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129.法皇庁異端審問局 4

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

マリア修道女は笑った。


状況が複雑になるたびに、この女は嬉しくなる。あの氷みたいに青い右目が少し輝いた。誰かがようやく期待していた刃の切っ先を表に出してくれたかのように。


「いいわね」彼女はそっと言った。「ようやく自分の口で話せる人が出てきた」


俺は無視した。


レイチェルの視線は動かない。


バローロ神父を二秒見つめた。壁みたいに高いこの男が何者なのかを見定めるように。神父は彼女に近づかなかった。それは正解だ。あの体格とあの圧迫感で、地下牢から引きずり出されたばかりの人間に向かってあと一歩でも踏み出せば、それは救出じゃなく二度目の引き渡しになる。


「Rachelというんだな」バローロが口を開いた。


問いかけじゃない。


レイチェルは頷く。


「私はバローロだ」彼は言う。「ヴァチカン法皇庁、異端審問局」


この自己紹介は率直すぎて、かえって最悪だ。


普通の人間にとって、異端審問局という言葉は地下実験室とそう大差ない響きを持つ。神父自身もそれは分かっているらしく、権限だの手続きだの保護機構だのという無意味な話は続けなかった。ただそこに立って、声を少し低くしながらも、壁みたいな厚みは崩さないまま言った。


「君を捕まえに来たわけじゃない」彼は言う。「後に続く厄介ごとから、君を連れ出しに来た」


レイチェルは彼を見ている。


信じてもいないし、完全に疑っているわけでもない。


ただ、見ている。


あの目は地下で何度も見た。敵意じゃない。長く生き延びてきた人間が、自分を助けると言う存在に対して、とりあえず判断を保留する目だ。


「みんなそう言う」彼女は言った。


この一言で、会議室がもう一層静まった。


マリアの口角の笑みがさらに深くなった。この女の子がプログラム通りに動かないのが、気に入っているのだろう。


バローロ神父は怒らなかった。


「その通りだ」彼は言う。「多くの人間がそう言い、そしてその多くが嘘をついている」


悪くない返しだ。


少なくとも、自分を必要以上にきれいに見せようとしていない。


レイチェルの視線が俺に向いた。


神父を見ていたより少し長く、俺を見た。俺のほうが信用できるからじゃない。この数日間、目を覚ましたときに見えていたのが俺たちの側の人間だったからだ。後棟のあの部屋、扉の前の警備員、医療班の手の動き、エリザヴェータのあの過剰なくらい律儀な守り方。全部同じ側の匂いがする。好きかどうかはともかく、少なくとも見覚えがある。


俺は目配せもしないし、彼女のために表情も作らない。


こういうときに誰かが誘導しようとしたら、その手首をへし折るべきだ。


「言いたいことがあるなら、直接言え」俺は言った。


レイチェルはコートの端を握り、指にさらに力を込めた。


喉が動く。


「私は……まずは、あなたと行く」


その言葉が出た瞬間、マリア修道女がごく小さな吐息のような笑い声を漏らした。


驚きじゃない。


最初から退屈しないと分かっていた芝居が、ようやく一番面白い場面に差し掛かったときの、期待通りだという笑い方だった。


バローロ神父は笑わず、すぐには返さなかった。


ただレイチェルを見ていた。彼女がまだ続きを言うかどうか、待っていた。


レイチェルはまだ終わっていなかった。


「まず」彼女はもう一度繰り返した。声が少し前より安定していた。「イタリアを離れるまでは……私、あなたと行く」


少し間を置いて、視線が俺を掠めてからバローロに戻った。


「その後は、自分で決める」


これは見事だった。


誰かに教えてもらったわけじゃない。


扉の外でこの争奪戦を最後まで聞いて、自分でこの話し合い全体をばらばらに解体して、一段ずつ区切りにして、自分の選択肢を手元に残した。


俺は急に煙草が吸いたくなった。


気が緩んだからじゃない。この女の子が、テーブルを囲んでいた連中の半分より、言葉を規則に変える術を知っているから。


カミラが先に口を開いた。


「了解」彼女は素早く言った。この厄介な爆弾をようやく誰かがテーブルから運び出してくれたときの声だった。「こちらは受け入れる」


当然だ。


ポーランド側は最初から人を手元に置きたくなかった。薄情なんじゃない。自分の立場を分かりすぎているからだ。こういう生きた証人と黒い帳簿が紐づいていれば、置いた場所が教廷、地方政府、歴史機関、情報機関からの一連の面倒を引き受けることになる。カミラは一定期間は抱えられる。だが誰かのためにそれを一生背負うつもりはない。


マレクも異論なし。


林雨瞳(リン・ユートン)はただ俯いて、テーブルの上の「保護プログラム」と書かれた紙を裏返した。最も静かなやり方で「よかった、一ページ省けた」と言っているようだった。


すぐに口を開かなかったのは、バローロだけだ。


レイチェルを見続けていた。この言葉が無理やり引き出されたものじゃないか、虚弱な状態で口から出た勢いだけの言葉じゃないかを確かめるように。随分長く見ていたので、この老いぼれが宗教的権威を盾に強引に押し切るんじゃないかと思い始めた頃——


彼はゆっくりと一度頷いた。


「いいだろう」彼は言った。


マリア修道女の笑みは消えなかったが、明らかに少し失望の色が混じった。


神父と俺が本気でやり合う場面を期待していたのだろう。残念ながら、そうはならなかった。


バローロ神父が視線を俺に向けた。


今度は正面からだ。


逃げ場はない。


「今この瞬間から」彼は言う。「彼女は一時的に君が連れて行く。イタリアを離れるまでの間だ」


俺は頷いた。


「その後は?」


「その後は彼女が自分で決める」彼は言う。「君でも私でも、ここにいる誰でもない」


「さっきそれは聞いた」


「なら、次の言葉も一緒に聞いておけ」


彼は半歩前に出た。


たった半歩だ。


それでもテーブル全体が、急に重くなったみたいだった。


俺は動かなかった。


神父のあの灰白色の目が俺の顔に据えられ、声は大きくないのに、一語一語が深く打ち込まれてくる。


「手癖は綺麗にしておけ、周士達(ジョウ・シーダー)


会議室の誰も口を開かない。


マリア修道女が横で唇の端を舐めた。この言葉をずっと待っていたみたいに。


俺は神父を見た。


「あんたは俺を何だと思ってる?」


「現時点では、まだ戦術的価値のある人間だと思っている」彼は言う。「同時に、境界線が不十分で、私生活に問題があり、本能と暴力に頼りすぎる人間でもある」


「路傍のゴミ扱いはやめてくれ」


「反論したいなら」バローロは言う。「口で言い返すより、実際にやって見せることだ」


この台詞は腹が立つ。


でたらめを言っているわけじゃないから。


あの重くて硬い物差しで、俺を測っている。全部が当たっているわけじゃない。でも十分な数の項目が当たっているから、聞いていてよけいに頭に来る。


マリアがここで嬉しそうに追い打ちをかけた。


「神父はかなり遠回しに言ってくれてるわよ」彼女は笑いながら言う。「私が言うなら、あなたは見るからに保護責任を私物化しそうなタイプだって、直接言うわ」


「それ以上言うなら口を縫い合わせるぞ」


「できるわよ」彼女は首を傾け、銀色の短い髪が首筋の黒い茨の首飾りをさらりと掠めた。「その前に、あなたの体で新しい固定方法を二種類試させてくれるなら」


「コンクリートミキサーに飛び込むほうがマシだ」


「そんなに早く断らないで」彼女は言う。「あなた、以前私のことをSMのコスプレ趣味の変態って罵ったわよね。あの一言、ずっと覚えてるの。本当にずっと。かなり長い間」


「記憶力がいいな」


「他のところも優れてるわよ」彼女は微笑む。「特に、人を後悔させることに関しては」


カミラがここまで堪えて、ついに冷たく割り込んだ。


「修道女、もう一言でも余計なことを言ったら、刀ごと弾薬庫に鍵かけて閉じ込める」


マリアが首を傾けて彼女を見た。笑みは変わらない。


「隊長、怖いわね」


「今は相当手加減してる」


「私と似てるじゃない」


「あなたほど頭はおかしくない」


「それは否定しないわ」


俺はこの二人を無視して、視線をバローロから外さなかった。


「神父」俺は言う。「俺が彼女に手を出すと思ってるのか?」


「君が自分の立場を忘れることを恐れている」


「俺は彼女を連れ出した人間だ」


「君は彼女をある場所から別の場所へ運んだだけだ」バローロは言う。「本当に救ったと言えるかどうかは、これからの話だ」


この言葉は重かった。


そして正確だった。


気に入らない。


でも、正確じゃないとは言えない。


地下でのあの一件、俺たちは確かに彼女を牢から引き上げて、入り口を一つ吹き飛ばして、帳簿を一山持ち帰っただけだ。それは彼女が安全になったことを意味しない。彼女のこれからの人生が自然によくなることを意味するわけでもない。それは最初から分かっていた。ただ、あいつの口から聞かされるのは、やっぱり気に入らない。


「だから先に俺と行くと言ってる」俺は言った。「永遠にじゃない」


「結構」バローロは言う。「その言葉を忘れるな」


彼は少し間を置いて、さらに聞き苦しい一言を付け足した。


「保護と責任、依存と所有を一緒くたにするようなら、私が直接お前を解体する」


会議室の空気が、氷水を浴びせられたみたいに変わった。


マレクは動かない。


林雨瞳(リン・ユートン)も顔を上げない。


カミラは無表情のまま。


エリザヴェータがついに壁際から口を開いた。薄い金属みたいに冷たい声で。


「神父よ、まるで己だけが境界線というものを理解しておるような言い草じゃな」


バローロが振り向く。


あの圧力がまたそちらへ流れていく。


「少なくとも、妾よりはな」彼は言う。


エリザヴェータの目が冷えた。


「己を何かの裁定者だとでも思うておるのか?」


「いや」彼は言う。「ただ、妾ほどには、一人の少女の脆さを己の懺悔の機会と取り違えたりはせん」


この一言で、部屋全体が瞬時に張り詰めた。


エリザヴェータの指がわずかに動いた。


ごく小さく。


でも俺には見えた。


この言葉は刺さった。


刺さり方が精確すぎて、彼が入室する前から後棟の部屋でこの数日間何が起きていたかを、全部知っていたんじゃないかと思えるくらいだった。


俺は横に一歩踏み出して、二人の視線の間に割り込んだ。


「もういい」俺は言う。「今日は全員の過去の清算に来たわけじゃねえ」


エリザヴェータは俺を見なかった。


ただバローロを睨んだまま、声を低くした。


「祈るがよい、神父よ。これから先にそなたがすることが、今口にした言葉と同じくらい潔白であることを」


「妾の祈りは要らん」バローロは言う。「妾の赦しもな」


「ならば、あの娘に手を出すでない」


「それを決めるのは妾ではない」


二人の間の空気は、もうすぐ血の匂いがしそうだった。


そのとき、レイチェルが口を開いた。


「もういい」


声は小さかった。


それでも全員が本当に止まった。


この女の子は扉の脇に立って、まだあのコートを握りしめている。肩は薄く、顔色は白く、一吹きの風で二階に吹き戻されそうだった。それでも俺たちを見る目の中の、あの硬い何かは退いていない。


「言ったでしょ」彼女はゆっくりと言う。「イタリアを離れるまでは、この人と行く」


俺を一瞥した。


ごく短く。


でも十分だった。


それからバローロ神父を見た。


「その後は……自分で決める。あなたは待てばいい。本当に私を守りたいなら、待って」


この言葉で、俺は彼女をもう一度見直した。


どこに刃を入れれば効くか、この子はよく分かっている。


自分の選択権を手元に取り戻しながら、相手を完全に追い詰めない。拒絶しているわけじゃない。待てと言っている。バローロのような、手続きと責任を命より重く扱う人間にとって、これは彼女が差し出せる最大限の猶予だ。


神父は長い間沈黙した。


マリアは笑わなかった。


さすがの彼女も分かっているのだろう。この言葉が出た後で騒げば、みっともないだけだと。


やがてバローロ神父はあの重い聖書の表紙に手を置いた。この件に一時的な封印を押すように。


「いいだろう」彼は言った。


たった一言だ。


でも十分だった。


それから彼は俺を見て、最後の警告を釘として打ち込んだ。


周士達(ジョウ・シーダー)


「聞いてる」


「その乱雑な本能を全部しまっておけ」彼は言う。「彼女は君が救い出したからといって、自然に君のものになる人間じゃない。戦利品でも、付属物でも、君が何かを埋め合わせるための道具でもない。君が彼女を連れて行くのは、彼女の選択権を一時的に預かるだけだ」


俺は彼を見据えた。


「分かってる」


「本当に分かっていることを願う」


「見せてやる」


「見ている」彼は言う。


「好きなだけ見ろ」


マリアがようやくまた笑った。


「いいわね」彼女は言う。「片方は神父みたいで、片方は野良犬みたい。その間に、二人ともとっくに見透かしかけてる女の子が一人。この道中、退屈はしなさそう」


「退屈なら」俺は言う。「今すぐ箱を用意して、お前を釘で打ち込んでやろうか」


「ほら見て」彼女はバローロのほうへ振り向いた。妙に楽しそうな告げ口口調で。「やっぱり相変わらずね、この人」


バローロ神父は彼女を見向きもしなかった。


「妾がこれ以上挑発するなら、どちらが先に死ぬかは保証しない」


マリアは今度こそ本当に二秒黙った。


それからごく軽く笑った。


「分かった」彼女は言う。「今日は大人しくしてる」


誰も信じなかった。


カミラがこの会議を締めくくった。


「では、そういうことで」彼女は言う。「イタリアを離れるまでは周士達(ジョウ・シーダー)が連れて行く。出国前に本人が決める。資料については、林雨瞳(リン・ユートン)が異端審問局と窓口になる。ただし原本はここから出さない。まず二部封存。ポーランド側は送り出すべきものを送り出すだけ。揉めたいなら、私の基地の外に出てからにして」


彼女らしい締め方だった。


無駄がない。直接的。感情がない。


マレクが横に退いて、扉口のスペースを開けた。林雨瞳(リン・ユートン)は紙を片付け始め、さっき裏返した「保護プログラム」と書かれた紙を表に戻して、隅に一行書き足した。おそらく新しい引き渡し条件だ。場が爆発しているときでも記録を続けられる女だ。まだ正気でいられるのも頷ける。


俺はレイチェルのほうへ振り向いた。


「上に戻れ」


彼女は頷いた。


今度は反論しない。


エリザヴェータが少し動いた。ついて行こうとして、また止まった。俺を一瞥した。その目にはいろんなものが詰まっていたが、何も言わなかった。それでいい。今は言うべきときじゃない。


レイチェルは踵を返す前に、もう一度バローロを振り返った。


「待ってくれる?」


バローロ神父はその場に立ったまま、黒灰色の石塔のようだった。


「待つ」彼は言った。


なだめてるわけじゃない。


あやしてるわけでもない。


重さのある、一つの約束だった。


レイチェルは二秒彼を見た。その言葉を心の中にしまい込むように。それから向き直り、ゆっくりと外へ歩き出した。


俺が後に続く前に、会議室を振り返った。


バローロはテーブルの傍に立っていた。今しがた運び込まれた墓石みたいに。マリアはその隣に寄りかかって、首を絞めたくなるあの笑みをまだ口元に浮かべている。カミラはもう次の厄介ごとに目を落としている。林雨瞳(リン・ユートン)は帳簿を片付けていた。エリザヴェータは動かず、影の中に立ったまま、鞘に収まった刀のようだった。


事態が軽くなったわけじゃない。


ただ、とりあえず進む道ができた。


俺は扉を引き、レイチェルの後について後棟へ向かった。


廊下の灯りは冷たかった。彼女の歩みは遅く、歩幅も小さかった。でも一歩一歩、自分の足で踏んでいる。それで十分だ。


今夜からずっと、バローロのあの言葉が俺についてくるだろうと分かっていた。


手癖は綺麗にしておけ。


道徳の説教なんかじゃない。


警告だ。


そして、一本の線だ。


一番厄介なのは——


あいつは間違っていない。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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