142.惨劇 3
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
バルセロナに着いた頃には、もう夜が明けていた。
清潔な夜明けじゃない。街の上空には灰白色の雲が低く垂れ込めていた。絞り切れていない古い雑巾みたいに、街全体をくすんだ色で覆っている。車列は俺たちを一般の警察署にも教区の迎賓館にも連れて行かなかった。先導の警察車両は道路の優先権を最後まで使い切って、外観に特徴のない、だが窓ガラスだけ妙に厚い政府の建物へ直接俺たちを運んだ。入口には目立つ看板もない。武装した警備員が二組、二重の入退管理、そして入る前から人間を爆発物扱いで見るような目だけがあった。
こういう場所は何度か見たことがある。外から見るほど普通のオフィスビルに見えるほど、中は普通じゃない。
K7は地下階に留め置かれ、外周にもう一層封条が貼られた。二台目の車も別の場所に止められた。地方警察の俺たちへの態度はまだ抑制が効いていたが、それは信頼じゃない。引き継ぐ人間がもうすぐ来るからだ。事件が管轄の出来事から上へ引き上げられる瞬間、最初に消えるのは証拠じゃない。地方警員の、自分たちで処理しようとしていたわずかな気概だ。なぜなら彼らはすぐに気づく。この案件はもう、自分たちがどう書いて、どう判を押して、どう帳尻を合わせるか決められるものじゃないと。
俺たちは三階へ連れられ、カード認証が必要な扉を二枚抜けて、最終的に大きな会議室に集められた。
部屋は広すぎた。一晩眠れていない、体に山の血の匂いを染み込ませた人間たちが座り込んでも、空虚さが消えない広さだ。壁は薄いグレー、装飾はない。固定式のスクリーンが一面、ホワイトボードが一枚、予算会議に使いそうな長いテーブルが一つ。テーブルの表面は磨き上げられすぎていて、かえって落ち着かない。空調の温度は低め、意図的だ。人は冷えると感情が発散しにくくなり、口も乾きやすい。
地元教会側は元々四人来ていたが、ここでは二人になっていた。
老神父はまだいた。昨夜修道院で最初に遺体と鉢合わせしたとき、彼は今にも崩れ落ちそうな古い木板みたいだった。今は会議テーブルの右側に座り、顔色はまだ悪いが、少なくとも背骨はかろうじて戻っていた。隣は女書記官、昨夜欠損リストを抱えて紙みたいに白い顔をしていたあの人だ。濃い色の上着に着替え、髪を結い直し、手には資料フォルダを抱えていた。抱え方が強すぎて、まるでそれが今の自分にまだ仕事があることを証明できる唯一の盾みたいだった。
他の教区の人間は全員いなくなっていた。
あの若い助祭もいない。教区のその他の同行者もいない。国家機関にとって、そういった人間は証人じゃなく雑音だ。老神父を残したのは、彼が十分に年老いていて、どの扉を普段誰が開けられるか知っているからだ。女書記官を残したのは、彼女がリストを持っていて、頭も使えるからだ。他の者は帰って祈ろうが震えていようが、関係ない。
俺たちは長テーブルの反対側に案内された。
俺は中段の少し左側に座った。背後にドアが見え、正面にスクリーンと部屋全体の動線が見える位置だ。林雨瞳は俺の右隣で、すでに手帳を開いていて、手のペンは止まらない。彼女が記録しているのは無駄話じゃない。順序だ。こういう場所では喋る人間が多い。本当に使えるのは、誰が先に話し、誰が後に話し、誰がある言葉を聞いた瞬間に一番先に目を動かしたかだ。
ヴィクトリアは少し後ろ寄りに座っていた。急遽会議に呼ばれた技術員みたいな座り方だが、実際には換気口、カメラの角度、スクリーンの配線、この部屋で録音が仕掛けられそうな場所を一つ残らず見ていた。葉綺安と希は並んで座り、保温ボトルは相変わらず手放さない。俺が神経質なんじゃない。国家級の会議室が、見慣れない容器に一切興味を示さないなんて信じていないからだ。
蕾切爾は一番奥に座り、両手を膝の上に置いて、掌を下に向けていた。自分の心拍を押さえ込んでいるみたいに。エリザヴェータは椅子の背もたれに身を預け、この手の国家レベルの手続きには全く興味がないという顔をしていた。だが彼女がそういう顔をしているときほど、妾は聞いている。そのことを俺は知っている。マリアは相変わらず椅子に突き立てられた一本の刃みたいだった。動かない、喋らない。だが彼女自身が、一本の刃としてそこに在る。
バローロ神父は俺の左隣から二つ空けて座り、黒い公文書ケースをテーブルに置いて、その上に掌を置いていた。小さな棺の蓋を押さえているみたいに。ここまで来る間、彼はほとんど何も喋っていない。それは疲労のせいじゃない。待っているのだ。どの部署が最初に入ってくるか、どのレベルの視線が最初にこちらを舐めるか。彼は体制というものをよく知っている。こういう場では誰よりもよく知っている。最初に入ってくる人間が一番偉いとは限らない。本当に権限を握っている者ほど、半歩遅れて現れる。全員が席に着いてから、自分が見られる側になる。
地方轄区のあの警官もいたが、もう主座には座っていなかった。
彼は壁際に立ち、手に動かしていないコーヒーのカップを持っていた。一時的に格下げされたブリーフィング係みたいに。昨夜の山の上では、まだ彼が現場の牙だった。だがここでは、彼は「最初に遺体を受け取った人」にすぎない。遺体が一度国家システムに入ってしまえば、彼の仕事は判断ではなく、引き渡しになる。
会議室の中は、およそ三分ほど静まり返っていた。
聞こえるのは空調の音、紙が擦れる音、奥の廊下のどこかで響く曖昧な足音だけだ。張りつめた空気、というほどでもない。山の上より、むしろ静かだった。それでも俺は山の方がまだ好きだ。山の敵意はまっすぐだ。ホルスター、封鎖線、懐中電灯の光。誰がこちらを気に食わないと思っているか、全部顔に出る。こういう部屋は違う。ここで誰かがお前を食う気になっていても、牙を見せるとは限らない。
ドアが開いたとき、ノックはなかった。
最初に入ってきたのは、私服姿の国家警察官が二人。立ち位置はきれいだった。一人はドアのそばに残り、もう一人は会議テーブルの外周へ回って、全員を視界の中に収めた。彼らは名乗らない。自己紹介をするのは彼らの仕事じゃない。本当に入ってくるべき人間が、一秒も無駄にせず通過できるようにするのが仕事だ。
そのあとに入ってきたのが、男だった。
四十代半ば、背はやや高め、肩の線はまっすぐ。髪は短く刈り込まれ、こめかみに白髪が混じっていたが、歳のせいというより、長年の寝不足と決断の連続が残した白だ。濃い色のスーツに、ノータイのバンドカラーシャツ。その上から薄い防弾ベストを羽織っている。この組み合わせは一見ちぐはぐだが、筋は通っている。彼はオフィスに籠もる事務官でも、最前線で突っ込む隊員でもない。現場で一番血の飛ばない場所に立ち、全員の銃口と報告を自分の頭の中に収めてから、「誰を動かし、誰を止めるか」を決める側だ。
彼の歩く速度は速くない。だが目は速い。まず老神父を見て、次に女書記官を見て、それから俺たちの一行をざっと掃き、最後にバローロ神父と俺で視線を止めた。その止め方は、好奇心ではない。マーキングだ。この事件で、誰が背景ではないかを知っている目だ。
「コミサリオ、ハビエル・オルテガ、国家警察だ」彼は言った。声は低い。わざわざ張らなくても、部屋の隅々まで届くタイプの低さだ。「今この瞬間から、修道院の事件は地方の単独案件ではない。現場指揮、地域間の調整、対外窓口、すべて俺が引き受ける」
覚えやすい名前だ。ハビエル・オルテガ。
最初に見た瞬間にわかった。この男は、権限移譲の芝居をしに来たわけじゃない。地方案件が国家案件に引き上げられるとき、書類の上では「手続き」でも、理由はだいたい二つだ。死人が多すぎるか、死んだ人間と「表に出してはいけない何か」の距離が近すぎるか。この件は、その両方だ。
彼は主席に座ったが、資料には手を付けず、まずテーブルの真ん中に置かれたコップの水を横にずらした。それは癖みたいな動きだった。テーブルの真正面に遮るものを置かない。視界のためでもあり、今日はここでゆっくり水を飲むつもりはない、という意思表示でもある。
ドアが二度目に開いたとき、空気がもう一段沈んだ。
今度入ってきたのは、女だ。
三十代前半。黒髪をきっちりまとめ上げ、余計なアクセサリーはつけていない。耳には、細いイヤホンが一本。スーツよりさらに愛想のない、濃いグレーのセットアップ。ラインは無駄なく、ヒールは高くなく、歩いても音がしない。手にはブリーフケースもない。薄い黒のドキュメントホルダーが一つ。それも中身はほとんど入っていない。この手のものは、厚い書類束より始末が悪い。書類が厚いのは、まだプロセスがあるということだ。ホルダーが薄いのは、大事なものはとっくに頭の中に入っているということだ。
彼女は入室後、まず主席に目をやらなかった。先に見るのは人だ。一人ひとりに一瞥ずつ、長すぎず、短すぎず。刃先を皮膚に軽く触れさせて、肉の厚みだけ測り、とりあえずは切らない、という感じ。蕾切爾の前を通るときだけ、ほんの半秒ほど長く留まった。エリザヴェータの前では、ほとんど表情を変えなかった。葉綺安と希が抱えている保温ボトルを見るとき、目尻がわずかに止まる。驚きではない。記憶だ。
「インスペクトラ、ルシア・バルデス」彼女は言った。「CGINよ」
ルシア・バルデス。
その略称を聞いた瞬間、部屋の中の地方警官の肩が、かすかに強張った。無理もない。情報部門が入ってくるというのは、「誰が誰を殺したか」だけの話では済まないという意味だ。死体と、持ち去られたものの先に、もっと長くて汚い線が伸びている可能性がある。
CGIN――コミサリア・ヘネラル・デ・インフォルマシオン。国家情報総局。
この組織が普段どのレベルまで噛んでくるのか、わざわざ訊く必要もない。彼女の座り方が、すでに答えになっていた。彼女はハビエルの隣には座らない。斜め前、全員を見渡しやすく、そして全員が「主役の隣にもう一人椅子がある」ことを忘れやすい位置に腰を下ろす。情報屋にとって一番いい席というのは、正面ではない。周りから見れば「ただ聞いているだけの人」に見えながら、実際には部屋中の表情を一つ残らず掃き取れる場所だ。
ハビエル・オルテガが指でテーブルを一度叩き、会議が始まった。
「まず現状確認だ」彼は言った。「現場はすでに地方が第一次封鎖を完了。現在は国家鑑識が引き継いでいる。遺体の搬出、痕跡採取、通信ログの照会、道路監視カメラの補完、すでに開始済みだ。山の修道院は今この時点から、保護対象の重大事件現場として扱う。俺の許可がない限り、地方機関、教区、外部の報道機関、いかなる者も接近を許可しない」
「教区の機関」という言葉が出たとき、老神父の顔が一瞬曇った。だが口は挟まない。自分が今口を挟んでも無駄なことぐらい、彼にもわかっている。山の上の死体は、「教区の中だけで扉を閉めて祈りを捧げて済む話」ではない。
ハビエルは視線を地方警官へ向けた。
「ブリーフィングを」
昨夜、山で指揮を執っていたあの警官がカップを置き、ファイルを開いた。できる限り乾いた口調で話し始める。通報時刻、到着順、封鎖手順、初動の法医学所見、修道院内部の遺体配置、資料室と地下室の異常、俺たち一行の到着と通報のタイムライン――全てを分単位で巻き戻しながら。報告はプロらしく、感情をなるべく排していた。だが、いくつかの箇所で、わざと余白を残しているのが俺にはわかった。隠そうとしているのではない。彼自身も、まだ飲み込めていない部分だ。
「遺失物は暫定で、封印文書、移送記録、地下室の鍵箱、それと未確認の現物多数」と言いかけたところで、ルシアが初めて口を開いた。
「未確認現物って、どういう根拠?」
指名された女書記官は、抱えていたファイルをさらに強く抱きしめてから答えた。「地下室の目録が合いません。本来なら、対応する封印シールと保管ラベルがあるはずなのに、現場の欠損数と、文書上の欠落が一致しないんです」
彼女の言葉は慎重だった。ガラスの上を歩くみたいに。
ルシアは彼女を見て、ほとんど優しいと言っていいほどの、平板な声で尋ねた。「お名前は?」
「マルタ・ロビラです」女書記官が言った。
「教区では、何を担当している?」
「文書、封印との連携、臨時保管の記録です」
「つまり、何が失われたのか本当は分かっている。ただ今は、その名詞を口にしたくないだけね」
マルタの唇がわずかに強張った。老神父がすぐさま割って入ろうとする。「それらの内容は――」
ハビエルは指を一本、軽く上げた。老神父を見もしない。だがそれだけで、老神父は黙った。
この男は無駄がない。怒鳴って人を抑えつけるタイプではない。「今ここで、誰の言葉が扉の鍵になるか」を分からせるタイプだ。
マルタは深く息を吸い、ようやく薄い紙を少しだけ破った。
「一部は旧修会の転移記録です」彼女は言った。「戦後、正式に総教区のアーカイブへ編入されず、辺境の修道院に封印のまま残された歴史資料。もう一部は……収容との照合に関わる保管物です」
「何との収容照合?」ルシアが訊いた。
マルタは答えなかった。
俺は彼女を見ていた。単に怖がっているわけじゃないのが分かる。彼女が恐れているのは、一度その単語を口にした瞬間に、この事件が「殺人」から「醜聞」に変わることだ。血の雨は国家が処理できる。教会が一番恐れるのは醜聞だ。醜聞は死体より長生きする。
ハビエルは彼女を追い詰めなかった。そこで話を切り替え、今度は俺の方を見た。
「周士達、だったな」
「そうだ」
「現場で何をどう判断したか。今、もう一度順に話してくれ」
この質問は、昨夜の地方警察のものより、はるかに直接的で、実用的だった。彼は俺の嫌疑を確認しているのではない。俺を「情報源として使う価値があるか」を計っている。
「単純な虐殺じゃない」俺は言った。
部屋の誰も動かない。俺は続けた。
「死亡時刻には層がある。死体の配置には役割がある。入口は足止め点。食堂は制圧と第一段階の尋問。裏口と厨房は退路封鎖。小聖堂は展示と侮辱。宿舎は最後の掃除。資料室と地下室が本命だ。犯人は発狂しに来たんじゃない。取りに来た。死体はそのためのカバーだ」
ハビエルは俺を見据えたまま、目の色を変えない。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




