135.バチカン内院 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
年かさの顧問がついに口を開いた。
「これらの名称は、オープンスペースでは完全に読み上げるべきではありません」
林雨瞳は顔も上げない。
「だったら、最初からテーブルを地下室に運ぶべきでしたね」
俺は笑いをこらえるのに苦労した。
ファビオが彼女を二秒見た。ただの副操縦士と会計係にしか見えないこの女が、実際にどれだけ厄介かを再評価している目だ。最終的に彼は言う。
「林さん、流通範囲をコントロールしてください」
「今まさにコントロールしています」彼女は言う。「そうでなければ、取締役名簿も一緒に読み上げていたところです」
この一言で、向かいのスーツ三人が同時に黙った。
俺は傍らでそれをはっきり見ていた。裏帳簿で本当に役立つのは、会社名だけじゃない。会社名は外皮だ。取締役、保険弁護士、物流調整担当、主教区の窓口、コールドチェーンの認可コード、遺体処理委託状、そっちが骨だ。林雨瞳は今、最小限の力で「皮だけじゃなく、骨にも少し触れた」と相手に伝えている。
引き渡し確認に四十分以上かかった。
四十分間、誰も声を荒げず、誰も銃を抜かず、誰も拳を出さなかった。
でも俺は、昨夜もう一度夜襲があった方がよかったと思う。
夜襲には少なくとも始まりと終わりがある。この行政処理にはない。ラベルみたいに体に貼り付いて、誰かがお前をどの引き出しに入れるか決めるまで、ずっとそこにある。
全手続きが終わると、中庭の外はすっかり暗くなっていた。本棟の内部はむしろ白さが増していた。温かい白じゃない。廊下、階段、医療室、資料室に使うような光だ。清潔で、均一で、影がない。
ファビオが最後の臨時通行カードを俺に渡した。
「周さん、B区東棟二階です。食事は手配済みです。二十二時以降は部屋にお戻りください」
俺はカードを受け取った。
「"部屋にいろ"って言うとき、たいてい別のどこかが騒がしくなるんだよな」
彼は取り合わず、言う。
「ここは観光地ではありません」
「俺も観光客には見えないだろ」
「それは結構なことです」
こういう人間を殴りたいとは思うが、角度が見つからない。感情的にならず、挑発もせず、隙も見せない。ただひたすら、お前を決まった枠に押し込み続ける。銃を持った相手より、ずっと厄介だ。
分流が始まると、警備はC区へ連れて行かれ、ヴィクトリアの工具箱はもう一度内部安検を受けることになった。葉綺安と俺は同じ区だが、部屋は別だ。林雨瞳はA-2附棟での資料確認を求められた。去り際に彼女は俺に一言だけ言った。
「今夜、本当に歩き回らないで」
「神父と同じ台詞を使うな。気持ち悪い」
彼女はファイルフォルダを脇に挟んだ。
「効果があるってことよ」
エリザヴェータが戻ってきたのは、第二の扉を通り過ぎてからだった。
本棟の内側廊下に現れたとき、顔色はさっきよりさらに冷たかった。氷水に全身を沈められてから引き上げられたみたいな冷たさだ。俺を探しもせず、葉綺安を探しもせず、まっすぐバローロを見た。
そのとき神父は内廊下の入り口に立っていた。後ろには白い厚扉があり、扉の脇に女職員二人と医療修道女が一人。医療区画の入り口にも、証拠保管室にも見える光景だ。
「彼女は?」エリザヴェータが聞く。
バローロは彼女を見た。
「生きている。落ち着いている。検査中だ」
「妾が入る」
「駄目だ」
「彼女を見たい」
「駄目だ」
エリザヴェータが一歩前に出た。脇の二人のスーツがすぐに動いたが、バローロが手を上げて、触れるなと示す。
「今入っても、彼女のためにならない」神父は言う。
「バインダーと封印袋を持った連中に任せる方が、ためになるとでも?」
「地下に戻すよりはましだ」彼は言う。
エリザヴェータは奥歯を噛んだ。声が、押さえつけられて冷たくなっている。
「その言葉で妾を封じるな」
バローロは一ミリも退かない。
「では事実を言う。ここの手続きは不快だ、それは分かっている。だが彼女が今必要としているのは、妾がベッド脇に立って、自分の罪を贖うことじゃない」
この言葉は重かった。
廊下の空気が一瞬、止まったみたいだった。
俺は横に立ったまま、口を挟まなかった。
バローロは正しかった。しかも、十分に容赦がなかった。エリザヴェータが道中ずっと見せていたあの異様に細やかな世話は、本質的には修復じゃなく補償だった。彼女が悪いわけじゃない。彼女の壊れた部分が、たまたまレイチェルの傍らに引っかかっていただけだ。バローロにはそれが見えている。だから一言も迂回しない。
エリザヴェータの目が、刃みたいになった。
「そなたが自分の方が清廉だとでも思っているのか?」
バローロは静かに返す。
「そう思ったことは一度もない」
「では何の権利があって妾を止める?」
「今の私の方が、妾より役に立つからだ」
廊下が完全に静まり返った。
挑発じゃない。事実の陳述だ。だからこそ、石を投げ込まれたみたいに響く。エリザヴェータはそれ以上前に出なかった。ただ数秒、全身が固まって、それから踵を返した。靴が床を踏む音は大きくなかった。でも、どんな怒鳴り声よりも聞こえた。
廊下の反対側に寄りかかっていたマリアが、一部始終を見届けてから、笑いとも溜め息ともつかない小さな音を立てた。
「ここ、本当にいい場所ね」
俺は彼女を見た。
「どこが?」
彼女は周囲を指先で示した。
「みんな、いちばん痛い場所に置かれてる」
俺は反論しなかった。
また正しいから。
バチカン外縁のこのシステムは、人を安心させるためのものじゃない。それぞれを、いちばん管理しやすい位置に精密に配置するためのものだ。レイチェルは保護隔離へ。エリザヴェータは扉の外に留め置かれる。林雨瞳は資料確認に引っ張られる。俺と葉綺安はB区で監視される。警備はC区に散らされる。ヴィクトリアと彼女の工具は分解して再検査される。バローロは内側の処理へ。マリアは、刀架に一時的に置かれた刃物として、まだ使われていないが、絶対に捨てられない。
スーツの先遣たちは、この配置システムを動かす手だ。
夕食はB区の食堂だった。
食堂と言っても、清潔すぎる教区の食事室みたいだ。白いテーブルクロス、シンプルな食器、壁に聖像、均一な照明、パンかごまで几帳面すぎるほど対称に置かれている。俺と葉綺安は同じテーブルに着いた。近くには外来の聖職者が二テーブルと、どの機関の人間か分からない一テーブル。誰も大声を出さない。聞こえるのは食器が当たる音だけで、まるでみんな、自分が生き物みたいな食べ方をするのを恐れているみたいだ。
葉綺安が防弾板でも使えそうな硬さの肉を切りながら、低く言った。
「昨夜の修道院が工事現場なら、ここは標本館の受付だな」
「そうだな」俺は言う。「屠殺場じゃない。保存して、分類して、展示する場所だ」
彼女は目を上げた。
「今日、あなたも比喩が多い」
「この場所がそうさせる」
彼女は短く鼻を鳴らして、それ以上は言わなかった。
食事の途中で、ファビオがまた現れた。手に夜間規定が一枚増えている。
見た瞬間から、もう嫌になる。
「夜に規定を配るのが睡眠導入剤代わりか?」俺は言う。
彼はテーブルの端に紙を置いた。
「B区夜間封鎖。二十二時以降、内側廊下の通行禁止。A区連絡扉への接近禁止。医療隔離ラインへの自発的接触禁止。必要があれば、室内のベルを押してください」
「ベルを押したら誰が来る?」
「当直担当者です」
「スーツか、黒袍か?」
また、あの顔。
「状況によります」
俺は規定を受け取って、ざっと目を通した。シャワーの時間、電子機器の一時保管、窓の開閉、面会禁止、祈りの時間帯、消灯時刻まで、刑務所と修道院の間に生まれた混種みたいな書き方で並んでいる。
「ここは人が自分で考えるのが怖いんだな」俺は言う。
ファビオがようやく、薄く一言返した。
「我々が恐れているのは、人が自分で行動することです」
そう言って、去った。
葉綺安は彼の背中を見送った。
「昨夜、銃を持って突っ込んできた連中の方が、かわいく思えてきた」
「あいつらは、少なくとも確認書にサインさせなかった」
夕食を終えて部屋に戻る前、廊下の角でマリアに出くわした。
彼女は窓際に寄りかかっていた。刃物は持っていないが、どこから手に入れたか分からない小さなハサミを指の間で回している。銀色の短髪が廊下の灯りに切り取られて、冷たい縁を作っている。右の氷青色の目が、階下の中庭を見ていた。
「ちゃんと部屋に入れられてないのか」俺は言う。
彼女は笑った。
「通行証があるの」
「そりゃそうだ」俺は言う。「お前みたいな病原体には、たいてい特別な収容規格がある」
彼女は気にした様子もなく、小さなハサミを指の間で回し続ける。
「ここの好きなところ、知りたい?」
「知らないし、知りたくない」
「ここの人たちは、私を狂人扱いしない」彼女は言う。「部品として扱ってくれる」
俺は彼女を見た。
これは不満じゃない。むしろ、どこか嬉しそうだ。
「満足してるみたいに聞こえる」
「部品は、自分がなぜこうなのかを説明しなくていいから」彼女は言う。「必要なときに、ちゃんと使えればそれでいい」
この認識は気持ち悪い。
でも認めざるを得ない。事実だ。バローロは重い槌で、マリアは刃で、スーツは挟み具と一覧表だ。ここは怪物を収容しているんじゃない。それぞれの怪物に合った引き出しを見つけているだけだ。
立ち去ろうとしたとき、マリアがまた口を開いた。
「今夜、騒がしくなるかもしれない」
俺は足を止めて、振り返った。
「どういう意味だ?」
彼女は小さなハサミで、階下の見えない何かの方向を指した。
「私たちより先に来た人たちがいる」
「裏切り者か?」
彼女は薄く笑った。
「見かけより頭が回るのね」
俺はそれ以上聞かなかった。
あの笑い方を俺は知っている。単純に脅したいわけじゃない。器械室の匂いを嗅ぎつけた興奮が、半分だけ押さえられている顔だ。今はまだ静かにしている。時間が来ていないだけで。
部屋に戻ると、廊下はさっきよりさらに静かだった。厚い扉、白い壁、長い照明、濃い色の絨毯。足音まで吸い込まれていく。部屋は悪くなかった。シンプルで清潔で、高級な訪問者向けのシングルルームみたいだ。窓は全開にできない。電話は内線のみ。テーブルには夜間規定と小さな祈禱書が置いてある。浴室の鏡すら、誰かが外して手首を切ることを恐れているみたいに、がっちり固定されていた。
俺は通行カードをテーブルに投げて、窓際に立って外を見た。
ここからバチカンの核心部分は見えない。外縁の高い壁、一部の円蓋のシルエット、交差する廊下、さらに奥の建物の上層の灯りだけが見える。穏やかに見える。神聖にすら見える。でも今の俺には分かる。この静けさは表面だけだ。その下ではすべてが流れている。人、データ、判断、隔離、目撃、供述、認可。
血みたいに。
ただし、ここの人間はそう呼ばない。
まだ上着も脱いでいないうちに、室内電話が鳴った。
受話器を取ると、バローロだった。
「彼女は安定した」やつが言う。
レイチェルのことだと分かった。
「どこにいる?」
「内側の医療室だ。今夜は面会なし」
「俺は客じゃない」
電話の向こうが一秒、沈んだ。
「周士達」
「なんだよ」
「今夜は部屋にいろ」
俺は窓際に寄りかかって、外の白く明るい窓を見た。
「今日はみんな、俺が歩き回るのをやたらと恐れてるな」
「歩き回るからだ」
否定はしなかった。
「そっちは何を準備してる?」
バローロはすぐには答えず、言った。
「お前が見るものじゃない」
「だったら、見る価値があるってことだ」
今度の沈黙は長かった。
もう切れたかと思ったころ、やつは極めて低く言った。
「ここにはいくつか扉がある。開けたら、お前は俺たちをもっと嫌いになる」
俺は短く笑った。
「俺がこれ以上お前たちを嫌いになれる余地がまだ残ってると思ってるのか、自信過剰じゃないか?」
やつは笑わなかった。
「休め」
それだけ言って、電話を切った。
部屋は一瞬にして、また静寂だけになった。
俺は受話器を戻し、しばらくその場に立った。廊下の外から足音は聞こえない。フロア全体が本当に眠りについたみたいだ。だが、そうじゃないことは分かっている。こういう場所は夜になっても本当に眠ったりはしない。ただ音を押し殺して、壁の裏側でプロトコルを回し続けるだけだ。
洗面所で顔を洗い、出てきたついでに、テーブルの上の祈禱書をパラパラと捲ってみた。中に細長い白い紙切れが挟まっていた。印刷じゃない。手書きだ。
書かれているのは一文だけ。
『二十二時三十分以降、二度目の鐘の音を聞いたら、明かりをつけるな』
署名はない。
文字はやたらと几帳面だった。普段から絶対に無駄書きなんかしない人間が、急いで書き残したみたいな几帳面さだ。林雨瞳か?いや、違う。葉綺安?もっとあり得ない。マリア?あいつが俺を外に誘い出すなら、こんなルールみたいな書き方はしない。バローロ?論外だ。
俺は紙切れをポケットに突っ込み、時間を確認した。
二十二時十四分。
外の廊下は相変わらず静かだ。消毒された血管みたいに静まり返っている。
だが、こんな静けさが長くは持たないことくらい、俺にはよく分かっている。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




