123.外縁 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
林雨瞳が死んだ資料を生きた地図に変えるのに、四十分もかからなかった。
資料が単純だったわけじゃない。 彼女の頭が、それだけ澄んでいて、それだけ冷えていたということだ。
前の夜まで、テックルームのあの壁はただの散らばった紙の集まりだった。転送コード、補給リスト、戦後の封鎖区画図が何枚か。それが昼になる頃には、見ている者に噛みついてくるような代物に変わっていた。赤い線、黒い点、矢印、タイムスタンプ。全部が同じボードの上に釘で留められている。しばらく眺めていると、これは地図じゃないと気づく。
血管だ。
F.A.B.R.I.K.はただの末端だった。
そこから逆に手繰る。南へ手繰る。旧鉄道、地下電力の消費異常、封鎖区画の定期整備申請、不審な消耗品の記録。それを一本ずつ引っ張っていくと、最後は全部、同じ場所に収まる。
アウシュヴィッツ外縁。
収容所の本体じゃない。 追悼施設でもない。 昼間に観光客が行き交うような場所でも、もちろんない。
もっと外れた場所だ。もっと冷えた場所。もっと人の目が滑って、引っかかりもしない場所。附属後方支援区画の残骸。
林雨瞳は透明のトレーシングペーパーを古い図面の上に重ね、さらに現代の道路図をその上に重ねた。二枚が重なると、主要区画と見学ルートが即座に切り分けられる。観光客が歩く区域、追悼施設の公開エリア、昼間の巡回ルート――全部が反対側に分離される。本当に問題のある地点は、もっと外側にある。樹林に近い。とっくに使われなくなった後方支援帯に近い。地上に残っているのは、目立たない低い建物が一棟と、廃棄された整備場みたいなコンクリートの空き地が一区画だけ。
「入口はメインエリアにない。」林雨瞳は言う。
声は平坦だ。倉庫の在庫リストを読み上げているみたいに。
「ここはもともと附属後方支援帯だった。戦後、主要な語りから切り離された。その後、何度か用途が変わって、それからは誰も管理しなくなった。表向きは廃棄されたポンプ場と整備棟。でも実際には、下はまだ生きてる。」
ペンを地図の隅に当てる。
「この建物。」
俺は近づいて覗き込む。
建物は大きくない。細長い形。外側には崩れかけた金網の囲いが残っている。横には、昔の工事車両が通っていた細い道。その外側は林と荒れ地。メインの追悼エリアから十分に離れている。夜間に誰かがここを出入りしても、うまく管理すれば、昼の世界とは絶対に交わらない。
カミラが隣に立ち、二秒ほど見る。
「確かなの?」
「九割。」林雨瞳は言う。
「根拠は?」
「三本のラインが重なった。」そう言いながら、三枚の紙を資料の山から抜き出してテーブルに叩きつける。
一枚目、旧後方支援帯の基礎荷重図。 二枚目、戦後封鎖区画の定期整備記録。 三枚目、一見まったく地味な地下電力消費の分布図。
三枚の同じ位置に、赤ペンで丸を描く。
「この建物の地上部分はとっくに価値がなくなってるのに、下の電力消費だけは完全に止まったことがない。大きな消費じゃない。継続的な低頻度の維持消費だ。これは下が空じゃないことを意味する。さらに同じ区画で、単人用カプセルのシール材、環境制御の温調整備、内外圧差の備考が出てきてる。十分よ。」
ヴィクトリアは反対側に立ち、まだ『サルでも読める』第一版を手に持っている。
お世辞は言わない。
「下に稼働中の設備がある。」彼女は言う。「残留コンデンサで今日まで生き延びてるような、そういう"生きてる"じゃない。誰かが定期的に維持してる"生きてる"よ。」
その一言が落ちると、部屋がまた一段静かになった。
驚いたからじゃない。 全員が分かっているからだ。こういう場所に、今でも誰かが手を入れているなら、観光遺跡の影みたいな話じゃ、もうない。
マレクが外縁偵察の記録を一部テーブルに投げる。
「昨夜、うちの人間が、もっと外側から一度見てきた。」彼は言う。「近づいてない。遠距離観察だけだ。昼間はあそこは死んでる。夜は完全には死んでない。建物の裏側で、一度だけ、ごく短い遮光の動きがあった。中から誰かがドアを開けたか、何かの遮蔽板を動かしたか、そのどちらかだ。」
「熱源は?」と俺。
「弱い。意図的に抑えてある。」と彼。「ここに問題があると最初から知ってなけりゃ、遠くから見ただけじゃ残熱にしか見えない。地下設備の電源が完全に落ちてないだけ、みたいな感じだ。」
林雨瞳が言葉を継いだ。
「綺麗すぎる。それが問題」
眼鏡を押し上げる。
「普通の廃棄区画がこんなに整然としてるわけない。本当に荒れた場所なら、データは乱れ、熱源は散らばり、外周の痕跡は汚れる。ここはむしろ——誰かが必死で『価値がない』ように見せかけてる証拠」
俺はその図面を見つめながら、腹の中ではもう決まっていた。
入口はあそこだ。
正面じゃない。
目立つ扉でもない。
だが、確実に下へ続く場所。
カミラが煙草に火をつけ、一口吸い込んだ。
「じゃあ、編成を組むわよ」
誰も何を編成するかなんて聞かない。
ここまで来れば、残るのは作戦編成だけだからだ。
彼女は別のまっさらな図面を引き下ろし、直接その上に区画を割り当てていく。
外周集結地点。
K-7待機エリア。
シュトゥルムシュライター地上火力陣地。
前突組の接近ルート。
爆破準備ポイント。
地上封鎖網。
撤退回収ゾーン。
どの線も短い。
どの線も、命に関わる重みを帯びている。
「先に言っておく」カミラが全員を見渡した。「シュトゥルムシュライターは下に入れない」
俺の心の中ではとっくに決まっていたことだ。
今、彼女の口から出たことで、それが鉄の掟になった。
反対する者はいない。
ヴィクトリアが真っ先に頷いた。
「地上だけよ」彼女は言う。「入口をぶち破る。外周火力を制圧する。撤退ラインを守る。地下の耐荷重も通路も不明、圧縮エーテル(圧縮エーテル)設備が存在する可能性だってある。機体を下に送れば結果は二つに一つ——詰まって動けなくなるか、穴ごと全部押し潰すかよ」
「なら地上だ」カミラが言った。
彼女はペンで、あの辺鄙な建物の外周に扇形を描いた。
「シュトゥルムシュライターはここまで。状況を見て第一撃。上層の表面、外周の固定火力点、入口を塞ごうとする奴らを全部まとめて吹き飛ばす。その後は留守番。命令なしに下には絶対送らない」
俺はその扇形の位置を見た。
いい。
それでいい。
シュトゥルムシュライターは破城槌だ。モグラじゃない。地下のあんなクソみたいな場所は、高さ三メートルの鉄の怪物が散歩する場所じゃない。
本当に下に行くのは、やっぱり人間だ。
カミラがさらに割り当てを続ける。
「K-7はここで待機。林線の後ろ。表には出すな。エンジンはアイドリング状態。機体回収と負傷者搬送、いつでも対応できるようにしておけ」
ペンの先が移動する。
「地上封鎖組は二重の円陣。マレク、外側の円を頼む。見張りを潰し、道を断ち、外部車両と増援の方向を全部監視しろ」
マレクが頷いた。
「了解」
「ヴィクトリア」カミラが彼女を振り向く。「あんたは地上に残れ。機体の状態、冷却、武装の懸架と起動の判断、全部あんたに任せる」
「当然でしょ」
「図に乗るのは早いわよ。上で撃ち合いが始まったら、ついてきなさい」
「まずは他の連中に、赤いものを勝手に触らせないことね」
さらっと言った。
どうやら『サルでもわかる』の冊子が、ちゃんと頭に入り始めているらしい。
カミラは彼女と口論する気もなく、そのまま俺を見た。
「ジョウ・シーダー。あんたが前突組を率いる。あんたが下に入れ」
「わかってる」
「目標は一気に底まで打ち抜くことじゃない」彼女は言う。「まず道を開ける。構造を確認する。下層の活性を確認する。中にいるのが設備か、守備か、それとも人間か。特に人間」
彼女はペンを地図に強く叩きつけた。
「もし中に本当に生きた人間がいたら、この任務は設備破壊から捜索回収に変わる。頭の切り替えを遅らせるな」
「遅れない」
彼女は一秒、俺を睨みつけた。
「そうであることを祈るわ」
林雨瞳が別の紙を俺に差し出した。
簡略化された地下突入草案だ。
たった一枚。
そこには容赦なく簡潔に書かれている。
地上入口:辺鄙な付属区・廃ポンプ場/整備棚偽装体
主進入方式:人力潜入確認後、状況に応じて爆破または強行開放
地下深度:未知
内部構造:多重気密扉、動力維持区、隔離区画、回収通路の存在可能性あり
環境リスク:毒ガス、圧力差、火炎禁止区域、停電誘発封鎖
任務性質:単発爆破では解決不能
正直だ。
そして胸糞悪い。
爆薬を何袋か放り込めば終わりだなんて夢を見ている奴は、もう誰もいないってことだ。
カミラがテーブル脇の面々を見た。
「前突組四人。爆破組二人。回収位置二人、最初はあまり深く入れるな。地上は別途接応を残す。装備は今日中に再整備。呼吸装置、切断工具、小型爆破、ドア封止ピン、マーキングロープ、二次照明——全部地下規格で揃えろ」
一条ずつ叩きつけるように指示を飛ばす。
部屋全体が動き始めた。
リストを取りに行く者。倉庫へ向かう者。通信室に戻る者。弾薬配置を組み直し始める者。地下施設攻略は開けた場所での戦闘とは違う。長物を持ちすぎれば身動きが取れなくなる。爆薬を持ちすぎれば自分を生き埋めにしかねない。照明、マーキング、ドア切断工具、予備通信、気密対応——これらが一つでも欠ければ、後で人が死ぬ。
俺はその草案を畳んで、装備室へ向かった。
この間中、誰も熱血めいた戯言を口にしない。
意味がないからだ。
本物の地下施設に近づけば近づくほど、感情に頼ってはいけない。感情で動く奴が一番早く死ぬ。
三時間後、基地全体のリズムが変わった。
シュトゥルムシュライターは再武装を済ませたが、フル装備じゃない。右腕は安定構成を維持。左腕の火炎モジュールはスタンバイのみ。肩部ロケットポッドは半分だけ、飽和攻撃は求めない。地上で必要なのは精度と守備力であって、天井ごと吹き飛ばすことじゃない。
K-7は林線の遮蔽位置に移動し、後部固定架の最終補溶接が完了した。二本の外部冷却ラインは巻き取られ、工具箱は補充済み、副発電機も一度テスト済み。今のこいつは美しくない。シュトゥルムシュライターを外周まで運んで、また引きずって帰ってくる——それだけだ。
俺は四番倉庫を覗きに行った。
シュトゥルムシュライターが白い照明の下に立ち、装甲はだいたい閉じ直されている。肩、腰、膝、バックパック——どの位置にも修理の痕が見える。こいつは完璧な兵器じゃない。手術台から降りたばかりで、また誰かに鎧を着せられた疲れ切った獣のようだ。
ヴィクトリアがその足元に立ち、機体の側胸部を仰ぎ見ていた。片手にクリップボード。もう片方の手で記録を取っている。
「メンバーは決まった?」彼女が聞く。
「だいたいな」
「地下にバカは連れてかないで」
「それはどこでも通用する話だろ」
「地下はもっとそうよ」彼女は言う。「地上でヘマしても、まだシュトゥルムシュライターが入口を押さえてくれる。地下でヘマしたら、扉が閉まった時点で、中で腐るだけ」
その通りだ。
俺はあの鉄の怪物を見上げながら、こいつの本当の立ち位置がはっきりした。
こいつは入口の命綱だ。
答えじゃない。
答えは下にある。
下こそが、人間が自分の目で見に行かなければならない場所だ。
四番倉庫を出ると、カミラが車庫の入口で俺を待っていた。
すでに外勤装備に着替えている。基地の中で着ているやつじゃない。外で仕事をする格好だ。腰に銃、ナイフ、フラッシュライト、通信機、全部揃っている。彼女のような人間は、この装備を身につけただけで、空気を硬くする。
「出発前にもう一度確認する」彼女が言う。
俺たちはそのままブリーフィングルームへ向かった。
中に残っているのは中核メンバーだけだ。
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「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




