142.惨劇 4
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
「なぜ報復じゃない?」
「報復に来た人間は、無駄を多く積む」俺は言った。「必要以上に殺し、滅茶苦茶に壊し、感情を撒き散らす。ここには感情の過剰がない。あるのは手順だけだ。侮辱のやり方でさえ、快感じゃなく道具のようだ」
マリアが横から、淡々と一言足した。「その通りよ」
そこで初めて、ハビエルは彼女に目を向けた。
「君は?」
「マリア」
「職務は?」
彼女は半秒ほど間を置いた。どの言葉が一番時間の無駄がないか、測っているみたいに。「修道女」
ルシアが彼女を一瞥した。その目は細い。彼女には、この女が「修道女」の二文字だけで済む人間ではないのが分かっている。だが今は剥がさない。
「現場で何を見た?」ハビエルが訊いた。
「拘束痕、抑え込みの痕、強制された姿勢」マリアは言った。「殺すために殴られた人間がいる一方で、吐かせるため、道を示させるため、物を渡させるために殴られた人間もいる。用が済むまで生かされて、用済みになってから殺されている」
老神父の顔色は、さらに悪くなった。
この言葉が出てしまった瞬間、修道院で死んだ人間たちは、単なる被害者ではいられなくなる。彼らは「何かを保管するプロセスの一部」でもあった、ということになる。つまり、あの辺境の修道院は、もともとからしてクリーンな場所ではなかったということだ。
ルシアはドキュメントホルダーを開いた。中には二枚の紙しかない。一枚に目を落とし、顔を上げる。
「匿名通報は二本あったわ」彼女は言った。
その瞬間、部屋の数人が同時に顔を上げた。
地方警官が真っ先に眉をひそめる。「昨夜、確認できていたのは一本だけだ」
「地方システムで見えるのは一本だけ」ルシアは続けた。「一本目は轄区への通報じゃないから。国家レベルの中継回線に入っていて、非定型情報フラグとして保留されていた。内容は短い。『山の中のあの家はもう空だ』。二本目が、君たちの轄区に入った『修道士たちが全員死んでいる』」
俺は背もたれに体を預け、何も言わなかった。
そういうことだ。
誰かが人を殺し終えて、急に良心が疼いて電話を取ったわけじゃない。あらかじめ、この事件を必ず「見られる」ように仕込んでいる。そして、違うレベルの目にそれぞれ届くように。一本目を国家へ入れるのは、この場所の意味が「死体だけではない」ことを電話の主が知っているということだ。二本目を轄区へ入れるのは、死体もちゃんと手続きに乗せる必要があることを、同じ主が分かっているということだ。これは救難信号じゃない。投函だ。
ハビエルも、そこまでのことはすぐに飲み込んだらしい。
「今、はっきりしているのは二つだ」彼は言った。「一つ、現場は掃除型の取物作業であり、単純な虐殺ではない。二つ目、誰かがこの掃除現場を、国家レベルの目に見せたがっている」
「あるいは」俺は言った。「掃除の過程じゃなく、掃除の『あと』に残されたものを、国家レベルに見せたがっている」
ルシアは、初めて正面から俺を見た。口だけ軽い外国人かどうかを測るように。
「何が違う?」彼女が訊いた。
「前者は犯人の告発だ」俺は言った。「『誰がやったか』を見に行かせる。後者は観客の誘導だ。『何が、どういう形で持ち去られ、何が、どういう形で残されたか』を見に行かせる」
彼女は二秒ほど黙り、それからごくわずかに頷いた。
この女は厄介だ。質問が多いからじゃない。ちゃんと聞き取るからだ。
ハビエルは話を先へ進めた。「現場鑑識からの報告では、山道に大規模な車列の痕跡はない。ただ、タイヤ径の異なる中型車が二組出入りしている。そのうち一組は、地元教区の定期補給車と似たタイプ。もう一組は、現時点では照合不能。つまり犯人は、必ずしも外から重装備で乗り込んだとは限らない。地元の輸送車体を殻に使った可能性もある」
老神父は、とうとう堪えきれなくなった。
「教区内部を疑っているのかね?」声が一段高くなったが、まだ切れてはいない。「あの辺院はすでに皆殺しに遭っている。ここに座っている我々まで共犯扱いにするのか?」
「俺は、『あの修道院の本当の用途』を知っていた全員を疑っている」ハビエルは言った。声量は変わらない。「そしてあなたは、神父。少なくとも今、まだここに座っている『その一人』だ」
その一言は、冷水をバケツで頭から浴びせかけるようなものだった。老神父は唇を動かしたが、言葉は続かなかった。
マルタの方が、ずっと現実的だ。教区を庇おうとはせず、一つだけ本当に意味のある質問をした。
「現場の回収は、あとどのくらい続きますか?」
ハビエルは彼女を見た。「第一次だけなら、少なくとも今日の午後までは。遺体、血痕、指紋、足跡、微細繊維、資料室と地下室の残留物、タイヤ痕、全部だ。教区が今できるのは、『緊急会議を開く』ことじゃない。あの辺院の、過去二十年分の「行政上の異常」、「保管物の移動」、「臨時の貸し出し」のリストを、漏れなく俺のところへ持ってくることだ」
「その一部は、私たちの階層には――」
「なら、上へ掘り進め」ハビエルは彼女の言葉を切った。「今この瞬間から、この案件は『国家事件』だ。資料を教区の引き出しの中に鍵を掛けておきたい者は、『犯人の逃走路』を手伝っているのと同じ意味になる」
部屋は一気に静まり返った。
国家事件。
この四文字は、プレスリリース用の飾りではなく、権限の宣告だ。意味は単純明快。「今から先、地方が不機嫌でも、教会が不愉快でも、轄区が不満でも、これは『自分の家の火事』では済まない。扉を閉めて自分だけで消す権利は、もうない」ということだ。
そこでルシアが、もう一方の線を引き受けた。
「私は三本のラインでいく」彼女は言って、二枚しかない紙を裏返した。文字を見る必要などない、という仕草だ。「一本目、遺失物のライン。『何が』減ったかという名詞じゃなく、それらの物品を揃えて突き合わせたとき、『誰に』繋がり、『どこを』開けるか。二本目、通報のライン。二本の匿名電話の発信元、経由地点、バックグラウンドノイズ、通話前後の通信活動。三本目、知り得た者のライン。あの辺院の本当の封印レベルを知っていた人間。教区、修会、外部の協力者、全員洗い直す」
「外部の協力者」と言ったとき、彼女の視線は、もう一度こちらを横切った。
今度は、俺は目を逸らさなかった。
彼女の側から見ても、俺たちは十分に「おかしい」存在だ。バチカンの任務委任状、国境を跨っての入国、目的地は最初からあの辺院、現場には「掃除が終わった直後」に到着。ここまで時間が噛み合っていたら、「疑われない方がおかしい」。
「で、俺たちは?」俺は訊いた。
ハビエルは俺を見た。「あなた方は現在、重要な関係者だ」
「容疑者よりは聞こえがいい」
「証人よりは扱いにくいがな」彼は言った。
この男、ようやく少し人間味が出てきた。
バローロ神父がここで初めて口を開いた。彼はいつも、頭の中で言葉を骨だけになるまで削ぎ落としてから声に出す。
「事態がすでに格上げされた以上」彼は言った。「こちらも説明しておく。これは通常の教区案件ではない。我々があの辺境の修道院にいたのは、観光でも道に迷ったからでもない。バチカンはすでに、特定の調査ラインを処理するために本隊のスペイン入りを承認していた。そのラインは、ヨーロッパ域内で今も活動を続ける旧い体制の残滓に関わるものだ。場当たり的な模倣犯でも、地方の異端カルトのパフォーマンスでもない」
老神父がはっとして振り向いた。こういう会議室でここまで踏み込んだことを言うとは、明らかに想定外だったらしい。
ルシアの目が、初めて本当に変わった。驚きではない。収束だ。平らに置かれていた刃が、ようやく切っ先を正面に向けたような変化だ。
「旧い体制」彼女はその言葉を繰り返した。「どういった種類の旧い体制?」
バローロ神父は二秒ほど彼女を見て、すぐには答えなかった。こういう問いに正面から答えてしまえば、あとは地方の調書で収まる話ではなくなる。そのことを、彼は十分わかっている。
俺が代わりに引き取った。
「昨夜、山の上で見た死体は」俺は言った。「"封口層"にすぎない。その下の線が本当に掘り起こされたら、バルセロナだけじゃ済まない」
ハビエルは両手を組み、俺とバローロを見た。これがはったりなのか、それとも本当にもっと大きな雷を投げ込もうとしているのか、測っているような目だ。
ルシアはその名詞を追及しなかった。直接、角度を変えた。
「では、そもそも何を調べにスペインへ来たの?」
「ここまで来たなら」俺は言った。「まず自分たちに訊いた方が早い。あの修道院は普段、誰のために何を保管していたのか」
マルタの顔色がさらに白くなった。だが反論はしない。老神父は急に十歳老けたみたいに、肩が一段ずり落ちた。
それで十分だ。
答える必要のない質問もある。沈黙そのものが、答えの半分になる。
会議はここで、ただの事情聴取から権限の線引きへと変わっていた。
ハビエルはテーブルの水コップを引き戻して、ようやく一口飲んだ。「わかった。では、こう進める。地方教会は神父とマルタの二人だけ残し、他の関係者は全員この件への直接接触から外す。二人はここで待機。外部への独自連絡は禁止。地方轄区は戻って第一次調書と現場引き継ぎを完結させろ。CGINは独立ラインを走らせる。匿名通報の全件、過去の情報との照合、教区の内情を知る人間の洗い出しを先行させる。鑑識は回収を継続。そして、あなた方は——」
彼は俺たちの列全体を見た。
「個別に話を聞く」
そうこなくちゃな。
全員を一つの会議室に押し込んだのは、全体の反応を先に見るためであって、手を抜くためじゃない。本当に使える情報は必ず分けて聞かなければならない。特に俺たちみたいな人間が揃っていたら、何も喋らなくても、目配せだけで答え合わせができてしまう。
「順番は?」俺は訊いた。
「あなたから」ハビエルは言った。
「俺がよく喋るからか?」
「判断が速いからだ」彼は言った。「速い人間が嘘をつくと、たいてい早めにほころびる」
俺は頷いた。「筋は通っている」
ルシアが立ち上がり、ドキュメントホルダーを手に収めた。「まず私と第一ラウンドよ」
「情報官じゃなかったか?」俺は彼女を見た。「なぜ自分で第一線の聴取をやる?」
彼女は俺を一瞥して、表情を変えずに言った。「最初の反応を、他人にフィルターされたくないの」
やっぱりこの女は厄介だ。
ハビエルが一言付け足した。「これは取調べだと思うな。今はまだ、そういう段階じゃない」
「そのうちそうなるかもしれないがな」俺は言った。
「あなた方が何を持ち込んでいるかによる」彼は返した。
会議室のドアが再び開き、外にはすでに人が待っていて、それぞれを別の部屋へ連れていく段取りが整っていた。地方警察は壁際へ退き、国家レベルの人間が動線を引き継いだ。空気まで入れ替えられたみたいだ。老神父とマルタは元の位置に残された。まだ動かせない証拠物みたいに。バローロ神父は俺を見なかった。ただ、あの黒い公文書ケースの上に掌を一度置いた。意味は単純だ。言うべきことは言え。だがカードを一度に全部めくるな。
俺は立ち上がった。椅子の脚が床を短く擦る音がした。
静まり返った会議室の中では、銃のボルトが定位置に収まる音みたいに響いた。
上等だ。
山の上の遺体は鑑識に渡した。街の中の生きている人間を見るのは、今度は俺の番だ。死体が教えてくれるのは、どう処理されたかだ。生きている人間が教えてくれるのは、誰がまだ逃げ切れると思っているかだ。
ルシアの後について外へ出るとき、彼女がイヤホンをつけながら、外の人間に一言指示を出すのが聞こえた。
「修道院現場の回収物は全件、特に地下室の残留物と資料室の封蠟の破片を優先して国家鑑識ラボへ。地方のルートは通さない」
その一言で、俺は口の端が少し動いた。
そうだ。
ようやく、遺体の周りをぐるぐる回るだけじゃない人間が一人いた。
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