬのは、大抵、自分がまだ普通の災害を処理していると思っている人間だ。」
言い終えて、通信機を外し、センターコンソールに放り投げた。
前方の遮断バーがゆっくりと上がっていく。
憲兵が一人、早足で駆け寄ってきた。ガラスでも飲み込んだみたいな顔色で、俺たちに通過の手振りをした。
バローロ神父は彼を見なかった。ただK7をギアに入れ、アクセルを踏んだ。
車が前へ滑り出した瞬間、フロントガラスの向こう、もう少し遠くの空の端に、不自然な白さが灯った。
稲妻じゃない。
過剰なほど整然とした、過剰なほど蒼白い何かが、街の縁でゆっくりと自分を広げていた。
俺は座席に身を預け、息を一つ吐いた。
「マルセイユへようこそ。」俺は言った。
神父は前を向いたまま、石を井戸に落としたような声で言った。
「神に祈れ。」
K7が検問所を突き抜け、警告灯が両側から後ろへ流れていった。
そして俺には分かっていた。この瞬間から、この街に普通の夜は二度と来ない。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




