126.人類悪 4
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
彼女はエリザヴェータに庇われ、金属ケースの陰に身を縮めていた。ほとんど俺の上着の中に溶け込んでいる。それでも目だけは前を見ていた。俺ではない。迫ってくるそれらを見ている。表情は薄い。だが、その中のいくつかを彼女は「知っている」のだと、俺にはわかった。
この「知っている」は、ただ一度見たことがある、という意味じゃない。
奴らが元々何だったのかを知っているからだ。
俺は聞かない。
今は必要ない。
ただ歩み寄り、彼女の腕を掴んで立たせた。
「エレベーターに乗るぞ」
彼女は頷いた。
今度は躊躇しなかった。
いい。
学習が早い。
人員エレベーターはまだ上がってきている。
古い表示灯が一コマずつ点滅する。叩き壊したくなるほど遅い。
カミラが通信機に向かって怒鳴った。
「地上!エレベーターを空けておけ!」
ヴィクトリアの声がイヤホンから即座に返ってきた。
「空けたわ。エレベーター上方、障害物なし。シュトゥルムシュライターは火力待機に切り替え済み。上がってきたら止まるな。入口で突っ立って呆けてるんじゃないわよ」
リン・ユートンが続けて補った。
「林線の外側に散発的な接近あり。観光客でも警察でもない。あと三分以上引き延ばすと、地上が複雑になる」
「聞こえた」カミラが返した。
彼女は隊内通信に切り替え、最後の命令を直接下した。
「第一便。資料、少女、重傷者二名、ジョウ・シーダーの第一隊。第二便は私とマレクが殿を務める。残りは分散して援護。エレベーターを奪い合う奴は私が先に撃つ」
誰も異論を挟まなかった。
彼女が正しいからだ。
台帳、黒い帳簿の資料、そして少女。今回の任務で絶対に失えないものが三つある。
問題は、敵もそれをわかっているかのように、よりによってこの瞬間に最も激しく圧力をかけてきたことだ。
B2の階段口からナチスゾンビの一波が先に飛び出してきた。
前の連中より整然としている。
雑然とした囚人服じゃない。旧軍服だ。ヘルメットをまだ被っているものもいる。胸には元の色も判別できなくなった識別章が付いている。最も厄介なのは、そのうちの四体が揃って口に何かを咥えたまま、同期して前へ押し進んでくることだ。
「脚を砕け!エレベーターに近づけるな!」俺は怒鳴った。
火力が即座に下へ向いた。
エリザヴェータが金属ケースの後ろに半跪みになり、三連の短点射を続けて、先頭の二体のゾンビの膝を完全に砕いた。ニウ・シャオチンがそこへ飛び込み、転倒した一体の頭を足で踏みつけ、ナイフを口の中に突き込んで腐った歯の間から手榴弾を抉り出し、その死体を蹴って屍の群れへ戻した。
「受け取りぃ!」
彼女はその手榴弾をマレクへ放り投げた。
マレクは受け取りもせず、銃床で叩いて貨物エレベーターの入口に転がる肉塊の中へ打ち込んだ。
次の瞬間。
轟音。
貨物エレベーター区画全体が火を浴びたようになった。肉塊と、まだ出てきていなかったものが一緒に爆散し、黒い粘液と鉄片が天井まで飛び散った。
いい。
これで少なくともあちらは半分ほど静かになる。
だがB2の階段口はまだ圧力をかけてくる。
しかもゾンビだけじゃない。
また失敗作が上がってきた。
今度は一体が高く、一体が低い。
高い方は二メートル半近い。背中に鉄のフックが一列並び、屠殺場の部品で骨格を追加されたような見た目だ。低い方は四肢を地につけて走り、速さは犬のようだ。二体で組まれると厄介だ。高い方が火力を引きつけ、低い方が人に噛みつく。
俺は先に低い方を選んだ。
速い。だが低い。
射線に出た瞬間が死に時だ。
倒れたゾンビの死体の後ろから飛び出してくる瞬間を待ち、銃口を低く構えて二発、肩甲骨を撃ち抜いた。そいつは吹き飛んだ。再び這い上がる前に、マー・サンニャンの一突きが頭を地面に縫い止めた。
高い方は弾を受けながらも前へ進んでくる。
カミラは周囲の人間を横へ押しのけ、自分が一歩踏み出した。腰と膝に向けて一連の点射を全部叩き込む。そいつがようやく傾いた。ニウ・シャオチンが横の貨物箱に飛び乗り、高所から真下へ飛びかかり、ナイフを眼窩に直送した。そのまま体重をかけて沈み込み、その頭を真っ二つに割った。
「エレベーター来たぞ!」後ろで誰かが叫んだ。
いい。
一番厄介な瞬間が来た。
こういう時に人は最も乱れやすい。
だが今回は誰も乱れなかった。
カミラが第一便の人間を一人ずつ蹴り込んだ。
「乗れ!」
俺は先に少女を押し込み、最も重傷の二人を角に追いやった。資料袋を中へ投げ込む。エリザヴェータ、ニウ・シャオチン、マー・サンニャンが続く。後ろから回収袋を背負った二人も押し込まれた。
エレベーターが超過重量になった。
警告灯が一瞬点いた。
俺は振り返って怒鳴った。
「一人出ろ!」
回収袋を背負ったばかりの兵士が一言も言わず、そのまま外へ退いた。いい。この場所にまだ頭の動く人間がいる。
扉が閉まりかけた。
B2の階段口から、全身に手榴弾を縛り付けたゾンビが突然飛び出してきた。
口に咥えているんじゃない。
胸と腰に縛り付けられている。人間ごと爆薬包に改造したような姿だ。
走りは速くない。だが方向は正確だ。まっすぐエレベーターの扉へ向かってくる。
「叩き飛ばせ!」俺は怒鳴った。
銃で正面から撃てない。近すぎる。
ニウ・シャオチンが最初に動いた。エレベーターの中から書類入りの鉄箱を掴み、そいつの顔面に叩きつけた。マー・サンニャンが同時に銃身で側面から思い切り薙いだ。エリザヴェータが三撃目を加え、全体重でそいつを半歩押しずらした。
半歩で十分だった。
扉の外でカミラが一蹴り、そいつの胸を蹴り飛ばした。
轟音。
爆発がエレベーターの外で炸裂した。
扉が瞬時に閉まった。
梯廂全体が巨大な拳で正面から殴られたように揺れた。照明が一瞬瞬いた。負傷者から低い呻き声が上がった。俺は反射的に少女を庇い、角へ押し込んだ。軽い。腕一本で全身を包めるほど軽い。
エレベーターが上昇し始めた。
ケーブルが重みを受ける音がはっきり聞こえる。
梯廂の中で誰も喋らない。
息遣いだけがある。血の匂い。火薬の匂い。爆発後の熱した鉄の匂い。
俺はエレベーターの扉を一瞥した。
よかった。詰まっていない。
半路で止まっていたら、俺たちは今日ここに埋まっていた。
エリザヴェータが扉の脇に寄りかかり、顔色は透けるほど白いが、銃だけはまだしっかりと握っている。ニウ・シャオチンが手の血を振り払い、口を歪めた。
「なかなかやるやん」
マー・サンニャンは笑わなかった。一言だけ言った。
「下はまだ終わってない」
わかっている。
だが今の俺が管轄すべきことじゃない。
今は人と物を上へ送り出すことだけだ。
扉が開いた瞬間、夜風が飛び込んできた。
冷たい。
本物の冷たさだ。
顔面を拳で殴られたようだ。
地上はあの辺鄙な付属区のままだった。荒れ地、林線、崩れかけた建物、コンクリートの地坪。違うのは、シュトゥルムシュライターがもう立ち上がっていることだ。
下には行っていない。
行く必要もない。
入口建築の外の開けた角度に立ち、三メートルの機体が夜を圧している。肩部の懸架は半開きだ。両腕の武装はすでに待機状態にある。外部待機ラインはとっくに外され、バックパックの給弾モジュールからはまだ熱を帯びた白い霧が立ち上っている。
ヴィクトリアが中に乗っている。
見せ物のためじゃない。
俺たちが顔を出した瞬間から、入口付近の最も死にやすい時間帯を引き受けるためだ。
彼女の声が外部スピーカーから炸裂した。
「入口で突っ立つな!出たら右へ!」
いい。
まだ怒鳴る元気がある。
頭がちゃんと動いている証拠だ。
第一便がエレベーターを出た瞬間、全員が即座に右側の掩蔽区へ撤退した。カミラが手配した地上の医療班と接応組が飛びかかるように来て、負傷者を引き取り、資料袋を受け取り、少女も一緒に引き継いだ。
俺はすぐには手を離さなかった。
引き継ぐ人間が自分の部下だと確認してから、ようやく放した。
少女は俺の上着を纏ったまま、照明の影の縁に立っていた。体は風に吹き飛ばされそうなほど薄い。彼女はシュトゥルムシュライターを見上げた。その目に、ほんの一瞬だけ空白が生まれた。
怖いんじゃない。
なぜ地上にこんなものがいるのか、理解できないような顔だ。
彼女が何を見ているかを気にしている暇はなかった。
第二便がまだ下にいるからだ。
イヤホンの中でカミラの声がすぐに届いた。
「第二便、上行中。入口外の圧力増大。ヴィクトリア、左側階段の窓」
「見えてる」
次の瞬間、シュトゥルムシュライターの左腕機銃が火を噴いた。
乱射じゃない。
精確な二連の短点射だ。
入口建築の左側二階の崩れた窓から顔を出した二つのものが瞬時に撃ち砕かれた。ゾンビじゃない。外から近づいてきた生きた人間だ。黒い服を着ている。動きが洗練されている。明らかに観光客でも通行人でもない。おそらく相手側が外に残した監視役か回収組だろう。
いい。
来てくれてちょうどよかった。
俺たちが無駄に爆薬を使ったわけじゃないということだ。
相手が本当に焦り始めているということでもある。
リン・ユートンが通信で報告した。
「林線北側から三組接近。人数は少ない。装備は悪くない。状況確認が目的と思われる。大部隊じゃない」
カミラの返答は速かった。
「姿を見せるな」
「シュトゥルムシュライターがもうやってる」リン・ユートンが言った。
エレベーターが二度目に開いた時、場面はさらに混乱していた。
カミラとマレクが第二便の人間を率いて、血まみれで飛び出してきた。後ろのエレベーターの扉の隙間には半壊したゾンビが一体挟まっていて、口に咥えた手榴弾があと半口分しか残っていなかった。カミラは扉を出た瞬間に振り返り、一発でその顎を吹き飛ばし、そのまま一蹴りで井戸の中へ蹴り戻した。
「全員撤退!」
今度は誰も二度言われる必要がなかった。
地上の全員が動き始めた。
資料袋をK-7へ。
負傷者を後部車両へ。
少女を中段の掩蔽車両へ。
シュトゥルムシュライターが前方で半回転し、入口建築と外周の林線を交差して制圧する。
マレクの部下が最後に撤退しながら、残りの導火線を全て地上の総起爆器まで引いた。
だが相手は俺たちを綺麗に行かせるつもりはなかった。
林線の中から先に撃ってきた。
乱射じゃない。
組織的な短点射だ。人の多い場所と車の多い場所を狙い撃ちにしている。
相手は野次馬じゃない。
人を奪い返しに来た。資料を奪いに来た。あるいは少なくとも、俺たちが下から何を持ち出したかを確認しに来た。
カミラの反応は相手より速かった。
「シュトゥルムシュライター、左の林!マレク、右側を包囲!ジョウ・シーダー、お前の部下を連れて入口を押さえろ。爆破の導火線が繋がるまで時間を稼げ!」
これが彼女の凄みだ。
最も混乱した瞬間でも、頭は手順通りに動く。
俺はエリザヴェータ、ニウ・シャオチン、マー・サンニャンと、まだ戦える数人を連れて入口建築の右前の角へ駆け込んだ。
任務は単純だ。
守る。引き延ばす。爆破手が最後の総起爆線を繋ぐための数十秒を作る。
林線の三組は低く、速く動いていた。こういう時間を一分でも多く引き延ばせば局面が変わると知っているような動き方だ。だが一つ忘れていることがある。
シュトゥルムシュライターが地上にいる。
しかもずっと火力を無駄にしていない。
ヴィクトリアはまず機銃で左の林の最も奥にいる火点を直接押さえ込んだ。続いて肩部のロケットポッドから二発だけ撃った。飽和攻撃じゃない。二発だけだ。だが角度が精確すぎた。一発は林の縁の後ろに隠れていた黒い車を丸ごと吹き飛ばし、もう一発は右側の土手の後ろの掩蔽点を半分削り取った。
火光が上がった瞬間、夜全体が明るくなった。
ニウ・シャオチンが低く呟いた。
「あの鉄の棺桶、地上では本当に使えるな」
「最初からここにいるべきものだ」俺は言った。
入口建築の中でも動きが始まった。
正面の扉からじゃない。
さっきの偽装地坪の蓋板の下からだ。爆発は起きていない。だが下のものはまだ押し続けている。半壊したゾンビと肉塊の縫合物が蓋板を少し持ち上げ、黒い血が隙間から外へ流れ出している。
「線が繋がった!」爆破手が後ろで怒鳴った。
「撤退!」
俺たちは即座に離脱した。
乱走じゃない。
最後の封鎖だ。
マー・サンニャンが殿を務め、一撃で這い上がってきたばかりのゾンビ二体を撃ち倒した。ニウ・シャオチンが手に残っていた最後の一発——地下から抉り出した手榴弾——を隙間に押し込み、ひどく悪い笑みを浮かべた。
「最後の一口、どうぞ」
彼女が退いた瞬間、手榴弾が底で炸裂した。
蓋板が一度大きく跳ね上がり、重く落ちた。
十分だ。
俺が最後に爆破区域を離れた。
K-7の横の掩蔽位置へ駆け込むと、カミラはすでに起爆器を手にしていた。
彼女はすぐには押さなかった。
先に一周確認した。
全員が上がっている。資料は全部ある。少女も車の中にいる。シュトゥルムシュライターは安全な角度へ後退中だ。外周の味方も全員封鎖線の内側へ引いた。
いい。
彼女はようやく口を開いた。
「起爆」
マレクが押した。
最初の音は大きくなかった。
深かった。
地下で誰かが骨を折るような音だ。
続いて二発目。三発目。耐荷重点と竪坑が一斉に爆発した。偽装の地坪が先に沈んだ。入口建築の基礎が完全に断ち切られた。もともと崩れかけていた低い建物が内側へ収縮し、それから一方向へ崩れた。壁、梁、鉄板、窓枠、コンクリートが層ごとに地下へ落ちていく。下からは短く鈍い連続爆発音が伝わってきた。B1、B2、B3に埋めてきた爆薬が順番に噛んでいる。
最後の一発が最も深かった。
井戸全体を真ん中から掐み切ったような音だ。
地面が一度揺れた。
それから灰だけが残った。
土埃が一面に巻き上がった。砕けた石が俺たちの掩体に叩きつけられ、パチパチと音を立てた。夜のあの辺鄙な付属区が煙と灰に飲み込まれた。さっきまで見えていた入口も、地坪も、整備棚も、全部消えた。残ったのは傾いて陥没した大きな穴と、周囲の震裂したコンクリートだけだ。
シュトゥルムシュライターが煙の向こうに立っていた。
黒い。高い。肩にはまだ冷めていない熱が残っている。
地獄の入口から人を引きずり出した後、振り返って外を守り続けている獣のようだ。
林線に残っていた不明の人員が、即座に退いた。
退かなくても意味はない。
入口は消えた。地上の火力はまだある。俺たちが今日もう一度口を開けることはない。
カミラはその陥没した穴を二秒間見つめた。
顔には何の表情もなかった。
「基地へ撤退」
誰も歓声を上げなかった。
誰も「やった」とも言わなかった。
みんなわかっているからだ。これは痛快な戦いじゃない。
八十年分の汚れた井戸の口を先に爆破し、中の臭いを一人の生存者と大量の証拠ごと引きずり出した。それだけだ。
俺は車の横へ歩き、少女を一瞥した。
後部座席に座り、上着をまだ纏っている。顔は陰の中にある。目だけが外の残り火を映している。崩れた建物を見ていない。俺たちが何を爆破したかも聞かない。ただ自分を小さく縮め、本当に引きずり出されたのだとようやく実感し始めたように、次の一歩をどこへ踏み出すべきかわからない顔をしている。
エリザヴェータが向かいの席に座っていた。
何も言わなかった。
ただ自分の水筒を差し出した。
少女は一秒見て、受け取った。
いい。
こういう時に必要なのは言葉じゃない。
人間らしい動作だけでいい。
俺は車のドアを閉め、前の車へ向かった。
エンジンが掛かった。
K-7が先に出た。シュトゥルムシュライターは後段の輸送架に再固定された。護衛車が左右を固めた。カミラの車が最後尾を押さえた。車列全体があの辺鄙な外縁部を離れた時、後ろの陥没した大穴からはまだ灰が立ち上っていた。
ようやく爆破された口のようだ。
だが俺にはわかっている。何もかも綺麗に埋まったわけじゃない。
先に蓋をしただけだ。
本当に命取りになるものは、今すべて俺たちの車の中にある。
少女。
台帳。
黒い帳簿の資料。
バチカンへと繋がり始めた資金の脈。
そしてB2とB3を自分の目で見てきた全員が、頭の中に持ち帰ったもの。
帰路の車内は静かだった。
誰も話したくなかった。
俺の手にはまだ黒い血と灰が付いている。鼻の奥にはホルマリン、焦げた肉、地牢の湿った臭いが詰まっている。目を閉じるたびに、B2の万字旗の列、解剖台、屠殺のフック、B3で武器に仕立て上げられた死体が這い寄ってくる映像が浮かぶ。
こういうものは見て終わりじゃない。
持ち帰ってくる。
俺は手で顔を一度拭った。落ちてきたのは灰だけだった。
前の道は暗い。
車のライトは低く絞られている。
いい。
今夜はこれ以上明るくする必要はない。
俺たちはもう十分すぎるほど見た。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




