133.行政手続き 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
林雨瞳が振り返って見た。大人に話すときより少し柔らかい口調だったが、それでも直接的だった。
「そう。ものだけじゃない。人も、薬も、設備も、沈黙も運んでた」
レイチェルはそれ以上聞かなかった。
ただコートの端を指で掴み、指の関節が少し白くなった。バックミラーからその動作が見えたが、慰めの言葉はかけなかった。今は慰めても意味がない。柔らかすぎるし、俺たちが答えを握っているという誤解を与えかねない。今の俺たちはせいぜい最初の一枚皮を剥いたところで、骨までは程遠い。
十一時近くになると、車列は幹線道路を離れて、細い地方道路に入った。両側にブドウ畑、低い石垣、古い農家が現れ始めた。空気は少し乾いたが、風はさらに硬い。聖ルチア旅客院は斜面と林の間に挟まっていた。大きくなく、修道院というより教区の人間が一泊するための古い宿に近い。主棟は二階建て、灰色の壁に濃い色の瓦、前院には七、八台の車が停められる。脇に低い附属棟がある。
一番おかしかったのは、院の中にすでに人がいたことだ。
修道士でも黒衣でもない。
スーツだ。
三人の男、黒いスーツ、白いシャツ、濃い色のネクタイ、外套は体に沿った仕立てで、靴の表面はワックスをかけたばかりみたいに光っている。外側に十字架はなく、聖職者の衿もなく、教会が纏うべき慈悲の外観のかけらもない。三人は前院に立っていた。場違いな場所に置かれた高級な棺桶の釘三本みたいだった。横に濃いグレーのセダンと標識のないバンが一台、ナンバープレートが気持ち悪いくらいきれいだった。
車を停めたとき、前の護衛車はすでに人員を展開していた。K-7もゆっくり院内に滑り込み、重機のエンジンが低く二度喘いでから静かになった。バローロ神父が先にドアを開けて降りた。黒い法衣に、長距離ドライブを終えた貨物ドライバーみたいな重い足取り。高速道路から自分で歩いてきた墓石みたいだった。
三人のスーツ男が同時に振り返った。
真ん中の男は四十代前半くらいで、生え際が整っていて、鼻筋が細く、目は灰青色で、笑顔に温度がない。バローロを見て先に頷き、それから視線を俺たちのほうへ移した。その目は無礼じゃないが、今すぐ車のドアに押しつけて身体検査したくなる類の目だった。
こういう人間は見たことがある。
軍人でも、工作員でも、官僚でもない。組織の内部の、誰も好きじゃないけど誰もが顔を立てなければならない部署に属している連中だ。存在してはいけないものを正しいフォルダに収め、生きていなければならない人間を間違ったリストに移すことを専門にしている。
「モンシニョール授権代理」林雨瞳が小声で言った。「少なくとも表向きはそう名乗る」
「なんで分かる?」
「こういう人間は自分のことを尻拭い係とは言わないから」
車のドアが開いて、マリアが先に足を出した。三人のスーツ男を見た瞬間、薄い笑みを浮かべた。
「ああ」彼女は言う。「ネクタイの死体ね」
葉綺安が続いて降りてその言葉を聞き、平坦に返した。
「今日は比喻の質が上がってるわね」
「私はいつも文学的よ」
「あなたのは病歴の注釈よ」
俺たちが降りて立ち位置を決めた。シキがレイチェルを連れて降りようとしたとき、俺は手を上げて待つよう示した。バローロも二番車を見て、先に一言言った。
「彼女は車内に残れ」
三人のスーツ男のうち、左の一人が何か言いかけたが、真ん中の男が手を軽く上げて止めた。
彼が二歩前に出た。笑顔は公文書のテンプレートから切り取ったみたいに標準的だった。
「皆さん、こんにちは。アンジェロ・フェッラーリ、教廷特別行政調整室です。こちらはロッシ顧問とデ・ルーカ法務官です」
俺は彼を見た。
「随分きれいな名前だ」
彼は聞こえていないふりをしたか、聞こえた上で受け流したか、礼儀正しく俺の顔に視線を止めた。
「周さんですね」
「他に誰がいる?」
「お名前はかねがね」
「『久仰』って言われるとき、大抵その後で俺の荷物を持っていく奴が来る」
アンジェロが一度笑った。やはり温度のない笑いだった。
「では今日は、お互い時間を節約できそうですね」
バローロ神父が直接彼の前に立った。体格と体積だけで、三人のスーツ男の整然とした雰囲気を一段押し潰した。
「回り道はやめろ」神父は言う。「何が見たいのか、直接言え」
アンジェロは彼を見て、笑みがわずかに薄くなった。
「資料。原本の帳簿。抜粋副本。初期識別名簿。それと——」彼は少し止まった。「——関連する生きた証拠」
この一言で、車の周りの気圧が一段下がった。
俺は半歩前に出た。
「手を伸ばすのが早すぎる」
アンジェロがようやく正面から俺を見た。
「周さん、この件が正式な手続きに入った場合——」
「『正式な手続き』って言葉が一番嫌いだ」俺は言う。「大抵、責任を細かく刻んで、現場にいなかった全員に均等配布するための言葉だから」
デ・ルーカ法務官が眉をひそめた。これほど直接的な物言いに慣れていないらしい。バローロは俺を止めなかった。マリアは車のドアに寄りかかって両腕を組み、血が流れるのを期待している観客みたいな笑顔を浮かべていた。
アンジェロは少し領帯を整えて、それでも安定していた。
「では言い方を変えましょう。地下施設の背後にある資金の流れは、国際法人、戦後復興基金、慈善非課税、医療調達、そして複数の宗教資産保全機構に関わっています。原資料が非公式なルートで流通すれば、南回廊の安全ラインが崩壊します。その場合、あなたたちだけでなく、今も機能している多くの庇護拠点が一緒に露出します」
この話術は完成度が高かった。
しかも半分は本当のことだ。
俺はすぐには返さず、林雨瞳を見た。彼女はすでにファイルを両手で抱えていて、目はそろばんの珠みたいに冷たかった。
「南回廊の安全ラインとおっしゃいましたね」彼女が口を開いた。「では逆に聞きますが。Vita Nuova Relief GmbHとHelios Cold Transit SAは運転手を共有し、燃料の請求書を共有し、夜間倉庫を共有しながら、異なる国の善意審査では別々の司教区名義を使っています。これは安全ラインですか?それとも資金洗浄の経路ですか?」
アンジェロがすぐには返さなかった。初めてだった。
林雨瞳はさらにページをめくった。
「続けます。『ルーメン・バリアル・サービス』の直近四半期における保冷車の整備費は、登録車両すべての購入総額を上回っている。提携先として記載された三箇所の葬儀場も、二つは更地、残り一つはとっくに廃墟……この会社が実際に何を運んでいたのか、説明していただけますか? 死体ですか、機材ですか……それとも、生きた人間ですか?」
ロッシ顧問の顔色が、わずかに陰った。
俺は横でそれを観察していた。こちらの追及など表面の端をかじった程度だと高を括っていた奴が、すでに骨の奥まで探り当てられていると気づいたときに見せる顔だ。
アンジェロは今度は笑わなかった。
「林さん、だからこそ我々が引き継ぐべきなのです」
「いいえ」リン・ユートンは冷ややかに言い返した。「それこそが、あなた方に渡せない理由よ。このルートを利用していたのは、外部の人間だけではないのだから」
そこでバローロ神父が口を開いた。重い鉄の鐘を卓上に叩きつけるような声だった。
「名簿だ」
アンジェロが視線を向ける。
「どの名簿のことでしょうか?」
「ここへ来る前に、お前たちが握っていた会社名だ」バローロは鋭い眼光で男を射抜いた。「吐け」
空気が凍りついた。
俺は腹の中で短く笑った。普段は口重い巨漢神父だが、喋れば必ず敵の急所を突く。スーツ組と不毛な議論をするつもりなどない。奴らが火消しに走ってきたのか、焼け跡の利権を奪いに来たのかを見極めようとしているのだ。
アンジェロは三秒ほど沈黙した。
やがて、五つの社名を口にした。
ピエタ・ホールディングス、フォンス・アウレア・アドバイザリー、オルビス・マイナー・カルチュラ、サン・ジェラルド・プロキュアメント。そして最後のひとつ——俺たちの帳簿解析でも、まだ尻尾を掴み切れていなかった会社名。
ヴィア・ルーチス・アセット・リカバリー。
リン・ユートンの瞳の奥が、すっと沈んだ。
俺にもピンと来た。
最後の社名は、半分焦げた送金添付書類と、ヘッダーのない保険照合書二枚にしか出てきていない。俺たちは外部には一切話していない。昨夜車内でようやく初期確認したばかりだ。これは二つのことを意味する。一つは、教廷内部に俺たちより早く知っていた人間がいる。もう一つは、彼らは今日、状況把握に来たんじゃなく、損害管理の接収に来たということだ。
あの三人のスーツ男を見て、ネクタイというものが鋼鉄の鎖より恐喝道具に向いていると初めて思った。
「情報が早いな」俺は言った。
アンジェロは両手を体の前で組んだ。企業買収会議を開いているみたいな姿勢だった。
「周さん、私たちは敵ではありません」
「その台詞は大抵、本当の敵の口から聞く」
マリアが横で噴き出した。自分の心の台詞を先に言われたのを待っていたみたいに。
「好きよ、あなた」彼女はアンジェロに言う。「あなたがいると、彼が人を殺したくなる気持ちが高まる」
デ・ルーカ法務官がとうとう眉をひそめた。
「修道女、場をわきまえてください」
マリアはゆっくり彼を見た。あの氷みたいに青い右目が、嫌らしいくらい輝いている。
「あなたがその格好で、私に場をわきまえろと言うの?」
次の一言で発症が始まると思った瞬間、林雨瞳は顔を向けることもなく、冷たく一言落とした。
「修道女、黙って」
全員が一拍止まった。
マリアは彼女を見て、口元がじわじわと曲がった。傷口に自分の好きな塩を少し振りかけてもらったみたいな顔だった。
「はい」彼女は言った。
この女は本当に病気だ。
俺は本題に戻った。
「原本の帳簿は全部は渡せない」俺は言う。「副本は交渉の余地がある。抜粋も交渉できる。生きた証人については交渉しない」
アンジェロは俺を見て、それでも安定していた。
「あなたには最終決定の権限がありません」
「あなたにもない」俺は言う。「少なくとも俺がここに立っている間は」
バローロ神父は中央に立っていた。どちらの肩も持っていないが、その立ち方自体が圧制だった。彼を越えようとするなら、まず体積を越えなければならない。
「副本の一部を渡す」彼は言う。「原本は動かさない。人も動かさない」
アンジェロの目に初めて、かすかな苛立ちが過った。
「神父、これは現場が単独で裁量できる範囲ではありません」
バローロは彼を見下ろした。山に向かって立ち方を教えようとしている石を見るような目だった。
「では、裁量できる人間を呼んでこい」
この一言は重かった。
駄々をこねているわけじゃない。本当にそれを言える立場にいるから言っている。
アンジェロは一度息を吸って、表情をきれいに収めた。
「分かりました」彼は言う。「では、せめてまず資料の範囲を確認させてください」
今回は俺は止めなかった。
林雨瞳は切り取り加工済みの摘要副本を一部取り出し、旅客院の接待棟の中で彼らと照合した。全部じゃない。俺たちが出まかせを言っているわけじゃないと証明できる程度、かつ血管の全体像を一度に掴ませない程度だ。
接待棟の中は静かだった。
長テーブル、木の椅子、古い暖炉、壁には聖母の絵が一枚、色は灰色しか残っていない。本来は聖職者が一泊するための場所だったはずが、今は軍需交渉より臭いものが一卓に揃っていた。貨物ドライバー体型の狂信神父、移動する手術刀みたいな修道女、そろばんで人を切るほうが刃物より正確な林雨瞳、葬儀業の重役みたいなスーツを着た教廷先遣三人、そして俺だ。
レイチェルは入らなかった。
車に残り、シキが付き添い、エリザヴェータもいる。それでいい。この卓の中身は、まだ生きていたい人間に見せるものじゃない。
林雨瞳は資料を広げ、核心だけを話し、出所の詳細は話さなかった。
「この会社群は並列運営じゃない、直列接続だ。上層に善意の寄付金、下層に物流、その間に保険、調達、損失計上、医療代替品、法的清算を挟んでいる。最も問題なのは取締役の交替サイクルが異常に短く、しかも半数の取締役が聖職との関連を持ちながら、直接教区名義には紐づいていない」
ロッシ顧問がようやく口を開いた。紙みたいに乾いた声だった。
「聖職との関連は、教廷が指示したことを意味しません」
「分かってます」林雨瞳は言う。「死人でも書類にサインできる。でも今問題なのは、あなたたちが切り離したいかどうかじゃない。あなたたちの内部の誰かが、教会、慈善、戦後復興、人口移送を一本の、見た目だけ合法な輸送ベルトに繋いだことだ」
アンジェロが指を一つの会社名の上に置いた。
「Via Lucis Asset Recovery、これはどうやって入手したんですか」
「あなたたちがどうやって知ったのか、先に言ってくれ」俺は返した。
彼は顔を上げて俺を見た。
「周さん、このやり取りでは前に進めません」
「違う」俺は言う。「このやり取りでこそ意味がある。あなたが俺たちより早く知りすぎているなら、あなたが本当に資料を守りに来たのか、それとも中に書かれた人間を守りに来たのかを疑わなければならないから」
バローロ神父は彼の肩も俺の肩も持たなかった。ただ摘要を数枚めくりながら、判決書を読むような目をしていた。
デ・ルーカ法務官がようやく話題を手続きに引き戻そうとした。
「いずれにせよ、この内容が外部に流出すれば、不可逆的な司法・外交リスクが生じます」
俺は彼を見た。
「地下のあの連中が最初からリスクなしだったみたいな言い方だな」
「そういう意味では——」
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