133.行政手続き 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
聖ワレリウス避難院を出るとき、空はすでに完全に明けていた。
その明け方は優しくなかった。冷たい鉄板を誰かが東の方角からゆっくり押し上げてきたみたいで、山道、ガードレール、濡れた斜面、タイヤの跡、昨夜洗い切れなかった血の痕を一緒に照らし出した。護衛車が先に出て、車頭を窪みに押し当てながら前へ探っていく。俺の先導車がその後に続き、K-7が中後段を押さえる。バックミラーから見ると、あの灰黒色の鋼鉄の塊は相変わらず自分で動く棺桶みたいだったが、今日唯一違うのは、ハンドルを握っているのが運転手じゃなくバローロ神父だということだ。
それだけで十分、胃が落ち着かない。
昨夜、神に赦しを乞いながら人間を石畳に叩き込んでいた狂信者が、今朝は長距離トラックの熟練ドライバーみたいに重機を安定して南下させている。このギャップは荒唐無稽じゃない。現実が顔面を踏みつけてくるときに生えてくるやつだ。
俺はハンドルを握ったまま、何も言わなかった。
林雨瞳は助手席で膝の上に三つのものを広げていた。南下ルート、停留リスト、そして地下から持ち帰った黒い帳簿の整理稿だ。乗り込んでから一度も顔を上げず、ペンが紙の上を走り続けている。外科解剖をしているみたいだった。後部座席のマリア修道女は二十キロほど静かにしていた。静かすぎて、ようやく良心が戻ってきたか、昨夜の発症が完全燃焼して今日は在庫切れかと思い始めた頃だった。
俺の見込みはそれほど外れていない。ただ、人間が理性を取り戻す速度を少し買いかぶっていただけだ。
「周士達」後ろから声がした。寝起きの薄い掠れ声だった。「あなたの運転、お通夜の付き添いみたいね」
「お前が黙れば慈善事業になる」
「安定してるって言ってるのよ」
「お前の褒め言葉は炭疽菌と同じくらい有難い」
彼女が一声笑って、座席の端で足をゆらゆらと揺らした。黒いロングストッキングに包まれた足が余光の中で揺れている。精神科病棟と修道院をミキサーにかけて、無理やり同じ制服に詰め込んだみたいな光景だった。
葉綺安は俺の右後ろに座り、目を閉じたまま、だるそうに一言投げた。
「今日はずいぶん優しいじゃない」
「朝から機嫌がいいの」マリアは言う。
「あなたの朝の機嫌がいいとき、大抵誰かが今日ひどい目に遭う」
「私のことよく分かってるわね」
「分かってるんじゃない」葉綺安は言う。「防災の経験よ」
車内が一拍静まった。
シキは中列でレイチェルの隣に座り、小声で水を飲むかどうか聞いていた。レイチェルはコートを肩に掛けていて、顔色は数日前よりわずかに良くなっているが、まだ細く、目の奥がまだあの地下施設から完全には這い出せていない。車窓のガラスに映る自分の姿を見なくなったのは、前進だ。エリザヴェータはその反対側に座り、道中ずっと口数が少なく、手だけはいつでも誰かを遮れる位置に置いていた。保護欲というより、自己罰から引き出された反射みたいだった。彼女はもう、あの高慢で冷たくて人を一瞥するのも面倒がる吸血種には見えない。借金を抱えすぎて、どこへ返しに行けばいいか分からなくなった人間みたいだった。
ヴィクトリアは最後列で工具と一緒にいて、車内の口喧嘩には完全に参加していない。ずっと銃機関部の分解整備と点検を続けていた。昨夜の襲撃は彼女にとって、整備が必要な部品を増やしただけのことらしかった。
俺はこういう人間のほうが好きだ。
空気を無駄にしない。
山道は南へ続き、まず林地を抜けてから幹線道路に合流した。湿った冷たい斜面が両側に退いていき、車列がより広い路面に入って、ようやく速度が上がった。護衛車が前で風を切り、K-7のエンジン音が後方から安定して圧しかかってくる。いつでも落ちてくる準備ができている黒い心臓みたいだった。
林雨瞳がようやく顔を上げ、一枚目の整理稿を俺のほうへ少し傾けた。
「聞く?」
「もう口を開いたんだから、俺が聞きたいかどうか気にするか?」
「気にしない」彼女は言う。「だから聞いてればいい」
俺は相槌を打った。
彼女は紙の束をめくって、本題に入った。
「地下から持ち帰った帳簿は、表面上三層に分かれている。第一層は正規帳:燃料、修繕、医療消耗品、食料、外注警備、道路補給。第二層は偽装帳:慈善財団、難民輸送、児童保護、宗教修復、コールドチェーン薬品。第三層は帳簿じゃない。経路だ」
「どんな経路だ?」
「金をきれいにする経路」
彼女はペンで紙面を叩いた。びっしりと矢印、コード、会社名が書き込まれていて、複数の国をまたいでいる。死体の血管で描いた地図みたいだった。
「ポーランドで入って、チェコを経由して、オーストリアで洗って、北イタリアで封じる。最後は一部がローマ周辺に流れるが、教廷の帳面に直接入るんじゃない。宗教的な名前を一切使わないペーパーカンパニーを一回りして入る」
俺は前の路面を見ていた。
「ペーパーカンパニーのリストは?」
「今のところ安定稼働が十二社、使い捨てが七社、すでに閉鎖が三社、あとは取締役と住所だけあって実態のないものが四社。会社名はどれも普通すぎて気持ち悪い。貨物輸送、葬儀、食品、医療機器、冷凍物流、文化修復、児童支援、被災地テント、低温保管」
「具体的には?」
林雨瞳が一つずつ読み上げ始めた。
「ウィーン登記の『ビタ・ノーバ・リリーフ』、表向きは難民物資の輸送。プラハの『サン・ジェラルド・プロキュアメント』、名目は医療品調達。ウッチとクラクフの間にコールドチェーン網を持つ『ヘリオス・コールド・トランジット』。『ルーメン・バリアル・サービス』は遺体処理と葬儀。『オルビス・マイナー・カルチュラ』は宗教美術品の修復を標榜。『フォンス・アウレア・アドバイザリー』が法務と財務のコンサル。そして『ミゼリコルディア・シェルター』が難民の定住支援……最後、一番『クリーン』なのが『ピエタ・ホールディングス』ね。漂白剤で徹底的に洗い流したみたいに、真っ白よ」
「一番汚いのはどこだ?」
「全部」
彼女はページをめくった。
「ただ、汚れ方が違う。正規の帳簿に偽の帳簿を混ぜているところもあれば、死人を取締役にしているところもある。修道院の倉庫を架空の物流拠点として使っているところもある。二社は同じトラック運転手を共有しているのに、保険、燃料、通関、駐車伝票は全部別会社名義になっている。急ごしらえじゃない。何年もかけて経営してきたものだ」
俺は短く鼻を鳴らした。
「教廷に商売上手がいるな」
「上手なだけじゃない、手慣れてる」林雨瞳は言う。「もっと厄介なのは、この金が純粋な横領じゃないこと。半分は実験室を隠蔽するためで、残り半分は表に出られない行動ラインを養うためだ。人員、車両、薬品、文書、医療廃棄物、遺体処理、人口移送まで、この無害そうな会社の帳簿の中に残影が見つかる」
「残影?」
「そう。証拠が全部そこにあるわけじゃない。でも確実に存在するのは分かる。ただ、一筆ずつが少しだけ顔を出しているだけ。誰かが死体を細かく切り刻んで、別々の国に分けて預けたみたいに」
後ろで半分うとうとしていたマリアが、突然一声笑った。
「その比喩、なかなかいいわね」
バックミラーで一瞥した。
「お前は専門家っぽく反応するな」
「林さんの言語センスを評価してるだけよ」
林雨瞳は振り返りもしない。
「ありがとう。車から落とされたくなければ、引き続き静かにしてて」
マリアは本当に黙った。少なくとも一時的に。
彼女が怖じ気づいたわけじゃない。こういう正面から踏みつけてくるやり方が新鮮なんだ。狂人というのはそういうもので、自分のペースに乗ってこない人間に出会うと、かえって少し落ち着く。
車はさらに四十分南へ進み、道路が比較的平坦な地帯に入った。田畑と工業倉庫が山の斜面に取って代わり、遠くの空は奥行きのない白さで、刃物で削り取ったみたいな白鉄の一枚板みたいだった。前方の護衛車から短い通信が入り、路況異常なしと報告があった。後方のK-7からも同じくらい短い返答が来た。「問題なし」。
それがバローロの流儀だ。
無駄口を叩かない。
ところがその無駄口を叩かない重量級の神父が、今日は自分から無線に割り込んできた。
「先導車」
通話ボタンを押した。
「何だ」
「十一時二十分、ルート変更」
「理由は」
「会合だ」
俺は眉をひそめた。
「誰と?」
無線の向こうが一拍置いた。
「先遣要員と」
林雨瞳を横目で見た。彼女も俺を見た。眉の寄り方が俺より深かった。
「どういう先遣だ?」
バローロは言った。「黒衣じゃない。正式な種類だ」
大体分かった。
黒衣の先遣が現場を押さえ、口を封じ、時間を稼ぐためのものだとすれば、正式な先遣が触れるのは血じゃない。書類、手続き、切り離し、否認、保険、授権、そして誰を死なせるかをどう合法的なフローに落とし込むかだ。
こういう連中は大抵、黒衣より面倒だ。
鉄鎖は持っていない。ネクタイと委任状だけだ。でも往々にして、こいつらこそが、地下施設一つを書類の上から存在しなかったことにできる。
「場所は」俺は言った。
バローロは平坦に返した。
「聖ルチア旅客院、南側接待棟」
それから彼は通信を切った。
俺は通話ボタンを離し、最初に出た言葉は愚痴じゃなく、罵倒だった。
「くそ」
葉綺安が後ろから付け足した。
「その『くそ』、昨夜神父が人を折り畳むのを見たときより、よっぽど本音が出てるわね」
「人を折り畳むのは理解できる」俺は言う。「スーツにネクタイの先遣は、最終的に誰が『自分で転んだ』ことにされるのかしか分からない」
林雨瞳は資料を整えて、その中の二枚の紙を指で叩いた。
「本当に正式な先遣なら、今日は接応だけじゃない」
「他に何をする?」
「私たちがどれだけ持っているか、確認しに来る」
誰も反論しなかった。
黒い帳簿というものの一番厄介なところは、どれだけ黒いかじゃない。一度手に入れてしまえば、帳簿の裏に隠れていた連中が二つのことを計算し始めることだ。一つは穴をどう塞ぐか。もう一つは、穴を見た人間をどう処理するか。
レイチェルはずっと静かに聞いていたが、そのとき小さな声で聞いた。
「あの会社たち……地下のあの場所のために、ものを運んでたの?」
車内が二秒静まった。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




