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134.人喰いの秩序 2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

あいつはどこ側に立っているわけでもない。「自分の手を動かせる場所」に立っているだけだ。こういう人間は、日常的にはとことん鬱陶しいが、本番で使う分にはとても安定している。道徳的なためらいもなければ、後から良心の呵責でぶれたりもしない。制限をかけられたときに不機嫌になるか、現場がきれいすぎると退屈そうにするくらいだ。


南に向かって三時間ちょっと走ったところで、車列は高速のサービスエリアに短く停車した。ごく普通の場所だ。ガソリンスタンドが二列、長距離バス用のスペース、コーヒーとサンドイッチを売る小さな売店、それから蛍光色の作業着を着た清掃員が何人か。警戒するほどの要素なんて、何一つないように見える。


けど、車から降りた瞬間、俺はここが「きれいじゃない」のを理解した。


埋伏が見えたわけでも、銃を見つけたわけでもない。


「普通」が、きれいに並びすぎている。


西側に停まっている黒いセダン。外のテーブルで新聞を広げている男。給油ポンプのそばでタバコを吸っているスーツが二人。ガラス扉の内側で電話しているふりをしている若い神父。


一人一人は、どこにでもいるモブにしか見えないくせに、互いの距離が絶妙で、視線の抜けも絶妙で、動線も、ちょうどいい。


俺はドアの横に立ったまま、すぐには動かなかった。


葉綺安が降りて、回り込んで俺の横に並び、俺の視線の先をなぞる。


「またこれか」


「ああ」


「今のお前、銃とネクタイ、どっちが怖い?」


「"効率"だな」


ここの効率は、やたらといい。誰が正面入り口を見張るか、誰がガソリンポンプに付くか、誰が車のそばで人数確認をするか、誰が誰かが急に踵を返して逃げ出したときに対応するか。全部が、ホテルのチェックインみたいにスムーズに組まれてる。ただし、骨組みは「拘束」だ。


K-7からはバローロ神父が降りてきた。黒い法衣は、南のこの強い日差しの下でも光を吸い込んだままだ。彼はぐるりと一周だけ場を見渡し、表情を変えずに、そのままサービスエリアの建物へ向かって歩き出す。もともと新聞を読んでいた男は、すぐに席を立つ。もう一人のスーツも半歩遅れて付いていく。どちらも、彼の行く手を塞いだりはしない。ただ、横に並ぶだけ。あれは護送じゃない。「より上位の権限を持つ何かが移動している」という事実を、確認しているだけだ。


「こっちじゃ、あいつの顔は通行証より効くみたいだな」俺が言う。


葉綺安はポケットに手を突っ込んだ。


「顔っていうか、トン数じゃない?」


林雨瞳は車から降りず、助手席の窓から身を乗り出した。手には地図と、さっき照合が終わったばかりの節点表。


「あんまり散らばらないで」彼女は言う。「ここには最低二組の"正式な先遣"がいる。一組は地方の聖職者、一組は、どこの管轄か分からない」


「どうやって分かった」


「靴」


一瞬、言葉が詰まる。


彼女はペン先で紙をとんとんと叩いた。


「地方の聖職者は仕事靴を履いてる。ソールが厚めで、かかとの減り方がばらばら。正式な先遣は、ハンドメイドの革靴。歩くときの角度がほとんど同じ。給油ポンプの横に立ってる二人を見なさい。立ち方がコピペみたいでしょ。普通の顧問じゃない」


言われたとおりにそっちを見る。


こいつ、助手席にいるのがもったいない。歩いてる損益計算書か何かだ。人間が地面を踏む角度まで、ちゃんと勘定に入れている。


レイチェルは車に残り、小希が隣に付いた。エリザヴェータはドアの外に立ち、半身をレイチェルと外界のあいだに差し込む。今日は昨日よりさらに静かだ。というか、冷たい。機嫌が悪いわけじゃない。集中している。ローマに近づくにつれて、彼女の体から「自分をその場に釘で打ち付けている」感じが強くなっている。あの扉を本当にくぐってしまったら、もう、眼と牙だけで支えきれる範囲じゃなくなるって、分かっているみたいな。


マリアは前導車の反対側に寄りかかり、サービスエリアの建物の上に立っている十字架の飾りを見上げて、ふっと笑った。


「イタリアって、本当に面白いわね。ガソリンスタンドですら、"ついでに告解できます"って顔をしてる」


「じゃあ行ってこいよ」俺は言う。「ついでにカルテも一緒に出してこい」


「あたし、罪なんかないもの」


「今の一言が、いちばん罪深えな」


彼女は眉を跳ね上げ、反論しようと口を開きかけたところで、林雨瞳が窓の中から一言、放り投げた。


「シスター、静かに」


マリアは、わずかに間を置いてから、本当に笑いを引っ込めた。唇に、見えないボタンを一つ留められたみたいに。この反応は、もはや珍しいを通り越して、「記録に残す価値がある」レベルだ。林雨瞳は、本当にこいつを押さえ込める周波数を見つけたらしい。権威でも、感情でもない。単純に、「うざさ」がちょうどいい。


バローロ神父が戻ってきたとき、手には牛皮紙の封筒が一つ増えていた。スーツの男は車のそばまで付いてきたが、それ以上近寄らず、三歩手前で止まる。バローロはK-7のドアを開ける前に、こちらを一瞥した。


「乗れ」


「新しい"お達し"か?」


「新しい名簿だ」


眉をしかめる。


「どんな名簿」


外では何も言わず、そのまま車に乗る。俺も前導車に戻った。ドアが閉まると同時に、林雨瞳が体をこちらに少し傾ける。俺が質問するのを待っているのが、見なくても分かる。無駄は省いて、すぐにK-7との内線をつなぐ。


「話せ」


イヤホンから聞こえるバローロの声は、相変わらず低くて落ち着いていた。


「今しがた届いたのは、一部の"関連名簿"だ。会社じゃない。人間のほうだ」


林雨瞳(リン・ユートン)はすぐにペンを耳の後ろに挟み、白紙のページを開いた。


「報告して」


「神職者五名、民間企業の役員三名、医療顧問二名、物流調整役の神父一名、保険弁護士一名。全員が『ピエタ・ホールディングス』と『ヴィア・ルーチス・アセット・リカバリー』の接点に蠢く連中だ」


俺は二秒ほど沈黙した。


「それは『自白』か、それとも『餌付け』か?」


「両方だ」バローロが応じる。「自分たちが事を進めていると、我々に見せつけたいのだろう」


「同時に、『踏み込んでいいのはここまでだ』と線を引きに来てもいるわけね」リン・ユートンが傍らで低く付け加えた。


「そういうことだ」


この手の局面で、スーツ組が好んで使う手口だ。食いつきそうな『本物』の情報を少しばかり撒いて、「追い返されたわけではない」と錯覚させる。その裏で、核心の上層部へ繋がる太いパイプはしっかりと土中に埋め戻しておくのだ。奴らは「問題が存在すること」自体は恐れていない。「その問題が、具体的にどの生きた人間の首根っこに繋がっているか」を暴かれるのを恐れている。


車列が再び走り出すと、周りの空気が変質し始めた。


誰かが怒鳴り散らしたわけでも、銃口を突きつけられたわけでもない。ただ、すべてが不自然なほど『滑らか』に回り始めたのだ。交通の流れはスムーズになり、検問の数は減り、補給地点の手際も完璧。先行する護衛車に届く現地支援の連絡すら、極めて簡潔で無駄がない。この『順調すぎる状況』は、決して吉兆ではない。もっと巨大な手が、先回りして沿道の障害物を排除してくれている証拠だ。問題は、その手が俺たちの味方ではないということだ。


俺はこの手の状況がいちばん気にくわない。


確かに安全ではあるが、それは俺たちが戦って勝ち取った安全ではなく、「今は生かしておいてやる」と何者かに判断されているだけの安全だ。両者の意味は天と地ほど違う。前者は実力、後者は単に飼い慣らされているに過ぎない。


午後二時を回ると、空にはイタリア特有の光が差し始めた。乾いて、白く、硬質的な光。あらゆる影を足元へ押し潰すような日差しだ。**車窓**の外の景色も、北のどんよりとした灰色から、土と石が剥き出しになった直接的な色彩とギラつく反射光へと変わっていく。農場、工業倉庫、高速のジャンクション、葬儀屋の看板、教区の物流センター、慈善団体の倉庫が、次々と後ろへ流れていく。リン・ユートンがいくつかのデータを突き合わせ終え、ふいに口を開いた。


「右を見て」


俺はそちらへ視線を走らせた。


さほど大きくはない物流倉庫街だ。外壁には慈善団体特有の淡いロゴが描かれ、一見すればありふれた物資の中継拠点にしか見えない。だが、敷地に停まっている車両の顔ぶれがいびつだった。保冷車、霊柩車、ナンバー無しのバンが二台、それに美術品輸送用の密閉型トランスポーター。普通なら、これらが一箇所に整然と並ぶはずがない。


「『ミゼリコルディア・シェルター』ね」リン・ユートンが口を開く。「上流の補給は難民定住支援名目。けれど、下流で提携している保険会社は『ルーメン・バリアル・サービス』と同一の法務顧問を雇っている。さらにその先を辿れば、『オルビス・マイナー・カルチュラ』の高額美術品輸送ラインへと突き当たるわ」


俺は一瞬だけ視界を掠めたその倉庫団地を目で追った。


「じゃあ、ここは倉庫じゃなくて胃袋か」


「どっちかっていうと腸ね」彼女は言う。「飲み込んで、バラして、別々の場所に送り出す」


俺は短く鼻を鳴らした。


「つまり、人もモノも一緒に流れてるってことだな」


「そう」


車内が静かになる。レイチェルは話の全容を理解してはいないだろうが、俺たちがどの方向の話をしているかは感じ取っている。彼女は顔を窓の外に向けたまま、何も言わない。小希(シキ)がそっと彼女の手の甲に触れた。慰めの言葉はない。ただ、隣に誰かいることを伝えるだけ。その方が、どんな空虚な言葉よりもずっと意味がある。


夕方が近づくにつれて、ローマ方面の道路標識が密集し始めた。


妙な感覚だ。ゴールが近づいたときの解放感じゃない。圧迫感に、名前がついてくる感じだ。ここまでずっと「南へ」というだけだったのが、急に、具体的な場所が前方で待ち構えているものになる。道路には教区のナンバープレートが増え、聖職者の服装が増え、一見ふつうだけど清潔すぎるバンが増えていく。前方の護衛車から、後方に二台のスーツ車が四十キロ追走していると報告が入った。詰めてはこない。距離を保つだけ。K-7からはバローロの短い一言だけが返ってくる。


分かっている。

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